Mon 180430  ステーキ屋の老カップル/サン・ドニ訪問(フランスすみずみ38)M35 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Mon 180430  ステーキ屋の老カップル/サン・ドニ訪問(フランスすみずみ38)M35

 昨日の記事で書き忘れたのが、というか、ワザと本日の記事に回したのが、ステーキ屋「Severo」で出会った老カップルのことである。「老カップル」とは言っても、男子75歳ぐらい、女子60歳プラスα、マコトに上品なカップルであった。

 

 このぐらいの年齢になれば、15歳や20歳ぐらい年齢が離れていても、それほど年の差感は強くない。オジーチャマは満面の笑顔でお肉を注文している。たいへん上品にかつ若く見えるオバサマは、最初から何だかものすごくこちらに話しかけたそうにしていらっしゃる。

 

 だってテーブルとテーブルの距離はわずかに15cm。いや、実際には15cm未満であって、限りなく10cmに近い(スミマセン、昨日の続きです。どうか昨日の「Severo店内写真」をご覧ください)。これでは、お互いどうし知らん顔でシランプリを続ける方が難しいじゃないか。

 

「日本のカタですか? もう30年も前のことになりますが、ワタシ日本に住んでいました」。そう話しかけてくれたのは、オバサマのほうである。「日本が大好きなんです。京都と大阪に3年ほどいました」。それはオバサマ単独の経験で、オジーチャマとは関係ないらしい。今もパリで、日本語のセンセをしていらっしゃるんだという。

20105 トラム

(パリ北郊を走るトラム。観光客は滅多に利用しない)

 

 最近はフランスでもイタリアでもいきなり話しかけられて、「日本に住んでいました」と言われることが多くなった。5月18日、ミラノ中央駅の売店でもそうだった。ミラノのオネーサマは「新宿に1年住んでました」とおっしゃった。

 

 5月20日、イタリア・ガルダ湖畔のマルチェージネでも、「息子の彼女が日本人なんです」「息子は東京・大阪・長崎に住みました」とおっしゃるナポリの老夫婦に熱心に話しかけられた。

20106 サン・ドニ1

(4月26日、パリ北郊の「サン・ドニ大聖堂」を訪れた)

 

 話をパリのステーキ屋に戻せば、話しかけられた段階ですでに今井君のステーキはなくなっており、サンテミリオンの赤ワインもすでにカラッポになっていた。少し酸味の強すぎる2013年のサンテミリオンだったが、ワタクシのペースは速い。1本に1時間もかからないのである。

 

 ステーキもワインもなくなったテーブルを、こんなにギューヅメの店の中でいつまでも占拠するわけにはいかないから、オバサマ&オジーチャマのカップルと話が盛り上がりかかったところで、もうお別れすることになった。

 

 オジーチャマが立ち上がってテーブルを脇に寄せ、一番奥の席に閉じ込められていたワタクシを、何とか解放してくれた。いやはやマコトに楽しい晩だった。

20107 薔薇窓1

(サン・ドニ大聖堂のバラ窓。紫色が美しい 1)

 

 店を出てしばらくしてからふと気づいたのだが、さっきのオバサマ、遠いむかしNHKの語学講座にネイティブのアシスタントとして出演していた人ではなかったか。

 

 30年ほど前のラジオ講座、確か当時は甲南女子大学の柏岡珠子先生という講師だったと思うが、貧乏な若き今井君は、ひと月たった150円のテキストを買って、安上がりにフランス語を勉強しちゃおうと奮闘したものだった。

 

 あの時アシスタントを務めていたネイティブ女子の写真に、さっきのオバサマ、そっくりだったように思えるのである。「京都と大阪に住んでいました」とおっしゃるからには、甲南女子大はすぐそばだ。大学で関係のあった教授にアシスタントを依頼されるということは、ありそうな話じゃないか。

 

 マコトに惜しいことをした。気がついたのは、乗り込んだ地下鉄がオペラ座方面に走り出してからである。今さら引き返して「もしかしたら日本でフランス語講座に出ていらっしゃいませんでしたか?」と尋ねるわけにもいかない。

 

 もっと早く思い出していたら、

「おお、それはワタシです」

「聴いてました。オンフルールの朝食が、話題になった回もありましたよね」

「おお、アナタは素晴らしい記憶力ですね」

「いや、それほどでもありません。ははははは」

 

 そういう会話で盛り上がった可能性は低くない。いやはや、後悔先に立たず。「チャンスは前髪をつかめ」とは、よく言われることである。オペラで地下鉄を降りてホテルに向かいながら、「ホントに惜しいことをしたな」と呟くサトイモ君なのであった。

20108 薔薇窓2

(サン・ドニ大聖堂のバラ窓。紫色が美しい 2)

 

 今でこそNHKの語学講座の多くはタレントさんを起用して、文法なんかは2の次&3の次、わいわい楽しげに番組を進行させているようだが、1980年代から90年代ぐらいまでは、「いかにもNHK」という文法中心のお固い講座構成だった。

 

 だから4月から9月、または10月から3月、休まず6ヶ月間マジメに聴き続ければ、大学1&2年で学習する「第2外国語」ぐらいの文法はひと通り身についたのである。

 

 当時は視聴者の評判も、確かなものだった。新しい語学を学ぶ時、多くの人は文法を中心にしっかり学びたいと思うものである。「文法とか単語とか、重箱のスミをつつくような勉強は、みんな大キライだろう」というのはマスコミの人々のフシギな先入観にすぎない。

20109 サン・ドニ2

(サン・ドニ大聖堂は、フランス王家の正式な墓所である。歴代の王と王妃74人がここに眠っていらっしゃる)

 

 視聴率だって、文法中心の授業にしたほうが圧倒的に高いはず。「分からなくていいから、とにかく聞きなさい」「カタコトでいいから、とにかく話してみなさい」と言われた瞬間、一気にやる気を失ってしまう。それが語学学習者というものである。

 

 30年以上が経過してもまだ記憶しているが、柏岡先生の講座は会話50%、文法50%。女子アシスタントのたいへん美しい発音も加わって、人気が高かった。

 

 悪いことは言わない。「チャラチャラ系のほうが人気が取れるだろう」というのは、メディアサイドのホントにフシギな偏見に過ぎない。「文法中心にしっかり」こそ、安定した視聴率を継続させるベストの講座構成と信じる。

20110 サン・ドニ3

(ルイ16世とマリー・アントアネットも、やっぱりここに眠っていらっしゃる)

 

 こうして諸君、17日に及んだ「フランスすみずみ」の旅も、いよいよ残り2日になった。鉄道やヒコーキのストライキに悩まされながらも、アルビ、ルルド、ポー、トゥールーズ、ディジョン、フォンテーヌブロー、サン・マロ、サンジェルマン・アン・レー、モンマルトルの墓地散策まで含めて、それなりに「すみずみ」を実現できたと思う。

 

 そこで4月26日の今井君は、何しろ翌日は帰国の日だから、あんまり遠くまで出かけるのは自重して、パリ近郊「サン・ドニ」の街を訪ねることにした。

 

 サン・ドニまでは、地下鉄13号線で行ける。「ちょっと治安が悪い感」があるが、大混雑の薄暗い地下鉄に30分ほど耐えていけば、パリから北へ4kmほどの郊外、「バジリク・サン・ドニ」の駅に着く。

 

 フツーの日本人が「フランス人」と言われてイメージするタイプは、この街ではごく少数派である。モロッコからやってきた人々、アルジェリアからの人々など、圧倒的にアフリカ系の人が多い。

 

 街を走るトラムの乗客も、やっぱりアフリカ系が圧倒。テレビのバラエティで登場するフランス、エッフェル塔とルーブル、凱旋門とアコーディオンの響きなんてのは、パリのごく限られた一面を伝えるに過ぎない。

20111 サン・ドニ4

(クローヴィスもシャルル・マルテルも、サンドニ大聖堂にいらっしゃる)

 

 キリスト教初期の聖人サン・ドニは3世紀アテネの人。パリ(当時は「ルテティア・パリジオールム」という名の城塞都市だった)に伝道にきたけれども、捕らえられ、モンマルトルの丘で斬首の刑となる。

 

 しかし諸君、驚くなかれ、彼は切り落とされた自分の首を抱えて、さらに数kmを北上。伝道の執念には驚くべきものがある。ついに力つきて倒れた場所に出来た聖堂が、このサン・ドニ大聖堂の元になった。

 

 7世紀に修道院が誕生。12世紀に修道院長になった男が大改修を始め、1144年に大聖堂が完成したという。その後フランス王の正式な墓所となり、メロヴィング朝以来、歴代のフランス王と王妃のほとんどがここに眠っている。

 

 クローヴィスもいる。シャルル・マルテルもいる。7世紀や8世紀に活躍した王族から始めて、国王42人&王妃32人がここに眠っているとなれば、大学受験時に世界史を選択した者として、感慨はさすがに深い。

 

 ルイ16世にマリー・アントアネットにルイ18世、恐るべきギロチン時代の王侯まで、みんな&みんなここにいらっしゃる。「幼いルイ17世の心臓まで保存されている」となると、やっぱり諸君、サン・ドニを訪れない限り「すみずみ」を名乗ることはできないのである。

 

1E(Cd) Art Blakey:MOANIN’

2E(Cd) Human Soul:LOVE BELLS

3E(Cd) Patricia Barber:NIGHTCLUB

4E(Cd) Yohichi Murata:SOLID BRASS Ⅱ

5E(Cd) CHET BAKER SINGS

total m150 y690  d23160