Fri 180413  中距離列車が苦手/サン・ジェルマン・アン・レー(フランスすみずみ22) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 180413  中距離列車が苦手/サン・ジェルマン・アン・レー(フランスすみずみ22)

 自分でも認めているが、ワタクシも「乗り鉄」のハシクレである。電車に乗ればウキウキし、珍しいキップがあればコッソリためこんで、いつまでもニタニタ眺めている。

 

 10年も前に買った「熊谷 → 長瀞」の乗車券だの、廃線になった留萌本線・増毛駅の入場券だの、そういうものをデスクマットの下に敷いて悦にいっている。そういう人間である。

 

 だから海外を旅している時も、電車に乗る機会は逃さない。それがTGVであってもユーロスターであっても、裏町をゆくトラムであっても構わない。

 

 トラムには特に目がなくて、マルセイユでもストラスブールでも、リスボンでもアムステルダムでも、そこにトラムがある限り、乗ってみなければ済まさない。オルレアンでもトラムに夢中、サンフランシスコなんか、要するに滞在時間のほとんどをトラムに乗ることで費やした。

19981 森

(パリ都心から30分、サン・ジェルマン・アン・レーの森を散策する)

 

 ヨーロッパなら、インターシティも悪くない。日本なら昔の「急行」に該当する長距離列車である。ほんの15年前まで、「IC」ことインターシティ、「EC」ことユーロシティは、ともにヨーロッパの鉄道の花形だった。

 

 ドイツとフランスの国境とか、フランスとイタリアの国境とか、ユーロ圏にまだ「国境」という意識が厳然として残っていた頃には、超高速列車で軽々と国境を越えていくという行動には、まだちょっとした躊躇があった。

 

 2005年、まだ「ベルリンの壁」の残骸が旧・東ベルリンにたくさん残っていた時代には、ヨーロッパの旅はインターシティが原則。1ヶ月有効のユーレイルパスを買えば、連日インターシティの1等車を利用して、たいへんな贅沢気分を味わったものである。

 

 2018年、あれからまだ15年弱しか経過していないが、ICはすっかり古びてしまった。ヨーロッパでの扱いは、各駅停車とほとんど違わない。20世紀には優雅な映画や小説の舞台として大活躍した車体も、いま改めて眺めてみると、いかにも四角くゴツゴツしていて、「時代物」の感を拭えない。

19982 眺望

(サン・ジェルマン・アン・レーからの絶景 その1。目の前はセーヌ川、はるかにパリの都心部を望む) 

 

 そういうワタクシにも、苦手な電車が存在する。中距離を走る近郊電車である。首都圏なら、宇都宮線・高崎線・総武線・常磐線の類い。都電も地下鉄もパリのメトロも大好きだが、中距離電車だけはどうしても苦手なのだ。

 

 東武線の春日部以北とか、武蔵野線も苦手である。特に午後3時ぐらいからの時間帯がキライ。理由をつらつら考えてみるに、昭和のむかし「高校生の天下」だった時代を思い出してしまうせいのようである。

 

 昭和の高校生には、「帰りの電車でタバコを吸う」という困った諸君が少なくなかった。そのむかしは「不良高校生」と呼んだが、タバコを吸って停学になるとか、それでもタバコを吸い続けて退学処分になるとか、そういうのもちっとも珍しくなかった。

 

 かく言う今井君は、幼児の頃から「ぜんそく」と言ふ厳しい病気にかかり、春も秋も冬もずっと呼吸困難。近くに喫煙者がいるだけで息が苦しくなった。だからあれ以来、酒はどんなに飲んでも、喫煙なんかしたことは一度もない。

19983 RER

(サン・ジェルマン・アン・レーからの絶景 その2。セーヌの鉄橋を渡って、近郊列車が接近する)

 

 しかし周囲はタバコ吸い放題。我が父親だって、息子が「息ができない」と言って苦しんでいるのに、ちっとも喫煙を遠慮しない。メシを食べながらでも、酒を飲みながらでも、ナンボでもタバコを吸った。

 

「いこい」「しんせい」「ハイライト」。家には安いタバコの買い置きがあって、1日2箱から3箱は吸っていたはず。普通の空気より、紫色のケムリを吸って生きていた。受動喫煙もいいところであって、ぜんそくはどんどんひどくなった。

 

 だからせめて学校ぐらい、完全禁煙であって欲しかったが、当時のガッコのセンセは、ごく普通にタバコを吸った。職員室なんか、常にモウモウとケムが上がって、だから職員室の掃除当番はたいへんキツかったが、「6年1組は職員室掃除」と伝統的に決まっていた。

19984 駅

(サン・ジェルマン・アン・レー駅。RERは地下駅に到着する)

 

 そういう育ち方をしたから、やがて中学生になり高校生になって、級友たちの中に停学覚悟でタバコを吸い始めるヤツらが登場すると、人生はますますキツくなった。

 

 中学校のうちはまだ数が少なかったから楽だったが、高校生になって列車通学するようになると、特に帰りの列車は喫煙室並みにモクモクし出した。

 

 もちろん、そのことを「チクる」という選択肢はあった。「チクることこそホントの勇気なんだ」みたいなことを言うセンセもいた。チクることこそ正義なのだというわけだが、そのセンセも職員室で蒸気機関車並みにモクモク煙を吐いていた。

 

 そこで諸君、メンドーだし健康にもゼンソクにも悪いから、今井君はすっぱり列車通学をヤメにして、片道40分の自転車通学を始めた。雨が降っても自転車、雪が積もっても自転車。おかげですっかりフトモモが太くなり、ありゃりゃ、あれほど悩まされたゼンソクまで治っちゃった。

19985 黒ヤギ

(森の庭園には、黒ヤギどんやウサギどんもいる)

 

 そうやってイヤになるほど健康な肉体になって今に至るが、中距離電車に対する躊躇だけはビシッと残った。21世紀の高校生でタバコを吸ったりするのはごく少数派だろうが、「中距離電車に乗ると息苦しくなる」という潜在意識は、そうカンタンに消えるはずもない。

 

 だって諸君、大学に入ってみたら「同級生の男子の半数以上が喫煙者」という時代である。ヒコーキでも喫煙、通勤電車でも喫煙、受験に失敗して予備校に通っても休み時間に喫煙、むしろそれが当たり前だった。

 

 予備校の教室にだって、つい最近まで「禁煙」の貼紙が普通に掲示されていた。「日々是決戦」「一流の講師陣」「親身の指導」「禁煙」。そういう掲示のある教室で、大学教授も兼ねる立派な講師陣が、パイプタバコをくゆらしながら授業を進めていた。

19986 座席シート

(近郊電車RER。あまりに人がいないのが不安になる) 

 

 以上のようなわけで、スーパー乗り鉄の今井君は今もなお中距離電車への躊躇が消えない。パリで苦手なのは、「RER」である。縦横無尽にメトロは乗りこなしても(10日の滞在で回数券30枚を使用した)、中距離近郊電車「RER」を利用することはほとんどなかった。

 

 しかし諸君、何とも困ったことに、例えばヴェルサイユに行くには、TGVもICもないし、メトロも通じていない。大の苦手のRERしか走っていない。行きも帰りもRER、そういう町も存在する。自分の旅に「すみずみ」と名付けた以上、RERでしか行けない町も訪ねなきゃいけないのだ。

 

 4月19日、そういう町の1つ「サン・ジェルマン・アン・レー」を訪問することにした。オペラ座の地下、「AUBER」という駅から乗車して、約30分のRERに耐えていけば、このマコトに長たらしい名前の駅に到着する。

19987 城

(サン・ジェルマン・アン・レー、由緒正しきお城)

 

 激しく蛇行するセーヌ川を何度も何度も横断して、「あれれ、またセーヌだ」「おや、またまたセーヌ?」と首をかしげるほどに、列車内からどんどんお客が消えていく。

 

 満員のうちは安心だが、どんどん郊外に出て、どんどんガラガラになるにつれて、「もしここで悪漢に襲われたらどうしようもないな」という雰囲気になってくる。乗務員さんや駅員さんの姿がサッパリ見えないのも、中距離電車に躊躇を感じるゆえんである。

 

 サン・ジェルマン・アン・レーは、ドビュッシーの生まれた町。12世紀にお城が建てられ、そのお城はいったん焼失したが、16世紀にフランソワ1世が再建。ルイ14世の時代まで、パリの主要な王城の1つとなった。

 

 太陽王ルイ14世も、このサン・ジェルマン・アン・レーで生まれたのである。お城の隣り、セーヌ川と遥かなパリの街を一望する一角を占める「パヴィヨン・アンリ・キャトル」がその館。今はホテルになっていて、豪華ランチを堪能できることになっている。

19988 ホテル

(太陽王ルイ14世が生まれた館。今は高級ホテルである)

 

 ただし諸君、今のワタクシは豪華おフレンチのランチなんかより、あくまでカレーうどんのトリコ。この日の夕暮れに迫ったカレーうどんの宴のために、胃袋やら小腸やら大腸やらに、ビシッとスキマを空けておく必要がある。豪華ランチはまた次にRERに耐えた後のことにして、広大な庭園の散策に向かった。

 

 一口に「広大な庭園」と言っても、東京や京都の広大な庭園とはワケが違うのである。要するに山1つ、ないしは森1つ、全てを広大な庭園にしちゃったのであって、うっかりすれば庭園の中で道を失い、捜索願の1つも出してもらわなきゃいけなくなる。

 

 しかも諸君、この日のパリは最高気温28℃。紫外線にも注意、コマメな水分補給(略してコマスイ)も必須。森の散策で道を失ったら、大っきなハチもブンブン飛んでくる。クワバラ&クワバラ念仏を唱えながら、散策もテキトーに済ませ、またまたおっかないRERに乗っかって、午後2時にはもうパリの都心部に帰ってきた。

 

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