Sun 180401 酸っぱいホテルで青息吐息/ルルドの善男善女(フランスすみずみ10)
ヨーロッパのホテルは、酸っぱいのである。もちろん5つ星+Lみたいな超高級ホテルは違う。床もリネンもみんないい匂い。タオルもふわふわで「こりゃ今治のタオルかいな♡」と、思わず何度も顔を拭うぐらいである。
しかしそこからホンの少しレベルを下げて、「今回はリーズナブルに行きますかね」と、4つ星ぐらいで我慢しようとすると、ホテルに入った瞬間に「うぉ、酸っぱいな」「うぎゃ、すっぺーな」と、少なくとも今井君は表情を歪めるしかない。
そもそも「4つ星」という評価が、「要するに自己申告にすぎない」というところがあって、4つ星でも3つ星でも、ホテルのサービスに大した違いはない。3つ星でも、自己申告4つ星より遥かに質の高いところは多い。
今回の旅でワタクシが選んだトゥールーズのホテルは、4つ星の中でも限りなく5つ星に近いホテルであったのだが、マコトに残念なことに「たいへん酸っぱいホテル」であった。
(ルルド、清冽なポー川の流れに感激する)
もちろん、酸味に嫌悪を感じるワタクシが悪いのだ。「贅沢を言うな」と言われれば、ションボリうなだれるだけである。今井君が好きな酸味は、青魚を酢で〆めた料理だけ。オランダ名物ハーリングと、コハダのお寿司と、秋田のハタハタ寿司だけである。
しかし諸君、特にホテルの関係者のみなさま、酢酸系の洗剤って、ヤメにしてくれませんかね。ホテルの館内があんなに酸っぱくなったんじゃ、落ち着いて宿泊していられないじゃないですか。
年末のテレビの大掃除特集なんかで、大掃除の専門家を名乗るオバサマが登場し、
「お酢で洗ってみましょう」
「シンクの汚れは、お酢で洗えばピッカピカ」
「お酢は万能の洗剤なんです」
と満面の笑顔を浮かべるシーンがあるけれども、酢酸系大キライの男子にとって、酢のニオイの充満した年末年始なんてのは、うひゃ、そんなの絶対にイヤなのである。
(ルルド、Grand Hôtel Moderne。ここは全く酸っぱさを感じなかった)
酢のメーカーのテレビCMで、これまた得意満面のお料理オバサマが登場、
「鶏肉を、酢で煮込みました」
「ぜんぜん酸っぱくなーい」
「うん、おいしいね」
と家族はまたまたみーんな笑顔。「幸せな家庭ここに極まれり」という演出だが、いやはや、「酢で煮込んだ」なんてのは、考えただけでワナワナせざるを得ない。
だってそうじゃないか。酢で煮込んだりしてみたまえ。トイレもベッドもキッチンも、お部屋も蔵書もネコたちも、みんなみんな酸っぱくて、そんなオウチにはもうそれ以上住めないんじゃないか。酸っぱくない料理がいい、酸っぱくない空気がいい、酸っぱくないオウチがいい。
(ルルド、Grand Hôtel Moderne。この螺旋階段が人気らしい)
だから今井君は、ホテルも酸っぱくないのがいい。トゥールーズのホテルで最初に酸っぱさに絶叫したのは、タオルの酸っぱさである。ハンドタオルが酸っぱい。バスタオルも酸っぱい。安い酢酸系の洗剤を使っているに違いない。
すると当然、ベッドのリネンも酸っぱいのである。最初は酸っぱくなくても、寝ているうちにどんどん酸っぱくなってくる。リネンに染み込んだ酢酸系の洗剤が、肉体の熱と湿り気によって滲み出し、全身が甘酸っぱく香り始める。
すると、もうダメだ。自らの寝息が酸っぱくなり、見る夢も酸っぱくなれば、明日の計画もお酒の酔いも酸っぱくなる。朝4時に起きだして書くブログの記事さえも、「何だかこれ、酸っぱくないか?」と思いながら、何度も推敲する始末になる。
ホテルの廊下の酸っぱさと言ったら、もうこれ以上激しい酸っぱさは考えられない。何しろスプレーで酢酸系の洗剤を床にまいていくのだ。そりゃこんなに酸っぱけりゃ、要領よく殺菌もできるだろう。汚れもどんどん落ちるんだろう。
しかし諸君、汚れや雑菌と同時に、今井君も酸っぱさに悶絶する。掃除の係のヒトが廊下に洗剤をスプレーしているのを目撃するたび、慌ててお部屋に逃げ帰り、「こりゃ助かった!!」と叫ぶのである。
(ホテル近くの土産物屋で。スミレ色のマリア様がズラリと並ぶ)
しかし考えてみたまえ。逃げ帰ったその部屋の、リネンもタオルも空気も酸っぱいし、そのリネンに包まれて眠り、風呂上がりの肉体をタオルで拭った我が肉体も、すでに驚くほど酸っぱいのだ。自ら酸っぱさ伝道師となって、酸っぱい&酸っぱい息を吐きながら、フランスの田舎町をのし歩くことになる。
だから諸君、ルルドのホテルに到着して、「お、酸っぱくないな」と思った瞬間、サトイモ君はまさに天上に昇る思いである。マリア様に救われた。さすがスミレ色の帯のマリア様、ワタクシを酸っぱさ地獄から救ってくださった。
宿泊したホテルは、Grand Hôtel Moderne。フロントの優しいオバサマは、「フランス語とイタリア語と英語ができます」というバッジをつけている。国境の町、世界から年間600万人が訪れるという聖地では、数ヶ国語をこなせるのが当たり前のようである。
(ルルド、無原罪の御宿り聖堂。小雨が降り出した)
ちっとも酸っぱくない部屋でしばらく休んでから、聖堂と洞窟のお参りに出かけた。ヨーロッパ中から集まった善男善女が、洞窟の前で敬虔な祈りを捧げている。
これほど敬虔な祈りの真っただ中で「酸っぱい」「酸っぱくない」みたいな贅沢を言っている自分を叱りつつ、14歳の少女ベルナデットの前にマリア様が17回も出現した洞窟の前に立ってみた。
今でも清冽な泉がたいへんな勢いで湧き出している。泉の前には熱烈な信者の皆さまが集まって、真剣に泉を見つめていらっしゃる。泉の前にも、スミレ色の帯のマリア様。数限りない奇跡がここで起こったのだという。
(聖なる泉と、その上に現れたマリア様)
泉の右側には、十数個の蛇口が並んでいて、泉の水を持ち帰ることもできる。周囲の土産物屋で、泉の水を汲みとる容器も売っている。今井君は贅沢がキライだから、飲みきったミネラルウォーターのペットボトルを2本持参した。
ただし諸君、この蛇口、なかなかお水が出てこない。何しろありがたい泉の聖水であって、日本の水道みたいにジャージャー際限なしに噴き出してくるようなことはない。
蛇口をヒト押しでオチョコ半分、その程度しか出ないお水を、腕と腰が痛くなるほど何度も何度も押しまくって、やっとペットボトル1/3ぐらいの水がピチョピチョいいはじめる。
これでこそ「ありがたや」「ありがたや」なのであって、何事も豊かすぎるとありがたみは薄れる。奇跡を起こす泉の聖水だ。500mlのペットボトルに1/3、これぐらいがちょうどいいじゃないか。
(聖堂と、清冽なポー川の流れ。流れの右側が沐浴場)
これで大いに満足して、あいにくの小雨に濡れながら、ペットボトルの水をふりふり散策を続けた。聖地を訪れるなら、快晴の暑い日より、こんな小雨の肌寒い1日のほうがいい。
岩の壁に蛇口がならんだその先は、沐浴場である。聖水に身体を浸して病を癒そうと、ここにも善男善女がつめかけ、尼僧やボランティアの人々に付き添われて、真剣な表情で順番を待っている。
水量の驚くほど豊かなポー川をわたると、信者が捧げた数え切れないほどのローソクの炎が、風に吹かれて激しく燃えている。1本3ユーロ、または1本5ユーロ、片手で持てるほどのスタンダードなものから、500ユーロとか700ユーロとか、運ぶのに台車が必要なものまで様々である。
(燃えさかるローソク群。同様の祭壇が5ケ所並んでいた)
人々は、5ユーロのローソクを5本も6本も躊躇なしに捧げ、目をつむって真剣に祈りを捧げる。200キロもある巨大ローソクも数本、激しい炎を上げていた。
明らかに10歳代と思われる若いヒトビトも多い。歴史はベルナデット以来まだ160年に過ぎないが、サン・ピエトロやサンチャゴ・デ・コンポステラの善男善女に、その真剣さでは全くヒケをとらないのである
1E(Cd) Solti & Vienna:WAGNER/DIE WALKÜRE 3/4
2E(Cd) Solti & Vienna:WAGNER/DIE WALKÜRE 4/4
3E(Cd) Mascagni & Teatro alla Scala di Milano:MASCAGNI/CAVALLERIA RUSTICANA
4E(Cd) Molajoli & Teatro alla Scala di Milano:LEONCAVALLO/I PAGLIACCI
5E(Cd) Solti & Chicago:HÄNDEL/MESSIAH 1/2
total m5 y545 d23015