Mon 180326 アナログ楕円の喜び/濁流/アルビジョワ十字軍 (フランスすみずみ 4)
こういう旅ばかりしていると、飲み会の席なんかで
「そんなところに何しに行くんだ?」
「そんなところを旅行して楽しいですか?」
「何しに行ってきたんだ?」
という質問ぜめにあう。
「質問ぜめ」とは言っても、質問者の側では最初からマトモな回答とか返答とかを期待しているわけではなくて、要するに「ヒマだな」「いいねぇ、オカネとヒマがあって」「つまらなそうな旅行だな」とニヤニヤしたいだけであることぐらいは、相手の表情をみれば分かる。
(南フランス・アルビのタルン川、雪解け水の濁流 1)
この種の人々にとっての旅行というのは、「あれもしなきゃ」「これも食べなきゃ」「あれも買わなきゃ」という慌ただしい世界であって、目的も目標も、日程も旅程も極めてハッキリと決まっている。
予定外&予想外の寄り道はすべて無駄であり不謹慎でさえあって、脇目もふらずに目的地へ直行、いったん目的を果たしてしまえば、問題はただ一つ、「どうやって無駄なくオウチに帰りつくか」ということになる。
ノンキなサトイモ → 今井君にから見れば、そんなに暑苦しい出張仕様の旅が楽しいとはとても思えない。直線的・連続クリック的な旅行のオトモは、やっぱりツアーの大型バスが最適。またはベテランの日本人ガイドでもくっつけて、無駄なく無理なく全てが片づいてしまう。
(南フランス・アルビのタルン川、雪解け水の濁流 2)
しかし何しろこちらは楕円形だ。坂道に置かれたサトイモ、デコボコのスロープのてっぺんに置かれたキウィをイメージしてくれたまえ。整備の悪いグラウンドのラグビーボールを想像してくれてもいい。
こりゃまさに「ヒャッホー!!」の歓声とともに、楕円形は坂道を無軌道に転げ回る。これほど楽しい光景が他に考えられるだろうか。この生き方、この旅のやり方、まさに今井君の真骨頂である。
フォワードの体重の重い軽いで支配されがちなラグビーも、楕円球のおかげで一気に予想外の展開になる。グラウンド整備が悪いぐらいのほうが、むしろラグビーはスリリングだ。滑りやすいグラウンドで足許が定まらなくても、楕円形スポーツはいっそうグッと面白くなるのだ。
(南フランス・アルビのタルン川、雪解け水の濁流 3)
20世紀の昔から、いろんな人々が言い続け&書き続け、大学入試の英語長文でも繰り返し繰り返し出題されて、すっかり言い古された話に、「従来型の書店 vs ネット書店」「紙の辞書か vs 電子辞書か」というテーマがあった。
今や「電子辞書」だって死語になりそうな時代。今さらそんな話題を持ち出すのも気恥ずかしいが、デジタルに直線的にクリックを続ける行動では、予想外の出会いも驚きもありえない。アナログに曲線的に生きる方が、予定外の出会いと感激ははるかにタップリ楽しめるはずである。
(南フランス・アルビのタルン川、雪解け水の濁流 4)
ワタクシはここで、「ピサの斜塔」を例にあげたいと思う。団体ツアーのバスでピサの斜塔を訪ねてみたまえ。ピサの斜塔は、マコトにご機嫌よく、頭をキュートに左に傾けて、ニコニコ笑って迎えてくれる。「おお、歴史の教科書の表紙で見た通りだ」である。
次にちょっと旅慣れてきたら、今度はピサの鉄道駅からグーグルマップを頼りに、ピサの斜塔に向かってみたまえ。その場合でも全く同じこと。斜塔くんは、今度も機嫌よく左に頭を傾げて、「おや、どうかしましたか?」と、前回と同様にニコニコ迎えてくれるはずだ。
(南フランス・アルビのタルン川、雪解け水の濁流 5)
ところが、3回目に斜塔くんを訪ねるときは、グーグルマップにあえて反抗して、グーグル君の指示する道筋とはむしろ逆のサイドから、斜塔くんにアプローチしてみたまえ。その感動と感激は、まさに「ゲロ!!」「タイヘンだ!!」の絶叫に値する。
このルートだと諸君、斜塔くんはちっとも機嫌よくないのである。まさにコチラに向かって、「いつでも崩壊してやるぜ」「いますぐ倒れてもいいんだぜ」「まったく、何百年も腹筋なんかやらせやがって」と、マコトに不機嫌な風情で我々に頭上から覆いかぶさってくる。
こういう楕円な感激、楕円形の驚き、「ヒャッホー!!」。そういうものを求めて、この15年、来る日も来る日も、世界中を旅してきた。フランスのすみずみでも、予想外の「ゲロ!!」と「ヒャッホー!!」が毎日毎日継続する。素晴らしい日々である。
(南フランス・アルビのタルン川、雪解け水の濁流 6)
南フランス・アルビの町でも、ホントはもっとずっとマジメにならなきゃいけないのである。大学入試で世界史を選択した人なら、「アルビ」と聞いて「アルビジョワ十字軍」を思い出すはずだ。
中世の南フランスに、有力なキリスト教異端派が2つ存在した。
① ワルド派。リヨンで発生、北イタリア・ドイツ・スペイン・ボヘミアに広がった。
② カタリ派。トゥールーズ伯領・アルビの町が中心、アルビジョワ派とも言われた。
①②ともに、古代ペルシア「マニ教」の影響を受け、その世界観は二元論的。教会権力と現世の富を否定し、あくまで清貧を主張する。
特にアルビの「アルビジョワ派」は、あまりに過激に教会権力を否定したから、ローマ教皇イノケンティウス3世は、フランス国王フィリップ2世に「アルビジョワ十字軍」派遣を要請。1209年から20年間にわたる激戦の末、1229年、ついにルイ9世によって滅亡に至った。十字軍には、仲間撃ちも多かったのである。
(南フランス・アルビのタルン川、雪解け水の濁流 7)
まあ諸君、楕円のヒャッホー!!君としては、あんまり難しいことは言いっこなしだが、むかしむかしのそのむかし、東京大学めざして「世界史の完習」という難しい参考書で勉強していた中身は、滅多なことでサトイモ頭から消えないのである。
世の中やマスコミは、「記憶重視の歴史学習から、ホンモノの思考力を磨く歴史学習へ」、そういう転換に夢中であるらしいが、記憶重視の学習も、あながち捨てたもんじゃない。
というか、「記憶より思考力重視」と言った途端に歴史の教科書から消されそうになったのが、① 坂本龍馬 ② 吉田松陰のお2人であったのには恐れ入った。この2人こそ、「記憶より思考重視」の権化じゃないか。
日本中から抗議を受けて、お2人は復活したらしいのであるが、いま日本の教育改革の先頭にいる人々の中には、要するにこの種の人々が少なくないようだ。ホントにわれわれは黙って任せておいていいんですかね。
(アルビの駅に到着)
さて、楕円形の驚きの本質については、今日の写真 → 合計8枚に、しっかりと示したはずである。諸君、この濁流の激しさを見てくれたまえ。
フランス中央高地の雪解け水を集めて早しタルン川、地元の人が「まるでココアでしょ?」「まるでホットチョコレートでしょ」と苦笑した、この濁流になるのである。
同じ濁流が、アルビジョア十字軍の戦いの日々にも流れていただろうし、濁流に耐えて11世紀から存在するこの橋(Pon Vieux)も、正統と異端の激戦を見つめていただろう。
中世の終わりの頃、あまりに激しい洪水のために崩壊したが、アルビの人々は十字軍による破壊も、洪水による崩壊もものともせずに、元と同じ場所にこの橋を再建、今にいたる。
以上、団体ツアーも立ち寄らず、ガイドブックにも触れられていない濁流と橋とのアナログ的な出会いなのであった。グーグルマップとあえて異なる道を選んで、こんな楕円の喜びに至ったのである。このタルン川の真っ赤な流れを見れば、「なぜトゥールーズの街がバラ色なのか」、その疑問も自ずと解けるものと信じる。
1E(Cd) Queffélec:RAVEL/PIANO WORKS 1/2
2E(Cd) Queffélec:RAVEL/PIANO WORKS 2/2
3E(Cd) Martinon:IBERT/ESCALES
4E(Cd) Bruns & Ishay:FAURÉ/L’ŒUVRE POUR VIOLONCELLE
5E(Cd) Collard:FAURÉ/NOCTURNES, THEME ET VARIATIONS, etc. 1/2
total m131 y427 d22897