Tue 180320  吉野駅前で寒さに震える/久しぶりのスイスホテル/文楽4月公演/義経千本桜 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 180320  吉野駅前で寒さに震える/久しぶりのスイスホテル/文楽4月公演/義経千本桜

 前夜の吉野はマコトによく冷えた。吉野の桜はとっくに散って、一目千本 → 一面の葉桜。さくらちゃんたちにデートをすっぽかされた腹いせに、いののしし君に八つ当たりして、桜色のお肉を煮えたぎる鍋の中に手づかみで大量投入、いくらか憤りは収まった(スミマセン、昨日の続きです)。

 

 本来なら、さくらちゃんデートの腹いせは桜鍋にすべきなのである。しかし桜鍋の材料は馬肉だ。「はいし、どうどう」の掛け声に素直に従う優しいお馬のお肉をいただくのには、やっぱり本場の熊本まで行かなきゃ失礼にあたる。

 

 ここは吉野の山の中だ。地元産のおいしいイノシシが猪突猛進、ナンボでも走り回っているだろう。地元でとれたものを、地元でいただく。それが一番うまいので、今井君は胃袋の中をすべてイノシシ肉で満たしたのである。

 

 だって、ワタクシは野菜が嫌いだ。ニンジンとトマト、白菜・春菊・ホウレンソウ、そういう草色のものはみんな大嫌いである。自分自身がイモ類系であるから、根菜には幾分の親しみを感じる。イモ全般・ダイコン・ゴボウなら悪くない。しかし諸君、ニンジンだけは、意地でもいかんね。

 

 こういうふうで、吉野の山の中でワタクシの胃袋はすっかり肉肉しくなり、ついでにお酒も熱燗で4合。「これならいくら冷え込んでも大丈夫だろう」という安心感を居抱いて山を下りた。

 

 ところが諸君、吉野駅前は予想以上に厳しくシンシンと冷えわたる。こういう場合には、第1志望は居酒屋、第2志望がお蕎麦屋、今井君にとってはどちらでも要するに「熱燗2合、お願いします!!」なのだが、いやはや、ゆずれない第1志望は、駅前に影も形もない。

 

 第1志望のことをを英語で「first choice」「top choice」または「No.1 choice」と言ふ。するともちろんのこと、第2志望は「second choice」と呼ぶ。そのsecond choiceのお蕎麦屋さんは何とか発見したが、いやはや午後5時の段階で「もう閉店でございます」と厳しく入店を断られた。

19813 文楽1

(4月8日大阪日本橋、国立文楽劇場。もうとっくに葉桜になっていた)

 

 ワタクシはこれから大阪に向かう。予約した大阪・阿部野橋までの近鉄特急「さくらライナー」は、吉野発18時40分。すると諸君、これから約1時間半、花見客は駅前で震えながら、しゃがんで待つしかないのである。

 

「さくらライナー」は、その名の通り桜の季節に合わせて走らせた臨時特急。今井君は思うのだ。臨時特急を18時40分に設定したなら、鉄道会社の責任として、居酒屋やお蕎麦屋と契約し、「花の季節だけは18時過ぎまで営業してくれへんか?」と頼み込むぐらいのことはすべきである。

 

 さて諸君、ブルブル震えながら1時間半、ついに「さくらライナー」がやってきた。さくらちゃんデートをすっぽかされて、今も何だか納得のいかない乗客がプンプンしながら乗り込むと、あっという間に電車は発車。乗り込んだか乗り遅れたか、その辺の確認もそこそこに発車してしまった。

 

 電車内の熟睡ぶりは、読者の想像を絶すると思われる。どの客も、すっぽかされた感が今も拭えない。吉野の町に立ち並ぶ居酒屋で、次から次へとマス酒を立ち飲みし、気がつくとみんな4合も5合も飲み干し、そのお酒が胃袋でタプタプしている。

 

 そのあと駅前で震えながら長時間を過ごし、心も身体もギュッと冷え切った段階で、暖房のきいた車内に乗り込んだ。一気にアルコールが脳天に上がってきて、400円余計に払った「デラックスカー」の乗客は、終点・大阪阿部野橋に到着するまで、正体なく深い居眠りの底を漂ったのである。

19814 文楽2

(国立文楽劇場にて。「義経千本桜」が美しかった)

 

 この日の宿泊は、ホントに久しぶりの難波「スイスホテル」。そのむかし、ワタクシがまだ「代ゼミ四天王」として君臨していたころ、大阪での宿泊はいつもここだった。その代ゼミも今やほとんどナシ。現在18歳の受験生に「代ゼミ」と言っても、マコトに怪訝な表情を向けられるばかりである。

 

 当時の名称は「南海サウスタワーホテル」。「なつかしいな」「なつかしいな」と呟きながら、ルームサービスでピザ1枚を注文した。せっかくの難波だ、本来ならヨサゲな飲み屋に足を運ぶところ、あまりの寒さに思わず躊躇してしまった。

 

 翌日は、大阪日本橋「国立文楽劇場」で人形浄瑠璃を満喫する。開演11時、終演15時半。人形遣いの「五代目吉田玉助」襲名披露も兼ねた公演であって、劇場前はなかなかの賑わいである。

 

 最近の人形浄瑠璃は、大阪でも東京でもたいへんな人気であって、11月の大阪・1月の大阪・2月の東京・4月の大阪と、連日超満員の大盛況。問題連発 → 大相撲に勝るとも劣らぬ満員御礼の日々が続く。

 

 襲名披露も続く。2015年には吉田玉男。昨年1月には豊竹呂太夫(元・豊竹英太夫)、今年1月は竹本織太夫(元・豊竹咲甫太夫)、そして今回は吉田玉助。ワタクシにはもう1人、「そろそろ大名跡を継いでもいいんじゃないか」と感じる太夫がいるのであるが、まあそれはそのうちヒトコト呟こうと考える。

19815 燗の美穂1

(文楽後の1次会は、南船場「燗の美穂」にて。詳細は明日 1)

 

 満員の場内は、お着物率が異様に高い。場所は大阪、舞台は人形浄瑠璃ということになれば、お着物率が高いのは不思議ではないが、この日はいつもにも増して華やかさが際立った。

 

 もちろん何しろ人形浄瑠璃だ、「お着物率が高い」と言っても、今井君と同世代からもう少し上の「中年女子」「中高年女子」の皆さんだから、1月の成人式みたいなド派手な世界ではない。マコトに落ち着いた地味な華やかさではある。

 

 しかし諸君、こういう世界に入り込むと、やっぱり谷崎潤一郎が読みたくなる。「細雪」。「蓼喰ふ虫」。お着物女子が闊歩し、文楽の話題が満載の小説を、高校2年生のころ以来久しぶりに読まねばならん。そうでないと諸君、せっかくの「谷崎潤一郎全集」十数巻が、今井君の書棚の片隅で虫に喰われているやもしれん。

 

 この日の出し物は、

① 本朝廿四孝 桔梗原の段/景勝下駄の段/勘助住家の段

② 五代目吉田玉助 襲名披露口上

③ 義経千本桜 道行初音旅

 

 お着物率が高いと同様に、観客全体の居眠り率も高い。ワタクシの右側のオバサマ。ナナメ後ろのオジーサマ。いずれも① 本朝廿四孝、しかもクライマックス「勘助住家の段」の真っただ中で、ものの見事に「スゴーッ♡」「グワーッポ♡」という激しいイビキの音に、自分で驚いて目を覚ましていらっしゃるのであった。

19816 燗の美穂2

(文楽後の1次会は、南船場「燗の美穂」にて。詳細は明日 2)

 

 ③ 義経千本桜は、何しろ「千本桜」であるから、舞台は昨日の吉野の里。吉水神社から眺める中千本・奥千本、いわゆる「一目千本」の桜の絶景を背景に、愛する義経を追って吉野に分け入ってきた静御前と、「狐忠信」こと佐藤忠信が演ずる「道行初音旅」である。

 

「道行初音旅」は、もちろん「みちゆきはつねのたび」。これを「どうこうしょおんたび」と発音した人もいるから、若い諸君には遠慮なしにどんどん国立文楽劇場に足を運んで、伝統文化の保存に力を注いでいただけなきゃ困る。

 

 幕があくと、ずらりと居並んだカミシモ&ハカマのオジサマたちが素晴らしくカッケー。最前列に三味線太棹のオジサマが10名。中段に浄瑠璃の太夫が8名、最上段にも太夫が8名。すべてこの世界のトップリーダーの面々。桜色の揃いの裃&袴が文句なくカッコいい。

19817 燗の美穂3

(文楽後の1次会は、南船場「燗の美穂」にて。詳細は明日 3)

 

 舞台は、まさに桜でいっぱいだ。背景は一目千本の桜のカキワリ。舞台上にも桜が満開で、天井から桜吹雪が遠慮なしに舞い落ちる。客席からは惜しげもない大拍手、「キレイやな!!」という叫びも上がる。諸君、ここでワタクシは、「取り返した」と心で叫んだのである。昨日見るはずだった吉野の桜、今日の大阪でビシッとこの目に収めた。

 

 この日は、同じ桜色の裃&袴で、吉田玉助襲名披露も行われた。舞台上には、人形遣いのトップ10人が勢ぞろい。義経千本桜で得意の狐忠信を演じきった桐竹勘十郎が少しお茶目な挨拶。2代目吉田玉男もホンの少しお茶目に挨拶。太夫と違って普段は肉声を聞かせることのない人々であるが、素晴らしい襲名披露だった。

 

 舞台を通じて、1月の襲名以来、竹本織太夫が相変わらず絶好調。豊竹呂勢太夫も好調。シロートながら40年の文楽観劇歴を誇るワタクシが、「そろそろ大名跡を継いでもいいんじゃないか」と感じたのは、まさにこの人・豊竹呂勢太夫なのであった。

 

1E(Cd) Lima:CHOPIN FAVORITE PIANO PIECES

2E(Cd) Muti & Berlin:VERDI/FOUR SACRED PIECES

3E(Cd) Reiner & Wien:VERDI/REQUIEM 1/2

6D(Pl) 4月文楽公演:本朝廿四孝 桔梗原の段/景勝下駄の段/勘助住家の段/五代目吉田玉助 襲名披露 口上/義経千本桜 道行初音旅:国立文楽劇場

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