Tue 180313  クリケットを生観戦/クリケットとは何か(またシドニーの12月 23) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 180313  クリケットを生観戦/クリケットとは何か(またシドニーの12月 23)

 世界中どこを旅しても、その場所で一番愛されているスポーツを観戦したいものである。ニューヨークに行ったら、ペンステーションのすぐそば、マディソン・スクエア・ガーデンでバスケを見なきゃいかんだろう。

 

 ヨーロッパや中南米をこれほど頻繁に訪れて、生のサッカー観戦に一度も出かけていないとすれば、やっぱり問題だ。日本にやってきた外国人には、どうしてもお相撲か甲子園の高校野球を見せたいじゃないか。

 

 カナダならアイスホッケー、ニュージーランドならラグビー。インドならカバティ、東南アジアならセパタクロー。しかし諸君、ヨーロッパのサッカーも、中南米のサッカーも、やっぱりちょっと観客どうしのツバぜりあいや暴力沙汰が恐ろしい。

 

 ニューヨーク・ヤンキースタジアムでイチローのプレーに熱中したのは、もう5年も昔のことである。ボストンでも松坂の投球を見たかったが、あの時は時間がうまく合わなかった。というか、お目当てがピッチャーの場合、ホントにその日に登板があるのか、なかなか見当がつかない。

 

 メキシコシティでは、アステカスタジアムの入り口まで行って、ダフ屋のみなさんに何度も声をかけられた。しかしダフ屋からチケットなんか買えば、それはたいへんイケナイことであって、たっぷり叱られ、たっぷりアブラも絞られる。近くのメキシコ国立自治大学を見学しただけで、素直にホテルに帰った。

19768 クリケット1

(シドニーのクリケットスタジアム。試合開始直後、超満員になった 1)

 

 今回は話がシドニーであるから、まず生で見るべきスポーツは、ラグビーでありオージーボールである。しかしラグビーは、毎日あきるほどテレビで中継している。

 

 早朝から深夜までラグビー、それもマコトに単調な13人制ラグビーを見続けて、オーストラリアの滞在が終盤になっちゃった。「もうラグビーはお腹いっぱい」という状況で、12月28日を迎えたのである。翌29日夕方のヒコーキで東京に帰る。

 

 そこで諸君、ワタクシは「クリケットを見に行こう」と思いついた。「は? クリケット?」「そりゃいったい何ぞや?」であって、英単語のcricketを辞書で引いても、いきなり「コオロギ」が登場するのである。

19769 クリケット2

(シドニーのクリケットスタジアム。試合開始1時間前、長蛇の列ができた)

 

 例えば「ジーニアス英和辞典」の記述によれば、

「炉辺で鳴くコオロギは、house cricket」

「昔は死の前兆を告げると言われた」

「今は平和と幸運の虫とされる」

「鳴き声は『chirp』。英米人には陽気に聞こえる」

「鈴虫は、a bell ringing cricket」

「松虫は、a pine cricket」

コオロギ関係はマコトに詳細な記述が載っている。

 

 ところがスポーツのほうのクリケットは、コオロギとは完全に別あつかい。「球を打つ音がコオロギの鳴き声に似ているからと言われる」とある。え、ホントにそんな音がするんですかね。

19770 クリケット3

(シドニーのクリケットスタジアム。試合開始直後、超満員になった 2)

 

 ワタクシが「cricket」というスポーツの存在を知ったのは、高校2年の英語の教科書の中である。若き今井君は高2の教科書を大学受験の直前に30回以上音読したから、その中の文章は今でもほぼ全文ソラで暗誦できる。

 

 Lesson 11、George Mikes(ジョージ・ミケシュと発音する)というイギリス作家の作品で、「Aspects of Life in England」の一節である。ヨーロッパ大陸の人とイギリス人の生活を、面白おかしく比較して述べた文章であった。

 

Many continentals think life is a game

 ; The English think cricket is a game.

このセンテンスが「A warning to beginners」の節の締めくくりなのである。

 

 いいですね、ユーモアのある人の文章って。「ヨーロッパ人は『人生はゲーム』と考え、イギリス人は『クリケットこそゲーム』と考える」。そのぐらいイギリス人はクリケットにのめりこむ。

 

 高校生のワタクシは「George Mikes」がすっかり気に入って、ちょうど講談社文庫で出ていた「スパイになりたかったスパイ」を購入。そんなことをしているから、模擬試験なんか高校3年間で1回しか受けていない。マコトにフマジメな日々を過ごしていた。

19771 表紙 

(G・ミケシュ「スパイになりたかったスパイ」講談社文庫)

 

 だから旧イギリス植民地から発展した国々は、今もクリケットに夢中だ。オーストラリア・インド・南アフリカ。ホントはニュージーランダーも、ラグビーよりもっとクリケットにのめり込まなきゃいけないところだ。

 

 12月28日午後、今井君は「シドニー vs アデレード」の試合を観戦しようと路線バスに乗り込んだ。ホテルのあるサーキュラーキーから40分、午後の陽がかなり西に傾いて、郊外の街がオレンジ色に染まりかけた頃、いよいよスタジアムに到着。地元の人々の熱い盛り上がりに感激したのである。

 

 ただし諸君、スタジアムに到着し、膨大な数の人々をかき分けて、張り切って自分の指定席に座ったはいいが、肝腎のゲームのルールをほとんど知らないのである。元を正せば13世紀、新しく見積もってもイギリスのチューダー王朝時代が発祥。野球の原型であることは知っているが、ルールとなるとサッパリ分からない。

 

 要するにピッチャーみたいなヤツがいて、そいつが硬くて黒っぽいボールを投げる。普通はワンバウンドのボールであるが、それをバッターみたいなヤツが平べったい棍棒で打ち返す。ボールがどこまで飛んだかで得点が決まる。以上、だいたい野球と同じじゃないか。

19772 クリケット4

(野球ならピッチャー。クリケットでは「ボウラー」と呼ぶ)

 

 しかし諸君、物騒な防具をつけた棍棒男、「バッター」ではなくて「バッツマン」と呼ぶ。ピッチャーの方も「ボウラー」と呼ばれる。ほれ、メンドーくさくなってきた。メンドーだから今井君は、売店が混まないうちにとりあえずビールを買ってきた。

 

 ボウラー(=ピッチャー)は、マウンドの上から豪速球を投げ込むのではない。遥か遠くの方から全速力で走ってきて、その勢いでボールに迫力をつける。

 

「腕を曲げないで投げる」というルールだから、野球のピッチャーみたいにヒジのシナリを利用できない。だからヒジのしなりの代わりに「遥か遠くから走ってくる」というワザを使う。野球でいえば、セカンドとセンターの中間あたりから全速力で走ってくる。

 

 ボールは、普通はワンバウンドで投げる。ワンバウンドしたところで、「バッツマン」という悪そうなヤツがボールを棍棒でひっぱたく。打たれたボールは、後ろに飛んでも、真横に飛んでも構わない。野球みたいに、「フェア」とか「ファウル」とか、そんな意地悪なことは言わないのだ。

19773 クリケット5

(2人のバッツマン。何しろボールが硬いから、野球のキャッチャーみたいな防具をつけて打席に立つ)

 

 だからバッツマンの構える位置は、グラウンドの中央なのである。フェアグラウンドではなくて、「Oval」と呼ぶ。Ovalとは「楕円形」。おお、まさに今井君にぴったりのスポーツなのだ。

 

 打球が後ろに飛ぼうが真横に飛ぼうが、どこまでボールが飛んだかで得点が決まる。外野手の位置を超えてフェンス際まで飛べば、それがフライでもゴロでも4点が入る。フライかライナーでスタンドまで届けば、一挙に6点。「ランナー」がいようがいまいが、とにかくスタンドに届けば6点なのだ。

 

 シドニーのチームの名前が「6ers」。6erとは、6点を獲得する打球のことであって、要するにホームラン、だから6ersとは、野球に例えれば「ホームランズ」という名前なのである。

19774 クリケット6

(シドニー6ers側のゆるキャラ。6ersと書いて「シクサーズ」であるが、だからゆるキャラも数字の「6」のデザインだ)

 

 攻撃側は、11人。守備サイドも11人だ。投げるボウラーとキャッチャー役が2人、残り9人が守備につく。ボールは硬いが、グローブなし、みんな素手で打球を処理する。なかなか痛いスポーツである。

 

 こういう状況だから、打者はなかなかアウトにならない。アウトになるのは、フライをノーバウンドで取られた時の他、いくつかのケースがあるが、それを書くのはメンドーである。正確なことは、まあググってくれたまえ。

 

 何と言ってもすげーのは、攻守交代の省略。野球みたいに頻繁に攻守交代しているのは、手間と時間ばかりかかって、これまたメンドーだ。野球で言うなら、片方が一気に9回分の攻撃を済ませ、その後でやおら1回だけの攻守交代があって、今まで守っていた方が9回分の攻撃を行う。

19775 クリケット7

(防具をつけて棍棒をふるうバッツマン。キャッチャー役の前にあるのが「ウィケット」。コイツが反応するとバッツマンがアウトになる。おお、面倒だ)

 

 だから諸君、1つの攻撃がマコトに長く、一気に200点も300点も入る。長い守りにうんざりしていたチームは、一気にその200点差なり300点差なりを追いかける。あんまり長いから、観客も途中ですっかり飽きてしまって、売店のお酒はナンボでも売れる。

 

 今井君がシドニー市民の皆様と観戦したのは、そういうゲームである。時には1日で終わらないこともある。Aチームの攻撃だけで1日かかり、「Bチームの攻撃は翌日でよくないですか?」と衆議一決するのである。さすがに諸君、「The English think cricket is a game」なのである。

 

1E(Cd) Solti & Chicago:MAHLER/SYMPHONY No.8 1/2

2E(Cd) Solti & Chicago:MAHLER/SYMPHONY No.8 2/2

3E(Cd) Barbirolli & Berliner:MAHLER/SYMPHONY No.9

4E(Cd) Rattle & Bournmouth:MAHLER/SYMPHONY No.10

5E(Cd) Goldberg & Lupu:SCHUBERT/MUSIC FOR VIOLIN & PIANO 1/2

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