Mon 171218 「君たちはどう生きるか」/どれだけ詰め込むか(またシドニーの12月 3) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Mon 171218 「君たちはどう生きるか」/どれだけ詰め込むか(またシドニーの12月 3)

 この世の中にはいろんなお年玉があるもので、今井君が小学5年の時に母方の叔父からもらったお年玉は、吉野源三郎「君たちはどう生きるか」という難しいご本であった。

 母が30歳の時に生まれたのが今井君であり、叔父は母の弟、母よりも10歳下である。と言ふことは、今井君より20歳年上。ワタクシが小学5年の時、叔父はちょうど30歳だったことになる。

 秀才ぞろいの今井君の家系♡であるが、中でも叔父は子供の頃からの秀才ぶりが伝説のようになっていた。母の5人きょうだいの中で、長兄が静岡大学総長を務めた経済学者の加藤一夫。母が長女、叔父さんは末の弟である。

 しかし家族の中では、長兄よりも末弟の叔父さんのほうがずっと評判が高かった。「叔父さんみたいになりなさい」「叔父さんみたいになりなさい」と、ワタクシはやたらにお説教されて育ったのである。

 何かいいことをして親戚にホメられる時には、必ずと言っていいほど「宏君は叔父さんとそっくりだね」という締めくくりがくっついたし、叱られる時の決まり文句は「叔父さんとは丸っきり違うね」という冷酷な一言だった。
シドニー1
(シドニー、オペラハウス。今日から少しずつシドニーの旅の思ひ出を書いていこうと思います)

 こんなふうにほぼ無条件で、宏君の将来の目標は「叔父さんみたいな人」ということになってしまった。その叔父さんがお年玉の代わりに買って来てくれた本が「君たちはどう生きるか」。そりゃ諸君、どうしても読まなきゃいかんじゃないか。

 同じお正月に、4歳年上の姉が叔父さんからもらったのがE.ブロンテの「嵐が丘」、しかもそれは翻訳ではなくて、情け容赦のない原書、Everyman’s Libraryの1冊である。日本語の「に」の字もないアルファベットの嵐に、小5の今井君は目を回し、当時中3だった姉が羨ましくなった。

 だって諸君、まだ小5の男子でござるよ。小5の男子が「君たちはどう生きるか」とか、そんなコムズカシイことを言われたって、どうしようもないじゃないか。

 給食の時間に「みかん1個を1口で食べてみせる」「コッペパン1個、やっぱり1口で食べてみせる」とか、そんな宣言をしては友だちとケンカしていた時代だ。

 コッペパン1個、ホントに口にまるまる押し込んだ瞬間、「今井、 何やってんだ?」とセンセに見つかり、今そんなこと聞かれたって答えようにも答えられず、「何やってんだ?」と自問自答しながら目を白黒、そのまま口からパンを引っ張り出して茫然自失、「きたねえ」「きたねえ」と友人たちに囃されて、涙ぐんでいた頃である。

「君たちはどう生きるか」も何もあったものではない。それより「どうパンを飲み込むか」「どうみかんを飲み込むか」が先決問題。ついでだから教室の石炭ストーブの上でみかんを焼いて、「焼きみかん」などと言ふシロモノを作り、それが旨いか旨くないか、大激論に発展したりした。
嵐が丘
(姉がもらった「嵐が丘」。今はワタクシの書架に収まっている)

 まあ諸君、家族のヒーローだった叔父さんも、あの時はやっぱり相当に無理をしたのだ。中3の姪(ワタクシの姉)が、「嵐が丘」を原書で読めるものかどうか、冷静に考えれば2秒でわかりそうなものじゃないか。

 例えば諸君、物語の冒頭、ヒースクリフ家の下男Josephがどんな発言をするか、ここに1〜2行書き写してみよう。

「Aw wonder hagh yah can faishion tuh stand thear i’idleness un war, when all on ‘ems goan aght. Bud yah’re a nawt…」
どうだい諸君、中3や高3や、そのへんの大学院生が太刀打ちできる世界ではないのだ。

 ましてや小5の今井君は、パンやみかんを丸呑みするばかりか、小学館の図鑑シリーズもほとんど頭で丸呑みしていた時代。完璧な理系志向で、小学校の文集にも将来の夢は「医師」とか「博士」とか書きまくっていた。「どう生きるか」などというメンドーな話より、算数の方が気楽でいいじゃないか。

 読書だ読書だと大騒ぎし始めたのは、中2の春である。そのへんの事情については、北海道函館への出張に絡めて、1月25日ごろにチョイと詳しく書く予定。何故か「日本文学全集を80巻、一気に読破するぞ!!」などということになり、そこで理系男子は超文系男子に変貌し、今に至って後悔しきりである。
新宿バスタ
(シドニーへの旅も、やっぱり「バスタ新宿」から。大寒波の中、盛夏のオーストラリアを目指した)

 その「君たちはどう生きるか」が、漫画版でリバイバル、2018年現在、たいへんなブームになってるんだそうな。小学生の甥っ子に、30歳そこそこの知的でマジメな叔父さんが、正しい生き方を問いかけるストーリー。いやはや、何とも懐かしい物語である。

 しかし諸君、小5以来幾星霜、今や人生の大べテランとなってしまったサトイモ入道は、むしろその「叔父さん」なるものに焦点を当ててしまうのだ。

 30歳ねえ。ずいぶんいろいろ文章を書いていらっしゃるようだが、ご職業は? オーバードクター? コペル君に問いかける叔父さん自身は、今どう生きていらっしゃるの? 叔父さんのこれからの夢は、いったい何でござるか?

 まだ30歳なら、「問いかける」より「自分で目いっぱい生きてみせる」ほうがいいんじゃないか。物語の書かれた時代背景を考えると、あまり厳しいことを言いまくるわけにもいかないが、叔父さんのそのまた叔父さん世代になってしまった今井君は、30歳の叔父さんの語るコトバを読みながら、21世紀の叔父さんたちが心配になってくるのである。
とんかつ
(出発時の恒例となった羽田空港のヒレカツ定食。たいへんおいしゅーございました)

 若々しい30歳の諸君、そんなに悩みなさんな。タフでグローバルな日々を目指したまえ。甥っ子や姪っ子に過大な期待をかけるんじゃなくて、自分自身がタフに生きていれば、甥っ子も姪っ子も自然に後からついてくる。

 もし時代が戦前&戦中ならば、センセが生徒に、叔父さんが甥っ子に、叔母さんも姪っ子に、「アナタはどう生きるの?」と尋ね、明確な答えは保留して「私はね…」と夢見るような視線をはるか水平線に向ける、その種のシーンも感動的だっただろう。

 しかし諸君、今や21世紀も中盤に入ろうとしている。30歳、35歳、40歳、その程度のところで変なポーズをとって「君たちは?」とかお説教しているより、諸君自身が何でもいいからグイグイ前に進めばいいじゃないか。
おでん
(スイートラウンジで、カレーとおでんと赤ワインも貪る)

 というわけで諸君、今井君もグイグイ進むのである。NHKの白髪の登坂アナだって、キッパリNHKに見切りをつけてフジテレビの世界でマロマロやろうとしている。有働サンだってグイッと「あさイチ」卒業のウワサ。みかん1個口に入れて慌ててる甥っ子に「叔父さんはね…」とか、そんなシミジミした話をしてる場合ではない。

 そこで2017年末の今井君は、12月21日の埼玉県春日部で秋冬シリーズを完了するやいなや、翌22日にはもうシドニーに旅立つことにした。昨日も書いたけれども、80年か90年の短い人生しか与えられていないのだ。躊躇やシミジミやモタモタは、自分に一切許さないでマロマロ前に進みたいじゃないか。
フェリー
(シドニーの港で大活躍中、通称「まめぞう」君の勇姿)

 旅立ちが22日、シドニー着は23日。シドニー発が29日、東京に帰ってくるのが30日。マコトに短い旅である。しかもその短い旅程の中に、「24日エアーズロック、25日シドニー帰着」という激しい小旅行が挿入される。

 ここまで忙しくなると「どう生きるか」も何もあったものではない。「もっと落ち着いて生きたらどうなの?」「何でそんなに慌ててるんだ?」という声が追いかけてくるような気もするが、サトイモさんは全く気にしない。

 そんなことを問いかけている人々の生き方自体を見てみたまえ。別に大したことないじゃないか。「じゃあアナタは?」と問い返してみたまえ。返答に窮し、困惑したニヤニヤ笑いしか返せないじゃないか。
シドニー2
(昨年に続き、シドニー12月の旅が始まる)

 そんなことなら、オーストラリア大陸のオヘソである大っきな赤岩を、ギュッと見つめて帰ってきた方がいいにきまっている。しかも諸君、贅沢は敵なのであって、羽田空港にもチャンと路線バスで行く。ヒレカツ定食でギュッとお腹もいっぱいにしてから、オヘソを目指す。

 もちろんついでにスイートラウンジのカレーだって詰め込むのである。何しろ無料なんだから、カレーにおでんに赤ワイン、詰め込めるだけ詰め込んで、タフにグローバルに南を目指す。どう生きるかより、どれだけ詰め込むか。若い諸君、そのぐらいタフになって世界を駆け回ろうじゃないか。

1E(Cd) Sinopoli & New York:RESPIGHI/FONTANE・PINI・FESTE DI ROMA
2E(Cd) Dutoit & Montréal:RESPIGHI/LA BOUTIQUE FANTASQUE
3E(Cd) Rubinstein:CHOPIN/MAZURKAS 1/2
4E(Cd) Rubinstein:CHOPIN/MAZURKAS 2/2
5E(Cd) Lima:CHOPIN FAVORITE PIANO PIECES
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