Thu 171130 バイクの奔流を横切る法/地元の店で汗まみれランチ(速攻ホーチミン7) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 171130 バイクの奔流を横切る法/地元の店で汗まみれランチ(速攻ホーチミン7)

 1990年代ぐらいから、NHKとか朝日新聞とかがアジアの急成長についてよく特集を組んだ。「激流♨︎アジア」「奔流♨︎中国」のたぐいであって、その熱さや激しさについてはよく分かっているつもりであった。

 しかし諸君、画面や紙面で満足していてはならないのだ。しっかり現地に出かけて、現地のニオイを嗅ぎ、現地の人々の叫び声やクルマの騒音に包まれ、現地の水を飲み空気を吸わない限り、活字やフィルムから理解できることなんか、おそらく現実の100分の1にも満たない。

 今回のホーチミンで何より強烈だったのが、バイクの爆音の凄まじさである。聴覚を通じて渦巻く熱気を感じ、成長の激しさを感じるわけである。一晩中バイク洪水は収まることなく、夜が明けたか明けないかの時間帯からは、信号が変わるたびに雷鳴のような爆音が渦を巻く。

 クルマもバスも、バイク洪水の中で右往左往し、ニッチもサッチも行かなくなって立ち往生している。新宿西口とか大阪駅前の歩行者が、全員バイクに乗って突っ走っているとしたら、ちょうどこんなアリサマになるんじゃないか。

 だから滞在初日、ベトナムにまだ慣れないうちは、道をわたるのに大きな困難を感じる。一応はみんな信号を守ってくれるので、信号のある大きな通りなら何とか渡れるのだが、問題なのは信号のない2車線の裏通りである。

 無数のバイクがひっきりなしに走り回るし、その運転がマコトに自由自在。バイクどうしで巧みに連携をとりながら、右に左に小さくカーブを描いたかと思えば、スピードも自在に変えてくる。慣れない外国人に、彼ら彼女らのハンドルさばきは予想もつかないものなのである。
バイク洪水
(押し寄せるバイクの奔流)

 だからむしろ、バイクに気をつけるよりも、「バイクなんか存在しないんだ」ぐらいの大胆な歩行の方がいいのかもしれない。バイク軍団のほうで、マコトに巧みに避けてくれる。「ワタクシはモーゼでございます」と言ふ気合いで悠然と歩み出れば、紅海の水も左と右にスカッと分かれるものである。

 ただし諸君、もちろん今井君は今ふざけて書いているのであって、良い子のみんなは決してマネをしてはなりません。特に初めて訪ねた外国の街では、いくら注意深くしても足りないぐらいですぞ。

 道路を横断するときは、右を見て左を見て、また右を見て左を見て、まだ右を見て左を見て、あれれ、いつまで経ってもキリがないけれども、それでも意地でもなお右を見て左を見て、果てしないバイク軍団が途切れる稀有な瞬間を待ちながら、いつまでもゴドーを待ちながら、その場に佇んでいたまえ。

 ところが諸君、いくら辛抱強く待ちに待っても、驚くなかれバイク軍団はホントにホンマにウソやのうて、20分でも30分でも決して途切れない。これが「アジアの激流」「アジアの奔流」の正体である。おとなしい日本人の常識は通じない。黙っていれば、永遠にバイクが走り続ける。

 そこで良い子から普通の子へ、普通の子から悪いサトイモへ、ほぼ1日で急速な変化を遂げた極悪サトイモは、ニセのモーゼに変身し、逆巻く奔流の中に歩み出た。見よ、英語で言えば「Behold!!」、奔流のバイクは真っ二つに分かれて、みんなで舌打ちしながらサトイモを巧みに避けていく。

 顔のほぼ全面を覆いつくすお揃いの怪しいマスク。いきなり熱帯のスコールが襲ってきても大丈夫、足首までカバーする長いマントもお揃い。ただしマスクもマントも色とりどりで、ビンクにグリーンにブルーにオレンジ、まさに熱々のアジアの奔流なのである。
あんかけ麺
(THANH XUANの海鮮麺)

 この奔流を横切り終えた今井君は、これから超地元のお店に昼食を食べにいくのである。店の名は「THANH XUAN」、「あんかけ麺」というか「あんかけフォー」というか、ホーチミンシティの人々にギュッと浸透したランチ店である。

 モロッコでもキューバでもメキシコでも、「初めてのランチ」は緊張するものである。「初めてのディナー」なら、チョイと値段の張る高級店に思い切って闖入すれば、それほど地元感に悩まされずに、ステーキでもロブスターでもワシワシ遠慮なくいける。

 しかしランチということになると、ギュギュッと地元感の真っ只中、ゴマカシはきかない。次から次へと姿を現すバイクの奔流を、次から次へと大胆不敵に押しわたって、全身汗だく&汗まみれになった頃、サトイモ君は目指す「THANH XUAN」をついに発見したのである。

 まず口をついて出た言葉は、「ウソだろ?」であり「ヤメとくか?」であり「もう少しマイルドな店を探しますかな?」であった。だって諸君、飲食店とは気づかない狭い間口、建物と建物の間、幅3メートルほどの路地に、アルミのテーブルを3つ並べただけの店。店の前に小さなオバーチャンが座ってニコニコ笑っていた。
お店
(THANH XUAN)

 もちろん両隣の店舗も同じような作りであって、どうやらこれがベトナム・スタンダードというか、ホーチミン・スタンダードというか、地元の人々にとってはごく当たり前の店構えのようなのだ。

  テーブルの前に並ぶ椅子は、赤か黄緑のプラスチック。日本の銭湯で身体や頭を洗う時のあのお椅子に近い感覚であって、「座る」というよりむしろ「しゃがむ」のであるが、ベトナムの人々にとってはこれが最も落ち着ける姿勢であるらしい。

 黄緑プラスチックの小鉢を3つも4つもお盆に並べて、バラエティ豊かなランチを出している店もあるが、我が「THANH XUAN」は違う。さすが「あんかけ麺」がウリの店であって、「どん!!」と大きな丼が運ばれて来て、それで完全に終わりである。
路上飲食店
(付近の飲食店もこのスタイルだ)

 メニューは、店の入り口の壁に貼り出されている。というか、壁に直接ペンキで書いてしまっている。だって諸君、メニューと言ったって、4種類しかない。壁に塗り込んじゃった方がシンプルである。

 しかもその4つのメニューのうち、2つは「ありません」とおっしゃる。「てーことは、なにかい? 選択肢はたった2つってーことかい?」であるが、まさにその通り。メニューは2つだけ。ドリンクなし。この暑いのに「ビール!!」と叫ぶことも不可なのだ。

 というわけで諸君、気温は摂氏30℃、湿度85%、直射日光ビシビシ、バイク軍団ブンブン、聴覚からも視覚からも嗅覚からも、熱気がムンムン容赦なく押し寄せる中、今井君は熱々の海鮮麺料理を、泣きながらズルズル胃袋に啜り込むことになった。

 あの路地裏のテーブルで、他の人がもし今井君の様子を見かけたら、「サトイモが泣いてるな」「サトイモが茹だってるな」と勘違いしたはずである。頭頂部も汗、後頭部も汗、側頭部も汗。顔はビショ濡れであって、拭っても拭っても汗の止まる気配はない。
テーブル
(こんなテーブルであった)

 とはいえ海鮮たっぷり麺料理、たいへんおいしゅーございました。今日の写真2枚目でご覧に入れた通り、エビもたっぷり、カニもたっぷり、心配していたパクチーも控えめ。どんなに日本がパクチーブームになっても、ワタクシはトマトとマヨネーズの次にパクチーが苦手なのである。

 ウルトラ時代物の扇風機が、路地の空気をブンブンかき混ぜる。汗まみれの肉体には、そんな風でもマコトに心地よい。闖入してきた日本の中年キウィに、最初は疑念ムンムンの視線をおくっていた店のオバサマたちも、お勘定のころにはもうすっかり優しい笑顔になっていた。

 もちろん、お勘定の金額には、ベトナム2日目になってもまだ慣れていないのである。レジで8万ドンとか10万ドンとか言われると、それが400円であり500円であると納得するまでには、まだまだ時間がかかりそうだ。

1E(Cd) Barenboim:MENDELSSOHN/LIEDER OHNE WORTE 1/2
2E(Cd) Barenboim:MENDELSSOHN/LIEDER OHNE WORTE 2/2
3E(Cd) Barenboim & Chicago:SCHUMANN/4 SYMPHONIEN 1/2
6D(DMv) ALPHA DOG
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