Thu 171012 ロフォーテンの戦い第2章/戦略と戦術/大勝利(晩夏フィヨルド紀行29) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 171012 ロフォーテンの戦い第2章/戦略と戦術/大勝利(晩夏フィヨルド紀行29)

 メシのことばかり書いていると、何だか食欲ばかりの人間のようであるが、まあ許してくれたまえ。ホントにそうなのだ。出世欲もあんまりなければ、達成欲も旺盛とは言えない。学習意欲は衰えていないにしても、さすがに食欲ほど粘り強いものではない。

 そもそも、「オレはこの仕事でメシを食ってるんだ」と言い、「この仕事こそメシのタネ」と言う。「三度のメシより好き」という表現は、つまり「普通の人は三度のメシが一番好きなのに」という発想が前提になっている。

 というわけで今井君は、どんな時でもメシのことを考えている。朝起きた瞬間、すでに「今日の晩飯はどうすっかな」と舌なめずりし、晩飯にどこで何を食うかを原点にして、そこから1日の予定を組み立てる。

 その際、「朝食」「昼食」のことはあまり考えない。朝食は、パンとチーズとハムとネーブル1個とコーヒーとタマゴ2個でいいじゃないか。おや、それでもずいぶん貪ってますな。しかし昼食は、あんまりデッカく食べちゃうと、せっかくの1日を2つに分断しちゃうみたいで、もったいない。
ロフォーテン
(ロフォーテンの戦いは、第2章を迎える)

 だから8月23日の今井君も、フレデリック・スタッドの昼食を、巨大なソフティス1つで切り上げた(スミマセン、昨日の続きです)。そのぶん、オスロ滞在最終日の晩飯をどうするか、ミルク濃厚なソフティスが胃袋にトロトロ流れていく快感を楽しみながら、実はそればかり考えていた。

 午後4時の電車でオスロに帰る。スウェーデン国境から来る電車であって、フレデリック・スタッドに到着した段階で座席はすでに満員。かなりの乗客がここから1時間、終点オスロまで立っていくことになった。

 ヨーロッパの近郊電車で座れなかったのは、おそらくこれが始めてである。こんなに旅ばかりしていて、しかも徹底的に鉄道の旅に固執しているのに、「座れなかった」という記憶はないのである。

 ベルギーでもフランスでもイタリアでも、チェコでもポルトガルでもオランダでも、どこだって近郊列車は「座れる」という構造になっていて、人々はその前提で列車に乗り込むのである。
2回戦
(再びロフォーテンの2階建てがやってくる)

 列車のほうも「立って旅をする」という行動を想定していない。立つスペースがほとんどないのである。トイレの脇、コーヒーの自動販売機の横。立てば必ず他人の通行の邪魔になるような空間しか準備されていない。

 だから、マコトに窮屈である。欧米独特というかなんというか、若者はもう傍若無人に床にベタ座りしている。若めのオバサマは乗車口のステップを椅子として利用している。

 うーん、ワタクシはコーヒーの自動販売機の横。1時間の苦悶に耐えながら「晩メシはどうするかな」の思索に精神を集中し、そのことでこの苦悶を忘れようと努めた。

 そしてワタクシは決めたのだった。「捲土重来!!」「行くぞ、ロフォーテン!!」。「ロフォーテン」が何のことか分からないヒトは、3日前の記事を参照してくんろ。前日の晩メシで、2階建てになった大量の海鮮甲殻類軍団に惨敗を喫した、まさに屈辱のあの場所である。
1階
(2階建てのうちの1階。1階だけでも激しいじゃないか)

 オスロ中央駅からいったんホテルに帰って、戦略と戦術を練った。戦略(Strategy)とは、戦い全体のグランドデザインであって、会社なら社長、国家なら国王や大統領や首相が考えるべきこと。戦術(Tactics)とは、例えば局地戦の戦い方であって、会社なら課長、国家なら中級官僚の持ち場である。

「ぶしょう」には「武将」と「部将」があって、上杉謙信が武将なら、部将とは鬼小嶋弥太郎とか金津新兵衛とか、その類いのヒトビトである。武将がストラテジーを考え、部将は専門的にタクティクスを練る。

 それを混同して、武将が小さなタクティクスのトリコになり、局地戦を任された部将たちが天下国家ばかり論じていれば、軍団は弱小化し、敵のソシリを免れない。
ロブスター
(まず大将ロブスターをやっつける。桶狭間の戦い以来、「目指すは大将の首1つ」こそ、戦略の基本なのである)

 ついでに、「敵を知り己を知れば百戦危うからず」なんてのもある。ロフォーテンの戦いに向けて、「敵を知り」のほうは、すでに問題ナシである。ロブスター2、デカいカニ3、生牡蠣8、ムール20、あとは無数のシュリンプだ。問題は「己」のほうである。

 前回のロフォーテンの戦いでは、「オノレ」を知ることにあまりに無頓着だった。何しろ戦いに出かける前に「POLLY」などという豆菓子を1袋平らげた。あれが敗戦の原因になった。

 一般に「腹が減ってはイクサが出来ぬ」と言う。しかし諸君、腹を減らすのは戦闘を不利にするとばかりは限らない。「飢えている」というのは、悪いことではない。勉学でも営業でもスポーツでも、常に「飢えている」「ハングリーだ」「求めている」でなければならないはずだ。

 だから、「小腹がすいたな」などと言って自分を甘やかし、言い訳をしては豆菓子やらセンベイやらをポリポリ、そんなことじゃどんな戦いにも勝利はおぼつかない。ロフォーテンの戦いに臨むにあたり、今井軍の戦略は「自らをハングリーに保つ」「海鮮に集中する」ということに決まった。
ワイン
(援軍は、赤ワインのみとする。寝返る危険のある援軍は、むしろ援軍としない方が安全だ)

 夕暮れのオスロ埠頭を、赤い夕陽を浴びながら進む。精神的にも肉体的にもマコトにハングリー。「捲土重来」と言う時、それは実際には「先延ばし」「どこまでも先延ばし」「いつかやればいいさ」「焦っちゃいけないよ」の類いのゴマカシにすぎないケースが多い。

 今回の件だって、「またいつかオスロに来て」「再来年、いや5年以内には」「遠い将来、再びフィヨルド探険をするついでに」と、ホーレホレホレ、ゴマかそうとしてたじゃないか。人はいつでも「Now or Never」の心がけでいなきゃいけない。これもまたストラテジーの一種である。

 思い切って店に突入した今井軍を、店の人は温かく迎えてくれた。導かれたのは、昨日とは反対側。港を一望できる角のテーブルで、気持ちよく海鮮軍団を迎え撃つことができる。

 しかも今回は、スープも前菜も一切注文しない。ひたすら海鮮軍団との戦いに集中する。昨日の敗戦の決定的な原因は、海鮮軍団と相まみえる前に、バターたっぷりのフィッシュスープをすすり、戦いの本丸である胃袋に、言わば敵の斥候部隊の侵入を許してしまったことにあった。
ムール貝
(黒いヨロイのムール軍団。彼らが意外に手強かった)

 だから、東洋系のウェイトレスさんに注文したのは「赤ワイン」「2階建て海鮮甲殻類軍団」の2つだけである。実は昨日、この同じ「2階建て」を、立派な肉体のビジネスマン4人グループが1つ注文し、4人でもなお歓声を上げ、かつ4人でもなお食べ残したのを目撃している。

 そして諸君、まもなく敵軍団が姿を現した。当たり前のことであるが、軍団の数も昨日と同じ、軍の隊形も昨日と同じ。店側のヒトビトは間違いなく今井君を記憶していて、ニコニコ嬉しそうに笑いながら、2日続けてこの大軍に挑戦する珍しい東洋のクマ男を見守っている。

 戦術としては、ムールとシュリンプの大軍は後回し、歩兵や桂馬や香車は後にして、先に飛車角をやっつけちゃう戦法をとった。まず大将のロブスター。大っきなハサミのついたロブスター将軍は、半年前のキューバで連日貪ったものより、そのハサミの分だけ手強い敵である。
かに
(敵の猛将・カニ将軍。さすがのヒゲ将軍イマイも手こずった)

 次に片を付けたいのが、ハサミの先が黒く染まったいかにも凶悪そうなカニ将軍。コイツが諸君、たいへんなヨロイをまとっている。ペンチみたいなゴツい道具で立ち向かうのだが、コイツのハサミがなかなか割れてくれない。

 ワタクシは握力にそれなりの自信があって、お風呂でつかうタオルなんかは、30回も絞っているうちに、メリメリ音を立ててちぎれちゃうぐらいである。それなのに、ギュッとペンチを握りしめても、カニのハサミが割れないのだ。

「おや、おかしいな」とお手手に力を思い切り込めた瞬間、カニのハサミが強烈な音を立てて弾け飛ぶ。中の身が飛びだして、テーブル脇のガラス窓にカニの汁がベチャッと飛び散る。戦いは今まさに白兵戦となり、混沌とした情勢の中、勇者も猛将も次々と今井の軍門に下っていく。
えび
(残ったのは、無数のエビ君たち。最後の消耗戦を戦いぬく)

 残るは、無数の歩兵軍団だ。黒いヨロイのムール軍、赤いヨロイのシュリンプ軍。ここは赤ワインの援軍をまって、我が本丸・胃袋の守備を整えながら、当たるを幸いワッシワシ、次から次へと薙ぎ倒していくばかりである。

 この場合、問題になるのは自らの消耗であって、すでにアゴの筋肉も骨格も、ワッシワシを続けていれば確実に疲労する。精神の疲労も侮れないので、「猛将を退けた」「勇者との戦いに勝利」と、大歓声が上がるような達成感がない分、歩兵どうしの白兵戦は心の消耗が大きいのだ。

 しかし諸君、戦いが始まって1時間半。日没を前に、大勢は決した。2階建て大皿に残ったシュリンプは4つか5つ。ムールの黒いヨロイはすでに見当たらない。

 ストラテジー&タクティクスともに徹底した我が軍は、こうしてロフォーテンでの雪辱に成功。意気揚々と店を後にして、勝利の喜びを味わうべく、埠頭を西へ、美しい北欧の日没を眺めつつ、勝利の雄叫びをあげたのであった。

1E(Cd) The Beatles:BEATLES FOR SALE
2E(Cd) The Beatles:HELP!
3E(Cd) The Beatles:RUBBER SOUL
4E(Cd) The Beatles:REVOLVER
5E(Cd) The Beatles:PLEASE PLEASE ME
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