Mon 170925 オスロに帰る/読書青年/見事に読破/ホテルに帰還(晩夏フィヨルド紀行19) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Mon 170925 オスロに帰る/読書青年/見事に読破/ホテルに帰還(晩夏フィヨルド紀行19)

 こうして諸君、長いフィヨルド探険の旅も、ギュッと締めくくる時間帯になった。締めくくりと言ふのは、マコトに悲しいものである。今井君が一番キライなのは、温泉旅館をチェックアウトする時である。

 だって諸君、考えてもみたまえ。女将一同に迎えられて旅館に入ったのが、例えば昨日の午後3時。大っきなお風呂にドボボンと肉体をうずめて、大汗をかいて、その大汗を拭って、また大汗をかいて、それでも痩せ我慢して、意地でもモトをとろうと激汗をかいた思い出が、もう過去のものになろうとしている。

 浴衣なんか別に着ても着なくてもかまわないが、大汗&激汗 ☞ ビール2本 ☞ 夕食までの怠惰な時間帯、そういう記憶はダラしない我が人生で最良の思い出の1つ。楽しい記憶トップ1000のランキングに、余裕で闖入するレベルである。

 もちろん温泉の晩メシには忘れがたい思い出がナンボでもからみつく。今井君はアワビにアレルギーがあるから、「アワビの踊り焼き」などという野蛮な世界とは100%無関係であるが、海老に刺身、肉に生牡蠣、旅館の料理に舌鼓を打った記憶は、何が何でも忘れられない。
ミュルダール駅
(ミュルダール駅にて。すぐ近くに氷河が迫る)

 おいしい日本酒を痛飲して、その後の「熟睡」と言うか「激寝」と言うか、要するに睡魔に支配された夜のことだって、あまりに幸福すぎて忘れるのは不可能である。

 一晩ギュギュッと眠って、幸福は絶頂。「帰りたくない♡」もいいところであって、そこでまた朝食が旨すぎるじゃないか。玉子焼き。アジの干物。海苔に納豆、蒲鉾に湯豆腐。あたしゃこんなに甘やかされて、いいんですかね?

 ゴハンをお茶碗に2杯も3杯も貪って、「あれれ、最後にほうじ茶が出てきちゃった。お茶漬けサクサク行くかな?」となれば、もう肥満も何も気にならない。ふと朝から「ビール!!」の一声が出て、人生はこんなふうにあえなく腐敗していくのである。

 考えてみれば8月20日、ミュルダールの駅に到着した今井君は、その種の腐敗の崖っぷちにいたのかもしれない。温泉旅行とは性質が違うけれども、とにかく幸福のあらゆる要素がテンコモリで、幸福にアップアップ溺れそうになっていた。

 ネーロイ・フィヨルドの絶景。夜のベルゲンの美しい町並み。ソグネ・フィヨルドの絶景。滝の天使(スミマセン、昨日の続きです)、滝の乙女、タキーヌ、タキネーゼ、タキジェンヌ。幸福中枢がイカれる寸前になるぐらい、この2日は目いっぱいシアワセでござった。
ロータリー車
(大昔のロータリー車がションボリ出番を待っている)

 ミュルダールの駅は、冷たい雨が降り出した。すぐ目の前の岩山には、残雪とはハッキリ違う氷河があって、雨の冷たさは格別である。たった今フラムから登山電車で登ってきた100人ほどが、同じオスロ行きの列車を待って、待合室に陣取った。

「外は雨、待合室は満員」。19世紀から20世紀にかけて、こんなホカホカした楽しいシチュエーションは考えられなかったのである。コドモたちは売店でコーラやスナックを買ってもらい、そのコーラの最初の一口こそが、人生のクライマックスであるかのように感じている。

 30分待って、ベルゲンからのオスロ行きがやってくる。昨日は夕暮れから不通になった路線であるが、今日は無事に動いている。満員を覚悟していたが、乗客は6割ほど。標高800メートルから1000メートルの高地を、マコトに静かに駆け上っていく。
ゴル駅
(GOLの駅を通過)

 通路をはさんで進行方向右側の席には、たいへん優秀そうな青年男子2名が座っている。「兄弟か?」「親友か?」であるが、背格好も表情もあんまり似ていないところから判断すれば、どうやら大学の学部の親友であるらしい。

 1人は、500ページはありそうなハードカバーの本を開いて読書に励んでいる。どうやら経済学系の本であるが、残念ながらタイトルを忘れてしまった。 

 おそらく始発のベルゲンからこの列車に乗って、ミュルダールまで1時間、ずっと読書に励んでいたものと見える。ワタクシが乗り込んだところで、彼の読書はまだ100ページ弱。「そろそろ飽きる頃だな」というあたりである。

 もう1名は、語学の教科書と思われる小冊子と格闘中。100ページほどのごく薄い1冊だが、重要な情報がギュッと詰まった類いのヤツである。今井君ももしこれから参考書を書くなら、どこへでも携帯しやすいああいう種類の小冊子を書きたいと願っている。

 してみるとこの2名は、オスロの大学に通う同級生でもあろうか。夏休みでベルゲンの実家に帰省。そろそろ本格的な秋がせまった8月20日、「そろそろオスロに戻るか?」と2人で苦笑しあって、今この列車に乗っているんじゃあるまいか。

 新学期にはまず、語学の試験もあるだろう。だから懸命に小冊子に取り組んでいる。経済学のレポートもあるだろう。おそらくあれは課題図書であって、キチンと読んでギュッと内容のあるレポートを書かなきゃいかん。
駅カフェ
(列車には、マコトにオシャレなカフェがついている)

 特に感心なのは、ハードカバーに取り組んでいるほうの若者である。100ページ目を過ぎ、200ページ目を過ぎ、列車が下り勾配に差し掛かっても、一向に飽きる様子がない。

 かつての今井君はたいへん怠惰な学生時代を送ったので、課題図書を読破したという前提のレポートも、読破どころか「目次だけ」「写真と図表とグラフだけ」「雰囲気を味わっただけ」の状況で、もうレポートを書きはじめた。

 それでいて「読破した」「通読した」というヒトビトよりずっと評価の高いレポートを書けていたあたりが、今井君の悲しむべき器用貧乏であって、学部ではそれで通用しても、学部から先の世界では、決してそんなのは通用しない。一目で見破られて「読んでませんね?」と苦笑されて終わりだった。

 それに対して諸君、通路の向こう側の青年は、マコトに誠実な男子である。語学書に取り組んでいる方はもうとっくに飽きてしまって、ちらちらスマホをチュックするとか、窓の景色を眺めるとか、いろいろ何とかゴマかそうとするのであるが、読書青年はひたすらページをめくり続ける。

 ミュルダールを出たのが、16時半。オスロまで5時間の旅であるから、到着するのは21時半だ。18時には窓の外もすっかり暗くなって、その頃には語学書男子はもう完全集中力を失った様子である。

 ハードカバー君が感心なのは、親友と言うか、ライバルと言うか、もしかしたら弟かもしれないが、集中力をなくした彼の様子を見て、「どうだ、メシでも食いにいかないか?」と声をかけたことである。おお、かっけー。すげーかっけーじゃないか。友人どうしは、こうでなくちゃいかん。
列車
(夜9時過ぎ、列車は無事にオスロに到着)

 思えば、今井君の学部時代も、同じような行動は連日やっていたのである。「メシ食いにいくか?」「どうだい、蕎麦屋でも?」「コーヒー、飲みにいくか?」「ビール、いっちゃう?」。おお、何とも懐かしい世界だ。

 問題は、その前の「課題図書を読破」「語学書を完習」、その類いを一切度外視して、蕎麦やメシやコーヒーだけに日々を過していたこと。学部の4年なんか、そんなことにウツツをヌカしていればあっという間に過ぎ去るのだ。

 それに対して、2人のノルウェー青年はどうだ。「おお、いいね。メシに行ってこよう」と衆議一決するやいなや、たちまち立ち上がって列車内のカフェへ。そのカフェのオシャレぶりも、さすがに北欧の高福祉国家なのであるが、30分経過して帰ってくると、すぐさま課題図書を開いて読書を続けたのである。

 そして諸君、500ページを軽く超えるほどのその本を見事に読み終えたのは、終点オスロに到着する20分ほど前。本人も感激したのか、最後にパタンと本を閉じる音に、彼の深い満足感が籠っていたのである。

 こうしてワタクシも、丸2日にわたるフィヨルド探険を完了、オスロに帰ってきた。深夜から早朝のオスロは、超♡高福祉国家に似合わず、路上生活をする人々の姿が目立ち、酔漢の雄叫びやら雌叫びやらが渦巻いて、治安はあまり良好ではないが、とりあえず今井は、無事に「グランドホテル」に帰還したのである。

1E(Cd) Alban Berg:SCHUBERT/STRING QUARTETS 12 & 15
2E(Cd) Baumann:MOZART/THE 4 HORN CONCERTOS
3E(Cd) Solti & Wiener:MOZART/GROßE MESSE
6D(DMv) STATE OF PLAY
total m146 y1793 d21741