Sun 170924 ご苦労ね/福祉社会の応分の負担/妖精の働き方改革(晩夏フィヨルド紀行18) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sun 170924 ご苦労ね/福祉社会の応分の負担/妖精の働き方改革(晩夏フィヨルド紀行18)

 前日は朝6時にオスロのホテルを出て、冷たい雨に震えながら、夜10時近くにベルゲンに到着。翌日は朝6時にベルゲンのホテルを出て、夜10時にオスロのホテルに帰還。昨日とほぼ同じルートをたどって、ごく普通に逆戻りするのである。

「ご苦労ね」。確かにご苦労もいいところであって、ごく普通の消極的な人が見れば、「そんな所に言って何が面白いの?」「何の役に立つの?」「くだらん、ホントにくだらん」というカサカサした感想しかないんじゃないか。

 そりゃワタクシ自身だって、昨日が16時間、今日も16時間、バスや船や鉄道を駆使して綱渡りの旅を続け、結局モトいた場所に帰るだけのことなら、オスロのホテルで2日、のんべんだらりと過していた方が遥かに楽だっただろうと感じるのである。
5NOK
(5クローネ貨幣。「ご苦労ね」と声をかけてあげたくなる)

 しかしもしそんなことを言い出せば、そもそも東京を離れる必要だってないじゃないか。オスロだのノルウェーだの、そんな場所に行かなくたって、東京でテレビの旅番組を見て満足していれば済む話である。

 ついでに言うなら、もしもそんなことをホンキで言い出せば、そもそも生まれてくる必要だってなかったのだ。生まれてなんかこなくたって、誰も困らなかったし、自分だって困らなかった。

「恥の多い人生を生きて、みんなに迷惑をかけるぐらいなら、生まれてこなきゃよかった」。昭和日本の純文学の主人公は、東京の片隅の汚いアパートの一室で、ずっとそんな愚痴を呟き続ける主人公に席巻されていた。

 わざわざこの世の中に生まれてきて、そんな愚痴を言い続けるぐらいなら、どんなに徒労に終わってもいい、出発した同じ場所に、放浪の果てに戻ってくるだけで十分に楽しいじゃないか。

 中南米を2週間旅して、結局は東京に帰るだけ。16時間の旅を2日続けて、結局はオスロのホテルに帰るだけ。そんな旅を続ける方が、非難と批判と嘲笑と冷笑しか知らない人生より、数百倍も数千倍も楽しいはずである。
NOK
(上から、50クローネ・100クローネ・200クローネ紙幣。さすが北欧、紙幣のデザインもオシャレである)

 以上が、強がりの見本、ないし強がりのお手本である。昨日がオスロ ☞ミュルダール ☞ フラム ☞ グドヴァンゲン ☞ ヴォス ☞ ベルゲンの旅。今日がベルゲン ☞ フラム ☞ ミュルダール ☞ オスロの旅。同じ旅程を正反対に回る徒労感は、それなりに厳しいものがある。

 ベルゲンからフラムの船旅が、5時間。ソグネ・フィヨルドの絶景も、5時間も見続ければさすがに疲労する。フラムでお船を降りて、何よりもまず昼メシで心身を充実させたくなった。

 フラムの町には、昨日と同じ清冽な滝が、3方の断崖から流れつづけている。気温がグッと下がって清冽さに磨きがかかり、滝からフィヨルドの海に向かって流れる急流は、ほぼカンペキなペパーミント色。顔を洗うにも、少し冷たすぎるんじゃあるまいか。
清流
(断崖を流れ落ちた水は、キレイなペパーミント色をしている)

 昼メシは、昨日のビアレストランでもよかったが、「ちょっと値段が高すぎんじゃね?」な感じ。諸君、高福祉の北欧は、某国の老舗政党お得意の「応分の負担をお願いする」がギュッと効き目を発揮して、観光客に求める「応分の負担」は、それなりに我がフトコロに痛いのである。

 ちょっと豪華なランチを楽しめば、300クローネはカンタンに消えていく。1クローネ=15円だから、昨日の昼メシだけで、4500円。「地ビール5種飲み比べセット」を加えれば、合計500クローネ、7500円。いやはや、日本のランチとは、0が1つ違うのである。

 そこで諸君、若干フトコロが心配になってきた今井君は、今日は別の店のランチを選ぶことにした。地味なカフェレストランで、ソーセージとピザと生ビール1杯。普段のワタクシから考えて、こりゃすいぶん控えめだ。

 しかしそれでもやっぱり300クローネ、4500円。「高福祉のために応分の負担をお願いする」なんてのは、ごく控えめなランチでも、こんなにオカネを払わなきゃいけない結果になってしまう。

 何だかつまらなくなったワタクシは、結局昨日と同じビアレストランにも入って、1階のカウンターで生ビールを注文した。たった1杯なのに、ここでもまた100クローネ、1500円。日本のテレビや新聞が喧伝する北欧型の福祉社会は、ビックリするほどオカネがかかるようである。
ソーセージ
(カフェレストランで、ソーセージにビールにピザ。高福祉社会では、それだけで高額のランチになっちゃう)

「トイレのチップもクレジット払い」というほどのパーフェクトなカード社会であるが、船の売店やバーカウンターでは、今もなお現金決済。「カードは使えません」と厳しく拒絶される。

 おかげで、どんどんお札やら小銭やらが貯まっていく。空港の両替所やキャッシュディスペンサーでは、200クローネのお魚紙幣と、500クローネのお姫様紙幣しか手に入らなかったから、50クローネのオジサマ紙幣や、100クローネのお船の紙幣が、次々と手に入って面白い。

 貨幣も、捨てたものじゃないのである。船でサンドイッチとビールを買って、お釣りで「5クローネ」の穴あき貨幣を手にした時、「こりゃどうしても『5クローネ』と『ご苦労ね』について、長々とブログに書かなきゃいけないな」と決意した。

 もちろん、それがどんなにツマラン決意であるかは、サトイモ入道も熟知しているつもりだ。世の中のブログは、もっともっと高尚で役立つ情報を、次から次へと読者に提供しているだろうし、SNSなんかで「ご苦労ね」などと書き込めば、そりゃ炎上の危機にさらされるんじゃあるまいか。

 でも、それでもいい。どうしても「ご苦労ね」と書き込まなきゃ、サトイモ君はストレスが亢進して、人生がちっとも楽しくなくなる。オジサマが楽しそうにしている時に、厳しく批判なんかしているようじゃ、若者の将来が思いやられるのである。
古民家
(小民家風のビアレストラン)

 さてフラムからは鉄道で、一気にミュルダールまで上がる。昨日と正反対だから、海抜0メートルのフラムから、海抜870メートルの氷河地帯まで、1時間足らずでグイグイ登っていくのである。

 この場合、ミュルダールからの下り列車では進行方向左が絶景、フラムの登坂列車では進行方向右側が絶景。反対の車窓でもそれなりに絶景は楽しめるが、それでもやっぱり不公平感というのは不幸なものである。ワタクシのアドバイスに従って、出来るかぎり不公平感を排除するように努めたまえ。

 フラム発車から30分、列車は激烈な滝の前で5分間停車する。下り列車も上り列車も、ここで車内の全乗客が降りて、懸命に写真撮影に励むことを前提としている。

 降りない客も数人存在するが、それはあくまでガンコな例外。普通の乗客は必ずここで列車から出て滝に駆け寄り、手首と指の筋肉の許すかぎり、滝の写真を撮りまくり、SNS映えする自撮りに励むことになっている。
滝
(ミュルダール付近の滝。滝の妖精が美しく激しい舞を舞う)

 ところが諸君、驚くじゃないか、その時遅く&かの時早く、滝の周囲のスピーカーから大音量の音楽が流れはじめた。「何だ?何だ?何があったんだ?」であるが、これは鉄道会社の粋なハカライ。音楽に乗せて、滝のすぐそばで女子ダンサーが激しい舞を舞いはじめた。

「あれは、滝の妖精?」と、ホントは感動してお目目をこすらなければならない。天使が舞い降りたか、はたまた滝の妖精か。滝子?滝美?滝代?滝恵? タキジェンヌ?タキポン?タキッピー?

 人々の視線を一身に集め、白い薄物の衣装をまとったハダシのタキジェンヌは、大音量の音楽にあわせて、約3分の舞を見事に舞い続ける。「そんなに近づいちゃ、滝に飲まれちゃうよ」と心配になるぐらい滝に近づくのだが、何しろ彼女は滝の妖精だ。そんな心配は一切無用なのである。

 時給はナンボ? この寒さにあんな薄物の衣装で、風邪引かないかい? 働き方を少し考えた方がよくないかい? 滝の妖精も働き方改革をチャンとやらないと、もしあんな重労働を続けて100クローネ=1500円の生ビールも飲めなかったら、妖精の立候補者がいなくなっちゃうんじゃないか。

 上り下りの列車の本数を考えれば、妖精さんの1日のステージ回数は20回ぐらいか。1ステージ3分として、20ステージで60分。しかしこの寒さを考えれば、それなりの重労働だ。もしもボクが妖精サンの彼氏なら、「無理すんなよ♡」と熱く声をかけてあげるところだ。

 ま、その種のツマランことをつくづく考えながら、今井君は登山列車の終点ミュルダールに到着した。ホームに降りつつ、「今ごろ妖精は熱いミルク紅茶でも飲みながら、愚痴の1つも言ってるんじゃないか」、その様子が少なからず心配になるのであった。

1E(Cd) Baumann:MOZART/THE 4 HORN CONCERTOS
2E(Cd) Akiko Suwanai:SOUVENIR
3E(Cd) Alban Berg:BRAHMS/KLARINETTENQUINTETT & STREICHQUINTETT
13A(β) 筑摩世界文学大系1:古代オリエント集
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