Fri 170721 働くオバサマ/働くジーチャン/怠けるキウィ(キューバ&メキシコ探険記24) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 170721 働くオバサマ/働くジーチャン/怠けるキウィ(キューバ&メキシコ探険記24)

 1960年代から1980年代初期にかけて、NHK教育テレビに「はたらくおじさん」と言ふ番組があった。そのむかし、小学校の教室にはまるで宝物のようにテレビが1台ずつ設置されていて、1日に1回は「テレビで勉強」という時間があったものである。

「テレビで勉強が可能かどうか」。考えてみればその可否は昭和の中期から激しい議論のテーマであった。理科や社会や道徳に、NHKの番組がどんどん進出して、20分の番組をみんなで見た後、先生が今見た番組について解説、その後クラスで討論を行った。

 言わば、我々が取り組んできた「映像授業」の草分けであって、今井君世代はコドモの頃に映像授業の原初形態を体験し、オトナになってから映像授業を作る側に移行したのである。

「はたらくおじさん」は、社会科の番組。対象は小学2年生で、働くおじさんたちが社会の中でどんな活躍をしているか、探険好きな「タンちゃん」というコドモのキャラクターとイヌの「ペロくん」が、探険タッチで世の中の実際を描いていった。

「マクロで大きく描いてから、ググッとミクロでおじさんに迫る」という構成も、なかなか見事。気球に乗ったタンちゃんとペロ君が、望遠鏡で町を眺めるうちに「あれれ、あのおじさん何してるんだろう?」と興味をいだき、地上に降りておじさんの仕事をミクロに見つめていくという構成であった。
働くおばさま1
(キューバ、ハバナの縫製工場で働くオバサマたち。自信に漲る表情がマコトにかっこいい 1)

 番組開始当初は「おじさん」に限定していたが、むかしむかしの日本だって、もちろん働いているのは「おじさん」ばかりではない。おじさんばかりじゃ差別になる。

「おばさん」も「おねーさん」も「おにーさん」も働いている。「じーさん」も山へ柴刈りに出かけているし、「ばーさん」だって川で洗濯しながらドンブラコ、大っきなモモを発見することだってある。

 そこでやがて番組名は「みんなのしごと」や「はたらくひとたち」に変わっていく。番組名の進化に伴い、タンちゃんとペロ君の乗り物は気球からヘリコプターに変わり、1992年まで継続した。

 やがてタンちゃんは卒業、主人公は「ケンちゃん」にかわる。イヌの「ペロ君」も「フムフム」へ。マコトに21世紀的なネーミングになったあたりで終了になった。バブルの崩壊と、はたらくおじさんの退場は、まさに東西冷戦の終結、ベルリンの壁の崩壊と、軌を一にしていたのである。

 同世代のヒトビトに聞くと、やっぱりみんな番組の主題歌まで覚えている。「はたらくおじさん、はたらくおじさん、こんにちーはー」。今井君お馴染み、「カラオケでアカペラ」という離れワザを、まさか「はたらくおじさん」でやっているヒトビトが存在するとは、NHKの人だってきっと想像もつかないだろう。
働くおばさま2
(キューバ、ハバナの縫製工場で働くオバサマたち。自信に漲る表情がマコトにかっこいい 2)

 さらにその番組の前身に「良太の村」というのがあった。「はしれー、はしれー、りょうたー」「きっと友だち、待っている!!」という主題歌で始まる番組であるが。小学3年の主人公♡良太は、毎回冒頭で小6のお姉ちゃんに「ここは西八王子、東京の西の端っこ」とシチュエーションを確認される。

 新しく鉄道が来る。田んぼを売らなきゃいけない。稲刈りの直前なのに、台風が近づく。村の男たち総出で川沿いに土嚢を積み上げなきゃいけない。開発が進む東京近郊の農村の悩みが次から次へと描かれ、良太の悩みにもマコトに深いものがあった。

 こうして諸君、幼い今井君の頭脳には、NHK教育テレビの影響がギュッと深く食い込んだのである。ヒコーキからキューバの農村を眺めただけで、「はしれ、はしれ、りょうたー」の歌声が蘇り、今ハバナ近郊でどんな悩みが渦巻いているか、20世紀の東京近郊と相似形の苦悩を如実に感じるのであった。

 同様に諸君、ハバナの町を散策していても、いろんな「はたらくおじさま」「はたらくおばさま」の苦労を、教育番組のナレーターよろしく日本のコドモたちに伝えたくなってしまうのである。
バーカウンター
(ハバナ、ヘミングウェイの定宿「ホテル アンボスムンドス」のバーで。こういう場所でコマメな水分補給に励んだ)

 ハバナ・オビスポ通りでは、まず縫製工場のオバサマたちに感激した。今日の写真の2枚目と3枚目をじっくりとご覧あれ。オビスポ通りと言えば、ハバナ第1の繁華街。そのど真ん中に縫製工場があって、キューバのオバサマたちが朝一番から縫製作業に励んでいらっしゃる。

 朝一番に日本のクマ蔵がやったことは、フルーツとロブスターをたらふく胃袋に送り込む作業。パパイヤとマンゴーとメロンとロブスター、マコトに珍妙な組み合わせだが、それをシャンペンで融合させて、今や腹の中は「シュワシュワなロブスター」という気色悪い混合物でいっぱいだ。

 それに対して諸君、オバサマたちは朝から自信タップリの表情。ピアニストにとってのピアノ、バイオリニストにとってのバイオリン、それに勝るとも劣らぬ一体感で、古色蒼然たる足踏みミシンを操作しながら、次から次へと美しい衣装を仕上げていく。

 見つめる今井君は、もう感激で動くことができない。オバサマたちは、間違いなくこの社会主義国の超エリートなのである。外国人観光客が見守る中で、好奇の視線なんか完全に無視してペダルを踏み、さまざまな糸を操り、その縫製作業に遅滞なんか入り込む余地は全くない。

 諸君、学ぶべきはまさにこのオバサマたちの視線であるよ。例えば入試本番の会場で「はじめ!!」の声がかかったとする。その時に諸君は、こんな落ち着いた態度で試験問題に取り組めるだろうか。

「ああ、いつもの通りね」
「あわてることなんか1つもない」
「なあんだ、この程度の話なら、何も困らない」
「すぐ、できちゃいますよ」

 観光客の熱い視線を軽くいなしつつ、超エリートな働くオバサマたちは、次から次へと軽い手さばきで仕事をこなしていくのであった。
ねこ
(ハバナの路上に佇むネコ。たくさんのネコと顔見知りになった)

 エリートなオバサマたちの仕事場から、徒歩で3分ほど、古い銀行の建物の前には「はたらくジーチャン」を発見した。ジーチャンのお仕事は「クッキー売り」である。

 時計はもう正午に近い。プラスチックの箱の中のクッキーは、もうほとんど売れてしまっている。黒いサングラス、麦わらの小さな帽子、「何があっても♡怒ることなんかありえない」という優しい笑顔。通りかかった日本人旅行者に、ハバナのコドモたちに対するのと同じ優しさで笑いかけてくれた。

「甘いクッキーはどうだい?」と言うかわりに、ジーチャンはプラスチックのケースを軽金属のハサミで「コンコン!!」と2回たたいてみせるのである。

「コンコン!!」「どうだい、クッキー?」というわけであるが、そんなに優しくニッコリされたら、どんな意地悪な人でも、自分の優しいジーチャンを思い出して、思わず「1つ、いくら?」と聞いちゃうじゃないか。

 きっとジーチャンは、コドモたちを相手に「キューバの昔ばなし」や「ハバナのスーパーマン」の話を語りたいのだ。コドモたちにクッキーを1個ずつ配って、紙芝居「サトイモ太郎」「横綱キウィ富士」「キューバの英雄♡クマ五郎」みたいなのを話して聞かせたいに違いない。
じーちゃん
(クッキーを売ってはたらくジーチャン。あと数枚で今日の仕事はオシマイだ)

 しかし諸君、まだキューバのコドモたちは学校だ。算数やスペイン語や、理科や社会主義の勉強を続けている。キューバ版「はたらくおじさん」をクラスで視聴中かもしれないし、「ホセの村」「カルメンの村」を見ているかもしれない。「はしれ、はしれ、ホーセー!!」と合唱しているかもしれないじゃないか。

 だから、はたらくハバナのジーチャンは、満面の笑顔でプラスチックの箱を「コンコン!!」とたたき、残り少なくなったクッキーを一枚、日本のサトイモに売ってくれた。

 一枚 ☞ 1ペソだったかね。諸君、「高い!!」とか、ツマランことを言うなかれ。働くジーチャンの満面の笑顔を見られただけで、それでもう十分じゃないか。

 炎暑のハバナの陽光が降り注ぐ中で、ホントはクッキーよりサイダーかコーラかビールがよかったけれども、それより何より働くジーチャンの笑顔。それに勝るものは、滅多なことでは考えられないじゃないか。

1E(Cd) Harbie Hancock:MAIDEN VOYAGE
2E(Cd) Miles Davis:KIND OF BLUE
3E(Cd) Weather Report:HEAVY WEATHER
4E(Cd) Sonny Clark:COOL STRUTTIN’
5E(Cd) Kenny Dorham:QUIET KENNY
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