Sat 170610 オビスポ通り/背番号4の記憶/二重のチップ(キューバ&メキシコ探険記21) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sat 170610 オビスポ通り/背番号4の記憶/二重のチップ(キューバ&メキシコ探険記21)

 ハバナの街が、思ったほど物騒でも時代遅れでもないことにホッとひと安心して、4月16日のワタクシは、予約したホテルにとりあえずチェックインした。「イベロスター・パルケ・セントラル」。ハバナのど真ん中に偉容を誇る老舗ホテルである。

 しかし諸君、フロントのオバサマがいきなり表情を歪めた。
「アナタの予約は『新館』になってます」
「ここは『本館』です。新館まで移動していただきます」
そうおっしゃるのである。

 おやおや、それは残念だ。本館ロビーは、由緒正しいコロニアルな雰囲気。ロビーに併設されたバーも、3階まで吹き抜けの天井も、行き交う人々の穏やかな表情も、すべて「おお、いいじゃないか」だったのに、地下道をくぐって新館まで行かなきゃいけない。

 新館の方は、①「観光客の急増に備えて急いでこしらえたビジネスホテル風」ないしは ②「流行っていなかった他社のビジネスホテルを買収して、ちょっと高級っぽく改修した感じ」。歴史とか伝統とか、その種の味わいは丸っきり感じられない。

 ま、それでもバーはあり、レストランもあり、屋上にはプールもある。フロントにズラリと並んだ男子従業員もたいへん親切であって、ハバナの街の地図にいろいろ書き込みながら「ここにも行きなさい」「あそこにも行きなさい」「ここは絶対Mustです」と満面の笑顔で教えてくれた。

 ワタクシの部屋は、9階。エレベーターの機能に若干の不便を感じたが、まあそのぐらいはガマンしようじゃないか。デスクに椅子がついていなくても、ブログ更新ぐらいなら、ベッドに腰掛けてでも出来る。短いハバナ滞在を満喫するには、とりあえず80点ぐらいつけてあげていい。

 カーテンを開けて窓からの景色を眺めるに、これまた80点。高層ビルのあまり存在しないハバナで、何しろ9階なんだから、見晴らしが悪いはずはない。しかし旧市街とは反対側。海は見えない。近くにはハバナ港があって、豪華客船も停泊するらしいのだが、港も湾もここからの視界に入らない。
オビスポ通り
(夜のハバナ、オビスポ通り)

 窓からの景色に満足できなかったので、ワタクシは早速ハバナ随一の繁華街「オビスポ通り」に繰り出し、とりあえずハバナの第一夜を満喫することにした。

「オビスポ」という名で最初に思い出したのが、読売ジャイアンツでむかしむかし大活躍したオビスポ投手である。2017年のジャイアンツのテイタラクを眺めているとマコトに懐かしいが、2009年、ジャイアンツ優勝に貢献したのが、ドミニカ出身、元は内野手のオビスポだった。

 ワタクシは、内野手出身のピッチャーが大好きだ。高校野球でも、背番号5とか6とか4とか、いかにも内野手っぽい選手がマウンドに上がり、明らかに投手専門ではないが、高い身体能力を生かし、荒れダマを武器に、ワイルドな投球を繰り広げることがあるじゃないか。

 どんどん話がそれていくが、何と言ってもワタクシの記憶に残っているのが、2000年、東海大浦安高校の浜名投手である。諸君、背番号4だ。本来セカンドを守っている選手が、エースのケガでやむなく甲子園のマウンドに上がった。そして「あれよ&あれよ」と勝ち上がる。

  2回戦  2−1 延岡学園
  3回戦  6−2 日大豊山
  準々決勝 2−1 横浜
  準決勝  10−7 育英

 こうして急造エース ☞ 背番号4が率いるチームは、ついに決勝に進出。対戦したのは、智弁和歌山である。2000年の智弁和歌山は、猛打が爆発してまさに最強のチームであった。
バンド
(オビスポ通りのレストラン。バンドの盛り上がりは最高潮だ)

 智弁和歌山がひと夏で塗り替えた甲子園記録は、6つ。
① 通算最高打率(.412)
② 通算最多本塁打 (11本)
③ 通算最多塁打(157塁打)
④ 通算最多安打(100)
⑤ 決勝戦最多安打(20)
⑥決勝戦 最多本塁打(3)
この強烈なチームに、急造エース背番号4が立ち向かった。

 試合は壮絶な打撃戦となった。炎天下、浜名投手がサイドハンドから投げ込むボールは、ピンポン球みたいに軽く外野に運ばれる。20安打、3ホームラン。結果は11—6で智弁和歌山の勝利。背番号4の健闘むなしく、惜しくも準優勝に終わった。

 2000年と言えば、今井君としてもいろいろ面白くないことが多くて、「佐々木ゼミ(仮名)には、もう3年か4年で見切りをつけなきゃな」と思いはじめていた頃である。

 本来セカンドを守っているはずの専門外のピッチャーが、打たれても打たれても、丁寧に気合いを込めて投げる姿に、熱い涙が抑えきれなかった。
ストリート
(カフェの前で盛り上がるバンド。女の子も一緒に盛り上がる)

 一方のオビスポどん、大活躍は2009年のことである。彼の本職は、ショート。高校野球なら背番号6であって、現在日本のプロ野球で大活躍中の今宮健太と同じ立場である。今宮選手が甲子園で背番号6をつけてマウンドに上がり、大分・明豊をベスト8に導いたのも2009年のことだった。

 オビスポどんは、2009年9月、セリーグ優勝を決めた試合で先発。中日とのクライマックスシリーズでも活躍。日ハムとの日本シリーズでも、第3戦の勝利投手になっている。「いかにも内野手」であって、ぎこちないがパワフルでダイナミックな投球が、ワタクシは大好きだった。

 こうして諸君、どこまでもどこまでも話がそれて、やっとのことでキューバ・ハバナのオビスポ通りに舞い戻ってきた。このへんが文章の専門家ではない今井ブログの醍醐味である。大いに楽しんでくれたまえ。

 専門家ではない人の方が、窮屈きわまりない専門家よりずっと魅惑的で面白いという実例はいくらでもあって、とかく専門家と言ふものは、その専門性にがんじがらめになって、ダイナミックさ&パワフルさを喪失しがちなものである。
日本食
(ハバナ、オビスポ通りの「日本食堂」。うーん、イマイチだ)

 さて、オビスポ通りであるが、そのワイルドでパワフルな魅力を語るのに、銀座や5番街やシャンゼリゼでは、比較の対象にならない。狭い街路、下水から立ちのぼる悪臭、そこいら中に泥水がたまった舗道、そういうものを気にしていたら、ハバナの魅力は理解できない。

 泥水をはね返しながら、バイクやら軽トラやらが絶えず行き交う喧噪の街は、マラケシュ旧市街やスークを思わせるものがある。ただしこちらは常に陽気な日光を浴びて、暗い迷宮の雰囲気は一切感じられない。

 夕暮れが近づいて、「とりあえずメシ♡」と考える。オビスポ通りからホンの少し脇道にそれたあたりに「日本食堂」の看板を見つけ、恐いもの見たさもあって、店の玄関まで行ってみた。

 店の前の看板に写真メニューが貼り付けてあって、親子丼、カツ丼、焼き鳥、トンカツ定食、そば&うどんと、要するに何でも揃う。いかにも現地のベテラン日系人っぽいオバサマと目が合ったけれども、今井の食指が動かない。イマイチというか、「ナンチャッテ」というか、無理してこの店にしなくてよさそうだ。

 最終的に選んだのは、とりあえずオビスポ通りで一番目立っていたキューバ料理屋である。すでにバンドの演奏も始まっていて、陽気なラテン系の音楽に誘われ、窓際のテーブルを占領することにした。

 注文したのは、まずとにかく何が何でもビール。あとは「魚介のスープ」と「牛ステーキ」。キューバではロブスターがすげー安く食べられて、味もダイナミックで絶品であることを、まだ認識していなかったのである。
レストラン
(ハバナの第一夜は、こんなお店を選んでみた)

 ウェイターは、ちょっと変わったオヤジである。脂肪が店のフロアにタラーリ&タラタラ滴り落ちそうになるほど太っていて、こちらの注文が理解できたのかどうかさえ、よく分からない。「忘れたのか?」と思って確認すると、決して忘れてはいなくて、忘れた頃に料理がやっと運ばれてくる。

 そうかと思えば、外の街路を通りかかったオジサマと、長々と立ち話を始める。冷たいビールが飲みたくて、立ち話が終わるのをジリジリ待っているのだが、一向に終わりそうにない。別のウェイターを呼んでみたけれども、担当のテーブル以外の注文は、なかなか聞きに来てくれない。

 苛立っているところに、男女カップルのダンサーが入ってきた。バンドの音楽もダンスミュージックに変わって、50歳代と思われるダンサー2名が、狭い店の通路を激しく踊りながら何度でも往復する。そのせいで、ますますビールを頼みにくくなる。

 運ばれてきた「ステーキ」は、いやはやマコトに寂しいステーキであった。小学校の給食で「焼き肉」という名で出た記憶のある類い。昭和のユースホステルの「焼き肉」を思い起こさせる類い。こんなに薄くてみすぼらしいのに、ナイフも立たなきゃ、歯も立たない。

 やがてバンドの演奏も終わり、50歳代カップルのダンスも終わった。終わるやいないや、チップの徴収が始まる。チップについては「有無を言わさない」という激烈で容赦のない勢いであって、あの要求を拒絶することのできる人物は、なかなかこの世には存在しないだろう。

 バンドのメンバーにチップを払って落ち着き払っていたところ、今度はダンサー女子がニコヤカにテーブルにやってきた。「さっきのは、バンドへのチップ」「ダンサーへのチップは、別料金」と、真っ赤な口を半開きにして激しくニッコリするのである。

 キューバに着いたばかりで、テキトーな小銭はナシ。紙幣しか持っていない。しかし諸君、こりゃどうしようもない。口の中に噛み切れないウシの肉をモゴモゴさせながら、5ペソのお札が合計2枚、あえなくチップのカゴの中に消えてしまった。

1E(Cd) Bonynge:OFFENBACH/LES CONTES D’HOFFMANN 2/2
2E(Cd) Herb Alpert’s Tijuana Brass: WHIPPED CREAM & OTHER DELIGHTS
3E(Cd) Karajan&Berlin:HOLST/THE PLANETS
4E(Rc) Amadeus String Quartet:SCHUBERT/DEATH AND THE MAIDEN
5E(Cd) Akiko Suwanai:DVOŘÁK, JANÁĈEK, and BRAHMS
total m50 y1070 d21028