Thu 170518 山菜の盛り合わせ/「鮎のうた」のこと/背ごし/二本棒(京都 鮎のうた2) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 170518 山菜の盛り合わせ/「鮎のうた」のこと/背ごし/二本棒(京都 鮎のうた2)

 創業四百有余年、鮎の店「平野屋」の茅葺き屋根は、京都あだし野、愛宕神社の鳥居の脇にすぐに見つかった(スミマセン、昨日の続きです)。見つかるのも当たり前、昨年11月、京都の紅葉を満喫する旅の途中で、MKタクシーの運転手さんに紹介してもらったばかりなのである。

 あの時は、あだし野のオバーチャンに柚子の実を5個ほど分けてもらった。「庭の樹ににナンボでも柚子が成るので、1個50円で差し上げます」とおっしゃるのである。

「1個50円」じゃ「差し上げます」と言うのはおかしいが、まあ難しいことは言いっこなし。旅の途中で貯まった小銭を、バーチャンの手のひらに全て託して、いいカホリの柚子を袋に入れてもらった。

「あのバーチャンはいないかな?」と、懐かしい柚子の樹の周囲に視線をめぐらしたけれども、季節は初夏、花菖蒲からアジサイに主役が交代する時期であって、柚子の実をもぐにはまだ半年も早い。季節外れもいいところで、懐かしいバーチャンの気配は全く感じられないのだった。
看板娘
(京都「嵯峨釈迦堂」こと清凉寺の名物 ☞ あぶり餅の看板娘。詳細は明日)

 そこで、遠慮なく「平野屋」に闖入。予約の時間は12時半、時計はまだ11時半。1時間も違えば追い返されても文句は言えないところだが、諸君、① 今井君のド迫力 ② お店の人の限りない優しさ、以上の2大要因がマコトに見事に働いて、11時半の今井君は難なく入店を許された。

 店の前では、旅のオバサマが1人でこの店の名物「志んこ団子」を賞味していらっしゃる。400年前から「愛宕神社参り」のヒトビトに平野屋が供しつづけている、世界で最も由緒正しいお団子のうちの1つである。

 あんまり由緒正しいから、白状しよう、超田舎者の今井君は、もう緊張の頂点である。靴を脱ぐ足は震え、「段差がありますから注意してください」と言われただけで、マコトにブザマに蹴つまづきそうになる。

 もしかして案内してくれている女子は、「若女将」と言うべき由緒正しき存在なんじゃないか。そう思いついただけで蹴つまづきそうになる。

 だって諸君、この店の女将は14代目、もしいま目の前にいるのが若女将なら15代目。おやおや、足利幕府でも徳川幕府でも、15代となると滅亡の直前だ。こりゃたいへんだ、そう思うだけで、今井君はマコトにブザマに蹴つまづき続ける。
看板
(嵐山にて。清凉寺の「あぶり餅」はかなりの名物らしい)

 テーブル席を予約しておいたので、ダイヤモンドみたいに硬い肉体を押し曲げて、正座するハメにはならないで済んだ。掘りごたつ式のテーブルで、障子を開ければ美しいお庭の眺めも楽しめる。

 お庭には、黒い大っきな凶暴なハチさんがブンブン文句を言いながら飛び回っている。気の弱い人と虫ギライな人は、障子は閉め切っておいた方が無難かもしれない。「鮎を食べにきてハチに刺された」。そんなんじゃ何だか悲しすぎるじゃないか。

 まずお願いしたのが、① 瓶ビール ② 熱くもなくヌルくもない燗の日本酒。まず①について。「イチについて」とくれば、一般に次は「ヨーイ!!」「ドン、ないしスタート!!」であるが、まあマジメに書くとすれば、由緒正しいお店ほど、ビールは「生」じゃなくて「瓶」がいい。

 その「瓶」も、キリンのラガーか、サッポロの赤い星のついたヤツ。そういう言語道断に古くさいビールがオトナの常識であって、「キレ」だの「コク」だのメンドーなことをツベコベほざいた瞬間、厳しい京都のオトナの世界からは「片手でポイ!!」とゴミのように排除される。

 こうして諸君、ワタクシの前には、キリンラガーの瓶が1本と、おそらく「月桂冠」の燗酒が運ばれてきた。運んできたのは「もしかして高島礼子さんですか?」と尋ねたくなるような美しいオカタ。15代目である可能性が高いが、まさかいきなり真っ向から尋ねるわけにもいかない。
清凉寺
(嵯峨釈迦堂こと清凉寺。結局「名物 あぶり餅」は買わなかった。詳細は明日)

 とりあえず、前菜の山菜を賞味する。フキ、ワラビ、木の芽味噌。うげげ、こりゃ上品だ。今井君のふるさと秋田では、大皿に山盛りのワラビに大量のカツオブシをぶっかけ、濃い口の醤油を好きなだけネロネロやって、大口を開けてワラビの山を押し込んでいた。

「それじゃオマエ、まるでツキノワクマじゃないか」であるが、まさにその通り。この時期の山菜採りやタケノコ採り、秋のキノコ採りも同じことで、要するにクマさんたちとどっちが早いか競争するのである。

 秋田ではこの時期、ワラビの他に「アイコ」や「ミズ」も山盛りのテンコ盛りになった。「ミズ」は発音も難しい。このワタクシが「秋田方言♡発音指導」として、NHK朝の連ドラ並みに指導してあげてもいいが、まあ滅多な人はこの難解な発音についていけないと思う。

「ミズ」のうち「ミ」は、「ミ」と「ム」の中間音。後半の「ズ」も、「ジ」と「ズ」の中間音。中間音と中間音の間に、聞こえるか聞こえないかぐらいの不思議な「ん」が挿入される。一般の人の耳には「ミンジ」であり「ムンズ」であるのだが、残念ながらそんな単純は発声ではないのだ。

 NHK朝の連ドラの話になったついでに、この小旅行記のサブタイトル「鮎のうた」についても、若干の釈明をしておきたい。「なになに、鮎のうた?」「里芋みたいなクマのくせに、何を可愛いことをホザイてんだ?」とか難しいことを言う人も多くて、とかくこの世は生きにくい。
松尾大社
(お酒の神様、松尾大社。2本の徳利が可愛いじゃないか)

「鮎のうた」は、NHK朝の連ドラ ☞ 1979年作品。滋賀県長浜市と大阪・船場が舞台で、幼いころ母親を失った女子が、大阪船場の糸問屋に奉公、一人前の「船場のごりょうさん」になるまでを描いた。

 主演、山咲千里。視聴率は、驚くなかれ、平均で42.7%、最高視聴率は49.1%。夢なのか、幻なのか、日本国内のテレビのほぼ半分が、朝8時15分のNHKにチャンネルをあわせていたのである。

 ヒロインだった「山咲千里」という人は、その後いろいろド派手な行動を続けたせいで何となくこの場でも触れにくいが、諸君、「注目すべき」と言うか「嘆息すべき」というか、ドラマを彩る脇役陣の豪華さに驚かされる。当時の関西オールスターキャストと言っていい。

 曾我廼家明蝶、ミヤコ蝶々、芦屋小雁、花紀京、海原千里(後の上沼恵美子)、西川きよし、正司花江&照江、京唄子、笑福亭仁鶴、喜味こいしが出ている。

 これに加えるに、フランキー堺、吉永小百合、馬渕晴子、木村功、三益愛子、藤岡琢也、土田早苗、佐野浅夫、橋爪功、小島秀哉、高森和子、長門勇、初井言榮。おやおや、「これで視聴率が取れないわけないじゃないですか」という、すげー朝ドラだったのだ。

 さすが今井君は記憶力の鬼だから、「鮎を食べる」と思っただけで、37年前の朝ドラのストーリーがズラズラと蘇り、初夏限定の「背ごしの鮎」や、2匹互い違いになった塩焼きの鮎を眺めただけで、「こりゃどうしてもタイトルは『鮎のうた』にしなきゃいかん」と心を決めたのだった。
ジュース
(祇王寺の近くの店で、全部ホンモノのオレンジである)

「背きり」は、小魚だから出来る料理であって、鮎よりもむしろ海の魚の漁師料理。背骨をかまわず包丁でぶつ切りにする「刺身の輪切り版」だと思えばいい。

 アジ・カマス・マイワシ・イボダイ・コノシロ・ムツ、出刃包丁みたいなので遠慮なくガシガシ輪切りにしちゃう。それを京都の鮎の場合、優雅に「背ごし」と呼ぶのである。

 それを割り箸でいただくのであるが、さすが京都であって、割り箸もカンタンに割り箸では済まない。箸袋には「二本棒」と由緒ありげな文字で印刷されていて)、「何ですか、この『二本棒』ってのは?」と、運んできた女子とコトバを交わさなければならない仕組みになっている(昨日3枚目の写真参照)。

 だって諸君、確かに二本の棒ならお箸に違いないが、日本語の世界はマコトに複雑で優雅。「二本棒」と言っただけで、ナンボでも深い意味が浮上する。

① 小児がハナミズ2筋を垂らしている様子。サムライが刀2本差している様子を嘲って言うこともある。
② ①の意から転じて、
  (1) 女子に騙されやすい男 
  (2) 間の抜けた人物
  (3) のろま、好色漢
さらにはちょっとここでは書けないような、困った意味にも使われるようになる。

 その「二本棒」をつかって、6月5日のワタクシはさらに「鮎の入ったおかゆ」「鮎の天ぷら」「鮎とタケノコの炊きあわせ」など、まさに鮎づくし。顎がへとへとになるほど、初夏の鮎をワシワシやりつづけた。

 哀れな鮎さんたちも、可愛い「鮎のうた」を歌いながら次から次へと成仏していく。何しろこちらはクマだから、可愛い鮎のお歌を歌っていようがいまいが、容赦なく頭からガブリ&ワシワシ、どうせ成仏させるなら、豪快に成仏させてあげたいじゃないか。

 こうして2時間、成仏させた鮎の数知れず。可愛らしい鮎ちゃんたちの歌が初夏の空を満たして、時計はすでに2時に近くなっていた(明日に続く)。

1E(Cd) Solti & Chicago:MAHLER/SYMPHONY No.5
2E(Cd) Leinsdorf:MAHLER/SYMPHONY No.6
3E(Cd) Solti & Chicago:MAHLER/SYMPHONY No.8 1/2
4E(Cd) Solti & Chicago:MAHLER/SYMPHONY No.8 2/2
5E(Cd) Barbirolli & Berliner:MAHLER/SYMPHONY No.9
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