Thu 170504 古き酒を飲むべし/あと400回/古き猫を撫でるべし/古き菓子を味わうべし | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 170504 古き酒を飲むべし/あと400回/古き猫を撫でるべし/古き菓子を味わうべし

 5月25日、下北沢南口の名店「かつ良」で(スミマセン、予告通り「昨日の続き」でございます)2600円もする「特ヒレカツ定食」を貪り、愚かかつ貪欲にも「オカワリ」などという言語道断な行動をとっていると、今井君の明敏な瞳は、店の奥の壁に次のような文字を発見したのである。

   古書可読
   古酒可飲
   舊友可親

 何じゃいこりゃ? 漢詩かい? それともナゾナゾ? しかし高校生のころチャンと漢文も怠けずにベンキョーした今井君だ。ものの見事に解読に成功したのである。

 額の文字はもちろん縦書きであったが、本ブログはアメーバちゃんの都合で全て横書きである。その辺は「けしからん」などと怒り心頭に発しないで、まあ許してくんろ。

 ワタクシの解読によれば、「古書を読むべし」「古酒を飲むべし」「旧友と親しむべし」。「舊」は「旧」の昔の字体である。もう少しネットリ解読してもいいが、要するに「古いもの、昔からのものをたっぷり味わいたまえ」という趣旨だろう。

 さすがトンカツ屋、なかなかサクッと味わい深い一句じゃないか。買ったばかりのスマホで早速お写真にも収め、オウチにかえってからじっくり味わい直すことにした。

 同じ句の額が、日本橋のトンカツ屋「かつ吉」にもかかっているんだと言う。「おおそうですか、トンカツ屋独特のもんですか」「さては杜甫とか李白とか、スゲー有名作品からの抜粋ですか?」であるが、これは20世紀を生きた作家「村松梢風」というオカタの書なんだそうな。
書額
(下北沢「かつ良」で発見、作家・村松梢風の書額)

 折から、ちょうどその額のかかったあたりで大宴会が始まった。オジサマ&オバサマ、オニーサマにオネーサマ、数えてみると14人もいらっしゃる。いかにも「会社の仲間たち」な、熱く親しい雰囲気。あんまり盛り上がっているから、これ以上額の近くに寄れなくなっちゃった。

 作家の村松センセは、普段からこういう趣旨のことをずいぶんおっしゃっていたそうだ。ネコ好きな人で、十数匹のネコとともに暮らし、作家の世界では大佛次郎(オサラギ ジロウ)どんと並ぶネコ好きの双璧と言われたんだそうな。

 流行ばかりを追いたもうな。長く読みつがれた書を紐解きたまえ。酒も「新酒」「新酒」と新しいものを追うより、長時間かけてじっくり醸造した古酒が一番旨いものだよ。古くからの友人と親しく付きあいたまえ。おお、いかにもネコ好きな人に相応しいコトバじゃないか。

 かく言うワタクシも、古き書を大切にすることでは人後に落ちない。そのぶん、21世紀になってから書かれた本はほとんど持っていないが、天井まで届く巨大な書棚10架には、20世紀までの人類の叡智がギュギュッと詰まっている(ただし超文系のみ)。
書棚1

書棚2
(書棚は古書でいっぱいだ。こんな棚が天井まで10段、それが10架ほど並んでいる)

 古い酒を大切にすることもまた、そんじょそこらの人に負ける気はしない。ただし諸君、誤解しないでくれたまえ。オカネに物を言わせて、家一軒が買えるほどの高級ワインを買いあさる類いの行動とは完全に無縁である。

 例えばここに、とっておきの古い日本酒がある。「達磨正宗」、造られたのは、西暦2000年。創業天保6年、岐阜市「白木恒助商店」によるもので、外箱には「長期熟成用濃醇清酒」とある。

 懐かしいミレニアムの2000年を記念して販売。「10年でも20年でも、じっくり熟成させてください」「記念品・贈答品としてどうぞ」という企画もののようである。

 今井君は、これを代ゼミの名古屋校でもらった。誰がくれたのか、分からない。教室に入ったら、教卓の上に置かれていた。いわゆる「差し入れ」である。

 21世紀の受験生諸君には信じがたいだろうが、20世紀のおしまい頃まで、予備校には「生徒から講師への差し入れ」という習わしがあって、ファンになった先生の授業の前に、教卓の上にジュースだのお菓子だのを並べておいた。

 講師たちも、その差し入れについて嬉しそうにコメントしながら授業を開始したものである。今井君は「差し入れ」「プレゼント」と呼んでいたが、古文のウルトラスペシャル先生によれば「貢ぎ物」。人によって、呼び方も多種多様であった。

 酒が差し入れられることも少なくなかった。ダラしなくも大らかな時代であって、ビールだの日本酒だの、甚だしい時には「ウィスキーがボトルで」「日本酒1升瓶」などということもあった。もちろん「その場で飲む」は御法度。大切にオウチに持って帰った。

 今なら間違いなく大目玉を喰らうだろうが、今から20年近くも前の予備校では、生授業でそんな行動も許されていた。「微笑ましい光景」ということで、世の中も大目に見てくれたのである。

 当時の今井君は1週間に一度、毎週水曜日に名古屋校に出張。夏期講習や冬期講習では名古屋マリオットホテルに5連泊して、1日90分×5コマの授業をこなした。
古酒
(長期熟成用「達磨正宗」。2000年から17年が経過。深い色合いは写真では表現できない)

 この酒が教卓上に差し入れられていたのは、2000年に入ったばかりの直前講習の時である。300人も入る大教室が満員で、お正月、雰囲気はマコトにおめでたい。もちろん「おめでたい」とは言っても、入試本番のピリピリ張りつめた雰囲気は、今もたいへん懐かしい。

 時は2000年1月。ミレニアムな差し入れには最高の品である。誰がくれたのか、300人もいたんじゃ、もちろん分からない。「長期熟成」というお酒だから、しばらくは封も切らずにしまっておかなきゃいけない。まだ若かった今井君は300人全員に御礼を言って、大切に東京まで持ち帰った。

 あれから、17年が経過した。酒をくれた人は、計算上もう35歳になっている。36歳かもしれない。37歳の可能性もある。男子か女子かも分からないが、とっくに社会の中枢だ。受験生時代の記憶も薄れ、毎日の仕事に熱く邁進していることと思う。

 というか、こんな差し入れをしてくれたことも、とっくに忘れてしまっているだろう。しかし諸君、ワタクシは忘れない。書棚の奥でじっくり眠らせてあって、2年に1度、大晦日にそっと取り出してみるのである。
にゃご
(つきあって15年目。古い猫も健在だ。シッポは長過ぎて省略。今日もニャゴロワと並んで1時間、お相撲を満喫した)

 17年前に差し入れられた時は、ごく普通の「限りなく透明に近い」色だった。しかし古酒というものは、年を経るに従って色彩も次第に味わいを増していく。少しずつ赤味を帯び、ロゼワイン色から紹興酒の色に変化する。10年で赤味はますます強くなり、15年目ぐらいからは黒が混じって、量も少し減ってくる。

 ワタクシは、これを「ブログ10年目の最終日に飲もう」と決めている。決めたのは、ブログを開始した2008年6月5日である。

 あの日、「酒は今日で熟成8年目」「10年ブログを書き続ければ、この古酒も18年目」「ちょうど最高の飲み頃になっているんじゃないか」と考えたのである。「その頃には、自分自身の長期熟成もほぼ完成しているだろう」。苦笑しながらそんなことを考えるのもいいものだ。

 そしてあれから9年継続してきたこのブログも、残り約400回となった。来年の6月26日、ワタクシの誕生日に、記念すべき10年 ☞ 3652回(うるう年2回を含みます)が来る。

 ならば、自らの書庫で18年熟成させた古酒を味わうのにも、最高のタイミングじゃないか。そのために、あえて「約20日分、実際の日付と名目上の日付がズレている」という状況を放置してきたのである。来年の6月26日、誕生日に10年目を終えようと企んでいるのだ。

 5月25日、トンカツ屋さんの額を眺めつつ、そんなことを考えていた。「古いものを大切に」だなんて、村松センセ、素晴らしい一句を残してくれたじゃないか。
姫鯛
(古き菓子「姫鯛」。古いお菓子も大好きだ)

 ネコだって、そうである。ニャゴロワどんと付き合って15年目。上記の句に1行、「古猫可撫」を書き加えたい。古き猫、撫でるべし。今日も夕暮れはニャゴと一緒にお相撲を堪能したのである。

 古き書については、言うまでもない。1冊150円から250円だった頃の岩波文庫を引っ張りだしては、19世紀フランス文学だの泉鏡花だの内田百閒だの、そういうのをボンヤリめくりながら5月の午後は過ぎていく。

 次に、お菓子である。2週間ほど前に「歌舞伎揚」の写真を掲載したが、例え「カール」が東日本での販売中止を決めても、今井君は関西まででも九州まででも買いにいく。

 お相撲を見ながらポリポリかじるお菓子がまた古めかしい。若い諸君は知らないだろうが、「姫鯛」をスーパーで見つけて買ってきた。小学生の頃、大きな袋に入った「おかき」「あられ」の中にコイツが2個3個混じっていると、コブシを天に突き上げるほど嬉しかった。「古菓可愛」、古き菓子、愛すべしである。

 作家・村松梢風センセは、今ではほぼ忘れられた存在なのかもしれない。しかし、名作「残菊物語」がある。もし万が一ヒマを持て余している人がいたら、明日か明後日あたり、お相撲をながめつつ「姫鯛」、片手に「残菊物語」。そんな夕暮れを楽しんでみてもいい。

 以上、今日のマトメは以下のようになる。

   古書可読
   古酒可飲
   舊友可親
   古猫可撫
   古菓可愛

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5E(Cd) Böhm & Berliner:MOZART 46 SYMPHONIEN 7/10
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