Thu 170406 渚のシンドバッド/サトイモの危機/危機を脱する(モロッコ探険記32) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 170406 渚のシンドバッド/サトイモの危機/危機を脱する(モロッコ探険記32)

 「ここかと思えば♡またまたあちら」みたいな行動をとると、一般に「浮気な人ね♡」という厳しい批評が待っている。

 今から数十年前、正確には1977年だからちょうど40年前のこと、「ピンクレディー」という恐るべき2人組が、来る日も来る日もテレビに出ずっぱりでそんなふうに歌っていた。「渚のシンドバッド」というタイトルの曲である。

 阿久悠作詞、都倉俊一作曲。まあググってみてくれたまえ。若い諸君のパパやママが小学生の頃、どんな映像を眺めどんな音楽を聞いて育ったのか、認識しておくのも大切なことだ。昭和という時代を理解するのに、こんなにスバラシー素材は考えられない。

 同じシンドバッドでも、サザンオールスターズのほうは「勝手にシンドバッド」。こちらは1978年だから、まさにシンドバッドの連発だったと言っていい。昭和後期の日本では何故かシンドバッドどんの人気が沸騰していた。

 渚のシンドバッドどんは「サーフィンボード小脇にかかえ、美女から美女へ」であって、なかなか落ち着きがない。「ビキニがとってもお似合いです」などと、強烈なセリフを口にするは、「クチビル奪うハヤワザ」みたいな、たいへんイケナイ飛び道具も使う。マコトに恐ろしい。
リヤド1
(フェズの宿、イブン・バトゥータ。「おお、なかなかよさそうじゃん」であるが、あてがわれたお部屋は全く別世界だった)

 サーフィンボードみたいな大っきなものを、「小脇にかかえる」という表現はおかしいんじゃないか。小脇にかかえるのは、辞書とか、予備校テキストとか、タブレットとか、その程度の重量に限られるんじゃないか。そんな疑問も感じるのである。

 英語では「have … under one’s arm」。疑問を解決するためにまたまたググってみると、諸君、グーグル先生はマコトに優秀だ。「小脇」とチェックしただけで、「小脇にかかえる 画像」が約12万件、「小脇にかかえる イラスト」も約2万件。こりゃたいへんだ、情報洪水から身を守るスベを、義務教育に是非とも取り入れなきゃいかん。

 ついでに「Weblio辞書」と言ふものも参照、「小脇にかかえる」の例文もチェックする。おお、さすが超ベテラン講師は、普段からこういう努力も怠らないのである。

 ところが、出てくる例文が余りに奇抜。サトイモ入道はドギモを抜かれるのである。だって諸君、こんな例文だ。
① 七福神の中のヱビスが大鯛を小脇に抱え釣竿を持っているのは、国譲り神話におけるエピソードによるものである。
② 彼は全身ずぶ濡れのうえ、脱いだ衣類を小脇に抱えていた為、警察官は無賃乗車もしくは窃盗犯とみて詰問していた。

 うーん、辞書を編纂する苦労が忍ばれる。何で七福神なんかが登場するんだ? 何で「無賃乗車かどうか」を警察官が詰問するんだ? 詰問すべきなのは、まず鉄道会社の職員なんじゃないの?
レストラン
(宿から近いレストランで「宿をかえるかどうか」を考える)

 さて、「渚」であるが、渚のシンドバッドについて調べようとすると、出てくるは出てくるは、次から次と興味深い「渚」に遭遇して、なかなか今日の本題に入れない。

「渚のアデリーヌ」。「渚のバルコニー」。「渚ゆう子」。次々と興味を引かれ、浮気なシンドバッドよろしく次々とググってはYouTubeなんかをポチポチやっていくと、連鎖&連鎖また連鎖で、ちっとも今日の話題に入れない。

 そもそも今日の話題は何だったのかと言えば、「ここかと思えば またまたあちら」という行動様式についての釈明なのである。釈明しておかないと、「浮気な人ね♡」と叱られる。サトイモ入道は、叱られるのが大キライな、そういうぬるぬるサトイモである。

 昨日まで3日も続けてキューバ&メキシコの旅に関する帰国報告を書いていたかと思えば、またまたモロッコ旅行記に戻る。ハバナかと思えば、またまたフェズ。メキシコかと思えば、またまたマラケシュ。クチビル奪うハヤワザはなくても、読者もさすがに目が回るだろう。

 しかし諸君、ハバナとフェズ、世界地図を見てみたまえ、大西洋をはさんでまさにお隣どうしだ。15世紀から16世紀の大航海時代、ポルトガルやスペインの人々にドヤドヤ踏み込まれた記憶では、おそらくピッタリ重なるものがあるのだ。
スープ
(フェズ「Chez Rachid」のスープ。見た目以上に旨い)

 1月16日のサトイモ法師は、マラケシュから9時間の列車の旅の果て、夕暮れ4時にフェズに到着。予約していた宿「Riad Ibn Battouta」が見つからずに途方に暮れているところだった(スミマセン、4日前の記事の続きです)。

 だって諸君、右手に重い鞄をぶら下げて、腕がほとんど肩から抜けそうになりながら、フェズの迷宮を1時間以上さまよい、それでも宿の看板も見当たらない。宿は「自称4つ星」である。4つ星ホテルの看板が見つからないなんて、さすがの今井クマ蔵も経験が多くはないのである。

 たった一度、10年前のミラノで、予約したホテル「アンバシアトリ」が見つからなかった。10年前はまだ旅の初中級者だったから、大都会ミラノでもまだビクビクもの。中央駅まで戻ってタクシーに乗り、運転手さんにお願いして何とか「アンバシアトリ」にたどり着いた。ガイドブックの地図が違っていたのである。

 しかし諸君、ずいぶんベテランになった今であっても、世界一の迷宮と呼ばれるフェズの奥の奥には、タクシーも侵入できないのである。迫る暗闇の中で途方に暮れつつ、「イブンバトゥータ、やーい」「イブンバトゥータ、やーい」と懸命に探しまわった。

 調べる地図&調べる地図で、宿の所在地が違うのだ。こりゃたまらん。ナンボ探しても宿らしきものは見つからない。「どうしてもここにあるはずだ」という場所には、どう見ても一般家屋にしか見えないオウチがあるばかり。まさかこのオウチが4つ星ホテルであるはずはない。

 それでも思い切ってそのオウチの呼び鈴を押してみると、「恐る&恐る」という感じでドアが開いた。40歳代前半と思われる女子であるが、これがまたホテル従業員という態度からはかけ離れている。「何のご用でしょう?」と首をかしげる。

「もしかして、ここが4つ星の『イブン・バトゥータ』でしょうか?」と尋ねると、ホントに不思議そうに「そうですけど…」と頷くのである。ワタクシとしては「は?」「そうだったの?」「まさか♨」「ホント?」「でもこれって一般家屋じゃないですか♣」である。
肉
(フェズ「Chez Rachid」の肉の串焼き。見た目以上にカタい)

 納得がいかないまま、とりあえず中に入って、とりあえずパスポートを預け、チェックインの手続きをしてもらう。ところが手続きもまた慣れない様子。パスポートをなかなか返してもらえない。

 粗末なソファに座って待っていると、中年のオジサマが1名、微妙な位置でニヤニヤしながらこちらを見守っている。マコトに不思議で不安な20分が過ぎ、ようやく「ではお部屋に案内しましょう」ということになった。

 エレベーターというものはないので、壊れかけた階段を4階まで徒歩で上がる。「壊れかけた」という表現はあくまで遠慮して言っているので、実際には「とっくに壊れている」。電気もつかない。照明器具は壊れているか、扱いに特殊なワザが必要で、階段を上がれば上がるほど闇に近づいていく。

 最上階の部屋に通されると、テレビがつかない。またはやっぱり特殊なワザが必要。部屋の鍵は壊れていて、どうしても閉まらない。案内してくれたオジサンが苦笑するほど、どこもかしこも清潔感がない。

「ネットは使えますか?」と尋ねると、「使えるが、使えないかもしれない」とフシギな答え。実際にMac君をポチッとしてみると、「ネットに接続されていません」の表示が出る。オジサンが「部屋では使えないが、屋上なら使えます」というので、一緒に屋上に出た。

 屋上からは、隣近所の一般家屋を一望できる。あっちにも洗濯物、こっちにも洗濯物がはためき、廃墟また廃墟の光景が広がる。いかにも迷宮の悪者が跋扈しそうだが、この屋上へのドアも閉まらない。ドアは閉まらないが、ネットも通じない。

 諦めて部屋に戻ると、トイレとシャワーは部屋の下のフロアだという。下のフロアも電気が壊れていて、トイレもシャワーも薄闇の中で済ませなきゃいけない。万が一ベッドに虫が潜んでいても、暗くて見えないんだから、存在しないのと同じである。おお、こりゃ快適だ♠ 快適すぎてブルブル震えが走る。
リヤド2
(思い切って宿をかえる。La Maison Bleue Bathaの一室、おお、こちらはマコトに清潔、これなら安心安全だ)

 まあこういう次第だ。フェズでの1泊は、「まんじりともせずに明かす」ということになりそうだ。宿のオジサンが苦笑しながら部屋を去った後、今井君はコワくてベッドに座り込むことも出来ず、鍵のかからないドアを開け、電気のつかない階段をほとんど手探りで降りて、「ちょっと食事をしてきます」と宿の外に出た。

 だって諸君、宿の出入りには、いちいち宿の人に声をかけて、ドアを開けてもらわなきゃいけない。帰ってきて呼び鈴を押しても、また開けてもらえる保証もない。

 賑やかな通りに戻って、「Chez Rachid」というお店に入り、ネコたちを撫でながら夕食を楽しんだ。さまざまな肉の串焼きをかじりながら、「宿をかえようか」「それとも一夜をあの薄闇でガマンするか」、ほとんど命がけで考えた。

 鍵なし、電気なし、ネットなし、あるのは、恐怖のみ。すべての条件を勘案して、「ヨシ、宿をかえよう♨」と決意。オカネは戻ってこないけれども、エクスペディアのポイントで無料で予約した宿だ。ポイントは惜しいが、一夜の安心にはかえられない。

 切羽詰まったこの状況で、頼れる味方はやっぱりエクスペディア。フェズ旧市街で「安全安心が確保できる宿」を必死で検索してみると、ここから徒歩2分の所に1軒、「La Maison Bleue Batha」を発見。19世紀のオカネモチの館だったという宿に部屋を取り直して、ひとまず危機を脱したのである。

1E(Cd) Weather Report:HEAVY WEATHER
2E(Cd) Sonny Clark:COOL STRUTTIN’
3E(Cd) Kenny Dorham:QUIET KENNY
4E(Cd) Shelly Manne & His Friends:MY FAIR LADY
5E(Cd) Sarah Vaughan:SARAH VAUGHAN
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