Tue 170328 黒ネコ君/修学旅行のこと/新市街/冷たいピザ(モロッコ探険記26) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 170328 黒ネコ君/修学旅行のこと/新市街/冷たいピザ(モロッコ探険記26)

 今はどうか分からないが、20世紀の日本の修学旅行は、何と言っても京都&奈良。来る日も来る日もお寺と神社の連続に耐えた。秋田の高校生だったワタクシも、京都&奈良1週間の修学旅行を経験した。

 昭和の高校生たちは2日目にはもうウンザリ、3日目になると超ウンザリ。「もう神社仏閣なんかどうでもいいよ」「これじゃお寺責めじゃないか」とバスの中は愚痴で盛り上がり、ふと「清水寺」と「シミズジ」と発音してしまったヤツを徹底的に笑い者にするぐらいしか、もう気力が湧かなかった。

 そのあたり、21世紀モロッコの若者たちはどうなんだろうか。モロッコだって現代国家だ。高校があれば、文化祭も体育祭もあるだろうし、棒倒しや綱引きやダンスもあれば、修学旅行だってもちろん存在するだろう。

 モロッコの修学旅行、どこに行くんだろう。日本の高校も21世紀にはずいぶん派手になって、沖縄ぐらいはもう当たり前、東南アジアとかオーストラリアとか、北米とかヨーロッパとか、バリバリ海外に雄飛しているはずだ。

 ならばモロッコの高校生だって、「今回はスペインを回るぞ」「今年はシチリアだ」と先生に言われて大歓声をあげたり、「オマエたちの修学旅行はニューヨークに決まった」という発表で、手を握りあって躍り上がったりするだろう。
黒猫
(颯爽とした黒ネコの案内で、マラケシュ新市街に向かう)

 しかし当然、昔ながらの「京都&奈良」だってあるはずだ。「今年は、マラケシュに行く」「オマエたちは、フェズの迷宮を見学だ」の決定を聞かされて、モロッコの中高生は、どんな反応をするんだろう。

 実際、マラケシュのランドマーク「クトゥピアの塔」の足許にはたくさんの大型のバスが停車し、明らかに中高生と思われるモロッコの男子&女子が、そこいら中をウロチョロする光景を何度も見かけた。明らかに遠足、明らかに修学旅行である。

「ええっ、マラケシュですかぁ」
「もう家族で10回も行きました」
「フェズもマラケシュも、しょぼいよな」
「ちっちぇー店がウンザリするぐらい並んでるだけじゃん」
モロッコの教室には、そんな若者たちの声が反響しているんじゃないか。

 日本文学全集を眺め回しても、修学旅行を描いた作品というものには滅多にお目にかからない。筑摩書房の「世界文学大系」は、3段組み700ページの全集本で100冊近くもあるが、やっぱり修学旅行に関する記述は見当たらない。

 あえて1つだけ言及するとすれば、中央公論社が昭和40年代に出した「日本の文学」の中に「石坂洋次郎」という青森県弘前市出身 ☞ 慶応義塾大学文学部卒というダンナの1冊が入っている。

 全集の編集委員を見ると、谷崎潤一郎・川端康成・三島由紀夫・武田泰淳・伊藤整にドナルド・キーン。出版社として「どうだ!?」「文句あります?」という自信満々な表情が垣間見える大全集である。
まつり
(マラケシュ新市街の高級回転寿司「まつり」。綺麗な店だった)

 そういう重厚な文学全集の中に「青い山脈」で有名な石坂どんの1冊を発見すると、「やっぱり昭和だな」と、一瞬サトイモの心も和んでしまうのであるが、収録された「若い人」という作品の中に、昭和初期の修学旅行の様子を読むことができる。

 何しろ全集本で400ページ以上もある。実際に読むのはとてもじゃないけどたいへんすぎる。作品としてより資料、資料としてより史料。文学全集なんてものも、だんだんそういう読まれ方をするようになるんだろうけれども、80年前の修学旅行の様子を知るのもまた一興だ。

 モロッコの高校生が、マラケシュのスークに入り込んで、いったいどんな感慨をいだくんだろうか。カサブランカや首都ラバトでスマホまみれの現代生活を送っている諸君がスークに見るのは、やっぱりテーマパーク的・文学全集的なワザとらしさに過ぎないんじゃあるまいか。

 1月14日と15日は、かく言う今井君もモロッコの高校生の目になって、古くさい旧市街から、21世紀的な新市街に目を向けることにした。

 14日、今日1枚目に写真を掲載した颯爽とした黒ネコ君の案内で、ホテル「エッサーディ」から左側の道をたどり、ホテル周辺の高級住宅街を抜けて、なかなか優秀そうな学校を右に見ながら、21世紀モロッコのホンマの生活が息づく新市街中心部に向かったのである。
H&M
(マラケシュ新市街。「H&M」の類いがズラリと入った大型ショッピングセンターもある)

 まず目に入ったのが、お寿司屋「まつり」。マコトにキレイな店舗で、さすがに午前11時ではまだ開店前であるが、店内を覗いてみると、まあ高級回転寿司。モロッコにも日本文化は着々と根づいていると思われる。

 そこからは、高級料理店が軒を連ねている。すでにお客も揃いはじめて、豪華パーティーなんかも始まっているようだ。ということは、土曜日か日曜日だったのか、着飾った男女が優雅に行き来する姿が窓越しにチラホラするのだった。

 間もなく中心街に出ると、何のことはない、これはヨーロッパの中堅地方都市の姿と一緒である。ジュラバとか、そんな古くさい民族衣装の人はほとんど見らけない。ワタクシはファッションのことにはマコトに疎いサトイモに過ぎないが、「何だ、欧米と同じじゃん」ぐらいの判断はつく。

 例えば、ハンブルグ。例えば、オルレアン。あるいは、コルドバあたり。そういう街と比較して、別に異質でもないし、遜色もあまり感じない。修学旅行的に寺巡りや名所旧跡巡りばかりしていては、モロッコの姿は分からないのである。

 大きなショッピングモールがあって、ワタクシとは普段ちっとも縁がない店がズラリと入っている。新宿でも渋谷でも、ライプツィヒでもマルセイユでもアントワープでも見かけた記憶があるが、H&MにZARA、その類いのお店がナンボでも、何の違和感もなしに営業している。

 飲食店も同様であって、マクドナルドもあればSUBWAYもあって、どこもみんな大繁盛中。地元の人は汚い屋上でクスクスを貪ったり、泥だらけの路上店でカタツムリをかじったり、真夜中の屋台で得体の知れぬ肉を咀嚼したり、そういうことはしないのである。
民族衣装
(ショッピングセンター内の民族衣装店)

 そういう光景を目にしたワタクシは、「何だ、それなら今日は久しぶりのピザでも食うか」と決意。サボテンの実やどす黒いザクロのジュースを売っている屋台には見向きもせずに、まずはバスターミナルに向かった。

 ワルザザートは、砂漠の入口の町。有名な映画の砂漠のシーン撮影に、たくさん使われた町でもあって、どうしても一度訪ねておきたい。旅の後半はググッと多忙になるけれども、それもまた致し方ないのである。

 ただしこの日のチケット売り場は、この上なく不機嫌なオニーサマの担当。意地でも笑顔なんか向けない覚悟のようである。何かスマホでしなければならない重要な仕事があって、その仕事に比較すれば、チケット売り場のお客なんかチリかアクタみたいなもの。そういうスタンスである。

 だから、ホンのちょっとのスキがあれば、彼の目はたちまちスマホの方を向き、お客の申し出なんかには一切関心がない。コマゴマした要求はすべて面倒くさい。意地でも突っぱねる。

「往復のチケットがほしい」と言っても、とにかくスマホの画面が大事。
「往復チケットなんか、買う人はいません」
「みんな片道キップを買うんです」
「帰りのチケットは、向こうで買ってください」
そう言って、渋柿か苦虫でもかじってしまったみたいな顔で睨みつけるだけである。
ピザ
(寒風の中、ピザはどんどん冷えていく)

 ま、そういうスタンスなら致し方ない。オニーサマの言う通りに片道キップを買って、あとはピザをかじって鬱憤を晴らすだけである。お馴染みのカルフールまで一気に南下して、店の外にたくさん並んだテーブルの1つを選び、コーラとピザを注文した。

 みんな無理して外のテーブルで食べているが、この日あたりから冷たい風がマラケシュの町を吹き荒れはじめていた。風の中、小銭を求めてコドモたちがテーブルの間を走り回る。

 コドモは、男子2名&女子1名、3人ともたいへん身なりがよくて、小銭を求めて走り回るのも、軽いイタズラ気分のようである。特に男子2名は、数日前にもカルフール前で小銭を求めてサトイモ法師のそばをうろついた諸君。店の人ともとっくに知り合いのようだ。

 アトラス山脈おろしの寒風で、ピザはどんどん冷めていく。刺すように冷たい風の中でコーラを飲んだって、やっぱり別においしくない。サッサと飲み込んで、退散。ただし諸君、「ピザだって咀嚼できた」という自信は格別。激烈な口内炎の支配から、ワタクシは確実に脱却しつつあるのだった。

1E(Cd) Santana:AS YEARS GO BY
2E(Cd) Gregory Hines:GREGORY HINES
3E(Cd) Holly Cole Trio:BLAME IT ON MY YOUTH
4E(Cd) Earl Klugh:FINGER PAINTINGS
5E(Cd) Brian Bromberg:PORTRAIT OF JAKO
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