Thu 170323 エッサウィラ「ADWAK」の昼食/クスクスを準完食(モロッコ探険記21) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 170323 エッサウィラ「ADWAK」の昼食/クスクスを準完食(モロッコ探険記21)

 旅行記がいきなり中断し、10日間も国内での身辺雑記を書きまくったかと思えば、いきなりまた旅行記が復活する。こんなに突然話がモロッコに戻っても、「ありゃりゃ、この人はどこで何をしていたっけ?」と、読まされる方の困惑が見えるようである。

 1月12日のワタクシは、マラケシュの迷宮から一気に砂漠を横切り、途中で「ヤギのなる樹」にメッタヤタラに感激した上で、ちょうどお昼頃のエッサウィラに到着したのである。

 お昼なら、そりゃもう求めるものはランチ、ランチ、またランチ。何が何でもランチを貪りたい。そこを一応「それじゃあんまりイヤしすぎるだろう」と遠慮する。哀れな見栄を張って、「港の魚市場はどんな様子だろう」とか、知らん顔して町歩きを試みるフリもした。

 しかし全ては空しい抵抗である。人間は、メシで生きている。「パンのみにて生きるにあらず」とか強がりを言っても、腹が減るからケンカもするし、腹が減るから落胆とか絶望とか、不必要な下向きスパイラルに陥ったりする。
ADWAK
(エッサウィラの名店「ADWAK」。すぐに見つかった)

 そんなことを思いつつエッサウィラの町をニタニタ歩いていたら、目指すお店が早速見つかった。町のシンボル♡時計塔から、徒歩でホンの1〜2分。角を曲がって、ネコたちを蹴飛ばしそうになりながらもう一度曲がって、右側の裏町を覗いてみたら、「ADWAK」は目の前だった。

 店のそばにもネコが2〜3匹ウロウロしていて、入口前には胴長の小型犬が暢気にお昼寝中。焦げ茶色のその犬を跨いで店内に闖入する形式になっている。

 しかし時計はまだ12時20分。南欧の人にとって、ランチとは13時すぎから16時ごろまでにいただくものである。ホントは13時でも早すぎだ。スペインでもポルトガルでも、ホントのランチは14時ごろから本格的に始まる。

「えっ、南欧って言ったって、サトイモどんは今アフリカのモロッコにいるんざんしょ?」とおっしゃるアナタ。モロッコはすでに立派な南欧圏と言っていい。確かにイスラムの国ではあるが、日々の生活様式はググッと南欧に引きつけられている。

 一目でわかる民族衣装の人々も、農村部や砂漠地帯には確かに多い。しかし都市部に入れば、旧市街の一部を除いて生活は南欧化している。気分はすっかり南欧であって、「12時半にランチ」と勇んで店に踏み込めば、「おやおや、お早いですね」と困惑の顔で迎えられる。
店内風景1
(エッサウィラ。ADWAKの店内風景 1)

 実際、エッサウィラの「ADWAK」でも、まだお客を迎え入れる準備が進行中。「げ、日本人の表六玉が朝早くから飛び込んできちゃった」「どうする? 『まだです』って言って断る?」。入口に立っていた若いオネーサマの表情は、そんな逡巡の気分を表現していた。

 追い払われるか否か。緊張の一瞬だったが、そこへ店主の奥方と思われる上品で明るいオバサマが登場。「どうぞどうぞ」と、優しく&めでたく迎え入れられた東洋のサトイモなのであった。

 店内は、清潔な赤いテーブル掛けのテーブルが15席ほど。お客をギュギュッと詰めて座らせるタイプであって、1人分のスペースは奇跡的なほど狭い。

 これで全席が埋まるような事態になったら、人口密度のあまりの濃密さに、酸欠で倒れる人も続出しそうだ。まるでどこかの予備校の公開授業みたいだが、まあそれも悪くない。

 ガーラガラで店内を寒風が吹きすさび、経営が心配になるようなランチは、寂しすぎる。特に表六サトイモみたいに連日連夜「早すぎましたか?」という時間帯にお店に入る人間は、しょっちゅうお店の経営を心配するハメになる。
店内風景2
(エッサウィラ。ADWAKの店内風景 2)

 さっきの上品なオバサマに促されて注文したのは、
① オニオンのタップリ入ったモロッコスープと
② 待ってました、いよいよ本場のクスクス
以上2点である。

 激しい口内炎に1週間も悩まされてきたクマ蔵としては、まだまだビクビクものだったけれども、「そろそろ思い切って」とバスの中から決意を固めていた。

 だって諸君、日本の出発したのが1月5日の深夜。あんまり口の中が痛すぎて、羽田空港ラウンジのカレーも食べられず、アップグレードしてもらったビジネスクラスのお食事も、無理やり力ずくで飲み込んだのは、肉まん1個だけだった。

 フランクフルトのラウンジで「焼きたてのプレッツェル、いかがですか?」とニッコリ差し出されたものを断りきれず、粘膜の剥がれた口蓋に、固いプレッツェルの皮がナンボでも突き刺さった。

 だから飲み込むプレッツェルは、血の味がした。吸血鬼なら「ヒヒヒ」と自らの塩辛い血の味に不気味な笑みを漏らすところだが、今井君はポンポンもふっくら、赤いホッペもツヤツヤだ。とても吸血どころじゃない。「ひよっこ」に出てくるモテない田舎の男子高校生みたいなもんである。
スープ
(オニオンたっぷりのモロッコスープ。おいしゅーございました)

 あれからすでに1週間が経過した。1週間で口にしたのは、ヨーグルトとプリンとカマンベールチーズのみ。そういう半固形物をビールで押し流す。ビールで押し流さないかぎり、痛くて飲み下せない。だから必然的にビールの量もうなぎのぼりに増えた。

 そういう日々を過ごしてみたまえ。ふっくらポンポンも紅ほっぺも、それなりに痩せ衰え&青ざめて、もしも「吸血鬼なんじゃないか?」と指摘する人がいれば、「太った吸血鬼もいるもんだ」と人々の失笑を招くような存在になりかけていた。

 だからワタクシは、太った吸血鬼などという屈辱的な半怪物に成り果てるかわりに、エッサウィラで何としてもしっかりした固形物を咀嚼&嚥下して帰ろうと決意を固めていたのである。

 テーブルの上には、きわめて小さなタジン鍋が2つ。この可愛らしいヤツの中に、塩や香辛料が入っている。おお、こりゃオミヤゲによさそうだ。オリーブも同じような容器に入れて運ばれてきた。

 諸君、緊張の一瞬である。例え大好物のオリーブでも、口内炎の傷口を直撃すれば、その激痛に屋根を突き破ってロケットみたいに高く飛翔する。慎重に、慎重に、最高度の緊張感をもって、そっとそっと事態に対処する。

 そして見事、オリーブ5個の咀嚼 ☞ 嚥下に成功。続いて運ばれてきた熱いスープもまた難関であるが、熱さも塩辛さも、まあ何とか耐えぬいた。
クスクス
(ナッツ風味のクスクスはADWAKのウリ。たいへんおいしゅーございました)

 痛いことには間違いないが、これしきの痛さであれば、人生のさまざまな艱難を乗り越えてきたサトイモ行者には、「なんの、これしき」「かっかっっか」の対象に過ぎない。諸君、「艱難難事を玉にす」だ。

 そして最後が、メインのクスクスである。もうもうと湯気が立っている。湯気の1粒1粒が、気分的には口内炎にジクジク響く。「そうれ、痛いぞ」「ホントに痛いぞ」「苦しめ」「苦しめ」「苦しみぬけ」。白い湯気たちが笑うのである。

 しかしそんな悪魔的なクスクスにも、恐れず立ち向かって初めて今井クマ蔵じゃないか。根菜の砦の中に潜む一番熱いクスクスを、スプーンですくってまずヒトクチ。おお、耐えられる。

 というより、おお、旨いじゃないか。こりゃ行ける。こうして諸君、1週間ぶりの固形物は、ゆっくりとではあるが、見事に胃袋に収まりはじめたのである。

 ただし、ニンジンは別だ。今までの長い人生で、ニンジンと言ふものだけはマトモに咀嚼したことがない。「食べてごらんよ、とっても甘いよ」と人々に言われ続けたが、甘いのがいいなら、酒まんじゅうでもモナカでも飴玉でもいいわけじゃないか。

 だからたいへん失礼ながら、エッサウィラ「ADWAK」のクスクスも、ニンジンだけは勘弁してもらった。しかしそれでもこんな激痛に耐えながら、鶏肉その他の肉類もすべて胃袋に収めた。クスクスだって、大袈裟に言えば「1粒も残さずに」ペロリと平らげたのである。心からおいしゅーございました。

1E(Cd) Haydon Trio Eisenstadt:JOSEPH HAYDN:SCOTTISH SONGS 13/18
2E(Cd) Haydon Trio Eisenstadt:JOSEPH HAYDN:SCOTTISH SONGS 14/18
3E(Cd) Haydon Trio Eisenstadt:JOSEPH HAYDN:SCOTTISH SONGS 15/18
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