Tue 170207 下駄を買いに/ベン・ユーセフ・マドラサ/本の虫(モロッコ探険記12) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 170207 下駄を買いに/ベン・ユーセフ・マドラサ/本の虫(モロッコ探険記12)

 これを書いている時点で3月2日午前10時半。春一番は去り、春2番も3番も2月中に去って、今日はどうやら春4番のようである。西日本では朝から雷が鳴ったし、東京は夕暮れから雨と風が強まって、所によっては雷どんもゴロゴロするらしい。

 ワタクシは夜7時半から愛媛県松山で公開授業の予定だから、お昼の飛行機で松山に移動する。2005年春の東進移籍以来、毎年必ずこの時期に松山を訪れる。松山でも朝のうち雷が鳴っていたとのことであるが、幸い夕暮れには雨が上がりそうだ。

 昨日は、いろんなニュースが日本中を駆け巡った。医学部受験生の憧れ♡梅ちゃん先生が、もう引退しちゃうんだそうである。かまやつひろし氏は、天国へ旅立った。ワタクシよりもかなり上の世代であるが、コドモの頃のラジオからひっきりなしに「我が良き友よ」が流れていた。

 下駄を鳴らしてヤツが来る。腰に手ぬぐいぶら下げて。学生服にしみこんだ男のニオイがやってくる。あのかまやつひろし氏がもうこの世にいないなんて、どうしても信じがたい。どうせまた明日あたり、下駄を鳴らし&手ぬぐいを振り振り戻ってくるに違いない。そういう気がする。
神学校1
(マラケシュのイスラム神学校、ベン・ユーセフ・マドラサ。静かな中庭が美しい)

 ちょうど今井君は、散歩用の下駄を買おうと考えていたところである。真冬の下駄は寒いだろうから、お花見の季節ぐらいから下駄を履いて歩こうと、虎視眈々と下駄屋さんを物色していた。

 ところが諸君、今や東京でもホンキでマトモに下駄を売っている店はなかなか見つからない。グーグル先生に相談しても、三軒茶屋に1軒、浅草に1軒。めぼしい下駄屋さんはそのぐらいである。

 浅草は遠い。三軒茶屋はすぐそばだけれども、あの街の奥の方はマラケシュにも劣らない迷宮だ。「迷宮」と言っただけで、1月の地獄のような口内炎を思い出すから、今のところ三軒茶屋は避けておいた方がいい。

 しかし、かまやつ氏が天国に旅立っちゃったとすれば、何としても近日中に下駄をカランコロンさせながら街を闊歩して、それを「冥福を祈ります」という言葉の代わりにしたい。3月は公開授業のウルトラ大ラッシュになるが、何とかスキを見て、すかさず浅草に下駄を買いに行きたいのである。
神学校2
(ベン・ユーセフ・マドラサ。エントランスも長い歴史を感じさせる)

 あまり目立たない報道だったが、茨城県の地方新聞「常陽新聞」が休刊に追い込まれた。13年にわたってネットで活躍したマガジン「R25」も、ヤメちゃうことに決まってしまった。こんなに軽いメディアであっても、やっぱりヒトビトは文章を読まなくなってしまった。

 ブログというもの全体の旗色も、ますます悪いようである。たった4000アクセスで、アメーバ全体の1000位より上に行きかねない。ホンの5〜6年前までは、同じ4000アクセスでも2000位を少し超えるぐらいだったように記憶する。すっかり様変わりして、ブログの読み手も書き手も、ずいぶん減ってしまった。

 文章がちょっとでも長いと、多くの人が「うだうだ」「くだくだ」「ぐだぐだ長過ぎて読めねえ」と吐き捨てる。R25も常陽新聞も、「広告が集まらなくて」ということらしいが、広告が集まらないのは、要するに読者が離れたからである。
神学校3
(ベン・ユーセフ・マドラサ、本の虫たちのお部屋 1)

 いよいよ今年の大学入試の結果がみーんな発表されようとしているが、大学の花は何と言っても図書館だ。図書館に入り浸らない大学生活なんて、コーヒーのないカップ、ビールのないジョッキ、牡蠣のない牡蠣鍋みたいなもんである。

 若い諸君、もっともっと文章を読みまくろうじゃないか。1月9日、モロッコ・マラケシュの今井君は、スークの迷宮の奥にかつてのイスラム神学校を訪ね、そのギュッと固く締まった静寂の中に、過去400年の神学生たちの熱心な読書の姿を透視してみた。

 ベン・ユーセフ・マドラサ。創立、1565年。サアード朝のスルタンが建設した。スルタンの名は、アブダラー・アル・ガリブ。西アフリカの神学校の中でも最も大規模なもので、1956年まで400年間、現役の神学校として使われていた。

 16世紀イスラム建築の粋を集め、アラブとアンダルシア建築の最高傑作の1つとも言われているんだそうな。おお、アンダルシア。イベリア半島まで含めて「最高傑作の1つ」とは、ここで学んだ神学生の幸福は想像するに余りある。

 神学校のお隣には、ベン・ユーセフ・モスクがあり、学校の授業の多くはモスクで行われた。アリ・ベン・ユーセフは、12世紀ムラービト朝の七賢人の1人。スークの迷宮の中でひときわ目立つ大規模モスクである。
神学校4
(ベン・ユーセフ・マドラサ、本の虫たちのお部屋 2)

 神学校の建物の多くの部分が、学生の寄宿舎だったのである。中庭から見上げる2階部分を中心に、ズラリと並んだ小部屋の数は130。あんまりたくさんの部屋が整然と並んでいるから、部屋から部屋へと探険しつつ今井君はすっかり道に迷い、下への降り口が分からなくなってしまうほどだった。

 基本は「相部屋」であって、130の部屋に900人が収容されていたという。スタンダードな部屋は、日本で言えば6畳間程度。1部屋4人ぐらいの計算であるが、日々ひたすら読書に励む生活なら、それも悪くない。

 冷たい石の床、漆喰の壁、太い木組みの天井。まるで牢獄の扉のように、重く錆びた鉄の鋲が打ち込まれ、400年間、さぞかし清潔で硬質の静寂が建物を満たしていたことだろう。

 上級生用なのか、優等生用なのか、他より遥かに広く明るい部屋も数室存在する。実家の権力や家柄や経済力も関わっていたのかもしれないが、今井君なんかは、あくまで成績優先 ☞ 優等生用の部屋だったと信じたいのである。
神学校5
(ベン・ユーセフ・マドラサ、本の虫たちのお部屋 3)

 図書館は、モスクと神学校の間に存在し、読むべき写本が十分に備えられていたのだと言う。おお、そういう話を聞いただけで、我が腕は鳴り、「やるぞ」「いくぞ」と胸は熱く高鳴る。学校に入ったら、是非ともそこで一番になり首席になって、一番明るくて広い部屋にのしあがりたい。

 ところが、せっかく今井君が「首席になる」と決意したのに、意地悪なMac君は「酒席になる」と茶化してくる。そりゃ20歳以降、かつてのスーパー秀才♡今井君は見る影もない。確かに首席より酒席を遥かに優先するようになっちゃって、ダラしない人生を歩み続けている。

 しかし読者諸君、諸君はこの今井君を他山の石としたまえ。酒席なんか後でかまわない。ずっと後回しにして、まあ25歳、いや30歳、35歳でもいいぐらいだ。そんなことより読書&読書、せっかく憧れの大学に合格したなら、これから4年(6年)、図書館のヌシとして生きたまえ。

 ベン・ユーセフ・マドラサには、1年で900人の本の虫がいたわけだ。退学者も落伍者も脱落者もいなかったという前提で単純計算すれば、400年、この神学校の建物に存在した本の虫&図書館のヌシは、合計36万人ということになる。

 36万人もの青年が、ここでひたすら神の言葉を読み続けた。それを思っただけでも、今井君の胸は熱く燃え上がる。21世紀の諸君、読むものはそれぞれ別であっても、長い歴史を刻んできた本の虫&図書館のヌシの列に何としても加わりたまえ。合格通知は、その列への参加許可証だと思うべきなのである。

1E(Cd) Eschenbach:MOZART/DIE KLAVIERSONATEN①
2E(Cd) Eschenbach:MOZART/DIE KLAVIERSONATEN②
3E(Cd) Eschenbach:MOZART/DIE KLAVIERSONATEN③
6(DMv) HOW TO LOSE FRIENDS & ALIENATE PEOPLE
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