Sun 161204 デザートのこと/カノーロとゴッドファーザー/陽気な集団(シチリア物語29) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sun 161204 デザートのこと/カノーロとゴッドファーザー/陽気な集団(シチリア物語29)

 別に甘いものが好きじゃなくても、人にはデザートというものが必要だ。おおー♡、何となくセクシーな発言であるが、別に陳腐でオトナな男女関係の話をしているのではない。

 例えばオランダで、見渡すかぎりチューリップだらけの花畑に迷い込んでみたまえ。いやはや何でもかんでも意地でもチューリップ。秋田県大潟村の大っきな田んぼ100枚分ぐらいが、みんなみーんなチューリップ。もうチューリップなんか、見るのもイヤになる。というか、チューリップにうなされかねない。

 そういう時、「チューリップ以外の植物」が、1つでもいい、2つでもいい、目の前に現れた時の「救われた!!」という喜びは、何ものにも代えがたい。

 オオイヌフグリにウシハコベ、ノミノフスマにヤエムグラ、スズメノテッポウにヒメオオバコ。そういう嫌われがちな雑草の類いでも、「とにかくチューリップ以外の植物」というだけで、人の喜びは10倍にも20倍にも膨張する。

 見る者が「救われた!!」と快哉を叫ぶのに対して、チューリップの側から見れば「巣食われた!!」という慚愧の念でいっぱいなんだろうけれども、デザートとは、要するにそういうものである。
パレルモカノーロ
(パレルモのフォカッチャ屋「サンフランチェスコ」のカノーロ)

 ベートーベンのシンフォニー9曲をぶっとおしで聴き終えた後の、シューベルトの歌曲。トルストイやロマン・ロランの後の、O. ヘンリーの短編、生牡蠣3ダースの後の冷たいイチゴやメロン。デザートにはマコトにうってつけである。デザートのおかげで、肉にも魚にもますます旨味の記憶が増すのである。

 だから今井君は、外国旅行にもデザートの要素をく加えるのが好きである。フランクフルトに2週間滞在するなら、ケルンの1泊をデザートにする。昨年のベルリン2週間には、① ライプツィヒ ② ドレスデン、デザートを2つにして、ベルリン滞在ををますます魅力あるものにした。

 リスボン2週間には、ポルトの1泊。ボルドーの2週間には、カルカソンヌの1泊。マルセイユの半月には、ヴェネツィアの1泊。ヒコーキを上手に利用すれば、そういう贅沢なデザートだって可能である。

 サンパウロの半月にはリオ1泊を付け足したし、もしもモロッコのマラケシュに2週間滞在するなら、デザートはカサブランカ1泊でもいいし、フェズ1泊やタンジール1泊を考えてもいい。いやはや、どんなデザートを盛り込むかで、旅の印象も全く変わるものである。

 しかもワタクシは、デザートの選択にいろんな裏ワザを持っている。和菓子も悪くない。「郷土の和菓子」なんてのもあって、秋田の「金萬」「酒まんじゅう」「諸越」「さなずら」も悪くない。パリの有名レストランでは、「デザートに生牡蠣6個」なとという離れワザも演じた。
シラクーサカノーロ
(シラクーサ「オステリア・マリアーノ」のカノーロ)

 シチリアを旅して、パレルモに1週間、シラクーサに1週間、そういうスケジュールなら、デザート候補はナンボでも存在する。いきなり「マルタ」という手もある。「コルシカ」「サルデーニャ」なんてのもある。

「ナポリ」「カプリ島」「アマルフィ」だって、決して排除できないのである。ナポリ近郊の火山地帯で活動が活発になる兆候があるとのことで、しばらくナポリは遠慮した方がいいかもしれないが、2016年9月、いきなりカプリを訪れて「青の洞窟」を満喫するという選択肢も悪くなかった。

 しかし諸君、ま、シチリアでホントの意味のデザートと言えば、誰が何と言ってもカノーロである。映画「ゴッドファーザー」シリーズでも重要な役割を果たすカノーロは、イタリア語の単数形が「cannolo」、複数形が「cannoli」。男性名詞の単数語尾が「o」、複数形は語尾が「i」に変わる。

 イタリア人は何でもたくさん食べるから、最初からカノーリと複数形で呼び、アメリカのイタリア系社会では「えーい、メンドーだ」とばかり、単数形なんか無視していきなり「カノーリ」と複数形を使うらしい。
ズッパ
(タオルミーナ、雷雨の中で味わったズッパ・ディ・コッツェ)

「ゴッドファーザー Part Ⅲ」では、パレルモ歌劇場での毒殺シーンにカノーリが登場する。毒殺の実行犯は、コニー。主人公マイケル(アル・パチーノ)の妹として、Part 1から出ずっぱりの女子である。

 演じているタリア・シャイアは「ロッキー」のヒロイン・エイドリアン役で有名。イェール大学演劇学科の出身。F. コッポラ監督の実の妹である。ソフィア・コッポラは彼女の姪。いやはや、アメリカという夢の国でも、その門閥の力はイカンともしがたいものがある。

 諸君、とりあえず「ゴッドファーザー」シリーズをDVDで3巻分、じっくり観てくれたまえ。単数形カノーロ、複数形カノーリ、ともに映画の中で大活躍する。何と2つの暗殺シーンで、主役を演ずるのはシチリア名物のこのお菓子なのである。

 実際に本場シチリアで、コイツをムシャムシャ食べてみるのも悪くない。1回目は、パレルモのフォカッチャ屋「サン フランチェスコ」で。2回目はシラクーサの有名店「オステリア・マリアーノ」で。煎餅みたいな生地の中の甘いリコッタ・チーズに辟易し、どちらも一口で降参した。日本のサトイモ男に平らげられるようなシロモノではなかった。
フッジリ
(タオルミーナ、雷雨の中で味わった魚介のパスタ)

 一方、シチリアの旅でデザートの役割を演じられる街と言ったら、タオルミーナ以外には考えられない。メッシーナからでも、シラクーサからでも、列車で2時間の距離。1泊2日のデザートとして訪れるなら、タオルミーナほど魅力的な町は考えられない。

 かつてサラセン海賊の襲撃を見張っていた砦「カステルモーラ」からの絶景。映画「グランブルー」で有名になった島「イゾラ・ベッラ」。北イタリアのマッジョーレ湖にも同じ名前の小島が浮かんでいるが、その美しさにおいてどちらに軍配を上げるか、甚だ迷うところである。

 しかし諸君、9月7日のタオルミーナは、シラクーサと同じ雷雨の午後であった。雨がしばらく小やみになっていても、やがて山のほうか海のほうかで凶悪な稲妻が走り、重苦しい雷鳴がそれに続いて、まもなく激烈な豪雨が襲ってきた。

 険しい崖の上のレストランから、本来なら紺青のティレニア海やエトナ火山が望めるはずなのに、こんな荒天ではひたすらお料理に集中するしかない。あまり料理に集中しすぎると、どんなにうまい料理でも、アラばかりが目立つものである。

 この日の今井君が注文したのは、まずタオルミーナの地元の赤ワイン。魚介のパスタと、ズッパ・ディ・コッツェ。期待したのはあくまでチェファルーで食べた濃厚トマトソースのズッパであったが、諸君、期待しても期待しても、どこの店でもあの濃厚なトマトソースは出てきてくれないのである。
雨のレストラン
(ビニールの雨よけの中、ドイツ人集団を中心に盛り上がる)

 ズッパをしみじみすすり、エトナ山麓で醸造された美味しい赤ワインをグビグビやるうちに、店の周囲は稲妻に包まれ、重量感のある雷鳴が轟き、やがて大粒の雨が降り出した。テーブルは店の前の路上に並べただけのもの。お店のオネーサンが大急ぎでビニールの雨よけを広げた。

 透明な雨よけの下で、ヨーロッパ中から集まった陽気な人々がランチを満喫した。中でも目立っていたのが、ドイツ人の中高年グループ。イタリア人に比較して、遥かに大人しく控えめなはずのドイツ人であるが、彼ら&彼女らは決してこの範疇に入らない。

 いやはや、爆笑に次ぐ爆笑、気持ちいいほどの爆笑&大爆笑。今井君の公開授業に集まった生徒諸君を髣髴とさせるほどの、ウルトラ大爆笑であった。雷鳴も稲妻も、この陽気さにはかなわない。

 他のテーブルの人々も、彼ら彼女らにつられるようにどんどん陽気になって、ある者はビールを追加、ある者(今井君)は赤ワインのボトル1本を1時間もかからずに飲み干した。陽気さは陽気さを呼び、稲妻も雷鳴も豪雨も、陽気な人間の前ではその勢力を喪失する。

 お、こりゃ明日は期待できそうだ。店を出た後も、ホテル・ベルベデーレの「離れ」に戻って、やがて夕暮れになっても、夕景が夜景に変わってもなお、稲妻と雷鳴は遠慮がちに続いていたが、雨はどうやらおさまってきたようである。明日こそは、タオルミーナの絶景を心ゆくまで満喫できるかもしれない。

1E(Rc) Backhaus:BACH/ENGLISH SUITE・FRENCH SUITE
2E(Rc) Collegium Aureum:VIVALDI/チェロ協奏曲集
3E(Rc) Corboz & Lausanne:VIVALDI/GLOLIA・ KYRIE・CREDO
4E(Rc) Elly Ameling & Collegium Aureum:BACH/HOCHZEITS KANTATE & KAFFEE KANTATE
5E(Cd) Akiko Suwanai:SIBERIUS & WALTON/VIOLIN CONCERTOS
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