Fri 161202 南イタリア・タクシー事情/列車内大爆笑/タオルミーナ(シチリア物語28) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 161202 南イタリア・タクシー事情/列車内大爆笑/タオルミーナ(シチリア物語28)

 1泊2日の予定で、ちょっとタオルミーナまで行ってこようと思う。何しろシラクーサはこんな雷雨と荒天続き。このままホテルに缶詰になっていたんじゃ、シチリアの後半がちっとも面白くない。

 たった1泊2日なんだから、荷物は全てシラクーサのホテルに置いていく。いつも仕事で使っている「予想の5倍重いカバン」に、Mac君その他身の回りのものだけ入れて、朝9時にホテルを出た。

 ということは、もちろんホテル代は2重にかかる。シラクーサのホテルとタオルミーナのホテル、9月7日の宿泊代金はどちらにも払わなければならない。さすがにちょいと贅沢であるから、タオルミーナの方はエクスペディアで見つけたごく安いホテルで我慢することにした。

 何しろ雷雨であるから、シラクーサの駅まではタクシーを利用する。紳士的な運転手さんで、駅まで10ユーロ、朝から幸先のいい快適なタクシーライドであった。
タオルミーナ1
(雨のタオルミーナ風景 1)

 南イタリア、特にシチリアのタクシーについては、ガイドブック上の評判があまりよろしくないようである。
「メーターがついていません」
「値段は事前に交渉しなければいけません」
「交渉しても、ふっかけられます」
「足許を見られたり、ボッタくられることもあります」
ネット情報にも、この類いが多い。

 で、実際はどうかと言えば、「現在は過渡期です」という状況。メーターをつけたタクシーも増えてきたし、例えメーターがついていなくても、紳士的に挨拶を交わし、ふっかけることも足許を見ることもせずに、ニコヤカに去っていく爽やかな運転手さんも多い。

 もちろん、昔ながらのイメージのオカタも少なくない。異様に不機嫌だったり、交通ルールを無視してすっとばしたり、ネロネロ甘えるような態度で高額の運賃を要求したり、まあ長く旅していればそんな人とも出会う。
ドゥオモ前の店
(シラクーサは、今日も雷雨に濡れていた)

 むかしむかし、日本にも「雲助」という蔑視用語があった。「蜘蛛助」と書くこともあった。江戸時代の宿場町で、駕籠かきなどの運送業を営む人をそう呼んでいたが、今は完全に死語、というか使用禁止用語になっているはずだ。

 旅に疲れた人々を、蜘蛛が糸を張るように待ち受けていて、高額の運送代をふっかける。古い時代劇には、集団でタカリ行為を行う「雲助」たちがよく登場したものである。

「水戸黄門」の助サン&格サンないし「風車の弥七」に、物語の冒頭でやっつけられちゃう対象が、宿場町に巣食っているそういう集団。その親方ももちろん悪者、親方の背後にいる代官様がウルトラ悪者というストーリーはお馴染みであって、どこかの奥方や姫君を「てごめ」にしようと企んだ所を、黄門様に厳しく叱られる。

 昭和の日本には、まだまだ「雲助」というコトバが残っていて、大物お笑い芸人や裁判官が、その蔑称をあからさまに口にして問題になったこともあった。いやはや、20世紀までの日本人の意識は、まだ江戸時代とそんなに違っていなかったのかもしれない。

 シチリアの旅の最終盤において、そういう「昔ながらの困った運転手さん」に2回続けて遭遇することになるのだが、それはまた9月10日のこと。今日はまずタオルミーナへの旅に集中しなければならない。

「南イタリアのタクシーは、現代化への過渡期にあります」
「決してコワいことばかりではありません」
「きわめて紳士的な対応も多くなっています」
と、それだけ書いておくことにしよう。
ローマ行
(シラクーサ発、ローマ・テルミニゆき)

 乗り込んだ列車は、ローマ・テルミニ行きのインターシティである。ローマまで7〜8時間の旅であって、始発のシラクーサが10時25分発、tローマには到着するのは日没後。そのマコトに長い旅の序盤、タオルミーナまで約2時間を、ワタクシに付き合ってもらうことにする。

 シラクーサを出発した段階では、列車はガーラガラ。わざわざ指定席をとったけれども、指定料金なんか払わなくても、タオルミーナまで楽に座っていけたかもしれない。何だか拍子抜けの気分であった。

 ところが、途中駅のカターニャで状況は大きく変わる。大きな荷物をかかえた人々がドヤドヤと乗車してきて、車内は一気に超満員になった。通路は朝の山手線並みに混み合って、車内が静まるまで10分以上もかかった。

 その大混乱の中で、物凄い罵声が響きわたったのである。何と、ダブルブッキング。彼と彼女が指定券をもっていた席に、すでに他の乗客が座っていた。しかもその人たちも正規の指定券を所持していたのである。

 激しい男子の罵声は、おそらくお隣の車両にまで響いただろう。イタリアの国鉄には昔よくあったことだ。ダブルブッキングどころか、「指定席があるはずの車両が連結されていなかった」なんてのもあった。ワタクシも2005年2月にそれを体験済。男子の激烈な怒りも、理解できたのである。
ねこ
(タオルミーナのネコも濡れていた)

 ただしその辺も、このごろただいぶ減ったようである。何しろHP上で自宅でも予約できるシステムになったのだ。コンピューター君にとって、こういう単純作業はお手のもの。滅多に間違うことはないはずだ。

 じゃ、この大騒ぎはいったい何なんだ? 諸君、問題の解決に車内が大爆笑に包まれたのは、列車が次の停車駅に到着した時であった。まず女子が絶望して頭をかかえ、続いて怒り狂っていた男子も、かぼそい絶望の叫びをあげ、ほとんどその場に崩れ落ちそうになった。

 要するに彼らは、乗り込む列車を間違えたのだ。下りシラクーサ方面に乗るはずが、上りローマ方面ゆきに乗っちゃった。ダブルブッキングも何も、上り下りが反対じゃ、そりゃアンタがたの席があるはずがない。

 激烈に怒鳴り散らしていたぶん、彼氏のほうの恥辱は山のように大きい。ほうほうのていで列車から降りていったが、彼と彼女のトラウマはデカいだろう。車内はそのあと十数分、意地悪な笑いに包まれた。いやはや、あんまり怒鳴り散らすもんじゃないでござるね。

 そういう滑稽な一幕もあって、タオルミーナまでの2時間はあっという間であった。雨も若干弱くなって、こりゃこの小旅行の企画は大成功かもしれない。シラクーサでクサクサしていた昨日1日が情けないぐらいだ。
タオルミーナ2
(ホテル・ベルベデーレからのタオルミーナ風景)

 9月7日のお昼過ぎ、こうしてワタクシはタオルミーナの国鉄駅に到着した。弱い雨が降り続いていて、エトナ山の姿は見えない。

 タオルミーナのネコも小雨に濡れているが、ま、このぐらいなら仕方ないか。昨日シラクーサで見かけたズブ濡れのネコ(昨日1枚目の写真参照)が可哀そうで、タオルミーナ駅前でふと涙が滲む。

 ヨーロッパにはマコトにありがちなことであるが、国鉄駅は海岸、街は高い山の上。ニース近郊の街「エズ」と同様、頻繁に襲ってくるサラセン海賊から身を守るために、1000年も1200年も前に作られた「鷲の巣村」の名残である。ここでもまたタクシーを利用した。

 宿泊は「ホテル・ベルベデーレ」というプチホテルの「離れ」の一室。「離れ」と言えば聞こえはいいが、どこか他のビルの中に1室を借りた別館であって、かつて予備校バブルの時代に生徒が溢れた予備校がよくやった手である。「新館」「東館」「別館」などであるが、今やホテル業界もその手を使いはじめたのかもしれない。

 その「離れ」からの眺めが、本日1枚目の写真と5枚目の写真。エトナ山はここからも見えず、弓なりの湾も小雨に煙って、まだ絶景とは言いがたい。息をのむ絶景は、どうやら明日の朝まで待たなければならないのかもしれない。

E(Cd) Karajan&Berlin:HOLST/THE PLANETS
E(Rc) Amadeus String Quartet:SCHUBERT/DEATH AND THE MAIDEN
E(Rc) Solti & Chicago:BRUCKNER/SYMPHONY No.6
E(Rc) Muti & Philadelphia:PROKOFIEV/ROMEO AND JULIET
E(Cd) Akiko Suwanai:DVOŘÁK, JANÁĈEK, and BRAHMS
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