Thu 161201 秋は雷雨とともに/有名店のクチコミ/テンパる(シチリア物語27) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 161201 秋は雷雨とともに/有名店のクチコミ/テンパる(シチリア物語27)

 南ヨーロッパはどこでも同じなんじゃないかと思うが、9月上旬のある日、突然カミナリが鳴って、思ってもみないほど冷たい雨が降る。

 雨は2〜3日降り続いて、ようやく雨が上がると、濡れたプラタナスの枯葉が、たくさん地面にはりついている。風が急に冷たくなって、海に入る人もぐっと少なくなる。そうやって、秋がいきなりやってくるのである。

 北イタリアの湖水地方なんかだと、「そろそろ今年は店じまい」「また来年会いましょう」という雰囲気になる。長期にわたって滞在していたオカネ持ちが次々と都会に帰っていき、コモ湖やマッジョーレ湖の湖畔の町は、すっかり閑散としてしまう。

 その雨が降る日を、もっともっと特定化すると、だいたい9月5日か6日、日本の小中学生がそろそろ夏休みの夢のような日々を諦めて、2学期が本格化するころである。「体育祭だ」「文化祭だ」と学校側が大騒ぎするのも、夏休みの怠惰な夢を忘れさせるためかもしれない。
ねこ
(シラクーサの冷たい雨に、野良猫が濡れていた)

 ニースで9月上旬を過ごしたのは、もう8年も前のことになるが、確か9月5日の深夜、海上に激しい稲妻が続けざまに走った。重いパンチのような雷鳴が遠い海から轟いてきて、そのせいなのか、ホテル中の電気が突然みんな消えちゃった。

 おそらくそれと連動して、ホテルの館内に非常ベルが鳴り響いた。深夜も深夜、午前3時のことである。いやはや、ビックリしたけれども、その雨を合図にニース一帯の海岸には一気に秋風が吹きはじめた。

 雨が上がった午後、列車に乗ってマントンの町まで出かけた。ニースの隣りがモナコ、モナコの隣りがマントン、マントンの先はもうイタリア国境である。

 あの午後のマントンの風景は、10年経っても忘れがたいものである。見るからに冷たそうな地中海に荒々しい波がざわめき、その海に入っていたのは、おそらく地元の青年が1人。彼が波と悪戦苦闘するアリサマを、カフェに居並んだジーサマやバーサマたちが、黙って無表情に眺めているばかりだった。

 昨年と一昨年の9月は、マルセイユに滞在していた。そして同じように諸君、9月5日前後なのである。前日まで真っ青に晴れ渡っていたお空に、「あれれ、今日はちょっと雲が多いな」と、思わず呟いてしまう程度の雲がわく。

 その数時間後には雲が空全体を覆い尽くし、風が急に強くなって、「おお、今年も来ましたね」という秋の最初の雨が降る。2015年は、確か海岸の店で生牡蠣を貪っている最中のことであった。

 窓の外を眺めていると、今朝まで青と緑のキレイに混じった穏やかな海が広がっていたのに、雲が空の3/4ほどを占めた段階で、海の色も暗い灰色に変わる。強風に吹かれて波頭が白く泡立ち、マルセイユの旧港からレスタック方面に向かうボートが大きく揺れていた。
傘
(シラクーサの家族連れ。傘1本に4人がギュッと固まっていた)

 秋の最初の雨は、こんなふうに降り出すのである。2016年、シラクーサの今井君としては、9月5日の昼、オルティージャ島の海岸でバーチャンの力泳に感動した時間帯が(スミマセン、昨日の続きです)、夏と秋との境目だったように思う。

 昨日の写真3枚目を見てくれたまえ。怯える若い男女の背後を、クロールで沖に向かうバサマの左腕に見とれると同時に、お空の灰色を映したイオニア海の波も、重苦しい冷たそうな色をしていることに気づくはずだ。

 雷雨が始まったのは、その夕暮れのことだった。雷鳴も雨も時を経るに連れて激しさを増し、一晩中シラクーサの海岸が稲妻に照らされていた。

 翌日になっても、雨はちっとも弱まらない。風も吹いて、雨は横殴りである。この雷鳴の中、散歩に出ていたらしい欧米人カップルが、頭から足の爪先までズブヌレになって帰ってきた。どういう趣味だか分からないが、ホテルのエントランスで2人、マコトに寒そうにブルブル震えていらっしゃった。
アルキメデ
(9月6日の昼食は、アルキメデス広場近くの地味な店を選んだ)

 というわけで諸君、このワタクシも9月6日は1日中、ホテルに閉じ込められることになった。クーラーの効きが悪くて、メゾネット形式の1階部分は冷えっ冷え、2階部分はあっつあつ、しかもその「あっつあつ」が、雨のせいで「むっしむし」な「あっつあつ」に変わった。こりゃやりきれませんな。

 仕方がないので、お昼過ぎ、せめてメシだけでもシラクーサらしいものを食べに、オルティージャの街に出た。まず入ろうと思ったのが、超有名店「Sicilia in Tavola」である。

 クチコミを見てみると「不快なレストラン」と書かれていたりするが、ま、その辺もクチコミというものの独特の反応。何かのハズミに冷たくされたりすると、
「自分中心の店でした」
「とっても不快な思いをしました」
「2度と行きたくありません」
ということになりやすい。

 かく言うワタクシだって、ついこの間パレルモのフォカッチャ屋でオバチャン従業員に叱られて、ションボリ帰ってきたばかりである。「よっしゃ、『不快』と言われていようが『アジア人に冷たい』と書かれていようが、いいじゃないか、Sicilia in Tavolaにチャレンジすんべ」と、勇み立ったのである。

 で、その店先でビシッと断られた。余りの大混雑に、オネーサマ従業員が完全にテンパっていらっしゃって、「予約がなければダメです」の一言。カンタンに追い払われてしまった。
ねじねじ
(シラクーサ「アルキメデ」の「イワシのフッジリ」。ねじねじパスタ、おいしゅーございました)

 どうも諸君、この「テンパる」というのが、クチコミが悪くなる原因みたいだ。そりゃ、誰だってテンパるさ。この間のフォカッチャ屋のオバチャンだって、何であんなに目が三角になってたかと言えば、要するにテンパッた結果だ。

 日本でマコトに評判の悪い「ワンオペ」みたいに、たった1人で店を切り盛りせざるを得なくなれば、人というものはたちまちテンパるのである。大事なのは職場環境の整備。経営者の側の問題だ。

 ま、仕方がない。確かに足の踏み場もない大混雑だ。オネーサンがテンパってたのもムリはない。何しろ普段は路上にたくさんのテーブルを並べて客をさばいている。雨で路上のテーブルが使えなければ、店内大混雑は当然だ。「いずれ晴れた日に捲土重来♡」と心に誓い、別のお店を探しに向かったのである。
ズッパ
(ムールにイカ、タコにエビで満腹。アルキメデの「ズッパディペッシェ」、おいしゅーございました)

 最終的に決めたのは「ARCHIMEDE」。アルキメデスどんの名前をそのまま屋号にして、クチコミの世界とは無関係に、地味に地道に営業していらっしゃる。ホントに旨いのは、このタイプのお店なのである。

 注文したのは、① イワシのフッジリ(本日の写真4枚目)② ズッパ・ディ・ペッシェ(本日の写真5枚目)。広い店内、6割ぐらいのテーブルが、落ち着いた雰囲気のオジサマ&オバサマで埋まり、しっとり落ち着いたいい雰囲気だ。

 ドタバタ走り回る店員もいない。「まだ注文とってもらってないんですけど」という抗議の声もない。従業員と客の言い争いもない。外は激しい雷雨、でもボクだけはこうして温かくて美味しいものを満喫している。

 そう思うと心からゆったりして、「9月6日、今年もやっぱりこの日に秋が来たんだな」と、ふと何か甘いデザートまで欲しくなるワタクシなのであった。

1E(Cd) Molajoli & Teatro alla Scala di Milano:LEONCAVALLO/I PAGLIACCI
2E(Cd) Solti & Chicago:HÄNDEL/MESSIAH 1/2
3E(Cd) Solti & Chicago:HÄNDEL/MESSIAH 2/2
4E(Cd) Bonynge:OFFENBACH/LES CONTES D’HOFFMANN 1/2
5E(Cd) Bonynge:OFFENBACH/LES CONTES D’HOFFMANN 2/2
total m5 y2026 d19731