Tue 161129 ションボリが続く/叱られた記憶/シラクーサに到着(シチリア物語25) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 161129 ションボリが続く/叱られた記憶/シラクーサに到着(シチリア物語25)

「オバチャン、ひどいよ、ひどいじゃないか(スミマセン、昨日の続きです。フォカッチャ屋の店先で、店員のオバチャンに叱られたシーンでございます)。間違えたのはオバチャンだよ。オバチャンが、他のお客のフォカッチャを、ボクのトレーに間違えて置いたのが悪いんじゃないか」

 今井君は幼い頃から超♡優等生で通してきたから、「叱られた」という経験がほとんどないのである。叱られることに対する免疫が出来ていない。いったん叱られると、そのトラウマはきわめて大きく、すっかりションボリ縮こまってしまって、2〜3日はマトモに食事も喉を通らない。

 だって、悪いのは絶対にオバチャンなのだ。今井君が差し出してじっと待っていたそのトレーに、他の人のフォカッチャやライスコロッケを全部置いたんじゃないか。それがみんな今井君の注文と同じものだったから、「おや、ボクのかいな♡」と納得して、テーブルに向かっただけじゃないか。

 諸君、ランチ時のイタリアのファストフードに気をつけたまえ。いくら頑張って「そっちが悪い」と言い張っても、絶対に聞いてもらえない。目を三角にも四角にも六画にもトゲトゲさせたオバチャンが、ヒタイにニョキニョキ生えた恐ろしげな角を振り立てて威嚇してくるのである。
夕景
(9月4日、ついに到着したシラクーサの夕景)

 いやはや、最後にこんなにギュッと叱られたのはいつだっけかな? 思い起こせば小5の秋、職員室の朝の掃除中に、音楽の原田先生がやってくるのを目撃。仲間たちを呼び集めて「原田が来たぞ♨」「原田が来たぞ♨」と、何故だかみんなで手を叩いて盛り上がった。

 そのとき今井君の真後ろに立っていたのが、校長の相沢謙一先生でござった。森鴎外「舞姫」の主人公の親友・相沢謙吉とは一字違いの先生である。この校長先生が、「原田」などと教師を呼び捨てにした今井君の言動を、しかと目撃していらっしゃったのだ。

「舞姫」のラストに、「ああ、相沢謙吉がごとき良友は、世にまた得がたるべし。されどわが脳裏に一点の、彼を憎む心、今日まで残りけり」とあるが、今井君の脳裏にも、相沢謙一先生を憎む心が一点、今日まで残っている。

 だって諸君、校長先生はその朝の職員会議の席上、「職員室の清掃中に教師の名前を呼び捨てにしていた児童がいた」と、報告なさったのである。職員室の清掃当番は、6年1組。その日は模範的児童として有名な今井君の班だったのだ。

 うぉ、「叱られた」なんてもんじゃない。「吊るし上げを食った」のである。以前も1度このブログに書いた記憶があるが、その日の午前中いっぱい、担任の木内先生はこの事件についての反省会を続けた。親も呼び出され、通信簿にも「言動に落ち着きが見られません」と書かれた。
ドゥオモ
(シラクーサのドゥオモ)

 うひょ、フォカッチャ屋の事件で、今井君の脳裏にあの日の思い出が蘇った。ションボリして、もう何にもやる気が起こらない。「ホテル・ワグナー」に預けておいた荷物を受け取り、パレルモのバスターミナルまで炎天下をトボトボ歩いていった。

 タクシーを呼んでもらう気にもなれない。バスタまで徒歩30分近い道のりだが、バス停で路線バスを待とうという気力も起こらない。思いつくのは、ただ歩くことだけだ。汗まみれでひたすらバスタ・パレルモを目指したのである。

 いしだあゆみという人の「ブルーライト・ヨコハマ」がヒットしたのは、もう半世紀近くも前のことであるらしい。荒井由実のソーダ水の中を貨物船が通っていったのも、ずいぶん昔のことであるが、それよりもっと前だというのだから恐れ入る。

「歩いてもー、歩いてもー、小舟のように」という歌詞を知らない人は今も少ないだろうが、一方の今井君は、歩いてもー、歩いてもー、全然バスターミナルに着く気配がないし、歩いても歩いても、叱られたションボリからちっとも立ち直れないのである。
教会
(ドゥオモの脇、カラヴァッジョの名画で有名なサンタルチア・アッラ・パディア教会)

 パレルモから目指すシラクーサまで、高速道路をすっとばして3時間半の道のり。2等辺三角形のシチリア島であるが、東の底辺を大きく迂回して、エトナ山の麓をかすめ、かつてサッカーの森本選手が活躍したカターニャの街のそばを通って、一路シラクーサを目指した。

 途中1回のトイレ休憩をはさんで、シラクーサに到着したのは、すでに午後5時を過ぎている。この段階ではいくらかションボリから立ち直って、チャンとタクシーにも乗れた。

 国鉄シラクーサ駅からクルマで5分、ちょうどボート大会決勝戦の真っ最中、大混雑のオルディージャ島に着いた。シラクーサは、古代の神殿の残る本島部分と、かつてアルキメデスが大活躍したオルディージャ島に2分される。

 6連泊する「グランドホテル・オルディージャ」は、その名の通りオルディージャ島の付け根のあたりにあって、一応は4つ星クラス。お部屋は、メゾネット形式で、1階部分がリビングスペース、2階部分がベッドスペースになっている。

 いやはや、この形式が要するに「失敗」であって、ドアのない階段だけで結ばれた1階と2階を、たった1台のエアコンで冷やそうとするから、室温を20℃に設定しても「2階は熱帯、1階は亜寒帯」の状況。寝室は全く涼しくならず、PCをカタカタやる1階は凍えるほど寒い。
お店
(シラクーサのドゥオモ正面、この店に入ってみようかなと思う)

 余りのことにムカついて、夕暮れの今井君は早速オルディージャ島内の散策に出かけることにした。島はグルリと1周しても1時間もかからない。アルキメデスが「ユリーカ!!」「ユリーカ!!」と絶叫しながら全裸で駆け抜けたあたりが島の真ん中である。

 アルキメデスのその逸話を、ワタクシは高校3年の英語の教科書で読んだ。高3のREADINGの教科書、そのLESSON 3である。浮力の法則を発見して「ユリーカ」を叫ぶシーンの他に、円周率を発見する物語も、高3の11月から受験まで、50回は音読した。

 円の面積は、その円に内接する六角形の面積と、円に外接する六角形の面積の、中間のどこかに存在するはずだ。2つの6角形を12角形・24角形というふうにどんどん円に近づけていけば、やがて円周率が求められると、アルキメデスどんは思いついた。

 10年ほど前に東大入試の数学の問題として出題され、「パターンの暗記じゃダメなんだ」「考える力を試す良問だ」とマスコミが大騒ぎしたことがあるが、いやはや、大昔の英語の教科書にヒントがとっくに掲載されていたとはね。音読というのは、こんな意外な場面でも役に立つのである。
貝殻のパスタ
(貝殻パスタ。余りに大量、かつ余りに平凡であった)

 アルキメデス広場のすぐそばに大聖堂ドゥオモがあり、ドゥオモの隣りにはカラヴァッジョの名画で有名な「サンタルチア・アッラ・パディア教会」もある。周辺の海岸はズラリと飲食店が立ち並ぶ。夏の夕暮れの波の音を聞きながら、人々はそろそろ夕食のテーブルにつきはじめた。

 こんなにいい雰囲気じゃ、お昼のフォカッチャ騒動から続いていた我がションボリ状態も、ほぼ平常に復帰。広島で生牡蠣40個を貪り、その晩に熊鍋をペロリと平らげたあの旺盛な食欲が蘇って、もう何でもいいからワシワシ勢いよく貪りたくなった。

 注文したのは、「貝殻のパスタ」と、ごく安い白ワイン1本。ことごとく貝殻の形をしたパスタが、平凡なトマトソースの中にウヨウヨしている。

 見た目は、うーん、ちょいと困った感じ。「旨いか?」と尋ねられれば、「ビミョー」と答えるしかない。ま、そういうマコトに平凡なシラクーサの第一夜なのであった。

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