Tue 161115 上品バーサマ/繁栄と衰退/ぼだっこと塩分天国/悪い子はいねが?/リキノスケ | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 161115 上品バーサマ/繁栄と衰退/ぼだっこと塩分天国/悪い子はいねが?/リキノスケ

 12月5日、青森から秋田まで南下し、「しじみレモンらーめん」と餃子でお腹いっぱい、お酒もずいぶん飲み干して、お昼すぎの今井君は心の底から上機嫌であった(スミマセン、昨日の続きです)。18歳の高3時代以来、マコトに久しぶりに秋田市内散策を満喫した。

 県庁前でバスを待っていると、秋田のバーサマが話しかけてきた。諸君、「秋田のバーサマ」というコトバからイメージするのは、いったいどんなバーサマであろうか。激しい秋田弁、ほとんど理解を絶したズーズー弁、金田一京助が狂喜乱舞しそうな世界。おそらくそんなところだろう。

 しかし、さすが中世から続く城下町。8世紀に築かれた秋田城からの伝統と文化の街。バス停のバーサマも、想像を遥かに超えたカルチャー・バサマであって、その口から溢れ出るのは上品な東京コトバ。20世紀世田谷の上流マダムが、21世紀の秋田にワープしてきたような、素晴らしい会話になった。

「ごらんあそばせ♡」「ごめんくださいませ♡」「…でございますのよ♡」。次々と繰り出される20世紀のマダム語が、今井君のドギモを抜いた。

 マダム語の音声を忠実に文字化すれば、「ごらんあすあせ」「ごうぇんくらさいわせ」「…でございわすろよ」。昭和中期には、Mの音はWに、Bの音もWに音便化して、奇妙なほど鼻に抜ける言語が上品とされたのである。
ぼだっこ
(秋田限定「ぼだっこ」オムスビ。塩鮭の塩辛さがたまらない)

 秋田のバス停バーサマは、今井君の視力の良さに感激しておられた。100メートル離れたバス停に停車したバスの行き先表示を、ワタクシが見事に読み取ってみせると、「あーら、素晴らしい。わたくしも昔は視力がよかったんでございますよ。今日は眼科医ではなく、歯科医の診察を受けてきたんでございます」とおっしゃる。

 その場合も「すばらしい」は「すわらしい」、「むかし」は「うかし」、「ございますがね」は「おざいあすあね」。MとBとGは出来るかぎりソフトに発音するのが、昭和の上品バサマだったのである。

 上品バサマをバスに残して、かつての中心街を散策していると、相変わらず「街の寂れたアリサマ」に愕然とせざるを得ない。百貨店タイプの大型店舗が、昭和の時代には7軒も立ち並び、土日祝日には真っ直ぐ歩くことも難しかった「広小路」であるが、今や通行人の影もマバラである。

「7軒って、ウソだろ?」。今や秋田の若者は今井君のコトバさえ信じない。しかし確かに7軒、① 本金デパート ② 恊働社 ③ 木内デパート ④ 秋田プラザ ⑤ 長崎屋 ⑥ 丸三、そして駅前の⑦ ジャスコ。6フロアから10フロア規模の大規模店舗が軒を並べ、広小路には常に人が溢れていた。

 しかし、昭和の秋田を代表する百貨店だった「木内」も、今や1階のワンフロアに細々と衣料品を並べているだけ。かつて屋上に遊園地があって、県内全域のママとコドモたちの憧れの的だったことなんか、ジーサマとバーサマの記憶にしか残っていない。
木内
(昭和秋田の繁栄を象徴した「木内百貨店」。今や見る影もない)

 しかしまあ諸君、嘆いてばかりいても、一歩も前に進めない。とりあえずワタクシは、今日の写真の1枚目「ぼだっこ」のオムスビあたりに、秋田復活のキッカケを感じるのである。

「ぼだっこ」とは、簡単に言ってしまえば塩鮭のこと。紅鮭を強烈な塩漬けにしたヤツである。これを火にかけると、紅色の魚肉の上に白く塩の層が浮き出してくる。「塩分を控えめに」とおっしゃるお医者様がみたら、白眼を血走らせて「いけませんね」とお怒りになりそうなシロモノだ。

 秋田の人は、塩辛いのがヤタラに好きなのである。ナスの漬け物でも、「こりゃ塩のカタマリですか?」と呻くぐらいに塩辛い。塩鮭も、「塩が噴き出すぐらいでないと塩鮭とは呼べない」と言い放つ。

 要するにここは塩分天国であって、「塩分控えめ」などと発言すれば、まず確実に失笑される。名物しょっつる鍋、名物きりたんぽ鍋、名物ハタハタ田楽、全てが塩マミレ、醤油マミレ、味噌マミレ。そういう塩辛い食品を、大量の日本酒でキレイに洗い流す、そういう文化である。
内陸縦貫鉄道
(秋田内陸縦貫鉄道。角館発、阿仁合ゆき。モトモトは「鷹角線」、北の終着駅・鷹巣の「鷹」と、角館の「角」をつなげて「ようかくせん」と呼んだ)

 もしもこの半世紀、かつてあれほど繁栄した秋田が見る影もなく衰退したとすれば、ああいう乱暴なほど塩辛い文化を捨て、塩分控えめな優等生の言うことばかり傾聴したのが、原因の一端だったのではないか。

 テレビを見ても新聞を読んでも、21世紀の日本は「優等生文化」。「みんなで良い子になろう文化」「悪い子は追放文化」である。あれもいけません、これもいけません、いい子になりなさい。塩分は控えめに、お酒も控えめに、コトバも行動も控えめに。そうやって何でも押さえつけられる。

 今井君なんかは「イケナイ男子」「悪い男子」の典型であって、小学生の時代から「帰りの反省会」で叱られる典型的男子であった。「今井君が…してました」と告げ口される頻度が、あまりにも高かったのである。

 通信簿の通信欄には、「クラスの模範になってほしいのですが、相変わらず言動に落ち着きが見られないのが残念です」と書かれた。優しい担任の先生が、そんなキツいことを書くのである。「相変わらず」という副詞に、先生の苛立ちが目いっぱい表現されているじゃないか。

 しかし諸君、今井君は今もなお、優等生文化なんかキライである。白河の清きに魚の住みかねて、元の田沼の濁り恋しき。豊穣な文化は、優等生っぽく澄みきった清流より、どろどろ濁って富栄養化した沼沢地に花咲くものなのだ。
土崎曳山祭り
(土崎・曳山祭りのポスター。ぼだっこから吸収した塩が、人々の汗腺から白く噴き出すほどの豪快な祭りである)

 ナマハゲどんたちは口々に「悪い子はいねが?」と叫ぶのであるが、もしも悪い子がオウチの中に隠れていたら、ワタクシなんかは思わず「よしよし、もっとやりたい放題やりたまえ♨」「もっと悪い子になりたまえ」と背中を押して上げたいのである。

 せっかくエネルギッシュな悪い子を引きずり出して、「いい子になりなさい」「優等生になりなさい」と説教し、言うことを聞かないと叱りつけ、脅しに弱い優等生に変えてしまう。子供時代に優等生だったヒトビトが設計した21世紀の教育は、そんなシステムになっているんじゃないか?

「悪い子はいねが?」と尋ね、もしも悪い子がいたら、その芳醇なエネルギーをなくさないように応援し続け、「もっとエネルギッシュに、もっと好き放題に、どんどんそのまま豪快に伸びていけ」、男子でも女子でもそう応援してあげたいのである。

「ぼだっこ」は、そういうエネルギーに溢れた食べ物である。牡丹のように美しい紅鮭だから、「ぼたんこ」。それが転訛して「ぼだっこ」なわけであるが、これが一切れあれば、丼飯3杯ぐらい平らげるのは容易である。

 かつて全国制覇58回を数えた能代工バスケットの奇跡も、花園で優勝15回の秋田工の奇跡も、ともに公立高校。この塩辛いぼだっこでナンボでも平らげた丼飯に、その強烈な強さの秘密があったんじゃないか。おお、ぼだっこ。今も相変わらず強烈な塩辛さである。

 そういう塩辛さから、ユネスコ無形文化遺産「土崎の曳山祭り」も生まれたし、「農聖 石川理紀之助」などという人物も出た。平田篤胤・佐藤信淵・小田野直武に次ぐ近世秋田の偉人であるが、ちょうどいま秋田で石川理紀之助をヒーローにしたミュージカルを上演中。諸君、秋田まで見に行ってきてくんろ。
リキノスケ
(秋田で上演中のミュージカル「リキノスケ、走る」。諸君、見に来てくんろ)

 石川理紀之助どんは、朝3時に板を打ち鳴らして村人の起床を促すのが日課。夜明け前から農業に専念するように指導し、貧窮した農村の再建に尽力した。ある吹雪の朝、リキノスケがいつもどおり3時に板を鳴らし、雪にまみれてオウチに帰ると、妻が冷笑したのだという。

「つくづく馬鹿な人ねえ、あんたは。こんな吹雪の朝に板なんか鳴らしても、誰も聞いてやしないわよ。起きて農作業なんかする人は、だーれもいませんよ」

このコトバに、理紀之助どんは以下のように答えたんだそうな。
「なるほど、そうかもしれないねえ。でも私は、村の人たちだけを起こすために板を打ち鳴らしているのではないのだ。五百里離れた九州の人にも、五百年後の人にも、やっぱり目を覚ましてもらいたい。そう願って、あの板を打っているのだ」

 おお、何とスバラシー。今井君は感激するのである。ワタクシのブログだって、冷たく笑いとばす人は少なくない。
「毎日そんなに長い文章を書いても、21世紀の日本人は読書が苦手。誰も読みはしませんよ」
そう言って失笑されても、塩辛いぼだっこ♨今井は、リキノスケどんと同じように答えようと思う。

「そうかも知れませんね。でもワタクシは、現代日本の受験生のためにだけ書いているのではありません。40歳代や50歳代の壮年のヒトビトにも、25世紀や30世紀のヒトビトにも、読んでもらいたい。そう思って書いているのです」
ま、そんなところである。

1E(Cd) Blomstedt & Staatskapelle Dresden:BRUCKNER/SYMPHONY No.7
2E(Cd) Wand & Berliner:BRUCKNER/SYMPHONY No.8 1/2
3E(Cd) Wand & Berliner:BRUCKNER/SYMPHONY No.8 2/2
4E(Cd) Wand & Berliner:BRUCKNER/SYMPHONY No.9
5E(Cd) Ricci:TCHAIKOVSKY/VIONLIN CONCERTO・PAGANINI/CAPRICES
total m75 y1945 d19650