Tue 161108 ネグラを求めて三千里/シュティフター「石さまざま」/豪華な寿司セット | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 161108 ネグラを求めて三千里/シュティフター「石さまざま」/豪華な寿司セット

 こうして諸君、11月28日の今井君は、増毛からの帰途についた。思えば、長い長い帰途である。留萌本線の臨時列車が増毛を出るのが午後2時前。深川・札幌・新千歳・羽田空港を経由して、渋谷区のオウチに到着するのが午後10時半。8時間超をかけて、ようやくネグラに潜り込む。

 その長い道のりを思えばメマイがするほどであるが、だからこそ諸君、腹ごしらえはキチンとしなきゃいけない。腹が減ってはイクサが出来ないけれども、イクサなんかしないワタクシも、腹が減ってはネグラにたどり着けない。

 人間としてもケモノとしても、イクサなんかどうでもいいから、とにかくネグラにたどりつくことだけは常に最重要。放浪でも、旅でも、冒険でも、最終目標は常に本来のネグラへの帰還である。

 思えば諸君、マルコ・ポーロもコロンブスも、ザビエルもマゼランもバスコ・ダ・ガマも、旅人はみんな最初ネグラを忘れて遥かな目的地を目指し、しかし最後の最後にはネグラのみに憧れて進み続けるのである。

 8時間先のネグラの、何と懐かしいことよ。100年にわたって留萌本線の終着駅であり続けた増毛を出発、右の車窓に荒れる日本海の荒波を眺めながら、今井君の復路♡8時間がはじまった。
ましけ
(廃止が迫る「ましけ」駅にて)

 すでに増毛の駅で甘海老の味噌汁をすすった。甘海老5匹は頭から尻尾まで無惨に噛み砕かれて、我がポンポンの奥に収まった。たちまちコンドロイチンだかグルサコミンだかが体内に吸収されたらしくて、膝や腰の関節も、灰色の脳細胞の動きも、ギュンギュン快調になってきた。

 こうなれば、今井君の肉体が次に欲するのは、何と言っても酒類である。ついさっき増毛の「国稀酒造」で日本酒約4合を購入したばかりであるが、カバンの中には飲みかけのウィスキーが入っている。むかしむかしの酔っぱらいが必ずポケットに忍ばせていたサントリー「角」の小瓶である。

 諸君、誤解しないでくれたまえ。ワタクシは決して酔っぱらいではないし、「角の小瓶が手放せない」などという情けない事態には、決して至っていない。これはあくまで用心のために持参したものである。何しろ冬の北海道だ。いつ何時「どうしても酒で肉体を温めなければならない」という危機に陥るかもしれない。
富田屋
(留萌本線・増毛駅前、「旅館・富田屋)の勇姿)

 シュティフターという19世紀オーストリアの作家をご存知だろうか。フルネームはアーダルベルト・シュティフター。美しい短編が持ち味の作家であって、代表作は短編集「石さまざま」。Mac君みたいに「医師さまざま」などとお医者様を上から目線で眺めていれば、医学部を目指す受験生の嘲笑が待っているだけだ。

「石さまざま」は、石にちなんだ短編を集めた短編集。「御影石」「花崗岩」「石灰石」「電気石」「水晶」「白雲母」など、どれも文庫本で30ページ程度の短編だから、読書が苦手な人でも読みやすい。岩波文庫でどうぞ。

 中でも「水晶」は、誰が何と言ってもシュティフターの代表作であって、幼い兄と妹がアルプスの雪山で迷子になり、大寒波の一昼夜を彷徨してついに生還するお話。出掛けに持たせてもらった熱い濃厚なコーヒーを分けあって、それが生還の決め手となる。

 熱いコーヒーももちろん大切だが、中年の今井君にとっては濃いウィスキーも悪くない。何かのハズミで列車が雪山の真ん中で立ち往生したら、乗客の皆様でウィスキーを分けあい、お互いに身体を温めながら運転再開を待とうじゃないか。

 そういうわけで、「角の小瓶」を何故か2つ、緊急事態に備えて札幌のコンビニで購入しておいた。しかし長旅の帰路、今度はだんだん荷物が重くなってきた。
るもい
(留萌駅。しばらくはこの駅が終着駅の役割を担う)

 荷物が重くなったら、やっぱり軽くすることが急務。しかも、どうやら雪も「小雪」というレベルに収まって、小雪と言えば15年も昔のドラマ「君はペット」を思い出し、10年前には他でもない、小雪さんこそまさに「サントリー角瓶」のCMをヒットさせた御仁であるが、ま、とりあえずコイツからカラッポにしようじゃないか。

 深川で留萌本線に別れを告げ、函館本線の特急「スーパーカムイ」に乗り換えて札幌に向かう。札幌のホテルに預けておいた荷物を受け取り、再びJRのホームに戻って、「快速エアポート」で新千歳空港へ。この頃には、増毛で購入したばかりの「国稀」も、すっかりカラッポになっていた。

 まさに「目にも止まらぬハヤワザ」なのであるが、新千歳空港に到着する頃には、今度はお腹がグーグー言いはじめた。人間の肉体とは、たいへん自分勝手に出来ている。お酒を求めてブースカブースカ、オーストリア作家まで持ち出して騒いでいたかと思えば、今度は「腹が減った」とノタマウのである。

 こりゃ致し方ない。腹が減ってはイクサが出来ず、腹が減ってはネグラにも戻れない。ならば諸君、せっかくの北海道だ。新鮮な魚介類ぐらい、ワシワシ貪って帰りたい。さすがに増毛の甘海老5匹じゃ、クマのポンポンは不平を言い続けるのである。
国稀
(函館本線の特急の中で、増毛の銘酒「国稀」を楽しむ)

 選んだのは、ちょっと奮発してお寿司屋さん。ただし時間があんまりなかったから、カウンターに座ってクダを巻くような行動は遠慮して、セットメニューの中で一番贅沢なヤツを貪って帰ることにした。

 それが、今日の写真の5枚目である。メニューにも「1.5人分」と断ってあって、カニはドデカイし、マグロもイカもウニもイクラも、キラキラ光って旨そうだ。コイツにサッポロクラシックやら超辛口の日本酒やらを追加すれば、今年最後の北海道の旅に、もう悔いる余地は何も残っていない。

 大満足で周囲を見回してみるに、お隣のお隣のテーブルにやってきた20歳代カップルが、なかなか初々しくていい感じだ。「せっかく北海道の旅なんだから思い切って贅沢しようよ♡」と、十分に覚悟してお寿司屋に入ってきた様子である。

 彼氏がイクラ丼、彼女がウニ丼。彼氏が彼女を「オマエ」呼ばわりするのがオジサマとしては気に入らないが、まあ要するに余計なお世話であって、彼女がオマエ呼ばわりを容認してウニ丼を満喫しているなら、それでいいのである。

 この寿司屋は、ウニ丼もイクラ丼も酢飯ではないらしい。丼が酢飯の店もあって、カップルの会話も「酢飯がいいか普通のゴハンがいいか」で盛り上がっている。

 今井君は断然ふつうのゴハン派。ウニやイクラと一緒にメシを搔き込む時、鼻から酸っぱい酢のニオイが容赦なく入り込んでくるんじゃ、安心して丼を楽しめないじゃないか。
豪華お寿司セット
(新千歳空港で豪華な寿司セットをいただく。おいしゅーございました)

 そんなことにまで聞き耳をたてているんだから、そろそろワタクシの疲労も限界に近づいていたのだ。にもかかわらず、この時間帯からワタクシはラウンジでブログ原稿を書き始めた。

 ラウンジで30分。それでも原稿は半分しか書き上がらない。仕方がない、ヒコーキの座席に座ってから30分。ヒコーキでも御弁当が出るのだが、何しろたった今1.5人前のお寿司を平らげたばかりだから、丁重に御弁当をお断りして、ひたすらPCのキーを打ち続けた。

 こうして、羽田空港に到着したのが21時すぎ。新宿行きのリムジンバスはこの夜もまた超満員であったが、幸いなことにブログ原稿はヒコーキの中ですっかり完成していた。

 こういうふうで、昨年に続く第2次留萌本線の旅は、無事に終了したのである。あれからすでに4日が経過。これを書いている時点で12月2日の夜である。明日からワタクシは青森の旅に出る。

 現時点の青森は、北西の季節風が吹き荒れ、今年一番の豪雪に見舞われているらしい。しかし任せてくれたまえ。青森は、故郷・秋田のお隣だ。ちょっとやそっとの暴風や豪雪にへこたれる軟弱オジサマとは、ワタクシはワケが違うのである。

1E(Cd) Incognito:WHO NEEDS LOVE
2E(Cd) Incognito:100°AND RISING
3E(Cd) Incognito:LIFE, STRANGER THAN FICTION
4E(Cd) Incognito:FUTURE REMIXED
5E(Cd) Incognito:ADVENTURES IN BLACK SUNSHINE
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