Wed 161026 広島 ☞ 大阪、列車の旅/文楽を思う/今ごろは半七さん/クマ鍋を貪る | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 161026 広島 ☞ 大阪、列車の旅/文楽を思う/今ごろは半七さん/クマ鍋を貪る

 こうして諸君、11月13日のワタクシは(スミマセン、昨日の続きです)、お腹の中に生牡蠣40個と駅蕎麦を満載して、広島から大阪に向かったのである。

 宅急便ならぬ「カキ急便」のアリサマであるが、広島発14時、新大阪着15時半。予定している国立文楽劇場の人形浄瑠璃は16時開演。カキ急便♡今井君にとって、こういうギリギリの移動スケジュールはまさにお手のもの。「軽く間に合うべ♨」と、余裕の表情で東に突き進んだ。

 広島から大阪、大阪から広島。山陽新幹線が出来るまでは、その移動に5時間もかかった。今井君の記憶力をもってしても、山陽新幹線開業以前のことは、さすがにモヤモヤして明確にならないが、5時間と言えば今や東京からマニラより遠い。

 昔のヒトビトのご苦労考えると、粛然とするほどである。広島 ☞ 三原 ☞ 福山 ☞ 倉敷 ☞ 岡山 ☞ 姫路 ☞ 明石 ☞ 神戸 ☞ 大阪。山陽本線の主な駅を思い浮かべれば、その旅に5時間も6時間もかかった日々も、「なるほど」と納得するのである。
クマ
(11月13日、大阪・玉造でクマ鍋を貪る。お店の人にお願いして、赤身を多くしてもらった)

 1960年代の時刻表を本棚の隅から掘り出してきて広げてみるに、特急・急行・準急が各種花盛りだったのである。夜行列車もビュンビュン走っていて、当時の山陽本線は、さぞかし賑やかだっただろう。

 まず昼間の特急が「かもめ」「みどり」「へいわ」。諸君、「へいわ」であるよ。おお、時代のカホリがしますな。昼間の急行が「山陽」「安芸」「筑紫」「ぶんご」「さつま」「宮島」。当時は「準急」なんてのも全盛で、広島—京都間を「ななうら」が呉線経由で走っていた。特急も急行もすべて気動車だったと言うんだから、ビックリするじゃないか。

 夜行列車も全盛期。「あさかぜ」「さくら」「みずほ」「はやぶさ」。後に新幹線の列車名に変わる名門の夜行特急が、瀬戸内海の夜の闇を快走していた。

 夜行急行となると、その種類の豊富さに唖然とする。「霧島」「日向」「ひのくに」「雲仙」「西海」「玄海」「天草」「平戸」「音戸」「桜島」「はやとも」。おやおや、これ以上思いつくのが困難なほど、多様性というかダイバーシティというか、豊穣の世界を形成していたのである。当時の広島駅や大阪駅の賑わいが伝わってくるようじゃないか。

 今井君は別に鉄道マニアではないし、昔の鉄道のことなんか全然知らないが、しかし諸君、JR北海道の危機のニュースを聞くにつけ、50年前の日本の熱さをたまらないほど羨ましく思うのだ。近代日本を熱くしたのは鉄道であって、鉄道なしに日本は再びあんなに熱く燃え上がることはないと信じる。
チケット
(2016年錦秋文楽大阪公演、チケット)

 そんな寂しい慨嘆の中、今井君の乗せた新幹線は1時間半で新大阪に到着。インターコンチネンタルホテルにチェックインした後は、大阪日本橋の国立文楽劇場にタクシーを走らせた。

「錦秋文楽公演」と名づけられた本日の文楽は、
  ① 忠臣蔵
  ② 艶姿女舞衣
  ③ 勧進帳
の3本。1人だけ残った「切れ場語り」豊竹咲大夫は、①のクライマックスに登場する。

 諸君、鉄道に劣らず文楽もホントに寂しくなった。ホンの30年前までは、押しも押されもしない横綱クラスの切れ場語りが2人、竹本越路大夫と竹本津大夫が文楽の屋台骨を支えていた。

 大関クラスにも、竹本文字大夫(後に住大夫)。竹本織大夫(後に綱大夫 ☞ 源大夫)、竹本伊達大夫、豊竹十九大夫、豊竹嶋大夫がズラリと揃って、「文楽はまだ50年は安泰だろう」と、ファンはみんな安心していられたのである。

 しかし2016年、義太夫を語る大夫さんは、もうみんな引退してしまった。ホントにもう誰も残っていない。今の横綱格・豊竹咲大夫を追うのは、お弟子さんの咲甫大夫と、竹本津駒大夫。一応「若手」ということになっていても、実年齢を見ればなかなか若手と言い切ることもできない。
花道
(国立文楽劇場にて。「勧進帳」のために花道が設けられた)

 それでも、② 艶姿女舞衣の津駒大夫はなかなかの健闘ぶりだった。「今ごろは、半七さん、どこでどうしてござろうぞ」。数ある浄瑠璃の中でも最も有名なクドキを、見事に語ってみせた。

 あらすじは、やっぱり文楽であって荒唐無稽。大坂の酒屋・茜屋の息子半七は、お園という妻がありながら、馴染みの遊女「三勝(さんかつ)」と恋仲。お通という子供までもうけ、家に帰らない。三勝を奪い合って、「善右衛門」という名の悪人を殺してしまう。

 それ以上の詳しいことは、まあ諸君、グーグル先生に相談だ。一度も夫と添い寝の経験のないお園は、それでも半七の身を案じる。そのクドキが
「今頃は半七さん。どこでどうしてござろうぞ。去年の夏の患いに、いっそ死んでしもうたら、こうした難儀はせぬものを」
世話物で最も有名な一節だ。津駒大夫の健闘が光っていた。

 ③の「勧進帳」は、この数年の文楽でも最高の出来ばえ。昨年「吉田玉女」から「吉田玉男」を襲名したばかりのニュー玉男が、弁慶を扱って八面六臂の大活躍を見せた。左の黒子も足遣いの黒子も、出遣い。「3人出遣い」と言ふものを、初めて目撃した。

 やっぱり諸君、名前が人を育てるのであって、普段の文楽にはない花道を、歌舞伎よろしく六方を踏んで引き上げるニュー吉田玉男の弁慶は、40年に及ぶ今井君の文楽鑑賞歴でも出色の迫力。「大当たり!!」の歓声も飛んで、「よし、もう20年は文楽に付き合おう」と決意させるに十分だった。
看板
(大阪玉造「小原庄助」。大阪城・真田丸のあたりである)

 こうして諸君、20時半に文楽は終了。感動&感激の舞台について熱く語り合うジーサマ&バーサマとともに劇場を出ると、11月中旬の大阪を吹き抜ける風は思いのほか冷たい。学部時代から長い付き合いの友人とともに、「クマ鍋でも貪りに行くべさ」と、爆笑しながらタクシーに乗り込んだ。

 クマ鍋屋は、JR大阪環状線「玉造」の駅の近くである。その名も「小原庄助」。民謡「会津磐梯山」の中で「朝寝・朝酒・朝湯が大好きで、それでシンショーつぶした、ああ、もっともだ&もっともだ」と歌われる天下の怠け者を看板にした店である。

 何を隠そうこの今井君も、朝寝・朝酒・朝湯を愛することについては、小原庄助さんなんかに引けを取る気は一切ない。諸君、怠惰はマコトに楽しいものであり、怠惰なしに人生の妙味は理解できない。

 そんな怠惰な人間でも、何が何でも1年に1度貪らなければならないのが、クマさんのお肉をタップリ入れたクマ鍋である。今井君たちがあんまり貪るものだから、今やクマ鍋は隠れた大ブーム。クマのお肉が足りなくなるほどである。
クマ追加
(クマ肉を追加。これが1人前である)

「クマはアブラ身を味わうものです」という常識にも関わらず、今井君は「なんのなんの。クマは赤身が一番の美味」と発言して憚らない。ツキノワグマの固い赤身肉を、構わずワシワシ噛みしめれば、素晴らしい日本の秋の味が滲み出してくる。

 この深い味わいは、ナラやカシやシイの固い固いドングリのエキスが肉に化したものなのである。これ以上にギュッと夏のお日さまの栄養分を吸いつくした肉が、果たして考えられるだろうか。

「あまーい」「やわらかーい」「とけちゃった」。グルメ番組のタレントさんたちが、20年も30年も絶叫し続けている類いの、そんな軽薄な肉ではないのだ。いちいちハンパな甘みなんか感じていられるかい? ワシワシ。ワシワシ。こりゃアゴの肉がますます鍛えられそうだ。

 そんな1日だった。生牡蠣40個、駅の肉蕎麦ズルズル、文楽を満喫して、クマ鍋をワシワシ。最後は心斎橋のバーでシェリーを数杯飲み干して、「何だか、何故だか、どうしてか、今井君は体力も精神力も絶好調!!」と叫んでから、ホテルのあったかベッドにギュッと潜り込んだのである。

1E(Cd) Eschenbach:MOZART/DIE KLAVIERSONATEN 4/5
2E(Cd) Eschenbach:MOZART/DIE KLAVIERSONATEN 5/5
3E(Cd) Böhm & Berliner:MOZART 46 SYMPHONIEN 1/10
4E(Cd) Böhm & Berliner:MOZART 46 SYMPHONIEN 2/10
5E(Cd) Böhm & Berliner:MOZART 46 SYMPHONIEN 3/10
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