Fri 161014 コンコルディア神殿/ヘラ神殿/ハチぶんぶん/犬とヌシ(シチリア物語19) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 161014 コンコルディア神殿/ヘラ神殿/ハチぶんぶん/犬とヌシ(シチリア物語19)

「アグリジェントを見ずして、シチリアを語るべからず」。アグリジェントはマコトに高飛車であって、さすがギリシャ神殿が林立するユネスコ文化遺産の町だ。パレルモもタオルミーナもトラーパニも、寄せ付けない風格を自ら感じているようである。

 しかしワタクシなんかは、「どうだい、もう少しだけ努力してみたら?」と、タメイキ混じりの助言をしてあげたいのである。ここまで行き着くにもたいへんな苦労をしたし、チケットを購入して神殿の内部に闖入するのも、ちょっとやそっとの苦労ではなかった。

 今のまま放置すれば、チケット売り場にも「中国の皆さま大歓迎」の大きな貼紙があった通り、大型バスの大規模団体ツアーしか来なくなっちゃうんじゃなかろうか。

「修復しすぎたんじゃないか」という点も、心配でないこともない。4年前にアテネで堪能してきたギリシャ遺跡に比較して、何だかテーマパークみたいな雰囲気。思わず向こうからディズニーリゾート並みの乗り物でも走ってきそうな勢いである。
コンコルディア
(アグリジェント、コンコルディア神殿。紀元前5世紀ごろの建造。この保存状態は驚異的である)

 観光客のムードも何となく緩みがちである。一番人気だったのは、神殿のそばに横たわった巨大な男子の裸体像である。おそらくこれは天使のつもり、つい最近の制作と思われるが、余りに露わな裸体なので、全てが思い切り露わ。写真は撮ったが、掲載を遠慮しなければならないほど露わなのである。

 青銅製のこの作品に、まずオヤジとオニーチャンが反応する。オヤジがやたらにハシャぐものだから、オバサマやオネーサマもおそらくやむを得ず激しく反応。そこにはそれなりに下世話な世界が生まれ、神聖かつ高尚な神殿域に相応しくない哄笑が湧き上がる。

 いやはや、これじゃ古代ギリシャのソクラテスもエンペドクレスも、アルキメデスもヒポクラテスも、「いやはや」「いやはや」と頭でも掻くしか、困惑のやり場がないじゃないか。ま、「おおらか」というコトバでここはゴマかしておくことにする。

 男子裸体像から神殿の谷をさらに東に進んでいくと、それこそ余りに見事な「コンコルディア神殿」の勇姿が現れる。ローマ帝国崩壊後の6世紀以降は、ペテロ&パウロの教会に転用されていた。それが高い保存状態の理由なんだそうな。

 何しろコンコルディアだ。もともとは「和解」と「平和」と「調和」の女神の神殿である。フランス語の「D'accord」、イタリア語の「D'accordo」、スペイン語の「De acuerdo」、「わかりました」「了解」を意味するロマンス語をたどれば、全てこの女神に直結する。
ヘラ
(アグリジェント、ヘラ神殿)

 神殿の足許には、岩が四角く掘られた浴槽のようなものがズラリと並んでいる。この間チェファルーの海岸で見た「中世の洗濯場」の跡とソックリである。神殿の足許で洗濯に励んだのかい? それとも殉死とか殉教の跡なのかい? そのへんの説明は全く見られない。

 若い諸君、早く立派な考古学者になって、アグリジェントに向かってくれたまえ。若い学究のための研究の対象なら、世界中あらゆるところにナンボでも転がっているはずだ。

 さらに東に徒歩15分あまり、降り注ぐ太陽の光に熱々に熱せられた「ヘラ神殿」がある。正式名称「ジュノーネ・ラチニア神殿」。これもスゴいや。アテネの本家本元、元祖パルテノン神殿を凌ぐほどの壮麗な神殿である。

 神殿もスゲーけれども、神殿から南の方角、緩やかな小麦畑の坂を下った向こうにある真っ青な海の色もまた、元祖パルテノン神殿も蒼ざめるほどの絶景である。紀元前400年代、ギリシャ文明の本体はアテナイやスパルタを離れて、アグリジェントをはじめとするシチリアに移動していたんじゃあるまいか。
チュニジア
(アグリジェント・ヘラ神殿からイオニア海を望む。対岸はチュニジアである)

 さて諸君、この段階で午後3時を過ぎた。炎天下の神殿めぐりは、予想以上に体力を奪うものである。ましてや諸君、今朝は朝っぱらからパレルモを出発し、3時間もバスに乗って体力を消耗した。朝メシも昼メシもなし、ポンポンに入れたのは、さっきの売店のビアとチップスだけである。

 とりあえずここまでで、アグリジェントについては「見るほどのものは見つ」と言っていいだろう。平知盛どんの真似をして、彼は彼で壇ノ浦にどぼん。ワタクシはワタクシでビールにどぼん。そういう結末にしても良さそうだ。

 入ったのは、ヘラ神殿の真下の野外カフェ。ほとんどの観光客がこのへんで疲れ果て、ビアとスナックで一休みするようである。今井君がビアとスナックにどぼんとやるのも、別に責められる言われはない。

 ただし諸君、南欧の野外カフェには注意が必要だ。「うぉ、食い物か?」「うぉ、水分か?」と目ざとく見つけた虫クンたちが、テーブル目がけて殺到してくるのである。

 特に危険なのは大型のハチ君たちである。そりゃハチ君だって、この炎天下だ、魂はひたすら水分を求め、「何が何でも水分」「水分以外は一切興味なし」「ビア、ビア、ビア♡」「意地でもビア」という、危険な欲求と欲望に身を固めている。
ヤギ
(アグリジェント、神殿の谷のヤギさん。螺旋状のツノが自慢であるらしかった)

 黄色いシマシマ模様の全身をさらに尖鋭化させ、「どうしたって水分」「人間の皮膚をチクッと突き刺してでも水分」と、巧妙にこちらのスキを狙っている。この勢いには、外見はマコトに野性的な欧米男子も欧米女子も、ちっともかなわない。お互いに苦笑の顔を見合わせて、スゴスゴ退散するだけである。

 その点、日陰のヤギさんたちなんかは、「ハチの来襲なんかで、何をそんなに大騒ぎしてるんでございますか?」と、泰然自若とした表情を崩さない。

 泰然自若としているのは、その態度や表情ばかりではない。クルクルおかしな螺旋を描いたそのツノの模様まで、「アタマ悪いんじゃないか」「鈍感なだけじゃん」と思わせる落ち着いた笑顔のまま。きっとスッゴく臭い胃袋の中身を、いつまでも反芻しつづけていらっしゃるのだった。

 こういうふうで、炎天下のアグリジェント散策は終わりを告げた。ガイドブックによれば、ヘラ神殿からハチだらけの小径を北上、その先に「デイ・ディンプリ」というシチリア料理の店があるらしい。「神殿の谷を見下ろしながらのランチは最高」とあるが、さすがにもうハチはカンベンしてほしい。
駅舎
(イタリア国鉄、アグリジェント駅。シエスタの時間帯、硬質に静まり返った駅の情緒がたまらない)

 午後3時半、イタリア国鉄のアグリジェント駅を散策。シエスタの時間帯の静まり返った駅舎に、遥かかなたからの長距離列車が到着、この雰囲気はたいへん奥ゆかしい。ただし、パレルモ行きの列車は3時間も後の発車予定。今日はやっぱりバスで帰るしかなさそうだ。

 午後4時すぎ、例のバスターミナルからバスに乗り込んだ。相変わらず「いかにも不良」な感じの少年たちがタムロして、ターミナルの治安は今ひとつである。

 どのバスがどこから出るかも、実際にバスが来てみないと、地元の人にも分からない。しかしそういう混乱ぶりも、いかにもシチリアらしくていいじゃないか。

 パレルモに到着したのは、すでに7時近い薄暮の時間帯である。ホテルまでの道すがら、今晩もまた「犬を3匹連れたオジサン」に遭遇。パレルモ滞在6日、お目にかからなかった日は1日もない。

 いつでも落ち着き払ったこのオジサン、どうやらこの町のいわゆる「ヌシ」であるらしいが、どんなふうに生活費を稼いでいるのか、この直後に目の当たりにすることになるのだった。詳細は、また後日の記事で。

1E(Cd) Harnoncourt:BACH/WEIHNACHTSORATORIUM 2/2
2E(Cd) Eduardo Egüez:THE LUTE MUSIC OF J.S.BACH vol.1
3E(Cd) Brendel:BACH/ITALIENISCHES KONZERT
4E(Cd) Casals:BACH/6 SUITEN FÜR VIOLONCELLO 1/2
5E(Cd) Casals:BACH/6 SUITEN FÜR VIOLONCELLO 2/2
total m70 y1785 d19490