Thu 160929 夕暮れの浜辺/チェファルー散策/無賃乗車のオジサン(シチリア物語15) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 160929 夕暮れの浜辺/チェファルー散策/無賃乗車のオジサン(シチリア物語15)

 今日もまた再び三たび「昨日のつづき」であって、マコトに申し訳ない。8月31日、ティレニア海岸の街チェファルーを訪ねたわけであるが、難行苦行の岩山登りあり、雑巾臭いグラスでの失望あり、愛想の悪すぎる店での感動と感激あり、旅の醍醐味が詰まり放題に詰まった1日だったのである。

 午後4時すぎまで、愛想の悪い店に長居して、絶品・ムールのトマトスープを堪能した。おそらく店主の息子であるウェイター見習いの機嫌は、加速度的に悪くなっていく。「いつまでいるんだよ」「早く帰れよ」「こっちは怠けたいんだよ」。頭の上にそういうフキダシが見えるようである。

 確かに、もう店はほぼカラッポ。ワタクシより後に入ってきた家族連れ3人が残っているだけだったし、その後で闖入を試みた欧米人カップルは、マコトにすげなく断られてしまった。

 店を出ると、もうお外は夕暮れの雰囲気。ただし、シチリアの8月である。夕暮れとは言っても、日没までにはまだ4時間も残っている。これからまだ海岸に出て、ひと泳ぎもふた泳ぎも楽しめる時間帯である。

 ただし、さすがに人々は何となく気だるい感じ。
「はしゃぎすぎて疲れた」
「お昼寝はしたけど、せめてもう1時間寝ていればよかった」
「ランチの量が多すぎた」
「ランチのワインが多すぎた」
夏の海辺には、気だるさの原因ならいくらでも転がっているのである。
大聖堂
(チェファルー、ハチミツ色の大聖堂)

 かく言う今井君は、明らかに「ランチのワインが多すぎた」である。と言うより、「大急ぎで飲み過ぎた」のほうが正確だ。「雑巾臭いグラスの店」の生ビールは、大きなジョッキが2分。「愛想の悪い店」でも、最初の5分で大瓶1本、次の1本も10分、そこから赤ワイン1本を40分でカラッポにした。

 いま書いていて気づいたのだが、おお、「雑巾臭いグラス」のショックとトラウマは余程大きかったのだ。直後にワタクシは瓶ビールに切り替えているじゃないか。カフェやレストランの経営者の皆様、くれぐれもフキンはよーく消毒するように気をつけてくんなまし。

 午後4時半ごろから2時間ほど、チェファルーの街を散策したのであるが、以上のような経緯のせいで、あの夕暮れのワタクシはチョイ泥酔状態。記憶が少なからず曖昧なのである。

 傾いた太陽にうす赤く照らされた海岸に出た。海水はすっかりぬるま湯であって、人々の歓声もますます気だるく響いている。海岸通りには「離島ツアー」の貼紙が目立つ。リボリ島・ストロンボリ島・ヴルカーノ島、要するにエオリエ諸島へのツアーである。

「来年の夏は、エオリエ諸島探訪」と決めているわけだから、おそらく来年の旅の拠点はチェファルーになる。海岸通りには3つ星ぐらいの手頃なホテルが並んでいて、この散策はちょうどいい来年の予習になった。
洗濯場
(チェファルー、中世の洗濯場)

 通りを進んでいくと、海岸のほうに降りていく石段に出る。下からは爽快な涼風が吹き上がってくる。階段を降りていってみると、そこが「中世の洗濯場」。大型の風呂桶ぐらいの大きさに四角く水槽が切られ、風呂桶の枕の位置に石の洗濯板が並んでいる。

 洗濯桶の数は、全部で15とちょっと。さっき登ったばかりの岩山・La Roccaから冷たい水が流れてきて、洗濯場を通過して海に流れ込む。

「中世」から続く洗濯場にしては、岩の切り口が鋭すぎるから、おそらく最近改修したんだろうけれども、この爽快さは別世界である。シチリア観光のMustの1つとしていいように思う。

 街の一番奥、カフェの並ぶ広場からちょっと坂を登ったところにあるのが、この街の大聖堂である。ハチミツ色の砂岩が、ますます傾いた夕陽に照らされてオレンジに染まっている。1131年に建築を開始。15年ほどで完成した。

 イタリア4大海洋都市、ヴェネツィア・アマルフィ・ジェノヴァ・ピサのうち、当時最強を誇ったのがアマルフィ。そのアマルフィをシチリアのルジェーロ2世が撃破、堂々帰還の旅の途中で、大嵐に遭遇する。無事チェファルーにたどり着いた王は、「ここに大聖堂を建てる」と決意した。

 パレルモ近郊、モンレアーレの大聖堂と同時期の建築であって、内部の装飾もモンレアーレのモザイクとソックリだ。全能のキリスト、聖母と大天使、不思議な鳥のような姿のセラフィム。先日写真掲載したモンレアーレと、ぜひ比較対象してくれたまえ(Sun 160918 超具象のキリスト/風のエオリア/ウスティカ島探険へ(シチリア物語8)を参照)。
キリスト
(チェファルー大聖堂、全能のキリスト)

 さて18時半、さすがに「そろそろパレルモへ帰りますかね」という時刻になった。電車の時間までまだ間があったので、さらにカフェで1本、駅の売店で1本、大好きな泡立つ液体を飲み続けた。さすがに諸君、ものには限度というものがあって、ここまで来ると泡立つ液体もちっとも旨くない。

 乗り込んだ急行電車は、驚くなかれ、はるばるローマからやってきたInterCityである。ローマ ☞ ナポリ ☞ レッジョ・ディ・カラーブリア。レッジョで列車はいったんお船に積み込まれ、お船でメッシーナ海峡を渡る。メッシーナから再び鉄路に戻り、チェファルーを経てパレルモに向かう。

 合計で11時間30分の長旅。諸君、11時間30分であるよ。この列車がローマを出たのは、朝の7時ごろ。野を越え、山を越え、海をも越えて、とうとうここまで走り抜いた。熱い喝采を送りたい。

 何しろ12時間近い長旅だ、列車内でも、さぞかしいろんな人間ドラマが展開されただろう。それを思うと涙が滲む。昔々の今井君も上野−秋田間を11時間かけて走る急行「おが」や「津軽」で旅したものである。長旅にどれほどたくさんのドラマがあるか、身をもって熟知している。
駅
(夕暮れのチェファルー駅)

 しかし諸君、そういうドラマの最後のヒトコマが「無賃乗車」であるのは、余りにも惨めである。ワタクシの乗車した車両の最後部で、パレルモ到着30分前から、女性車掌と乗客の間で、無賃乗車をめぐる激烈なスッタモンダが始まってしまった。

 何しろヨーロッパの鉄道には「改札」という制度が存在しない。検札に引っかからないかぎり、オカネを払わないで乗車できる可能性はナンボでもあるのだ。

 しかし逆に、検札の係員に見つかれば、驚くほど高額の罰金を請求される。サイフをひっくり返してそのお尻をポンポンたたいても、とても追いつかないぐらい高額の罰金である。見つかったら最後、係員の激しい追及をかわしながら、何とかシラばくれる以外どうしようもない。

 しかし諸君、どれほどシラを切ろうとしても、鉄道員は決して許してくれない。この日見つかっちゃったのは、インド系のオジサマ。いったいどこから無賃で来たのか分からないが、乗務員があれほど強烈にいきり立つからには、ナポリから、いや、始発のローマからの無賃乗車だったのかもしれない。
岩山
(チェファルー、この岩山を征服したのである)

 こうして諸君、ローマからパレルモまでの感動的な旅にも、ちょっとナンクセがついてしまった。正規料金をチャンと払って旅をすればいいものを、チョコッとごまかしてそういうことをしようとするから、全乗客の夢を台無しにしてしまうのである。

 8月31日午後7時半すぎ、今井君はパレルモ中央駅に無事に到着。捕まっちゃった無賃オジサマは「だってカンケーねーもん」という態度を貫くつもりのようだ。一方、悪事を発見した女子鉄道員は、パレルモ到着前にすでにたくさんの係官を駅に呼んで、被疑者をギューギュー絞るつもりでいるらしかった。

 おお、おそろしや&おそろしや。臆病な今井君は大急ぎでホテルに戻ることにした。途中、大型犬を3匹連れた怪しいオジサマのネグラ前を通過。このオジサンがどれほど危ない人なのか、それは後から判明するのであるが、今日の記事には書かずに済ませようと思う。

 ま、それにしても到着したのは午後8時のパレルモ中央駅。日本人なら多くの人が「治安は大丈夫なんですか?」と尋ねるところだが、「はい、ハッキリ言ってちっとも大丈夫じゃありません。怪しい人影ばかりです」というのがホンネ。その中を徒歩で25分、無事にホテルに帰還したのである。

1E(Cd) Solti & Chicago:MAHLER/SYMPHONY No.1
2E(Cd) Solti & Chicago:MAHLER/SYMPHONY No.4
3E(Cd) Solti & Chicago:MAHLER/SYMPHONY No.5
4E(Cd) Enrico Pieranunzi Trio:THE CHANT OF TIME
5E(Cd) Quincy Jones:SOUNDS … AND STUFF LIKE THAT!!
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