Wed 160928 雑巾臭いグラス/愛想の悪い店/ムールのスープが絶品(シチリア物語14) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 160928 雑巾臭いグラス/愛想の悪い店/ムールのスープが絶品(シチリア物語14)

 こういうふうで(スミマセン、昨日の続きです)、標高270メートルの岩山の頂上から、ティレニア海の絶景を満喫したのはいいが、うーん、自らの肉体をこのまま放置すれば、間違いなく熱中症に陥る。

 時計はすでに13時半に近い。早く下山しないと、海辺のレストランもランチ営業が終わってしまう。何としても14時半までには、どこかの店に闖入しなければならない。ティファニーで朝食なら映画にもなるが、「チェファルーで食いっぱぐれ」なんてのはシャレにもならない。

 岩山を駆け下りて、14時10分。下り坂でもやっぱり直射日光は避けられないから、汗ダラダラの汗まみれ、熱中症の危機はますます高まって、「もうどんな店でも構わない、ビールさえグビグビ出来ればそれでいい」、そういうマコトに投げやりな欲求に支配されるのであった。

 飛び込んだのは、「おそらくカフェのつもりなんだろう」という地元店。屋根代わりのブドウの棚に葉が茂り、薄緑のブドウの実がフサフサぶらさがって、一瞬「おお、雰囲気いいじゃないか」と考えた。

 ところが諸君、「葉が茂り」を、Mac君が「剥がし下痢」と変換した通り、見た目の雰囲気の良さは、決して中身と比例しない。繁盛しているように見えたのは、要するに近所の人々のたまり場になっていただけのことであって、やがて奥のほうで家族の昼ゴハンが始まった。
チェファルー風景
(チェファルー風景。後方の岩山がたったいま登ってきた標高270メートルのLa Roccaである)

 もちろん今井君は、地元の人のたまり場も大好き、家族の昼ゴハンに同席するのもまた一興である。しかし諸君、「ビールのグラスが臭い」、それだけは勘弁してほしい。だって雑巾臭いのだ。

 こりゃおそらく、フキンに雑菌がわいている。それもかなり大量にわいている。ジョイ君の出番、ハイター君の出番であって、今井君流にはフキンを鍋で10分ほど煮沸消毒をしてから、しっかり太陽さんに乾かしてもらう。

 これだけ汗だく&汗まみれになって、下山しながらもウワゴトのように「ビール」「とにかくビール」「コーラかサイダーでも可」と、まさにそれだけを夢見て下界に帰ってきた。それなのに諸君、雑巾臭いグラスを突きつけられては、さすが温厚な今井君だって不機嫌にならざるを得ない。

 座って5分、「別の店に行こう!!」と決める。もちろんその5分の間に、雑巾のニオイを嗅がないように細心の注意を払いながら、中身のビールを一気に飲み干した。1杯たった3ユーロ。しかし今は、30ユーロ払ってでも100%爽快なノドごしを味わいたい。

 チェファルーの街をズンズン進むこと約10分。時計は14時40分を指して、もう1分の猶予もならない。海の見えない路地裏の小さなレストランを発見、うーん、見た目はイマイチであるが、やっぱりこのあたりで妥協せざるを得ない。そろそろ他の店は午後の休憩をとりはじめていた。
お店
(このお店に運命を託す)

 家族経営の店である。赤いチェックのテーブル掛けが、まあそれなりにオシャレ。4人掛けのテーブルが7つか8つの小さな店である。

 40歳代後半だろうか、マコトにカッコいい渋いパパが中心で、高校生か高校を卒業したばかりか、ニコリともしない無愛想きわまりない息子がウェイター見習いをしている。ジーチャンがレジに座って、テレビでサッカーを見ている。階段を数段上がったところにバーもある。

 一瞬、「またハズレかい?」というイヤな予感が走る。入口で「ランチはまだ大丈夫ですか?」と尋ねると、ジーチャンがチラッと腕時計に目をやった。その目つきが「まあ仕方ない、入れてやる」と言わんばかりだったし、息子の固い表情も気になった。

 ところが諸君、こういう店にこそ、驚くべき出会いがあるものである。さっそく注文したのが「Zuppa di Cozze」。Zuppaとはスープのこと、Cozzeとはムール貝のことである。

 要するに「ムース貝のスープ」、ベルギーならマコトにありふれた定番料理であって、2013年1月にブリュッセルに2週間滞在した時には、14日連続ムール貝60個 = 合計840個、正気の沙汰とは思えない快挙も成し遂げた。
店内風景
(店内風景。テーブルクロスがなかなか可愛いじゃないか)

 しかし諸君、だからこそシチリアでもムールを試したかった。もともとズッパ・ディ・ペッシェ ☞ 魚介類のスープなら、大好物なのである。メニューの中に発見さえすれば、イタリア中どこを旅していても、とにかくまずズッパ・ディ・ペッシェ。それがワタクシの定番なのである。

 つまり、ワタクシの大好物を2つ、見事ヒトサラに凝縮してくれたのがZuppa di Cozzeである。こりゃ諸君、どんなにウェイター見習い中の息子の愛想が悪くても、どんなにレジのジーサンがサッカーに夢中でも、意地でもZuppa di Cozzeでビールをグイグイやらなきゃいかん。

 さっきの店の雑巾臭いグラスのイヤな記憶も、ズッパ・ディ・コッツェで一掃できるだろう。そういう熱い期待をこめて、愛想の悪い少年の運んできたビールを痛飲し、愛想の悪い少年が開けてくれた赤ワインをクイクイやりながら、ひたすらムール貝のスープを待ちわびたのである。

 待つこと15分、ビールの大瓶を1本飲み干し、赤ワインが1/3ほど胃袋の中に消えた頃、待望のZuppa di Cozzeがテーブルに登場する。何とトマトソースのスープである。

 容器はパンで出来ている。円筒形に固く焼いた厚手のパンの中に、ムール貝が30個ほど、赤いトマトソースの中で、気持ち良さそうに口を開いている。もともと今井君はトマトが苦手。大キライな順に、① 酢 ② マヨネーズ ③ トマト。またまたイヤな予感が背筋を冷たく走ったのだった。
ムール
(トマトソースのZuppa di Cozze。絶品であった。ホントにおいしゅーございました)

 しかし諸君、こりゃ旨い。とにかく旨い。トマトがキライなワタクシであるが、このトマトソースならナンボでも食べられる。どういうもんなんですかね。イタリアの完熟スープに、ムールの出汁が染み込んで、いやはや、こんなうまいスープはホントに久しぶりである。

 あえて言えば、数年前に秋田・川反「濱之家」で味わったきりたんぽ鍋。今日のZuppa di Cozzeに勝てるのは、そのぐらいじゃないだろうか。

 確かに愛想は悪い。余りの愛想の悪さに、赤ワインの味すらマトモに分からないぐらいであるが、Zuppa di Cozzeがこれほど味わい深いなら、ちょっとやそっと息子の愛想が悪くても、別に全然構わないじゃないか。

 こんなに旨いんじゃ、今回のパレルモ滞在中に、必ずワタクシは再びチェファルーに来るだろう。高級店なんかどうでもいいのだ。意地でもこの店のZuppa di Cozzeをもう一度味わいたい。
セカンド
(セカンド・ディッシュは、「ステーキ・キノコソース」。こちらはごくごく平凡でござった)

 いつにするかね。パレルモにはまだまるまる5日滞在するから、最終日あたりにするかね。最後のトマトスープをスプーンでジュルッとやって、容器として使われていたパンをむしって一口わしっと貪りつつ、チェファルー再訪の計画を立てていたのである。

 ただし、旨かったのはZuppa di Cozzeのみ。それだけが奇跡のように旨かったので、セカンドディッシュに注文した肉料理のほうは、「いやはや」の一言である。

 どうなんだろう。本場イタリアのイタリアンで「ホントに旨いな」と思うのは、スープ・ピザ・パスタあたりまで。お魚もお肉も、プラス方向の驚きよりも、マイナス方向の驚きのほうが大きい。

 マイナス方向の驚きを、一般に「失望」と呼び、もっと平凡に言えば「がっかり」であるが、いろんな街のいろんな店で、① まずスープと炭水化物に感激する ② メインで失望を味わう、そういう経験は、もうすっかりお馴染みのような気がする。

1E(Cd) Leinsdorf:MAHLER/SYMPHONY No.6
2E(Cd) Solti & Chicago:MAHLER/SYMPHONY No.8①
3E(Cd) Kirk Whalum:FOR YOU
4E(Cd) Kirk Whalum:HYMNS IN THE GARDEN
5E(Cd) Kirk Whalum:UNCONDITIONAL
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