Tue 160927 へこたれない/寒風山の思ひ出/岩山の向こうが超絶景(シチリア物語13) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 160927 へこたれない/寒風山の思ひ出/岩山の向こうが超絶景(シチリア物語13)

 8月のシチリアで、炎天下の岩山に登る。もしも誰かに相談されたら、ワタクシ自身「そりゃ、ヤメたほうがいいでしょう」と、即座に首を横に振るはずだ。

 何しろ日差しが強烈だ。気温のほうは、東京でも36℃とか37℃まで何度も体験しているし、東京の場合は「湿度」という強敵が加わって、北国育ちの今井君なんかは毎日毎日、熱中症寸前のありさまなのである。

 だからついつい「チェファルーごとき、恐るるに足らず」と、思わず岩山登りの軽挙妄動に出てしまった。ヤメようヤメようとは思っていたが、チェファルーの駅に降りてみると、海からの風はマコトに爽やか。「何だこの程度の暑さなら、ナンボでも対処できそうだ」と甘く見たのである。

 だって諸君、ホントに爽やかなのだ。今井君が小学生だった頃は、日本の夏の気温は今より2〜3℃低くて、秋田なんかでは30℃を超えることは滅多にない。朝6時、ラジオ体操に出かける頃は少し寒いぐらい。チェファルーの風は、あの頃を思い出させる爽快さだった。

 しかしそれは、あくまで直射日光がない場合のお話。シチリアの日陰は爽快だが、直射日光はバーナーか溶接機を思わせる強烈さであって、ほんの一瞬で目もくらむ熱さが骨の髄まで沁みとおる。
絶景1
(チェファルーの絶景)

 街の真ん中・ガリバルディ広場から右に折れて、緩い坂道を5分ほど行ったところにチケット売り場がある。この辺までは民家が立て込んでいて、日陰を選んで進んでいけばマコトに爽快であった。

 これから標高270メートルの山頂を目指すのであるが、
「軽い&軽い」
「結構ラクに行けそうじゃないか」
「だってスカイツリーの半分もない」
「東京タワーより低いじゃないか」
「寒風山より低いんだ。そりゃカンタンだ」
と、心の中での軽口は果てしない。

 なお、最後の「寒風山」であるが、「寒い風の山」と書いて「かんぷうざん」と読む。男鹿半島の付け根にあるハゲ山であって、標高355メートル。干拓されて「大潟村」と名前が変わってしまったが、かつては日本第2位の面積を誇った湖・八郎潟の絶景が有名であった。
絶景2
(チェファルー、ディアナ神殿を遠望する)

 むかし秋田市の小学生は、3年生の春の遠足で寒風山に登った。小学3年生で登る寒風山が355メートルもあるんだから、チェファルーの岩山が270メートルぐらいあったって、いちいちひるんでいるわけにもいかない。

 なおこの寒風山、名前の通りマコトに風が冷たいのである。まあ地図を広げて見てみてくれたまえ。シベリアから高気圧が張り出して西高東低の冬型気圧配置なんかになると、日本海からの北西の季節風が容赦なくたたきつけてくる。

 それなのに、昔はこの山をスキー場として利用した。リフトも何にもないが、何しろハゲ山だから全面滑走OK。スキーを肩にかついで山頂までのぼり、そこからあらゆる方向に向かって好きなように滑る。風は厳しいが、もし晴れていれば、大潟村の絶景の中に真っ直ぐ飛び込んでいくようであった。

 まあそういうことを思い出しつつ、「たった270メートルならラクチンだ」と、チェファルーの岩山をなめてかかっていた。ペットボトルのお水もたった500ml。登って、降りて、およそ2時間なら、500mlもあれば大丈夫だろうとタカをくくっていた。
絶景3
(チェファルー、絶景はむしろ岩山の向こう側にあった 1)

 しかし諸君、いったん坂道を登り始めると、木立以外には日陰がない。それでも標高150メートル、ギリシャ時代の「ディアナ神殿跡」の高さまでは、道も整備されているし、木立も鬱蒼としていて、何とか日陰の道を選んでいける。

 問題は、そこから上である。いきなり道はなくなって、ヒトビトが踏み固めた砂利と土の険しい細道が続くだけになる。それを合図にするかのように、木立が消滅する。海風が厳しいせいか、岩盤が見た目以上に固いのか、背の高い樹木が全くなくなってしまうのである。

 流れる汗がジュッと音をたてて、瞬時に蒸発するほどの強烈な日差しの中、それでも欧米の人々はマコトに元気に頂上を目指す。中年のママなんか、この厳しい道をサンダルばきで軽々と登っていった。

 そのへんは、さすがに欧米人だ。ワタクシは強風の吹き荒れる真冬のロンドンで、Tシャツ姿のイギリス人男子が数人、パブの屋外テーブルでひたすらビールを飲みまくっている姿を目撃したことがある。
絶景4
(チェファルー、絶景はむしろ岩山の向こう側にあった 2)

 夏の暑さにも、冬の寒さにも負けない、宮沢賢治の理想みたいな人々がズラリ勢揃い。それが「欧米か?」であって、まあそのギャグも古くさいが、テレビのギャグというものはマコトに長命であって、いったん認知されれば、5年でも10年でもそれだけで食べていける。

 7合目付近に、1本だけ背の高い木が生えていて、息も絶え絶えの今井君はここでお水を飲んで休むことにした。お水は1/3程度しか残っていない。

 ここからさらに道が険しくなること、下りの道にも熱中症の危険が潜んでいることを考えると、「ここから引き返す」という選択肢も検討したほうがいい。少なくともディアナ神殿までは登ったんだ。言い訳は十分に立つじゃないか。

 しかし、この日の今井君は根性が違っていた。山頂はまだ遥か先だが、こんなところで撤退したんじゃ、今井クマ助の名がすたるじゃないか。寒風山より低いんだ。この程度の岩山でへこたれてはいられない。
絶景5
(チェファルー、絶景はむしろ岩山の向こう側にあった 3)

 しかもワタクシの前を、サンダルのオバサマだって、どんどん登っていったのだ。負けてられるか。マコトに下らないクマ助の闘志である。いったんは諦めかけた7合目から20分、ペットボトルの水もカラッポになる頃であったが、今井君は見事に山頂を征服したのである。

 そして諸君、ティレニア海の絶景が眼下に広がった。アラブ・ノルマン様式の城砦であるが、なるほど凶悪な海賊の襲撃も、この砦からなら遥か海上からでも監視できる。

 イタリア南部の海岸ならどこにでも見かける「コーボ・デイ・サラチーニ」ないしは「トッレ・サラチーニ」、北アフリカからやってくるアラブの海賊を、いち早く発見するための砦だったのである。海賊が潜んでいそうな場所は、決して見逃すことがない。

 余りにこの青い海の光景は、ここまで登らなければ決して見られない。途中でLa Rocca登頂をあきらめ、わずか150メートルのディアナ神殿で満足して帰っちゃったら、電車から見える海岸線だけで終わってしまう。

 小学3年の寒風山から幾星霜、鼻から真っ赤な炎が噴き出すほど奮起したかいは、間違いなくあったようである。

1E(Cd) Solti & Chicago:MAHLER/SYMPHONY No.8②
2E(Cd) Barbirolli & Berliner:MAHLER/SYMPHONY No.9
3E(Cd) Kirk Whalum:IN THIS LIFE
4E(Cd) Kirk Whalum:CACHÉ
5E(Cd) Kirk Whalum:COLORS
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