Fri 160923 すぐにヌルくなる/フィレンツェのカップル/島のネコたち(シチリア物語11) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 160923 すぐにヌルくなる/フィレンツェのカップル/島のネコたち(シチリア物語11)

 こうして諸君、きわめてシンプルな魚卵スパゲッティに感激し(スミマセン、昨日の続きです)、ビールを大瓶でガブガブ、ついでに白ワインもグビグビやっているうちに、何だか手許が怪しくなってきた。

「そんなにガブガブ&グビグビやるからでしょ」「限度を知りなさい」「キチンと味わって」というアナタ、アナタはシチリアの熱さを知らないのだ。あれはもう「暑い」などという生半可なものではない。あの直射日光を浴びれば、フライパンで煎られているような痛みを感じる。

 だから、ビールの温まり方がホントに速い。テーブルに運ばれてきた時は、瓶全体に真っ白い霜がついてマコトによく冷えているし、グラスも冷凍庫でキンキンに冷やしたのが運ばれてくる。

 その辺、イタリアという国はこの10年でずいぶん進歩した。10年前に旅した頃には、どの店でもビールは「これって常温じゃないですか」「うげ、ヌルい!!」というテイタラク。グラスだって、日なたに3時間も放置していたようなものばかりだった。
ねこたち1
(島のネコたち。午後3時すぎ、暑さのピークが過ぎた頃から外に出てくる)

 もちろん、通ぶった難しい話はいろいろあるだろう。「そんなにキンキンに冷やしちゃいけません」「ホントの味わいは…℃ぐらいでないと分からないんです」みたいなお説教もあると思う。しかし諸君、こんな真夏の酷暑の中で、命の危険さえ感じる状況じゃ、何が何でもキンキン優先だ。

 その点トルコやギリシャの人々は、やっぱりフライパンで煎られるみたいな熱さについて熟知していらっしゃる。「グラスも冷凍庫でキンキン」をずいぶん昔から実践しているようである。

 今回のシチリアの旅で一番心配していたのは、実はそのことであった。「またあのヌルいビアを我慢して2週間も過ごすの?」であるが、少なくともシチリアでは、パレルモでもシラクーサでも「キンキン」を実践中。この日のウスティカでも、素晴らしいキンキンぶりだった。

 しかし諸君、問題はそのあとである。瓶に真っ白く霜がつき、グラスもウッカリさわれないほどキンキンなのは、最初の段階だけなのだ。2分も経過すれば、瓶の霜は大きな水滴に変わり、汗をダラダラ流しているようなアリサマ。グラスもどんどん温まって、5分経過、すでに「ヌルい」の状況に陥っている。

 だから、出されたらヌルくならないうちに急いでガブガブやるしかない。大瓶1本を一気に飲み下すような勢い。ワインも同じで、せっかく氷水に入れて運ばれてきても、その氷が5分でほとんど融けてしまう。
ねこたち2
(午後3時半を回れば炎熱もおさまって、海風は爽快になってくる。日陰ならネコの昼寝にピッタリだ)

 こういうふうで、魚卵に感激し、真鱈の子の煎りあげを思い出し、ビールと白ワインでお腹の中がタポタポになった頃には、海辺の青年が誘ってくれた「小舟で洞窟めぐり」なんか、もうどうでもよくなってきた。

 別に青年と約束を交わしたわけではないし、チケットを買ったのでもない。キチンと営業している観光業者なのかも分からない。「50ユーロ」と言われたが、つまり7000円だ。よく分からない青年に7000円も払って、得体の知れない洞窟に連れていかれるなんて、何だか危険なニオイもする。

 そもそもこんなに酔っぱらっちゃってから、波の高い海に小舟で漕ぎ出すなんて、それはそれで大いに危険。ここは自重するに越したことはない。とりあえずはビールをもう1本注文して、日陰で安全な午後を過ごそうと決めた。

 青年には、後でキチンと謝罪しに行った。「ビールとワインで酔っぱらって、洞窟には行けなくなっちゃいました」「すみませんでしたね」というわけである。残念そうにしていたが、すぐにOKしてくれた。
港の風景
(ウスティカ港の夕景)

「トラットリア・アリストン」にはそのまま午後2時まで座っていて、とうとう他のお客は1人も来なかった。夏の観光シーズンにこんな状況では、店としてはとても儲からないだろうけれども、むしろ「儲けなくてなくて構わない」というスタンス。ホンの趣味か片手間なのかもしれない。

 ただし、ワタクシが帰る頃になって、オバサマ&オジサマ4人連れがやってきた。店を出た所にもオバサマ2人が様子をうかがっていて、「いい店でしたか?」「おいしかったですか?」と質問を投げかけてきた。おそらく単に今井君の訪問が早すぎただけなのだ。

 せっかく来てみたウスティカ島なんだから、とりあえず路線バスで一周してみることにした。1時間に1本の割合でミニバスが走っていて、1時間弱で海岸線をグルッと一周してくれる。

 乗客は、① 超地元のジーチャンとバーチャン ② 水着と小物だけの海水浴客、その2種類だけである。まだ濡れた水着のまま、髪の毛から水滴をポタポタやっているような人も乗ってくる。

 なかなか大胆だが、むしろ好奇の目が注がれているのは、東洋からやってきたこのワタクシのほうである。要するに「表六玉」であって、どうやらここは長いズンボに靴をはいて、暢気に観光する島ではなさそうだ。

 海岸はどこまでも同じような岩のビーチが続き、泳いだり、ダイビングを楽しんだり、そのタイプのリゾートなのである。パレルモから3時間もかけて、船で見物にくる場所ではなかったのだ。
ティレニア海
(ティレニア海。濃厚なブルーが印象的である)

 バスで一周したあと、午後3時ごろからようやく店を開けはじめたカフェのベンチで、またまた冷たいビールを楽しんでいると、「フィレンツェから来ました」といういかにも高級そうな男女に声をかけられた。「あなたはどういう手段でここにきたんですか?」と言うのである。

 質問の中身がよく分からず、「は? もちろんヒコーキで東京からパレルモにやってきて、パレルモからは船で来ました」と答えたのであるが、これがまさに表六玉、この島の高級さが理解できていない証拠だったのだ。

 この島は、自家用のボートかヨットで乗りつけるプライベートな高級リゾートであるらしい。「ヒコーキで東京から」の部分は完全に無意味、「パレルモからお船で」のほうは、「そうですか、一般の市民なんですね」という超上から目線で見下ろされる結果になったわけである。

 フィレンツェ高級カップルがサッサと立ち去ってしまった後は、仕方がないからネコたちと遊んで過ごした。午後3時半を過ぎて涼しくなってくると、あちこちからたくさんのネコたちが出てきた。ネコたちでも撫でて、帰りの船の時間を待つのが一番だろう。
パレルモ
(夕暮れのパレルモに帰ってきた。海から接近するパレルモはマコトに美しい)

 16時半、埠頭に出て真っ青なティレニア海を眺めながら、来年夏の計画を練った。今回のウスティカは、確かにそういう島だったに違いない。しかしエオリエ諸島の他の島だったら、火山あり、遺跡あり、美しい教会もあり、一般市民でも十分に満喫できる島々に違いない。

 よっしゃ、来年の8月から9月にかけては、パレルモよりもっと東寄り、エオリエ諸島にグッと近い街に長期滞在して、ストロンボリ・リパリ・ヴルカーノ、そういう島々を満喫しようじゃないか。

 ま、こういう顛末である。パレルモ滞在2日目、勇を鼓して探険してみたウスティカについては、① 地元のジーチャンや青年とのごく短い交流、② 懐かしい魚卵のスパゲッティとの遭遇、③ たくさんのネコたちとの触れ合い、以上3点を楽しい思い出として、スゴスゴ退散することにした。

 少なくとも、真夏のティレニア海の炎熱の真っただ中、焼け死んじゃったり、熱中症で倒れたり、そういうことにならなかっただけでも幸いである。夕暮れ5時の船に乗り込み、まだ明るい午後8時、少し風が冷たくなってきたパレルモの港に帰還。おお、ひとまず無事に帰ってきた。

 そして諸君、翌日はパレルモの東、「チェファルー」の街に小旅行を試みる。チェファルーは、エオリエ諸島への旅の起点として有名。つまり明日は、来夏の旅の予行演習も兼ねているのである。

1E(Cd) Barenboim:BEETHOVEN/PIANO SONATAS⑧
2E(Cd) Barenboim:BEETHOVEN/PIANO SONATAS⑨
3E(Cd) Barenboim:BEETHOVEN/PIANO SONATAS⑩
4E(Cd) Carmina Quartet:HAYDN/THE SEVEN LAST WORDS OF OUR SAVIOUR ON THE CROSS
5E(Cd) Alban Berg Quartett:HAYDN/STREICHQUARTETTE Op. 76, Nr. 2-4
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