Thu 160922 皆が見ている/魚卵のスパゲティに感激/真鱈の子(シチリア物語10) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 160922 皆が見ている/魚卵のスパゲティに感激/真鱈の子(シチリア物語10)

 パレルモから船で3時間、絶海の孤島ウスティカに到着した段階で、「いったいこりゃどうしたらいいんだ?」と絶句する。この絶句は冗談でも何でもなくて、承久の乱に大敗した後鳥羽上皇が隠岐島に配流された時のお気持ちが、マコトに如実に感じられるのであった。

 承久の乱では、順徳上皇も佐渡島へ、土御門上皇も土佐に流されている。鎌倉時代初期の佐渡や隠岐が、どれほど絶海の孤島感覚だったかは想像に余りあるが、ウスティカ上陸時の今井君の驚嘆も、「劣るとも勝らない」の類いのものなのであった。

 何しろこの強烈な紫外線の真っただ中に、無造作にポイ♡と投げ出されたのである。剥き出しの耳や鼻や腕も守らなければならないが、6年前の網膜剥離以来、常に弱い立場にある右のお目目も心配だ。紫外線はどんどん侵入し、こうしている間にもナンボでも悪さをしているはずだ。
ウスティカ1
(トラットリア・アリストンからのウスティカ風景)

 シチリア本島から3時間離れたウスティカ島は、日本海なら「粟島」か「飛島」ぐらいの位置づけか。北海道なら奥尻島か焼尻島か天売島、鹿児島なら甑島みたいな島である。

 甑島と書いて「こしきじま」と読むが、特別に目立つ観光資源があるわけでもないから、外国人観光客がノコノコやってくれば、「Youは何しにこの島へ?」と、地元の人の好奇の目はジンジン肌に痛いほどだろう。

 ジーチャンの運転するクルマで、とりあえずウスティカ教会の脇に着いたが(Mon160919「シチリア物語9」参照)、ジーチャンのクルマに乗り込んだ時点から、「おかしな東洋人が来たぞ」と、おそらくもう島中の話題になっている。

「例のジーチャンが、また変なヤツをクルマに乗せてるぞ」
「アイツにも困ったもんだな」
「バーチャンにあんなに厳しく呪文をかけられてるのにな」
「よっぽどうるさいバーサンから逃げ出したいんだろうよ」
「そりゃそうだ」

 そうやって、今やクマ助は島の話題の中心だ。「変な東洋人が来たぞ」「気をつけろ」「気をつけろ」「ご用心」「ご用心」。たとえウスティカみたいな絶海の孤島でも、LINEもどきのSNSで、たちまち情報は拡散するのである。
ウスティカ2
(ウスティカの海岸風景)

 シチリアの人々はマコトに開放的であって、困っている東洋人に気がつけば、躊躇なしに声をかけてくる。「どうしたんだ?」「どこに行きたいんだ?」「何を困ってるんだ?」。日陰に佇んでヒマそうにしているオジサマやオバサマが、ニコヤカに声をかけてくれる。

 ま、その明るさと陽気さがそのまま自衛手段にもなっているのだ。こんなにポンポン質問がとんでくるんじゃ、悪い人も怪しい人も、滅多なことでは島の奥まで入り込めない。あっという間に「どうしたんだ?」「どこに行きたいんだ?」「何を困ってるんだ?」の質問攻めになる。

 教会前の広場をうろつきつつ、島中の人々の好奇心の対象になっているのを意識する。何の怪しいこともなくて、要するに優しい日陰なり木陰なりを求め、涼しい場所でランチにありつきたいだけなのだが、広場にいる全ての人が目の端で今井君の行動に注目しているようである。

 見渡したところ、カフェが2〜3軒、メシ屋も2〜3軒。この島はまだほとんど観光地化されていないようで、カフェもメシ屋も地元のジーチャン&バーチャン専用っぽい。多くの若者たちが島を離れ、今や高齢化&老齢化、外国人を気楽に受け入れてくれる店はあまり見当たらない。
アリストン
(トラットリア・アリストン、マコトに地味なエントランス)

 そういう厳しい衆人環視の中、ワタクシが選んだのは「トラットリア・アリストン」。他のお店が地元のジーチャンたちに占拠され、とても入り込める雰囲気ではなかったのに対し、粗末な階段を降りていった「アリストン」は、日本からやってきた表六玉を優しく受け入れてくれた。

 時刻は11時45分だが、店の営業時間は12時半から。まだ営業時間には間があったし、ちょうどマカナイの時間で従業員みんなが楽しくランチ中だったにも関わらず、「店内で待つのは自由だ」「ドリンクならOKだ」「ビールだろ?」と、オジサマはニタニタ嬉しげに笑うのである。

 まさにその一言を待っていた。「ビールだろ?」も何も、「はい、ビールです」であり「何が何でもビールです」であって、正直ビール以外は何にもほしくない。

 ウスティカ上陸から1時間、すでに汗で上半身から下半身まで汗まみれ、熱中症寸前というより、すでに熱中症まっただ中のアリサマ。意地でもハイネケン、意地でもモレッティ、それも是非とも大瓶で。大瓶一本ぐらい、立ったまま一気飲みしかねない勢いであった。

 開店時間まで約45分、大瓶2本がカラッポになった。やっと開店しても、要するに他のお客はだーれもやってこない。ホントにだーれもこない中、白ワインも一本あっという間にカラッポにした上で、「ウスティカ名物・魚卵のスパゲッティ」を注文した。
魚卵パスタ
(感激の「魚卵スパゲッティ」。おいしゅーございました)

 それが今日の写真の4枚目である。どうだ、うぉ、うぉ、余りにも地味である。日本のタラコ入りスパゲッティとか、明太子スパゲッティとか、そういう豪華なグルメの世界に、ぜひ本場イタリアの人々を招待してあげたくなるのである。

 どうだい、この素朴さ加減は? オバーチャンが孫のお昼に作ってくれたみたいな、余りに単純で投げやりなこの世界は? そして諸君、ワタクシはこの類いの素朴さが大好きなのである。

 金沢から新潟・秋田・青森を経て北海道の日本海側まで、冬になると魚屋には新鮮な「マダラの子」が並ぶのである。マダラとは、漢字で書けば「真鱈」であって、タラコとは全く違うシロモノ。ググってみれば、確かに見た目は少々グロい。

 この真鱈の子に、みりんとお酒と醤油で味付けして和え物にする。ゴボウ・ニンジン・シラタキを煎りあげ、味付けした真鱈の子と和える。真鱈の子の量は、地域によって様々だが、今井君は真鱈の子が多いほうが好きである。

 これが「鱈の子の煎りあげ」。子供時代のワタクシは、他のどんな食品よりもこれを好んだ。ググってみてくれたまえ、これをおかずにメシを搔き込めば、丼メシの2杯や3杯は今でも軽い。食欲旺盛な中学生の頃には、この「鱈の子の煎りあげ」を、ヒト鍋まるまる平らげちゃったこともある。
ウスティカ3
(路線バスでウスティカ島を一周。詳細は明日)

 それほどの大好物に、まさかウスティカで遭遇するとは思わなかった。「魚卵のスパゲッティ」がシチリア全域の名物であるとは知っていたけれども、2週間のシチリア滞在でこれを発見したのは、結局ウスティカだけだったのである。

 もしシチリアに行くことがあったら、諸君も是非どうぞ。シチリアで見当たらなかったら、ウスティカのトラットリア「アリストン」にどうぞ。サングラスでお目目を防護、長袖シャツで皮膚を防護、その辺の完全防備を忘れずにどうぞ。

 もしもシチリアやウスティカが怖かったら、冬の日本海側を旅するのもいいだろう。小さな飲み屋に入って、優しそうな店のオバサマに「真鱈の子の煎りあげ、ありますか?」と尋ねてみたまえ。いいお店なら、きっと「とっておきのお通し」として、温かいのを出してくれるはずだ。

 ま、怖がらずに是非ともシチリアへ。魚卵のスパゲティ、是非とも探してぎょらん。是非とも召し上がってぎょらん。こんなに素朴で美味しいものは、長い人生でも滅多なことでは見つからないと信じるのである。

1E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du Pré:BEETHOVEN/PIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS②
2E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du Pré:BEETHOVEN/PIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS③
3E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du Pré:BEETHOVEN/PIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS④
4E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du Pré:BEETHOVEN/PIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS⑤
5E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du Pré:BEETHOVEN/PIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS⑥
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