Sun 160918 超具象のキリスト/風のエオリア/ウスティカ島探険へ(シチリア物語8) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sun 160918 超具象のキリスト/風のエオリア/ウスティカ島探険へ(シチリア物語8)

 モンレアーレの大聖堂は、ユネスコ世界遺産である。登録されたのは2015年、ついこの間のことだが、何しろ「ビザンチン・アラブ・ロマネスクが融合したノルマン芸術」。さまざまな文明の衝突と対立を、これほど見事に克服した世界遺産が他にあるだろうか。

 ただし、偶像崇拝を厳しく禁じた様々な宗教が融合しているはずなのに、その真ん中で頑張っているキリストのモザイク画はまさに偶像そのもの。素晴らしい融合の前に、大いなる妥協を感じないではいられない。

 大聖堂の建設は、1174年から1182年。ヨーロッパの大聖堂と言えば、ケルンでもランスでもミラノでも、400年も600年もかけて奇跡的と言っていいほど気長に積み上げられるのであるが、ここは10年にも満たない短期間で一気に完成したのである。

 中心となったのは「グリエルモ2世」という人物。日本ではちょうど平家物語のクライマックスの真っただ中。おごる平家が繁栄の坂道を駆けおりて、一門が壇ノ浦に沈もうとするまでの10年であるが、シチリアではアラブ勢がノルマンの勢力に制圧された時代である。

 ただし、圧巻のモザイクは16世紀のもの。織田信長や豊臣秀吉の全盛期、まさに「しんでんがん」こと真田丸と同じ時代であるが、はるか地球の裏側では、こうしてパンクラトール ☞ 全能のキリスト像が、お寺の丸天井に1つ1つタイルを積み上げて作られていった。
イエス様
(モンレアーレ、あまりに人間的なモザイクのキリスト)

 16世紀の神の子は、こんなに人間くさいのである。オヒゲにも髪の毛にも緩やかにウェーブがかかり、ヒタイの真ん中あたりでは、言うことをきかない2つの髪の束が、向かって左から右になびいていたりする。

 衣服のヒダといい、首から胸にかけての豊かな肉といい、ヒタイのシワといい、「神の子なのに、こんなに人間くさくていいんですか?」と思わず首を傾げるのであるが、そんな文句を言う前に、こんな精密な偶像を1つ1つタイルを積み上げて作った16世紀人の丹念さを思うべきである。

 キリスト像の下には、① 玉座の聖母と天使たち、② 十二使徒。これもまたやっぱりモザイクであって、単に「丹念」というより、濃厚な執念と強烈な意地を痛感する。

 さらにモザイクは「キリストに王冠を捧げるグリエルモ2世」「聖母マリアに大聖堂を捧げるグリエルモ2世」と続く。12世紀のグリエルモどんは、1000年も後の人々に、意地でもその存在を知らしめる。ここにもやっぱり激しい執念を感じるのである。

 モザイクはまだ続いて、我々もよく知っている旧約聖書の場面を描くのである。「アダムとイブ」。これを知らない人はないだろう。「ノアの箱舟」。これもまた知らない人のいないお話。「カインとアベル」、このへんから記憶が若干あやしくなるが、ま、いいじゃないか。
遠景
(モンレアーレの大聖堂、全体図)

 いつまでも口を半開きにしてモザイクを見上げているわけにもいかないし、20分も見上げていれば、肩も背中も腰も痛くなってくるから、このあたりでモザイクに別れを告げ、屋上テラスに向かって螺旋階段を昇り始める。

 いつも同じことである。螺旋の狭く暗い石段を昇り始めて、30秒後には大きな後悔に襲われる。またやっちゃった、どうせいつも同じことで、大汗かいて昇りつめた先にあるのは、赤い屋根がどこまでも続く古い町並みの風景だけである。

 途中、回廊つきの中庭を見下ろす通路を通る。12世紀に建設されたベネディクト修道院の庭園であるが、その一角にはアラブ風の噴水も存在。「ビザンチンとアラブとロマネスクの融合」を実感する風景である。

 その先には、8月とは思えない爽快な涼風の吹き渡るテラス。パレルモ市街と青いティレニア海を一望しつつ、「さて明日はどうしようか」と思案にふけった。

 何しろ8月29日は頑張りすぎた。お寺ばかり5つも回ったのである。マルトラーナ ☞ サンカタルド ☞ カテドラーレ ☞ パラティーナ礼拝堂 ☞ モンレアーレ大聖堂。これじゃ修学旅行も顔負けだ。

 だって諸君、「寺社5つ」を京都にあてはめてみたまえ。例えば、三十三間堂 ☞ 清水寺 ☞ 銀閣 ☞ 龍安寺 ☞ 金閣。思いっきり修学旅行じゃないか。奈良にあてはめても、興福寺 ☞ 東大寺 ☞ 春日大社 ☞ 秋篠寺 ☞ 浄瑠璃寺。いやはや、ものすごい1日だったことを痛感する。
接近
(モンレアーレのキリスト、超接近図)

 そこで諸君、明日はグッと趣向をかえて、パレルモの港から船に乗って、ティレニア海の離れ島を探険しようと思うのである。お寺の連続にMac君までウンザリしたのか、「たんけんしよう」で「短剣使用」の変換には、さすがに危険な苛立ちを感じる。

 シチリアの地図を広げてみるに、パレルモから北東の海に出れば、そこには「エオリエ諸島」という島々がワタクシを待ち受けているらしい。「エオリエ」で思い出したのが、1980年代後半にエアコンのCMで徳永英明どんが歌った「風のエオリア」。もしかして、あれではないか。

 再び赤いバスに乗って、モンレアーレからインディペンデンツァ広場に帰り、ヌオーヴァ門をくぐって徒歩でホテルに帰った。腕も鼻も耳も1日で真っ黒焦げであるが、それでも頑張ってネット検索。1988年、パナソニックから新発売のエアコン「エオリア」のCMを発見した。

「だから、エオリア」で始まる懐かしいCMソングは、間違いなく若々しい徳永英明どん。ワタクシの記憶が錯綜して、「杉山清貴どんとオメガトライブ」が歌っていたような気がしていたのだが、この高音は間違いなく徳永どんのものである。
庭園
(モンレアーレ大聖堂、回廊つきの中庭)

 作詞:大津あきら、作曲:徳永英明。「エオリア」とはギリシャ神話の風の神の名前。あのCMから30年、まだパナソニックはエオリアを作り続けていらっしゃる。

   だからエオリア
   夢にまで 恋の風が溢れたら
   ひとりエオリア
   泣かないで どんな声も運んで

 1988年のCMでは、徳永どんの声に載せて「風が変わった、その名はエオリア」「エアコンが変わった、ナショナル・エオリア、誕生。」のナレーションが入る。おお「ナショナル」、日本はバブルの真っ最中であった。

 ギリシャ系っぽい美女が怪しい視線を投げかける風景は、おそらくミコノス島と思われる。ちょうど村上春樹どんがミコノスを旅して「遠い太鼓」などの執筆に励んでいらっしゃった頃。ミコノスはバブルな日本人みんなの憧れだった。
ヌオーヴァ門
(パレルモに帰還、ヌオーヴァ門をくぐってホテルに帰る)

 しかし諸君、実際のエオリエ諸島は、ギリシャでもエーゲ海でもなくて、シチリアの北東に位置している。火山活動で有名なストロンボリ島、火山 ☞ volcanoの語源そのものであるヴルカーノ島、古代遺跡が数多く残るリパリ島。こりゃ何としても行ってみなきゃならない。

 ところがさすがにこの3島は、パレルモからでは遠すぎる。調べてみるに、エオリエ諸島で3〜4泊はする覚悟が必要。マコトに残念であるが、これはまた次回、おそらく来年の夏に持ち越しだ。

 もっとも「持ち越し」ということは、来年夏のスケジュールがたったいま決まったということである。よーし、来年の8月&9月はエオリエ諸島の探険で費やそう。素晴らしい。全く素晴らしい。

 ついでにもう1つ、明日の予定が決まったのである。エオリエ諸島の西端、パレルモから船で3時間のところに「ウスティカ島」という島を発見。ヴルカーノやストロンボリは無理でも、ウスティカなら明日1日で探険できるじゃないか。

 こうして、あまりにも行き当たりばったりな気はするが、「明日の予定はウスティカ島探険」と決まった。真っ黒焦げなクマ助ではあるが、これで安心してグッスリ眠れるというものである。

1E(Cd) Joe Sample:Rainbow Seeker
2E(Cd) Böhm & Berlin:MOZART 46 SYMPHONIEN③
3E(Cd) Böhm & Berlin:MOZART 46 SYMPHONIEN④
4E(Cd) Joe Sample:Rainbow Seeker
5E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES①
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