Fri 160909 実はコワい/ヒコーキから荷物が出てこない/スーパー発見(シチリア物語2) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 160909 実はコワい/ヒコーキから荷物が出てこない/スーパー発見(シチリア物語2)

 コワくない&コワくない。少しもコワくないし、ちっともコワくない。ああ、コワくない。コワいはずなんかないじゃないか、だって古代からの先進農耕地域であって、今も先進国の一角だ。そんなにいろいろコワがっているほうが、かえっておかしいのだ。

 ま、自分にそう言い聞かせながら現地入りするのである。しかしそんなふうに懸命に言い聞かせていること自体、内面に強い恐怖心がわだかまっている証拠なのである。全然コワくないなら、平然としていればいい。そんなに「コワくない」を連呼したら、臆病な内心を暴露してしまう。

 そういう臆病さを見透したMac君は、「先進農耕地帯」を「先進濃厚地帯」と変換して、臆病な今井君を揶揄するのである。「昔から濃厚だった島」だなんて、いかにも伝説のシチリアっぽくて、おおコワ、コワすぎるじゃないか。

 その辺のことは、海外を旅する時はいつでも同じなのである。正直&素直に告白すれば、いつどんな街に旅する時にも、さすがの今井君も後悔が先に立つ。

「こんな街にくるんじゃなかった」
「何でこんな街に来たんだろう」
「日本で大人しくしていれば、こんな緊張感を強いられることはなかったはずなのに」
その類いの後悔が、到着地に向かってヒコーキの高度が下がりはじめたあたりから、頭蓋骨の中で激しく反響するのである。
スタスタ
(シチリア・パレルモの裏町は、こんな落書きでいっぱいだ。「スタスタ」「エヌエヌ」。日本のアニメの人気を如実に感じる。カタカナならマネしやすいようだ)

 ブエノスアイレス空港の周辺は、赤茶色い水のたまった沼地の上空を飛行する。ニューヨークも20世紀の鉄の街であって、JFK空港着陸が迫る十数分間、鉄にこびりついた赤茶色いサビの色が、ワタクシの心を脅かしてくる。

 別に旅の超ベテランぶる必要はないわけだから、ごくごく素直に告白を続けるのであるが、同じような後悔はどんな旅にもつきまとう。パリだってブリュッセルだって、マドリードだってアムステルダムだってコワい。

 アムステルダムの周辺は、上空から眺めるとまさに水浸しであるが、「どうしてこんな水浸しの街に来なけりゃならなかったんだ」「ヤメりゃよかった」「コワいよ&コワいよ」、そういうのが着陸直前の思いの典型である。

 しかも今回は、シチリアだ。友人知人も「そんなとこに行って大丈夫なのか?」とヤタラに質問を浴びせたものだし、映画でもドラマでオペラでも、「コワいところ」「油断のならないところ」と意見が一致している。

 ガイドブックなんか、特にその手の危険情報やら被害情報で埋め尽くされている感があって、「ワタシはこんな恐怖の体験をしました」「ボクはこんな被害に遭いました」「ご用心♨」「ご用心♨」と、ひたすら旅人をコワがらせる情報が満載だ。
サンドメニコ
(パレルモ、サンドメニコ教会。到着初日の夕暮れ、夕陽を浴びてマコトに美しかった)

 というより、それを楽しんでいる傾向さえある。
「オレの友達はこんなコワい思いをしたらしいぜ」
「でもそんなのまだ序の口だぜ、オレの友達の友達なんか…」
「大したことないよ、オレの友達の友達の友達なんか」
というふうに、友達3乗、友達4乗、コワい経験のコワさが幾何級数的に積み重なっていく。

 2016年の早稲田大学文学部で、「友達」「友達の友達」「友達の友達の友達」を6回続けていけば、世界中のほとんどの人間が自分と何らかの関係をもつことになるという中身の長文読解問題が出題されている。今井君は2ヶ月前にその問題の解説をしたが、なかなか楽しい内容だった。

 しかし諸君、そんな狭い世界だからこそ、「友達の友達の友達」あたりまで恐怖体験の範囲を拡大すれば、ほとんど全ての恐怖体験を網羅できるんじゃあるまいか。

 ガイドブックがそんな仕事をする必要があるのかどうか。こんなのを熟読して海外に出かけたら、「腕時計など、ピカピカするものを身につけて町歩きをしてはいけません」とか、何だか旧石器の原始世界に舞い降りた21世紀人みたいなアリサマになってしまう。
ヴッチリア
(ブッチリア市場入り口。鮮魚・精肉・青果の小売り市場がどこまでも続く。ただし初日は日曜、ほとんどの店がシャッターを下ろしていた)

 そういうコワい話を反芻しつつ、シチリア・パレルモ空港に降り立った今井君は、さっそく恐怖の体験をすることになった。いつまでたってもスーツケースが出てこないのだ。

 ワタクシはANAの「ダイアモンドメンバー」であり、スターアライアンスのゴールドメンバーであるから、ヒコーキに預けた荷物は「いの一番」でコンベヤーにその勇姿を現すことになっている。政府関係の超VIPには負けるけれども、その次に出てくるのはたいてい今井君のお荷物だ。

 ところが諸君、パレルモ空港は事情が違った。いろはにほへと、「いの一番」どころか、「ろ」でも「は」でも出てこないし、「に・ほ・へ・と」、どこまで行ってもちっとも出てくる気配がない。

 旅の超ベテランは、こういう時にもちっとも慌てないんだそうな。「よくあることさ」とホクソ笑み、「しかたがないよ」とニヒルに苦笑い、「なんくるないさ」と肩をそびやかす。空港係員に「私の荷物が消えちゃいました」と笑顔で報告して、颯爽とホテルに向かう。おお、カッコいいですな。

 その点、恐怖体験に怯える今井クマ蔵はそうはいかない。怯えに怯え、慌てに慌て、「どどどど、どうしよう」と、大量の冷や汗が背中を走って、「シチリアなんか来るんじゃなかった」と、もう後悔のダムが決壊寸前というアリサマである。

 だって、同じヒコーキでパレルモに到着した人は、もうみんなとっくに空港を去ってしまった。残るは数人だけ。欧米人男子3人組も、静まり返った空港で、「どうしよう」「どうなるんだ」「どうすりゃいいんだ」とすっかり慌ててしまっている。
手動サッカーゲーム
(懐かしの手動式サッカーゲーム。こういうのが街の各所に放置されている)

 しかし諸君、慌てることはない。シチリアの空港では、「海外からのバゲージは別のコンベヤーから出てくる」のである。パレルモでもカターニャでも同じこと。珍しいシステムであるが、とにかくシチリアの空港では、海外から到着したバゲージは別の出口から登場する。

 ガイドブックには、こういう情報をこそ大書すべきである。むしろ活字の色を赤かブルーかグリーンにして、大いに目立つように印字すべきである。恐怖体験なんかどうでもいいから、「荷物の出口は現地の人たちとは別です」と、その最も大事な情報を明記してほしい。

 こういうふうで、空港からパレルモ市内に向かうバスに乗り込んだ後も、今井君の背中は冷や汗でビッショリ。この10年で40回近い外国旅行を敢行したが、荷物の件で肝を冷やしたのは今回が初である。

 バスはパレルモの老舗・ポリテアマ劇場前に到着。宿泊する「グランドホテル・ワーグナー」は、停留所から徒歩5分であるが、大きな荷物を引きずっての5分は、これもまたなかなかの恐怖体験である。まずはシチリアの午後の陽光の熱さに、さっそく熱中症の恐怖を感じるのである。

「まあ5つ星ホテル」であるが、エントランスには誰も待っていてくれない。昨日の記事の写真にも示した通り、ホントに誰も迎えに来てくれない。7〜8段の階段を、スーツケースをかかえて駆け上り、フロントに声をかけたが、ここにも従業員は見当たらない。
少年が熱中している
(サッカーゲームに熱中する少年。いかにもイタリア、いかにもシチリアな夕暮れであった)

 最初から「ホテル選択に失敗したかな?」と落胆しかけたけれども、ま、そこは何とか切り抜けて、予約したお部屋に案内してもらい、ボーイさんの容赦ないイタリア語に辟易しつつも、まずは一通りの荷解きを終えた。

 この段階で午後4時半。おお、街をブラブラして、スーパーマーケットを発見するぐらいのことは出来そうだ。日曜日だから、パレルモのお店はほとんど閉まっているが、ヴッチリアの市場周辺なら、何とか開けている店も存在するだろう。

 しかし諸君、街に馴染む前の段階では、とにかく恐怖が先に立つ。ちょっと乱れた服装の男達と出会っても、サッカーゲームに夢中の少年達を見ても、「おっ、この周辺はアブナイかな?」と気を引き締める。何でそんなに神経質になっているのか、自分でも不思議なぐらいである。

 夕暮れ、ホテルから徒歩10分のブッチリア市場を抜け、さらに街を10分さまよったあげくに、比較的大きな「カルフール」を発見する。「しめた、スーパーさえ見つかれば、もうこっちのもの」である。

 まずはビールを6本、ミネラルウォーター2リットルを購入。すでに街は薄暗闇、日本なら「灯ともし頃」「逢魔が時」であって、それこそ危険なカホリの人物が目につきはじめていたけれども、とにかく水分さえタップリ手に入れれば大丈夫。ホクホクしながらホテルに帰還したのである。

1E(Cd) Walton, Marriner:RICHARD Ⅲ
2E(Cd) Tomomi Nishimoto:TCHAIKOVSKY/THE NUTCRACKER(1)
3E(Cd) Tomomi Nishimoto:TCHAIKOVSKY/THE NUTCRACKER(2)
4E(Cd) Pešek & Czech:SCRIABIN/LE POÈME DE L’EXTASE + PIANO CONCERTO
5E(Cd) Ashkenazy(p) Maazel & London:SCRIABIN/PROMETHEUS + PIANO CONCERTO
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