Mon 160905 「山猫軒」のわんこそば/積極性が萎える夕暮れ(をせばおつま・ボクの細道5) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Mon 160905 「山猫軒」のわんこそば/積極性が萎える夕暮れ(をせばおつま・ボクの細道5)

 9月25日夕刻、岩手県花巻で丸1日の仕事を終えた今井君は、新花巻駅前「山猫軒」というお店に座っていた。いやはや、疲労した。60分授業×4コマ、最近は1日でこんなに授業をこなすことが少ないから、わずか240分でもヘトヘト感はひとしおである。

「山猫軒」、なかなかいい命名であるが、ワタクシとしては名前が気に入ってこの店を選んだのではない。「他にお店が1つもない」という閑散とした駅前で、万やむを得ずこの店にしたのである。

 授業が終わったのが15時40分。「16時20分の東京行『はやぶさ』があります」ということだったが、タクシーで駅に駆けつけてみると、16時20分はすでに満席、次の「はやぶさ」は17時20分だが、これもまた満席。これは諸君、茫然とするしかない事態である。

 さらにその次は18時だが、コイツは「やまびこ」であって、仙台まで各駅停車だし、その後もメッタヤタラに停車して、東京までまるまる3時間かかる。「ま、酒でも飲んで時間をつぶす」という手はあるが、新花巻駅前には飲食店が1軒しかない。それが「山猫軒」であった。

 しかし何しろ18時の新幹線まで「3時間」という強烈な待ち時間がある。どんなに不承不承であろうと、とにかく運を天に任せて「山猫軒」に入る道はしかない。
わんこそば食前
(新花巻駅前「山猫軒」のわんこそばセット)

 こんなに疲れていなければ、普段の今井君なら「これ ☞ 幸い♡」と別のルートを選んだはずである。選択肢はナンボでも思いつく。例えば下の①〜③であるが、他にも角館・盛岡・田沢湖、いやはや、選択肢は山のように存在した。

① 下り新幹線に乗り込んで、いっそのこと北海道・函館を目指す。函館に1泊して活イカをすすり、函館の朝市でウニ&イクラ丼を満喫してからヒコーキで帰京する。

② 同様に下り新幹線で、秋田に向かう。秋田着20時、すぐに川反に繰り出して「きりたんぽ鍋」を貪り、日本酒7合を痛飲する。7合は今のワタクシの限度であるが、翌日、ヒコーキで2日酔いに耐えつつ帰京する。

③ 花巻からタクシーで40分、山奥の「鉛温泉」へ。一軒宿「藤三旅館」は昔の海軍療養所だったとかで、泉質は素晴らしいんだそうな。鄙びた山の温泉で、ツキノワグマさんたちと情報交換してから、明日の新幹線で帰京する。

 しかしやっぱり問題は、この深い疲労である。元気な時なら海外でもバンバン選択肢を実行に移すワタクシであるが、60分×4コマを全力の汗まみれでこなした後は、さすがに消極的にならざるを得ない。とりあえず、生温いわんこそばセットをすすることにした。
わんこそば食後
(わんこそばセットは、あっという間にカラッポになった)

 この日はまず、午前9時から11時半までが前半の1組。13時20分から15時40分までが後半の2組。1組は盛岡第一高校の諸君を中心に120名、2組は一関第一高校の諸君を中心に80名。合計200名は、岩手県高校入試で上位200番までの、マコトに優秀な高1生である。

 岩手県サイドとしては、「東京大学にもっともっと合格してほしい」という考え。確かに、東北の高校生もその保護者の皆さんも、「東北大学でよかんべえ」「何も東京なんかにいかなくても、仙台でしっかり勉強すればいいべえ」という感じ。なかなか東大にチャレンジしない。

 そこで我々に「どうかどんどん東大に合格させてください」という依頼が来るわけだ。他にもPretty塾(仮名)に佐々木ゼミ(仮名)にベネセッセ(仮名)、いろんな所に依頼が行って、みんなで「東大♡」「東大♡」「東大♡」と連呼する。

 高1の英語がワタクシ、数学がSD先生。自分で言うのもなんだが、こんな大物を揃えた我々に対し、他は「ううーん♨」な感じ。準新人講師が「いいかー」「よくきけー」「なー」「だろー」「ねー」というタイプ。気の抜けた語尾を長く引っ張る授業が、昼下がりの廊下に反響していた。
盛岡
(岩手県花巻にて。午前9時ちょうど、1組の授業を開始する)

 今井君の教室からは、240分間ずっと爆笑が絶えない。教材は、大阪大学の超長文問題。県内トップ・東京大学を目指す200名とは言っても、何しろ高1生である。高1の9月に旧7帝大の超難問じゃ、さぞかしキツいだろう。知っているはずのない単語が4連続で登場したりする。

 この状況で「いいかー」「よくきけー」「なー」の類いを連発すれば、誰だって睡魔に襲われる。気温が30℃まで上昇した日曜の午後、会場となった花巻の高校は、体育館やグラウンドから部活の元気な声が響いてくる。これほど睡魔が大活躍する環境は考えられない。

 そこで諸君、今井君は何よりも爆笑の連続を心がける。この教材を使って「30秒に1回」は厳しいが、何とか実現できていたはずだ。ついでに、「辞書をいつ&どんなふうに使うか」「単語をどう推理するか」「英英辞典をどう活用するか」「進路をどう考えるか」、その種の話題も入る。

 これじゃ他予備校とあんまり差がつきすぎて♡、あまりに顕著なギャップが返って心配だが♡、さすがにこの奮闘を240分続ければ、上に示した夜の選択肢①から③を、マジメに検討しようとする積極性は萎えてくる。午後3時45分、帰りのタクシーに乗り込んだ段階で、もうワタクシは汗まみれの状況であった。
山猫軒1
(夕暮れの山猫軒、外観)

 その結果が、今日の写真1枚目に示した山猫軒「わんこそばセット」である。脇に店員さんがくっついて、お椀にどんどんお蕎麦を投げ込んでくれる正式なわんこそばではなく、すでにお椀に小分けした蕎麦が12個、お盆にのっけられて登場する。これを客が勝手にすするだけのシロモノである。

 寂しいから、まず瓶ビールを2本、続いて生酒200mlを3本。そういうものをグイグイ飲みながら、生温い蕎麦をすすり、もう1つのお盆の上の漬け物やら天ぷらやらをワシワシ貪る。マコトに侘しい夕暮れの風景である。

 店は閑散としている。広い店内に、他に客は3組ほど。それも16時20分の「はやぶさ」で帰ってしまった。行き当たりばったり ☞ チケットも購入していなかったワタクシが悪いので、マトモな人はみんなキチンと予約を済ませ、「山猫軒」での無駄遣いは必要最小限に留めたわけだ。
山猫軒2
(山猫軒。従業員のオバサマは、みんな優しい人ばかりだった)

 しかし諸君、その後1時間半、じっとテーブル席で観察したかぎりでは、「山猫軒」、ここもなかなかいいお店であった。何と言っても、従業員のオバサマたちの優しさが素晴らしかった。

 オバサマたちも、うすうす気づいていらっしゃるのだ。お客は積極的にこの店を選択したのではない。駅前を見渡してもこの店しかないから、仕方なくこの店に足を運んでいる。だって、ここに停車する新幹線は1時間に1本だ。蕎麦でもすすりながら時間を潰したいじゃないか。

 だから店内の客には全く笑顔がない。数人連れのグループが、みんな仏頂面で入ってきては、仏頂面で蕎麦をすすり、会話もなく、笑い声もなく、せっかくのグループなのにバラバラでスマホいじりにいそしみ、挨拶もなく、黙々と帰っていく。

 そういうシチュエーションでは、従業員の士気は高まらない。ワガママな若者なら、すぐにムカついてやる気をなくし、応対も甚だ横柄になって、平気でお客にシカメ面を向けてしまう。

 しかし、夕暮れの「山猫軒」は違った。18時の閉店時間ギリギリまで「わんこそばセット」と日本酒3本で粘っていたヘトヘトなクマ助に、最後まで優しい笑顔を向けてくれた。「お酒、ホントにおいしゅーございました」。深々と頭を下げて、御礼を言いたくなるワタクシなのであった。

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