Mon 160620 三島由紀夫「青の時代」/館山で遠泳の思ひ出/千葉県君津の大盛況 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Mon 160620 三島由紀夫「青の時代」/館山で遠泳の思ひ出/千葉県君津の大盛況

 戦後の日本を騒がせた「光クラブ事件」は、昭和24年11月の出来事である。高利の金融会社を運営していたのは、東京大学法学部3年生の山崎晃嗣。銀行法違反などに問われて挫折した。債権者約400人、債務3000万円が残った。

 債務整理に力を振りしぼったが、最後の最後に残った300万円の工面ができずに絶望。青酸カリをつかって自殺の道を選んだ。享年27。年齢や債務の金額については、あくまで戦後の混乱期であることを念頭に置いて考えてくれたまえ。

 大正14年生まれの三島由紀夫は、この年25歳。光クラブの山崎晃嗣は、東大法学部のたった2年先輩である。本郷近辺でしょっちゅう擦れ違っていたかもしれない。

 そのへんのこともあったのか、三島は光クラブ事件に強く興味をそそられた。事件をモデルにした小説「青の時代」を発表する。雑誌連載は昭和25年7月から12月。7月の雑誌に掲載するには、5月には原稿を渡していなきゃダメだろうから、作品の構想は2月か3月にまとまっていたんじゃないか。

 急いで書きすぎたせいか、評判はあんまり芳しくなかったようである。傑作と評されることも、問題作とみなされることもなかった。しかし諸君、これを書いた青年が25歳とか26歳とか、そんな年齢であることに、やっぱり驚きを禁じ得ない。新潮文庫で今も手に入る。まあ読んでみなはれ。
君津1
(千葉県君津の大盛況 1)

 その冒頭に登場するのが、千葉県木更津市である。主人公のモデル:光クラブの山崎晃嗣の出身地が木更津なのであって、三島にしてはずいぶん直接的に主人公とモデルを結びつけて書いちゃっている。「他の作家に先を越されないうちに」とかなり慌てていたんじゃないか。

 慌てすぎたせいか、木更津についてビックリするほど無遠慮な発言で小説は始まる。一応「千葉県K市」としてはあるが、モデルのこともあり、誰が読んでも木更津だとハッキリ分かる描写の中で、こんな発言は21世紀なら絶対にありえない。

 ついさっきまでは、その発言をここに引用して示そうと思ったのだが、いやはやあんまりヒドすぎて、引用する気もなくなった。これもまた戦後の混乱期、25歳のウルトラ天才青年でさえも、節度や品位や品性を忘れてしまったのかもしれない。

 今井君を羽田空港から運んできたクルマは、まずその木更津に着き、そこからさらに製鉄所の町・君津へ向かった。三島由紀夫の激烈な発言から70年、木更津は静かな海と青い空のある穏やかな町であり、周囲の水田には豊かな稲が、カエルさんたちとともにスクスク成長しているのだった。
ケーキ
(君津もでケーキをいただく。おいしゅーございました)

 木更津には「ホテル三日月」もある。「竜宮城スパ」というサブタイトルがついている。「は? 竜宮城スパ? そりゃ、なんじゃらほい?」であるが、そもそも前東京都知事♡マスゾエどんの失墜のキッカケになったのが、このホテルらしいのである。

 うーん、「竜宮城スパ」で、仕事上の大事なミーティングを行うトップリーダーが存在するんですかね。マスゾエ問題の発生からすでに2ヶ月、東京はまたまた選挙、どの候補者もイマイチ決定的な魅力に欠けて、都民は困り果てている。その発端が「竜宮城スパ」ということになると、さすがにニタニタするしかない。

 君津に到着、18時。君津駅でスタッフと待ち合わせ、今日の会場は君津の校舎内大教室である。町を通っている鉄道はJR内房線。下りは全て「館山ゆき」である。おお、館山。大いに懐かしい。

 大学入学当時、ワタクシは体育の単位を「合宿水泳」で取ろうと考えた。同じ水泳でも、週1回大学のプールで行われる授業もあるんだけれども、それじゃ毎週毎週カバンの中に海パンを入れて通学しなきゃいけない。行きはいいが、帰りは濡れた海パンがカバンに入っていることになる。

 それじゃ何だかメンドーだ。大学生にもなって、「週1回体育」なんてのは、当時のワタクシには言語道断にメンドーに思われた。そこで思い切って「合宿水泳を選択」。夏休み冒頭の5日間、合宿に参加して館山の海岸でパチャパチャやれば、それで1年分の単位をくれるというのだ。
君津2
(千葉県君津の大盛況 2)

 ただし諸君、館山合宿の最終日には「遠泳」という難関が待っている。沖に浮かぶ「沖の島」という所に連れていかれ、そこから泳ぎだして5km、冷たい海を館山の北条海岸に向かって泳ぎ続けるのである。

 だから今でも「館山」という地名を見ると、あの時の記憶がよみがえる。基本は平泳ぎ、しかし何しろ平泳ぎは背筋ばかり酷使するから、やがて背筋がパンパンに張ってくる。そこでたびたびクロールや背泳に切り替える。

 遠泳は、合宿に参加した200人余りが4列になって進むのである。平泳ぎのうちは整然と進んで行くが、やがてクロールや背泳に切り替えるヤツが出ると、列は大きく乱れ始める。クロール人間はすぐ前を行く平泳ぎ男に追いついてしまい、平泳ぎのカエル足にシタタカ頭や顔を蹴り飛ばされることになる。

 蹴り飛ばされて「ウッ♨」と呻くのはいいが、何しろ海の中である。呻くと同時に口からも鼻からも大量の海水が入ってくる。深さ100メートルもある海の中で海水をゴクッと飲み込むと、「あらら、こりゃ命に関わるよ♡」と考えて、全身がゾッと凍りつく。

 ゾッとしたそのアンヨに、後ろからクロールで追いついてきたヤツの両腕が絡みついて、またまたゾゾゾッとするのだが、だーれも助けてなんかくれないのである。
ローストビーフ
(君津での懇親会風景。ヒレカツ・ローストビーフ、おいしゅーございました)

 まあそうやって2時間だか3時間だか、1人平均5〜6回は頭を蹴り飛ばされつつも、とうとう砂浜にたどり着く。「海底に足がついたよ」というあの瞬間ほど嬉しい思いは、長い人生でも滅多に経験しないだろう。

 立ち上がって、熱い砂浜に向かって歓声をあげて走り出す。しかしその足はちっとも上がらない。海の中では「浮力」というものに助けられていたのだ。浮力がなくなり、疲労困憊の足がもつれて、みんなバチャバチャ海に倒れ込んだ。

 待っていたのは、「おしるこ」というシロモノである。夏の真っ盛りに「おしるこ」かよ?であるが、冷えきった肉体にはコイツがたまらない。今井君があんまり旨そうにすすっていると、「ちぇっ、旨そうに食いやがるぜ♨」というマコトに昭和な呟きが上がった。いやはや、思い切り昭和だったのである。
盛り合わせ
(さすがに海辺の町である。刺身の大皿も誠に豪華であった)

 2016年7月、「館山」という文字を眺めつつ、そういう昭和な思い出の数々がよみがえった。しかし諸君、それどころじゃないのだ。君津での公開授業はもう1時間後に迫っていたのである。

 出席者150名。校舎3回の大教室はウルトラにパンパンの超満員になった。おしくらまんじゅうみたいな、「アンコが出るよ」「酸欠になるよ」という状況であって、こういう時は大爆笑の連続にもいっそうの拍車がかかる。いやはや今夜もマコトに激しかった。

 懇親会が、また豪華版である。店自慢のデカい玉子焼き、お刺身の大皿、大量のヒレカツにローストビーフ、こんなにズラリと並べばさすがに壮観だ。料理を運んでくるお店のオバサマも、今にも噴き出しそうな満面の笑顔。「こりゃ宿泊にしたほうがよかったな」と後悔するほどであった。

 しかし諸君、マスゾエどん流に「ホテル三日月 竜宮城スパ」に泊まっていくのも、何だか気が引ける。しかも木更津地域からは頻繁に都心ゆきバスが走っている。羽田空港には20分に1本、東京湾アクアライン経由で新宿まで直通のバスもある。

 君津から木更津まで乗ったタクシーの運転手さんも「こんなにバスが走ったんじゃ、長距離のお客さんが誰も乗ってくれません」と嘆いていた。確かに木更津から新宿まで、バスでわずかに1時間。運賃は1550円。それじゃ羽田まで1万円以上も払って、わざわざタクシーには乗りませんな。

 しかし、新宿直通の小田急バスも、お客はワタクシを入れてたったの3人だ。京成・京急・小湊鉄道など、たくさんのバス会社が競って木更津⇔都心を走り回っているようだが、おやおや、こんなガラガラでバス会社は儲かるんですかね。

1E(Cd) Grover Washington Jr.:WINELIGHT
2E(Cd) Kenny Wheeler:GNU HIGH
3E(Cd) Jan Garbarek:IN PRAISE OF DREAMS
4E(Cd) Lee Ritenour:WES BOUND
5E(Cd) Marc Antoine:MADRID
total m108 y1040 d18745