Wed 160615 鯖の燻製に栄光あれ/臭いは旨いで、旨いは臭い/東京都国立市の大盛況 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 160615 鯖の燻製に栄光あれ/臭いは旨いで、旨いは臭い/東京都国立市の大盛況

 7月7日、七夕さまの夜ではあるが、お仕事はナシ。熊本から博多を経由して東京に帰るだけの気楽なスケジュールである。地上では笹の葉サラサラ、夜空ではお星さまピッカリコ、人間たちの誠実で勤勉な日常を、織姫さんも彦星どんも笑顔で見おろしているに違いない。

 仕事のない1日なんだから、博多の飲み屋にちょっと立ち寄っていくぐらい、叱られるいわれはない。一刻一秒を争う人生でもなし、「ゆっくり英気を養うのもまた、授業のクオリティを高めるには不可欠だ」とか、言い訳はいくらでも絞り出せる。ハミガキのチューブなみに、ワタクシの言い訳チューブはほとんど無尽蔵だ。

 しかし諸君、飲み屋に入ったのはいいが、今井君の頭の中には「燻製!!」「燻製!!!」「燻製!!!!」と、魔王の叫びのように「くんせい♡」の声が鳴り響き、ビックリマークの数もどんどん増えていく(スミマセン、昨日の続きです)。

 ゲーテどんの詩では「お父さん、こわいよ」「魔王が追いかけてくるよ」であり、シューベルト君が完成させた「魔王」でも、呆気なく「家に帰りて見れば、我が子はすでに死せり」なのであるが、この日のクマ助の場合、「コワいよ、燻製が追いかけてくるよ」と、マコトにケムリくさい感慨に浸るのであった。
さば燻製
(飲み屋の壁に貼り出されたメニュー。視界の左端に「鯖の燻製」と言ふ文字が闖入してきた)

 これというのも諸君、3日前に書いた「燻製になりかけた男」の記憶の影響である。焼肉の濃厚なムラサキのケムリを正面から大量に浴びながら、満面の笑顔で今井君の公開授業を絶讃してくれた。あの若い先生の真剣な顔が忘れられない。

 翌朝は、さぞかし全身がケムったであろう。あんまりケムケムして、家族でさえ鼻を覆ったんじゃないか。悠然と明るい笑顔でガマンし続けてくれたけれども、あの状態で1時間、ワタクシが気づいて席をずらす提案をするまで、渦巻くケムリの襲撃に耐え続けた、ホントに申し訳ないことをした。

 いつか機会があったら、今度はぜひケムリの出ない旨いモノをおごってあげたいのである。もちろんその機会がいつ来るか、とても予想はつかないが、燻製にされかけた夜の恐怖を、近い将来必ず振り払ってあげたいのだ。

 そういうわけで、翌日の夕方になってもまだ今井君の頭の中を「燻製!!」「燻製!!!」「燻製!!!!」の声が反響しているアリサマなのであった。だから、飲み屋の壁に貼り出されたメニューを眺め渡した時、ほとんど魔王に魅入られるように「鯖の燻製!!」と口走ってしまった。

 うーん、鯖の燻製。普段なら決して注文しない一皿である。そもそもサバ自体、そんな好物ではない。昭和の大昔、「所得倍増計画」で総理大臣に昇りつめた池田勇人どんが「貧乏人は麦を食え」と発言(1950年12月7日)。「天下の暴言」と言われたが、「貧乏人はサバを食え」ともじったバージョンも流行した。
燻製実物
(鯖の燻製。注文した後に深く暗く大きな後悔があった)

 生のサバの場合、アニサキス君たちがウヨウヨ&ネロネロしていたらコワい。〆鯖は諸君、酢が何よりキライな今井君にとっては仇敵のような存在だ。子供時代にサバの缶詰を食べ過ぎて、火を通したサバも何となく気持ちが悪い。

 それなのに、飲み屋に入っての第一声が「鯖の燻製!!」。明らかにあの瞬間、ワタクシは「くんせい♡」の4文字に呪われていたのである。運ばれてきた鯖の燻製は、上の写真でご覧になる通りのシロモノ。ペラペラの鯖さんが10切れほど、昭和なガラスのお皿に扇形に行儀よく並んでいた。

 これで750円。10切れで750円ということは、レモン1切れ50円として差し引くと、鯖さん1切れ70円の計算だ。そりゃ高くないかい? こりゃやられた、こりゃ間違えた。これなら「鯛のあら炊き 800円」のほうがナンボよかったか分からない。

 しかも諸君、鯖の燻製、想像以上に魚臭いのである。血合いの所が生乾きでヌルヌル、ムッと魚のニオイが口の中に広がって、思わず「ウワッ」と呻いてしまった。グルメ番組なら「香りがフワッと口の中に広がって」と来るところ、鯖の燻製は「魚くさいニオイがドロリと喉に流れ込む」というアリサマであった。
イカ
(飲み屋のイカ刺し。ゲソも残らず刺身にしてもらったが、さすがに「河太郎」ほど旨くはない)

 しかしヒトというものは、「慣れてくると何だかヤミツキになる」という奇妙な生き物であって、3切れ目までは「ウワッ」「ウヘッ」「ゲロッ」と呻きつつ飲み下していた鯖さんに、4切れ目から親近感を覚え、5切れ目では愛を感じ、7切れ目、残り少なくなったあたりで愛は恋♡に変わった。

「鯖さん、鯖さん、アナタはどうして鯖さんなの?」であり、「もう1皿追加するか、追加しないか、それが問題だ」であって、臭い燻製の鯖さんに恋するクマ助の頭の中には、シェイクスピアの台詞があれこれ渦巻きはじめたのである。

「キレイは汚い、汚いはキレイ」。マクベスをそそのかす魔女たちの呪いの台詞がそれにかぶさってきた。「臭いは旨いで、旨いは臭い」。臭くなければ、旨さなんか感じない。臭いものこそ旨いのである。鯖に栄光あれ、燻製に勝利あれ。ますます今井君の頭脳は混乱していったのであった。

 まあ諸君、博多の夕暮れはこうして過ぎていった。日本酒も「獺祭 2割3分」という高級なヤツを3合も飲んじゃった。大好きなイカの刺身も、ゲソもミミもみんな刺身にしてもらう「全刺し」で軽く1パイ平らげた。普通の飲み屋のイカは、確かに名店「河太郎」には及びもないが、それでも好物は好物なのである。
学園ポテト
(国立市を訪れるたび、必ずいただくのが「学園ポテト」である)

 こうして九州シリーズのヤマ場は終了した。9日からは山口県の宇部と下関を回り、またまた博多に宿泊して同じような夜を過ごすことになりそうだ。鯖の栄光や燻製の勝利が、9日&10日まで残っているかは、神でも魔王でもない今井君の知ったことではない。

 翌7月8日、19時から東京都国立市で公開授業。天気予報では「夕暮れから雨が降り出して、未明から豪雨になりそう」とのことだったが、何とか開始まで雨に降られずに済んだ。マコトに小さな会場に出席者約85名。国立地区の優秀な高校生を中心に、今夜もまた会場は満員になった。

 都立の名門校が犇めきあう地域である。国立高校・立川高校・八王子東高校・国分寺高校。私立の名門・桐朋高校の生徒諸君も来る。教材の難易度もある程度以上のものにしないと「物足りない」と言われかねない。
国立
(東京都国立市の大盛況)

 鶴丸生が多く集まったこの間の鹿児島会場、修猷館生がたくさん詰めかけた3日前の福岡会場と同様、英作文問題とともに難関大学の長文読解問題も解説して、100分はあっという間に過ぎた。

 それでもやっぱり延々と大爆笑が続く。講師としても、こんなに嬉しいことはない。一応「センター試験の戦略と戦術」というサブタイトルはついているが、センターのレベルを大きく超える公開授業になったはずである。

 終了、20時50分。外に出ると、国立駅前は細かい雨に濡れている。今日も複数の大学生に「今井先生ですか?」と嬉しそうに声をかけられた。受験生もいた。「東京芸大を目指しています」という猛者であったが、諸君、これからも大いに頑張ってくれたまえ。

1E(Cd) Barenboim:BEETHOVEN/PIANO SONATAS 10/10
2E(Cd) Carmina Quartet:HAYDN/THE SEVEN LAST WORDS OF OUR SAVIOUR ON THE CROSS
3E(Cd) Alban Berg Quartett:HAYDN/STREICHQUARTETTE Op. 76, Nr. 2-4
4E(Cd) Bernstein:HAYDN/PAUKENMESSE
5E(Cd) Fischer & Budapest:MENDELSSOHN/A MIDSUMMER NIGHT’S DREAM
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