Wed 160601 旅を中止する悔しさ 東北横断の旅の計画 断念して、後悔のみが残る | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 160601 旅を中止する悔しさ 東北横断の旅の計画 断念して、後悔のみが残る

 どんなに小規模な旅であれ、ずっと楽しみにしていた旅を断念するのは、人生最大の蹉跌の1つと言っていい。その挫折感たるや、第1志望の大学に無碍にソデにされたショックに「劣るとも勝らない♡」なレベルである。

「夏休みになったら、○○に行こうね」とママが約束してくれたのに、もしも何かの都合で行けなくなってしまったら、どんなにどうしようもない事情があったとしても、子供はどうしても許せないのである。

「パパの嘘つき♨」「ママなんかキライだ♨」の一言は、親孝行の立場からは許してはいけない捨て台詞かもしれないが、「楽しみにしていた旅を諦めることになった」という場合に限って、優しく許してあげなきゃいけないようにワタクシは思うのだ。

 それは、オトナになっても同じことである。2010年12月、3ヶ月も前から計画していたポーランドの旅を、中止せざるを得なくなった。その1ヶ月前、いきなり右目の視界に大きな黒い穴が開いて、医師の診断は予想通り「網膜剥離」。ある有名な私立医大の教授が自ら緊急手術の執刀を申し出てくれた。

 入院が11月8日、退院が11月15日、その5日後の11月20日にはもう千葉県船橋で公開授業を始めていたというのだから、クマ助の回復力はマコトに旺盛。ほとんど言語道断と言っていい。

 詳しくは、右下の「ブログテーマ一覧」から「今井君の速攻闘病記」を読んでくれたまえ。手術直後の猟奇的な写真もあれば、黒いサングラス姿の公開授業風景もある。猟奇好きのヒトなら、まさに必見のブログだ。スマホのヒトは「Fri 101022 ただいま生還しました」の周辺を参照のこと。
けだま君
(真っ白い毛玉君。マフラーどころかセーターだって編めそうだ)

 11月中旬にあんな状況では、まさか外国旅行なんかできないはずだ。ところが諸君、12月初旬、勇ましい今井クマ助は韓国・済州島への旅に出る。ポーランド2週間の予行演習として、ヒコーキで2時間半の済州島なら、ちょうどうってつけだろうと考えた。

 もちろん、担当医師の許可も得た。当時まだ右の眼球の中には、手術で注入したガスが残っていて、このガスの圧力を利用して剥がれた網膜を定着させていたのである。

 出発前、医師は「大丈夫です」「術後3週間も経過してるんですから」「心配はいりませんよ」と高らかに笑った。天下のお医者さまが、太鼓判でお許しを出してくれたのだ。今井君は喜び勇んでヒコーキに乗り込んだ。

 しかし諸君、そのガスが、ヒコーキの中で急激に膨張する。気圧が低くなるせいである。離陸直後から今井君の右目は激痛に襲われた。「おお、ガスが膨張している!!」「どんどん遠慮なしに膨張が進んでいる!!」。そういう恐怖の叫びが我が脳を満たした。下手をすれば眼球が爆発しかねない。

 おお、またまた猟奇的である。諸君、ハンパな痛みではなかったでござるよ。しかし生来きわめて我慢強い今井君は、そのまま2時間半、眼球爆発の恐怖を耐えぬき、ついに神とホトケに救われて済州島に到着できた。
けだま君の正体
(毛玉君は、ニャゴロワをブラッシングして手に入れた。夏は、ネコの毛の抜ける時期でもある)

 ま、そういう経験があって、その2週間後のポーランドへの旅はやむなく中止になった。これまでの長い人生で旅を中止したのは、おそらくあれが最初であり、計画した旅を中止した経験はあれ以来1回もない。問題のガスは、その後1ヶ月ほどで完全に消滅。猟奇の再発はなかったのである。

 しかし例えガスは消えても、ポーランドへの旅のチャンスを逃したことへの後悔と悔恨が雲散霧消することはない。その1年ほど後だろうか。どこかの生命保険会社のCMを眺めつつ、思わず熱い涙を禁じ得なかった。

 CMの冒頭、退職直後と思われる上品なオジサマが、旅行会社の前で悔しげにコブシを握りしめている。カウンターで差し出された用紙には、「キャンセル」のボックス。オジサマは一瞬ためらった後、やむなくキャンセルにチェックマークを入れる。

 次にCM画面は、明るい病室のベッドの上でガイドブックをめくる奥方を映し出す。ガイドブックの表紙には「フランス」。おそらく半年も1年も大事に読み込んできたガイドブックで、色とりどりの付箋なんかもたくさん挟まっている様子である。その病室に、先ほどのオジサマがそっと入ってくる。
ユータス
(東京大学・駒場は、カラスの名所。カラスのキャラクター「ユータス君」は、こんなシールにもなっている)

 おそらく結婚以来30年以上、苦しいことも悲しいこともみんな乗り越えてきたベテラン夫婦である。

「退職したら、外国に連れていってやろうか」
「あら、だったらパリがいいわね」
「そうかパリか。ならガイドブックを買って、オレの退職までによく研究しておけよ」
ちょうど1年前の会話である。

 ところが諸君、退職まであと1ヶ月というところで、奥方の健康状態が急変、長期の入院が決まってしまう。「不治の病」というワケではないが、無理して外国旅行に出られるほどでもない。キャンセルするかしないか、2人で何度も話し合ったに違いない。

 昨晩も奥方は「頑張ってみます」とニッコリ、まだガイドブックをめくり続けている。しかし長く連れ添ったダンナとしては、奥方の咳1つ聞いただけで、病状の重篤さを感じる。諦めるしかない。さっきキャンセルにチェックを入れて来たことを、これから奥方に告白するのである。

 いやはや、今井君は涙もろいので、あのCMを眺めるごとに熱い涙が流れた。それどころではない。いま宮城県仙台に向かう新幹線の中でこれを書きながら、まだ涙は流れてくるし、その涙はヤケドしそうなぐらいに熱いのである。
山形のモンサンミッシェル
(日本海に沈む夕陽で有名な、山形のモン・サンミシェル。由良温泉「ホテル八乙女」のHPより)

 何でこんなことを長々書いているのかと言えば、実は6月下旬のワタクシも、1つの旅を断念したばかりなのである。もちろん諸君、身近なところに病人やケガ人が発生したわけではないから、まずその点は安心してくれたまえ。

 ホントなら昨日(6月24日)、羽田から山形の庄内空港に「ヒコーキでビューン」をやるはずだったのである。6月26日、今井君は岩手県花巻でお仕事の予定。これにうまく絡めて、東北の3泊4日の旅を計画していた。その予定は以下の通り。

① 6月24日、午前のヒコーキで庄内空港へ。山形県酒田を観光。江戸時代、「西の堺、東の酒田」と囃し立てられるほど、酒田は繁栄を極めた。「本間サマには及びもないが、せめてなりたやお殿様」とまで言われた本間サマのお膝元は、わが父・三千雄の母校:酒田東高校もある。

② 24日夜は、鶴岡市から至近の由良温泉「ホテル八乙女」に宿泊。日本海に沈む夕陽の美しさで有名な温泉である。波打ち際からすぐ近くには「山形の江ノ島」と呼ばれる小島が浮かぶ。湘南の江ノ島が「東洋のモン・サンミシェル」だとすれば、ここは要するに「山形のモン・サンミシェル」というわけだ。

③ 翌25日は、東北の中部、ちょうど腰のあたりをローカル線で横断する。酒田から陸羽西線で新庄へ、新庄から陸羽東線で小牛田へ、小牛田から東北本線で仙台へ。合計6時間ほどの旅である。

④ 途中、陸羽西線「清川」の駅に下車して、ゆっくり散策も楽しみたい。「五月雨を集めて早し最上川」のあたり、幕末の英雄 ☞ 清河八郎の故郷こそ、我が父・三千雄の出身地。今井君の父方のルーツは、風光明媚な最上川の町である。

⑤ 翌26日、朝早く起床して、仙台始発の新幹線で岩手県花巻へ。昨年と同様、花巻北高校に岩手県トップの高校生を集めて、午前&午後合計で6時間の特別授業を実施。ホントならこういう企画は我が故郷・秋田県にこそ行ってほしいが、ま、岩手県だってお隣サンだ。大いに頑張ろうじゃないか。
ホンモノ
(ホンモノのモンサンミシェル。江ノ島も由良温泉も、今井君はもちろん大好きだ)

 しかし諸君、以上の計画はスッパリ諦めて、現在25日夕暮れ、今井クマ助はションボリ平凡に仙台に向かっている。東京から新幹線に乗り込んで仙台まで2時間。味も素っ気もない北紀行である。

 ではいったいなぜ予定の旅を諦めたのか、その詳細をここに書く必要はないだろう。要するに「メンドーだ」と思っただけなのである。こんなに雨がシトシト&ザーザー降り続ける中、「五月雨を集めて早し」という風景なら、別に近所の川だって構わない。

「贅沢すぎないか」という躊躇もあった。温泉旅館3万円、タクシーも乗り回すから、タクシー代も2~3万円。ヒコーキ代は貯まったマイルでゼロ円に持っていくにしても、世界同時不況の危機の真っただ中、ただの思いつきのローカル線の旅に6万円もかけるのは、やっぱり罪悪感を拭えない。

 うーん、ワタクシはマジメ過ぎるんでしょうかね。貧乏な田舎育ちのせいか、ちょっとした贅沢にも及び腰になるクセがついちゃった。ま、後悔しても仕方がないので、そのぶん明日の岩手県は、思い切りのウルトラ大熱演をしてこようと思う。

1E(Cd) Jandó:MOZART/COMPLETE PIANO CONCERTOS vol.10
2E(Cd) Jandó:MOZART/COMPLETE PIANO CONCERTOS vol.11
3E(Cd) Eschenbach:MOZART/DIE KLAVIERSONATEN 1/5
13A(γ) TREASURY OF WORLD LITERATURE 29:ROMAIN ROLLAND 1:中央公論社
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