Fri 160415 ベルリンよ、さようなら 洋書体験とフクロウ 冨田勲の思ひ出に浸る  | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 160415 ベルリンよ、さようなら 洋書体験とフクロウ 冨田勲の思ひ出に浸る 

 ホントは今日から2016年春の旅行記「ボルドー春紀行」を始めようと思っていたのだ。掲載する写真も5日分準備して、「さあ♡いよいよ」と手ぐすねをひく思いでいた。

 ついでだから本棚の奥を引っ掻き回して、むかしむかし&大昔のPenguin Books「GOODBYE TO BERLIN」も探してきた。要するに「ベルリンよ、さようなら」であるが、ベルリン旅行記を潔く完了し、「それでは春のボルドーに話を移しましょう」というつもりであった。

 Christopher Isherwood作、ハードカバーの初版は1939年。その後ペーパーバックス化され、ワタクシの書棚にあったのは1974年版である。

 もちろんそんな大昔から英語で小説を読んでいたはずはなくて、入手したのは神田神保町の古本屋。50円だったか100円だったか、古本屋の前のワゴンから抜き出して、おずおずレジに運んだ。学部1年の春である。

 表紙をめくると、「古書誠実売買 東京泰文社」のシールがあり、「神田・神保町二の五」とある。東京の市外局番がまだ3桁の時代だったらしい。入学式直後の今井君が頑張って購入、「最後まで読み通した洋書第4弾」ということになった。

 当時の学部学生のご多分に漏れず、ワタクシの洋書体験は
① J.D Salinger:THE CATCHER IN THE RYE
② George Orwell:ANIMAL FARM
③ Truman Capote:BREAKFAST AT TIFFANY’S
の3冊から始まった。

 まさに入門の超定番であって、21世紀の優秀な高校生なら、
「ああ、高校生の時に読まされました」
「夏休みの宿題でした」
「中2の秋に通読しました。3日で読み終わりました」
みたいな、スンゲー秀才も少なくないだろう。
グッドバイ1
(C. Isherwood「GOODBYE TO BERLIN」Penguin Books)

 しかしワタクシは、18歳まで秋田の田舎でノンビリ暮らしていた人間だ。学校の教科書以外は、NHKのラジオ講座と「刑事コロンボ」ぐらいしか、英語に触れる機会がなかった。

 それでも、上記①②③の3冊なら、秋田駅前の本屋の奥の奥に闖入すれば、手に入れることはできた。だから①②③とも、高3の秋には何とか読み切っていたのである。

 そんなことをやっているから、数学と物理と化学が完全に後回しになった。当時のワタクシは医学部志望。それも「せめて北大か東北大ぐらいは何とかしたい」という生意気な志望をもっていたが、高3の11月まで英語で小説を読んでいるうちに、「人生は回り道」とウソブクしかなくなってしまった。

 そういうふうだから、学部1年の春にはずいぶん張り切っていて、「医学部は諦めたんだし、東大にも入学を断られるハメになったんだから、せめて学部4年間は神田神保町に入り浸って、たっぷり洋書でも読もう」と、困った決意に燃えていた。

 こうして記念すべき4冊目になったのが、写真の「GOODBYE TO BERLIN」である。①②③に比較してエラくマイナーな作品であって、2016年現在、諸君の手に入るかどうかも分からないし、別に読んでもらわなくても構わない。
グッドバイ2
(GOODBYE TO BERLIN。「東京泰文社」のシールが懐かしい)

 本棚の奥深くをこうしてかき混ぜていたら、むかし集めていたフクロウどんの置物が次々と出てきた。みんなホコリをかぶって見る影もない。

 日本のいくつかの地域ではフクロウを「猫鳥」と呼ぶ。正面を向いた勇ましい表情も、夜の闇の中でグリーンやブルーに光る美しい眼も、いかにもフクロウどんは「猫族に属しています」という精悍な鳥である。「フクロウを飼いたいな」とホンキで考えた時期もある。

 内田百閒は、ミミズクを飼っていた。コノハズクだったか、アオバズクだったか、詳しくは忘れてしまったが、ミミズクを買って帰った瞬間から家中の虫や小動物がピタリと動きを止め、「これは大変なものを手に入れてしまった」と後悔するクダリが、彼の随筆の中にある。

 今から20年前、「ならばオレも」と、下北沢の某ペット屋に行ってみた。法律がどうなっているか知らないが、とにかくペット屋さんの奥深くで、一羽のコノハズクが眠っていた。

 買うか、買わないか。眠るコノハズクを眺めながら迷いに迷ったあげく、やっぱりネコを優先。13年前から、ニャゴ&ナデシコとの生活が始まることになった。
ふくろう1
(フクロウの置物 1)

 さて、今日「GOODBYE TO BERLIN」の話をしようと思ったのは、ベルリンにしばしの別れを告げるとともに、昭和の天才・冨田勲を偲んでおきたかったからである。今井君が神保町で毎日ウロウロしていた昭和の日々、冨田勲はまさに時代の寵児であった。

 20世紀後半からのミュージシャンで、冨田勲の影響を受けていないヒトはほとんど存在しないんじゃないか。シンセサイザーを駆使してクラシックの世界に進出、「展覧会の絵」「火の鳥」「惑星」から「バッハ・ファンタジー」まで、マコトに多彩な活躍ぶりであった。

 ワタクシにとっての冨田勲は、1970年代から1980年代のヒトである。大河ドラマのテーマ曲で一世を風靡したこと、同じくNHK「新日本紀行」のオープニングテーマが戦後日本最大のヒット曲と言っていいこと、その辺はマスメディアが繰り返し伝えるだろう。

 大河ドラマは、花の生涯(63年)天と地と(69年)新平家物語(72年)勝海舟(74年)徳川家康(83年)。さすがに「花の生涯」は古すぎて分からないし、「徳川家康」は一度も見なかったが、その他の3作は、内容以上に音楽が強烈に記憶に染み込んだ。
ふくろう2
(フクロウの置物 2。ホコリをかぶったコレクションは、50点あまりに及んだ)

 あまり話題にはのぼらないだろうが、幼い時代の今井君がしっかりと覚えているのは、NHK「現代の映像」「文五捕物絵図」「空中都市008」「きょうの料理」と、フジテレビ「二人の素浪人」。NHKにググッと傾いているのは、昔の田舎では民放を見る習慣が余りなかったせいである。

 だから今井君は、冨田勲の音楽に囲まれて育ったようなものである。今も現役の「きょうの料理」は当然として、「空中都市008」も「文五捕物絵図」も、今もなおワタクシのお風呂の鼻歌の定番なのである。

「二人の素浪人」は、素浪人Aが平幹二朗、素浪人Bが浜畑賢吉。旅の浪人二人組が主人公、勧善懲悪のお馴染みのストーリーだが、Bが「動の剣」、Aが「静の剣」と、剣のスタイルも対照的。剣を鞘ごと両手で頭上に掲げ、ゆっくりと抜きながら敵を視線で制する、静のA ☞ 平幹二朗がカッコよかった。

 NHKの19時半は、月曜日が「新日本紀行」、金曜日が「現代の映像」。昭和の時代、ニュースの後のヒトトキは、毎週冨田勲に始まって冨田勲で締めくくっていたのである。ホッコリできた「新日本紀行」に比較して、「現代の映像」の暗いトーンが印象的。ぜひ諸君、YouTubeを活用してくれたまえ。
冨田勲
(冨田勲のCDを1枚、これもまた本棚の奥から発見した)

「暗いトーン」ということでは、「70年代 われらの世界」も「現代の映像」に負けず劣らずであった。公害が深刻化して「もう手遅れだ」「もうどうすることも出来ない」というニュアンスで番組が進行する中、冨田勲「青い地球は誰のもの」を聞きながら、コドモたちはホンの少し明るい表情を取り戻した。

 愛知県・岡崎高校の出身。作曲家の小林亜星や林光が同学年にいたらしい。うーん、岡崎高校、今も昔もやるじゃないか。その後、慶応義塾大学文学部に進学。美学美術史を専攻。「音楽一辺倒」でないところが、今井君は大好きであった。

 才能に恵まれた家系である。父は医師、弟も医師で慶応大客員教授。息子も医師で慶応大医学部教授。親戚には東北大学のモト総長。これほどの医系エリート一家の中では、ウルトラな異彩を放つスーパー天才も、それなりに肩身の狭い思いがあったかもしれない。

 さすがのワタクシも、彼の晩年の「初音ミク」「イーハトーブ」となると、もうついていけない。要するに「20世紀までの冨田勲しか知らない」というテイタラクなのである。

 しかし諸君、長い連休が終わった5月8日深夜から9日の朝にかけて、今井君はひたすらYouTubeをクリックしまくって、20世紀の冨田勲ワールドを渉猟したのであった。今は、ご冥福をお祈りするばかりである。

1E(Cd) Cecilia Bartoli:THE VIVALDI ALBUM
2E(Cd) 東京交響楽団:芥川也寸志/エローラ交響曲 他
3E(Cd) Eduardo Egüez:THE LUTE MUSIC OF J.S.BACH
4E(Cd) Cecilia Bartoli:THE VIVALDI ALBUM
5E(Cd) 東京交響楽団:芥川也寸志/エローラ交響曲 他
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