2016年04月03日(日)

Thu 160310 アウアーバッハスケラーと森鴎外 芽キャベツ祭(ドイツ・クリスマス紀行12)

テーマ:ブログ
 12月21日午後のワタクシは、ライプツィヒの旧市街をブラブラ歩いていた。クリスマスイブイブイブイブの午後である。ドイツ最古&最大を誇るライプツィヒのクリスマス市は、まさに絶頂。マトモに前進することもままならない。

 旧市街散策は、一番西よりの聖トーマス教会からスタート、ひたすら東に向かい、ゲーテ像のある旧市庁舎前を通り、ニコライ教会で一休みし、ライプツィヒ大学の前を通ってゲヴァントハウスを目指す。

 道が空いていれば、この散策には1時間もかからない。ま、ガイドブック風に言えば「半日もあれば十分です」「それほど見所は多くありません」という街である。

 しかし諸君、何しろクリスマス市のクライマックスだ。「足の踏み場もない」というか、いったん雑踏の真っただ中に入ってしまえば、1歩進めばヨッパライにぶつかり、2歩進めば巨大なオバサマとオジサマが立ちふさがり、3歩進めばソーセージパンとビールが欲しくなる。

 要するに、旧市街散策はそこいら中でスタックするので、普段なら1時間の道のりが、3時間かけてもまだ半分も進んでいないというアリサマになる。東京のお花見と同じことで、日本が「爆花見」なら、ドイツは「爆クリスマス市」なのである。
店内
(ライプツィヒの名店・アウアーバッハスケラー)

 そこで諸君、ワタクシはこの日の食事を「アウアーバッハスケラー」でとることにした。ドイツ語で書けばAuerbachs Keller。1525年創業。日本に火縄銃やキリスト教が伝来する以前からやっている。ゲーテはここの常連。森鴎外どんもライプツィヒ大学医学部に留学中、ここが馴染みの店だったそうな。

 ゲーテはこの店の奥に陣取って「ファウスト」の想を練ったに違いない。店内には、いろんなメフィストフェレスの絵が飾られていて、なるほどゲーテの時代の雰囲気が漂っている。

 10年前、「ヨーロッパ40日の旅」の2日目にもここに来た。2月10日のライプツィヒは冷たい雨に濡れ、街も空いていたので、それこそ「見所は多くありません」「半日もあれば十分です」な雰囲気だった。

 10年前には、この店もまだ東ドイツ時代の面影を引きずっていた。こんなに照明は明るくなくて、片隅の薄暗い席ではメニューの細かい文字も読み取れないぐらいだった。
入口
(アウアーバッハスケラー、エントランス)

 あれから10年、店内の照明はすっかり明るく変わって、むしろ「明るすぎませんか?」なぐらいに明々と灯が灯っている。午後3時、マコトに中途半端な時間帯なので、店はガラガラ。外のクリスマス市とは好対照であった。

 前回は、お昼の定食を注文した。日本語に訳せば「お皿の上のいい加減」という名前の、ステーキと、紫キャベツのザウワークラウトと、ジャガイモのお団子その他が、お皿の上にゴチャマゼになっていた。確かに「いい加減」だったが、冷たい雨に濡れたクマ助の肉体には、素晴らしい栄養になったはずである。

 しかし今日はもう午後3時すぎ。ランチの客はもうみんな帰ってしまった。「ランチのメニューは終わりになりました」と、オバサマなウェイトレスも残念そうに笑った。スペインならランチたけなわの時刻であるが、ドイツではそうは問屋が卸さない。

 ランチメニューは3時まで、時計は3時10分。さすがドイツ人、10分だろうが何だろうが、過ぎたものは過ぎたものであって、そこを「どうしても」「何とかなりませんか?」などと粘っても、相手はビクともしない。
芽キャベツ
(主役のステーキを、大量の芽キャベツ軍団が押しのける)

 そこで注文したお料理が、上の写真。「牛ステーキと季節の野菜」というシロモノであるが、諸君こりゃ要するに「芽キャベツ祭り」である。これまでの我が人生で、これほど大量の芽キャベツがヒトサラの上を占領している姿を見た経験はない。

 例えば「博多山笠」みたいなお祭りを想像してみたまえ。この場合、芽キャベツ諸君が「フンドシ姿の若い衆」、ステーキの方は、おみこし・山車・山笠、そういう構造である。

 あくまで主役は芽キャベツ軍団。若い緑の丸いアタマから朦々と湯気が上がって、「わっしょいわっしょい♨ 芽キャベツわっしょい♡」の大合唱が聞こえてきそうなほどである。

 若き日の森鴎外どんも、こういうヤツを貪ったんだろうか。ライプツィヒ時代の経験をモトに、鴎外どんは名作「舞姫」を書き上げる。「石炭をば早や積み果てつ」で始まる例の激烈な短編である。
壁画
(店内には、森鴎外どんを描いた壁画まで存在する)

 いつの間にか、「モデルは鴎外自身だ」ということになっちゃっていて、小説の主人公・太田豊太郎の行動の1つ1つが「全て鴎外の経験の告白なんだ」と信じきっているヒトもいる。

 ヒロインの踊り子・エリスも、やっぱりいつの間にか「絶世の美女」に仕立て上げられる。鴎外は「絶世の」どころか「美女」とさえ言っていないのに、映画に登場するエリスはウルトラ美女が演ずるから、誰でも美女と信じずにはいられなくなってしまう。

 そこで、鴎外がエリスのモデルとしたらしいホンモノの彼女が日本にやってくると、一斉に驚きの声が上がったりする。本名エリーゼ・マリー・カロリーネ・ヴィーゲルト。40歳を過ぎてから日本を訪れるが、うーん、なかなか深みのある表情だ。

 ま、その辺が難しいんですな。映画だと、若かりし「郷ひろみどん」が主人公。このアウアーバッハスケラーだって、グルメが集まる超高級店みたいに描かれる。まさかお皿の上で緑の丸い芽キャベツ軍団がお肉ミコシを担ぎ上げているだなんて、誰も信じないんじゃないか。
森鴎外
(森鴎外の壁画は、2009年の作品。なるほど2005年の段階では存在しなかったはずだ)

 まあ諸君、「舞姫」、読んでつかーさい。やがて踊り子エリスのお腹にはベビーまで出来てしまう。ベビーちゃんのために、エリスは熱心にオムツを縫い上げる日々。しかし主人公には輝かしい未来があり、エリスやベビーのために彼の未来を捨て去るわけにはいかない。

 懊悩する彼。日本で彼の将来を案じる母。嫉妬から誹謗中傷に励む同僚たち。上司は眉をひそめ、友人も彼の未来を憂慮する。この友人が「相沢謙吉」。相沢の奔走で主人公は名誉を回復、エリスをドイツに置いたまま日本に帰ることを決意する。

 エリスにその決意を伝えるか否か。彼は深い懊悩に苦しみ、ついに病に倒れる。相沢謙吉に状況を知らされたエリスは衝撃から正気を失い、縫い上げたオムツを与えられた時以外には、もう微笑むこともない。

 そして今、彼はサイゴンの港に停泊中の船の中にいる。ラストの有名な1行は以下の通り。
「嗚呼、相澤謙吉が如き良友は世にまた得がたかるべし。されど我が脳裏に一点の彼を憎むこゝろ今日までも残れりけり」

 いやはや、あくまで鴎外には別のモデルがいたはずであるが、その辺は専門家がチャンと存在する。ワタクシのような愚かなクマの解説より、まあ諸君、4月の日曜日、夜桜見物のあとは、ぜひ文庫本でも開いて「舞姫」の1行1行を噛みしめてくれたまえ。

1E(Cd) Max Roach:DRUMS UNLIMITED
2E(Cd) Tommy Flanagan Trio:SEA CHANGES
3E(Cd) Art Blakey:NIGHT IN TUNISIA
4E(Cd) Walt Dickerson Trio:SERENDIPITY
5E(Cd) Surface:SURFACE
total m50 y354 d18059
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