Wed 160309 最古&最大のクリスマス市 最強ホットワイン(ドイツ・クリスマス紀行11)
ライプツィヒのクリスマス市については、「ドイツ最古」「ドイツ最大」という触れ込みがあって、だからこそわざわざベルリンからライプツィヒまで出掛けてきたわけである。
「最大」のほうは、何をどう「デカい」と判断するか、さまざまな主観もタップリ交錯するだろうし、「ヒイキ目」とか「ヒイキの引き倒し」とか、要するに全く信用が置けない。「オレんとこが最大!!」とデカい声を出し続ければ、それだけでいつの間にか「最大」という定評が出来あがってしまう。
しかし「最古」のほうは、そうは問屋が卸さない。最古なら最古で、誰かが何らかの証拠を示さなければ、誰も最古と認知しない。最古の証拠がないのに「オレたちは最古だ!!」と頑張りすぎると、「インチキ」とか「ウソツキ」とか、マコトに困った定評もくっついてしまう。
だからライプツィヒとしても、最大を名乗るより最古を名乗るほうが、ずっと勇気が必要だったはずである。その結果「最古」として誰かに認定してもらえるとしても、別に「最古」だから得をするとか、そういう付加価値はほとんどゼロなのに、である。
(ドイツ東部では、クリスマスツリーよりコイツが主役である)
ドイツのクリスマスは、クリスマスツリーが中心ではないのである。伝統のお人形サンたちが3階建てとか4階建てとかのタワーを作り、タワーのテッペンには竹トンボの親玉みたいなクルクルが回っている。このクリスマス・デコレーションが、クリスマス市の中心的存在なのである。
12月21日、ライプツィヒのクリスマス市でも、このスーパー竹トンボどんが中心的な役割を演じていた。竹トンボの根元には、燃えるような文字で「FEUERZANGENBOWLE」とある、
ドイツ語では一緒くたにつながっているが、FEUER(火/炎) + ZANGEN(火箸・ハサミ)+ BOWLE(カクテル風の飲み物)。実際に飲んでみると、マコトに強烈なドリンクであって、繊細な日本人はまず「熱いワイン」という発想にビックリする。
これだけ海外旅行が一般化すれば「ホットワイン」「グリューヴァイン」、フランス語なら「ヴァン・ショー」というイメージは、もう別にフシギでも何でもないだろう。
しかし日本という国では、赤ワインのテイスティングにあんなに難しいルールを守らなくちゃならない。「熱いワイン」なんてのは、「ビックリポン♡」以外の何者でもない。
(最強のホットワイン、フォイアーツァンゲンボウレ 1)
しかし、ビックリポンだろうが何だろうが、ドイツのクリスマス市ではまさにそのビックリポンが常識となっているんだから、郷に入っては郷に従うしかない。
まず鍋かヤカンに赤ワインを入れて、これをグラグラ熱する。鍋の上には、「フォイヤーツァンゲ」と呼ばれる火バサミを置き、ラム酒をたっぷり染み込ませた角砂糖を載せて、これにボッと火をつける。
角砂糖は(というかラム酒は)青白い炎をあげつつ燃え&溶けて、鍋の中の熱いワインに滴り落ちる。こうしてマコトに甘く、マコトに熱く、マコトに強烈なホットワインができあがる。これが正式なフォイヤーツァンゲンボウレである。
映画「フォイヤーツァンゲンボウレ」は、老境にさしかかった2人のオジサマが、熱く甘いフォイヤーツァンゲンボウレをグイグイやりながら、それぞれの過去を振り返るというストーリー展開になっている。
その2人のオジサマというか、要するにジーチャンズの一方 ☞ Dr. プファイファー役をハインツ・リューマン(Heinz Rühmann) が演じている。Heinz Rühmann、20世紀ドイツで最も有名な俳優の一人である。
タキシードに蝶ネクタイ、アタマにシルクハット、口には葉巻。手にはステッキ。20世紀前半の渋い中年オジサマというものは、だいたいこんなカッコで渋面を作れば、それがセクシーなのだとみんなが思い込んでいた。いやはや、安易で気楽で濃厚なポカポカした時代なのであった。
この飲み方を「mit Schuss」と呼ぶ。前置詞mitは英語のwithみたいなもの、Schussとは「ショット」のことであって、熱い赤ワインの中にラム酒のショットを遠慮なくドクドク注いでしまう。
ラム酒以外に、お酒に着けたサクランボのタップリ入った「アマレット」をドクドクやることもあるが、とにかくお店のヒトにmit Rumが欲しいのか、mit Amarettoが欲しいのか、キチンと伝えないとドイツのヒトはそれだけで気難しくなるから要注意である。
しかし諸君、黙っていれば相手は「ほお、mit Rumね」と理解し、熱い赤ワインの上からラム酒をショットでたっぷり2杯、大サービスで入れてくれる。「こんなの飲んだら泥酔しますよ」という勢いだが、北ドイツの寒さに耐えるには、当然タップリのmit Rumが必要なのである。
(最強のホットワイン、フォイアーツァンゲンボウレ 2)
クリスマス市の場合、基本はあくまで「屋台」であり、要するにみんなシロートに毛が生えたか生えないかぐらいのヒトビトであるから、ここで供されるフォイヤーツァンゲンボウレも、チョー気難しい本式のものではない。
常に赤ワインを熱しておいて、まずカップにタップリのワインを注ぐ。ラムは、その場でボトルからドボドボ注いでしまう。どのぐらい注いだか、店のヒトもお客のほうもちっとも見当がつかない。これを飲んで泥酔するかしないか、誰も責任なんかとらないのである。
それでも角砂糖から「青白い炎」が上がっていないと寂しいし気分も高まらないから、カップの端っこにラム酒入り角砂糖を乗っけて、チャッカマンで火をつける。おお、燃える&燃える。まさにインスタントのフォイヤーツァンゲンボウレであるが、クリスマス市ならその程度で構わない。
寒い寒い北ドイツのクリスマスなら、mit Schussなフォイヤーツァンゲンボウレはまさに不可欠の飲み物だ。足許はもちろん数メートルの積雪、吹きつのる吹雪の中、アルコールの青白い炎と、真っ白い吐息が混ざりあって、「あったかいね♡」「あったかいね♡」と頷きあう幸福に勝るものはないだろう。
しかし諸君、ここにも温暖化の影が忍び寄る。足許に積雪は全くないし、クリスマスソングを吹き飛ばしてしまうような吹雪もない。2009年12月、ブダペストのクリスマスは確かに猛吹雪で真っ白だったが、ああいうホワイトクリスマスは、今や地球上から消滅しつつあるようだ。
というわけで、ライプツィヒの今井君はジットリ汗をかきながらのフォイヤーツァンゲンボウレ。ドイツの名優Heinz Rühmannだって、これじゃますます渋面を作るしかないだろうが、諸君、「不都合な真実」はとうとうここまで来てしまったわけである。
E(Cd) Patricia Barber:NIGHTCLUB
E(Cd) Yohichi Murata:SOLID BRASS Ⅱ
E(Cd) CHET BAKER SINGS
E(Cd) Art Pepper:SHOW TIME
E(Cd) Maceo Parker:SOUTHERN EXPOSURE
total m45 y349 d18054
「最大」のほうは、何をどう「デカい」と判断するか、さまざまな主観もタップリ交錯するだろうし、「ヒイキ目」とか「ヒイキの引き倒し」とか、要するに全く信用が置けない。「オレんとこが最大!!」とデカい声を出し続ければ、それだけでいつの間にか「最大」という定評が出来あがってしまう。
しかし「最古」のほうは、そうは問屋が卸さない。最古なら最古で、誰かが何らかの証拠を示さなければ、誰も最古と認知しない。最古の証拠がないのに「オレたちは最古だ!!」と頑張りすぎると、「インチキ」とか「ウソツキ」とか、マコトに困った定評もくっついてしまう。
だからライプツィヒとしても、最大を名乗るより最古を名乗るほうが、ずっと勇気が必要だったはずである。その結果「最古」として誰かに認定してもらえるとしても、別に「最古」だから得をするとか、そういう付加価値はほとんどゼロなのに、である。
(ドイツ東部では、クリスマスツリーよりコイツが主役である)
ドイツのクリスマスは、クリスマスツリーが中心ではないのである。伝統のお人形サンたちが3階建てとか4階建てとかのタワーを作り、タワーのテッペンには竹トンボの親玉みたいなクルクルが回っている。このクリスマス・デコレーションが、クリスマス市の中心的存在なのである。
12月21日、ライプツィヒのクリスマス市でも、このスーパー竹トンボどんが中心的な役割を演じていた。竹トンボの根元には、燃えるような文字で「FEUERZANGENBOWLE」とある、
ドイツ語では一緒くたにつながっているが、FEUER(火/炎) + ZANGEN(火箸・ハサミ)+ BOWLE(カクテル風の飲み物)。実際に飲んでみると、マコトに強烈なドリンクであって、繊細な日本人はまず「熱いワイン」という発想にビックリする。
これだけ海外旅行が一般化すれば「ホットワイン」「グリューヴァイン」、フランス語なら「ヴァン・ショー」というイメージは、もう別にフシギでも何でもないだろう。
しかし日本という国では、赤ワインのテイスティングにあんなに難しいルールを守らなくちゃならない。「熱いワイン」なんてのは、「ビックリポン♡」以外の何者でもない。
(最強のホットワイン、フォイアーツァンゲンボウレ 1)
しかし、ビックリポンだろうが何だろうが、ドイツのクリスマス市ではまさにそのビックリポンが常識となっているんだから、郷に入っては郷に従うしかない。
まず鍋かヤカンに赤ワインを入れて、これをグラグラ熱する。鍋の上には、「フォイヤーツァンゲ」と呼ばれる火バサミを置き、ラム酒をたっぷり染み込ませた角砂糖を載せて、これにボッと火をつける。
角砂糖は(というかラム酒は)青白い炎をあげつつ燃え&溶けて、鍋の中の熱いワインに滴り落ちる。こうしてマコトに甘く、マコトに熱く、マコトに強烈なホットワインができあがる。これが正式なフォイヤーツァンゲンボウレである。
映画「フォイヤーツァンゲンボウレ」は、老境にさしかかった2人のオジサマが、熱く甘いフォイヤーツァンゲンボウレをグイグイやりながら、それぞれの過去を振り返るというストーリー展開になっている。
その2人のオジサマというか、要するにジーチャンズの一方 ☞ Dr. プファイファー役をハインツ・リューマン(Heinz Rühmann) が演じている。Heinz Rühmann、20世紀ドイツで最も有名な俳優の一人である。
(ドイツの名優・Heinz Rühmann。フォイヤーツァンゲンボウレと言えば、何と言ってもこのオジサマだ)
タキシードに蝶ネクタイ、アタマにシルクハット、口には葉巻。手にはステッキ。20世紀前半の渋い中年オジサマというものは、だいたいこんなカッコで渋面を作れば、それがセクシーなのだとみんなが思い込んでいた。いやはや、安易で気楽で濃厚なポカポカした時代なのであった。
この飲み方を「mit Schuss」と呼ぶ。前置詞mitは英語のwithみたいなもの、Schussとは「ショット」のことであって、熱い赤ワインの中にラム酒のショットを遠慮なくドクドク注いでしまう。
ラム酒以外に、お酒に着けたサクランボのタップリ入った「アマレット」をドクドクやることもあるが、とにかくお店のヒトにmit Rumが欲しいのか、mit Amarettoが欲しいのか、キチンと伝えないとドイツのヒトはそれだけで気難しくなるから要注意である。
しかし諸君、黙っていれば相手は「ほお、mit Rumね」と理解し、熱い赤ワインの上からラム酒をショットでたっぷり2杯、大サービスで入れてくれる。「こんなの飲んだら泥酔しますよ」という勢いだが、北ドイツの寒さに耐えるには、当然タップリのmit Rumが必要なのである。
(最強のホットワイン、フォイアーツァンゲンボウレ 2)
クリスマス市の場合、基本はあくまで「屋台」であり、要するにみんなシロートに毛が生えたか生えないかぐらいのヒトビトであるから、ここで供されるフォイヤーツァンゲンボウレも、チョー気難しい本式のものではない。
常に赤ワインを熱しておいて、まずカップにタップリのワインを注ぐ。ラムは、その場でボトルからドボドボ注いでしまう。どのぐらい注いだか、店のヒトもお客のほうもちっとも見当がつかない。これを飲んで泥酔するかしないか、誰も責任なんかとらないのである。
それでも角砂糖から「青白い炎」が上がっていないと寂しいし気分も高まらないから、カップの端っこにラム酒入り角砂糖を乗っけて、チャッカマンで火をつける。おお、燃える&燃える。まさにインスタントのフォイヤーツァンゲンボウレであるが、クリスマス市ならその程度で構わない。
(ライプツィヒにて。このオネーサマたちが「ラム酒をドボドボ」をやってくれた)
寒い寒い北ドイツのクリスマスなら、mit Schussなフォイヤーツァンゲンボウレはまさに不可欠の飲み物だ。足許はもちろん数メートルの積雪、吹きつのる吹雪の中、アルコールの青白い炎と、真っ白い吐息が混ざりあって、「あったかいね♡」「あったかいね♡」と頷きあう幸福に勝るものはないだろう。
しかし諸君、ここにも温暖化の影が忍び寄る。足許に積雪は全くないし、クリスマスソングを吹き飛ばしてしまうような吹雪もない。2009年12月、ブダペストのクリスマスは確かに猛吹雪で真っ白だったが、ああいうホワイトクリスマスは、今や地球上から消滅しつつあるようだ。
というわけで、ライプツィヒの今井君はジットリ汗をかきながらのフォイヤーツァンゲンボウレ。ドイツの名優Heinz Rühmannだって、これじゃますます渋面を作るしかないだろうが、諸君、「不都合な真実」はとうとうここまで来てしまったわけである。
E(Cd) Patricia Barber:NIGHTCLUB
E(Cd) Yohichi Murata:SOLID BRASS Ⅱ
E(Cd) CHET BAKER SINGS
E(Cd) Art Pepper:SHOW TIME
E(Cd) Maceo Parker:SOUTHERN EXPOSURE
total m45 y349 d18054