Mon 151116 みんな悩んで大きくなった エクスでカリソン祭に遭遇(また夏マルセイユ34) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Mon 151116 みんな悩んで大きくなった エクスでカリソン祭に遭遇(また夏マルセイユ34)

 いったんマルセイユ旅行記に戻ると決めた以上、本来ならワタクシもその決意を翻したくないし、旅の記録以外のことで盛り上がるのはどうかとも思う。ましてや掲載する写真はエクス・アン・プロバンスでのお祭りの写真だ。出来れば旅行記に徹していたいのである。

 しかし諸君、飛び込んできた訃報は、早稲田大学の先輩のものだ。木で鼻をくくったように「今は旅行記を書いてるんです」というんじゃ、まるで昭和の時代の地方公務員か国鉄職員みたいじゃないか。

 野坂昭如、死去。まず、ご冥福をお祈りする。しかしこの人の訃報を、しかつめらしい顔で報じているマスメディアの人々が可哀そうでならない。たとえ訃報であっても、ご本人はむしろ笑い飛ばしてほしいんじゃないか。ワタクシは心からそう思うのである。

 もちろん「火垂るの墓」の人だ。シリアスな側面を無視するわけにはいかない。「オモチャのチャチャチャ」の作詞も彼。放送作家で作詞家で、直木賞受賞者でタレントで、シンガーで政治家で、「おお、まさに早稲田人」な、たいへんなオカタの訃報なのだ。

 しかしワタクシにとっては、何が何でも「みんな悩んで大きくなった」の人である。野坂氏が歌って踊るサントリー・ゴールドのテレビCMが大ヒットしたのは1976年。若きクマ助はまだ秋田の田舎にいて、このCMがかかるたびにコタツの中で大爆笑を繰り返したものだ。

  ソ、ソ、ソクラテスか、プラトンか
  ニ、ニ、ニーチェか、サルトルか
  みーんな悩んで大きくなった

カリソン祭1
(エクス・アン・プロバンス、カリソン祭の行列が始まった)

 諸君、これこそ昭和日本のCM文化が花咲いた瞬間である。純白、ダブルのスーツ。ウィスキーボトルの先でボーシをクイッと上げて、鈍く輝くヒトミは明らかに泥酔中。その泥酔はおそらく4~5日前から続く底の抜けた泥酔であって、酔いが深まれば深まるほど、その演技はキレを増した。

 両腕を広げて宙に大きく描く輪は、果てしない宇宙よりも広大だ。いきなり右足でキック。そのキックの低さは、ダイアモンドのように固く硬直したハガネの肉体を思わせ、「やっと終わってくれた」と安堵した視聴者に、何と「2番もありますよ」と通告する。

  シェ、シェ、シェイクスピアか、西鶴か
  ギョ、ギョ、ギョエテか、シルレルか
  みーんな悩んで大きくなった

 ギョエテとは、ゲーテのこと。Johann Wolfgang von Goetheであるが、明治期にはGoetheをギョエテと発音する人もいた。それを皮肉った斎藤緑雨という人が、「ギョエテとはオレのことかとゲーテ言い」という川柳を詠んだ。

 ギョエテは16歳の時にライプツィヒ大学の法学部に入学。まさに天才でござるが、「若きウェルテルの悩み」はいいとしても、有名な小説「親和力」となると、立派な初老のオジサマが妻の姪オティーリエの魅惑のトリコになるという困ったストーリーである。

 うーん、ギョエテによれば、「みーんな悩んで大きくなった」というより「大きくなってからも悩み続けた」というのがホモサピエンスの真実のようであるが、まあそのへんは野坂昭如氏の知ったことじゃなさそうだ。この時45歳。パパはモト新潟県副知事。うーん、どう考えたらいいんだろう。
カリソン祭2
(エクス・アン・プロバンス、初秋のカリソン祭。バーチャンたちのダンスが可愛いかった 1)

 このCMで特に印象的なのは。オチョくるように挿入される「おっきいわぁー、大物よぉー」という女性コーラス。どんなにカッコよく低空キックしても、どんなに大きく宇宙に輪を描こうと、「おっきいわぁー、大物よぉー」と軽く流されてしまえば、もうヒトたまりもない。

 大きなボトルのウィスキーを振り回すオジサマも、このヒトコトでションボリ小さく縮んでしまう。「みーんな悩んで小さくなった」「ちっちゃいわぁー、ニセモノよぉー」みたいな感じであって野坂氏の泥酔したヒトミは、むしろそれを訴えているようである。

 この今井君も、東進でのキャッチフレーズは「予備校界の大物講師」。「予備校界」という甚だ小さな世界で、かつて同じ「大物」とうたわれたのはT山敏郎氏であるが、僭越きわまりないことに、クマ助はいつの間にか「2代目大物」を襲名していたようである。

 話が今井クマ蔵となると、やっぱり「ちっちゃいわぁー、ニセモノよぉー」の謗りを免れないのかもしれないが、野坂氏出演のサントリーゴールドCMでは画面に大きく「これは、大物」の文字が浮かび、これにかぶせて「人生をデッカく生きる男たちに」のナレーションが入る。

 それでも諸君、女声コーラスが囁くように「おっきいわぁー、大物よぉー」ともう一度冷やかしてくる。それを振り払って「オレも、オマエも、大物だぁー!!」と絶叫する野坂氏。これこそ早稲田人であり、早稲田人理想の代表格 ☞「文学部・中退」の勲章が背中に輝いてみえる。
カリソン1
(カリソンはプロバンスの代表的な銘菓。アルルやアビニョンでも買える。昨年はニームで買った)

 900mlのデカボトル。新発売、1500円。野坂氏はますます泥酔していく。最後に全く無意味と思われるヒトコト、「トントンとんがらしの宙返り」で〆る。一応「〆」ということにしておくが、おそらくこれは野坂氏一流の捨てゼリフなのであったろう。

 きっと今ごろ天国の門のあたりで、「天国の門番」といういかにも概念矛盾な存在に向かい、「トントンとんがらしの宙返り!!」と毒づいていらっしゃるころだ。

 またまたウィスキーのボトルでボーシをクイッと持ち上げ、またまた白いスーツで門番をローキック。互いに泥酔して大島渚先生とツカミあった夢のように楽しい日々を、いよいよ天国に持ち込もうとスッタモンダしてらっしゃるかもしれない。

 まあ諸君。ググってポチッとYouTubeでも眺めてくれたまえ。訃報以来、何を隠そうワタクシは、すでに100回もポチッとしたのである。
カリソン2
(祭の屋台では、焼きたての熱いカリソンも売っていた)

 以上の美しい思い出を、「マルセイユ旅行記にどんなふうに関連させようか」と悩んでいるクマ助は、それこそ「みーんな悩んで小さくなった」であり「ちっちゃいわぁ、ニセモノよぉー」の典型なのかもしれない。

 いいじゃないか、全然カンケーなくたって。もちろん、もしもあえてちっちゃいニセモノとして関連づけるとすれば、「オジサマやオバサマのダンスって、ホントに可愛いね」という方向性に持っていくことはできる。

 エクスのお祭りは、プロバンスの伝統的なお菓子「カリソン」の誕生を記念するお祭りだ。
① プロバンスがどれほどカリソンのお世話になってきたか、
② カリソンがどんなに素晴らしいお菓子か
③ みーんなカリソンで大きくなった
④ おっきいわぁー、大物よぉー
町のオエラガタもみんな集まって、ホンノリ甘い菱形のお菓子について、かわりばんこにこんなふうに絶讃したのである。

 カリソンに使用するのは、プロバンス名物のアーモンド・メロン・オレンジ。これを練り上げて小さな菱形の生地に挟み込む。甘さはあくまでホンノリであって、イヤしい今井君なんかは20個ぐらい一気に平らげられる。うぉ、おっきいわぁー、大物よぉーであって、人生をデッカく生きられそうだ。
カリソン祭3
(エクス・アン・プロバンス、初秋のカリソン祭。バーチャンのダンスが可愛いかった 2)

 お祭りのダンスは、80歳過ぎのオバーチャンから、その娘であるオバサマ、20歳代のマゴ娘、幼稚園に通いはじめたヒマゴ娘まで、3世代&4世代のプロバンス娘たちがズラリと勢揃い。野坂どん並みの派手なポーズで踊りまくる。

 こういうダンスはマコトにフシギであって、年をとればとるほど、バーチャンになればなるほど、ますます可愛らしく見えるものである。エクスで一番有名なカフェ「ドゥ・ギャルソン」の前に舞台をしつらえ、初秋の陽光の中、心ゆくまでダンスが続いた。

 もう1つ不思議なのは、いくらダンスが続いても、すっかり大きくなったバーチャンたちがちっとも疲れないことである。園児や小学校低学年のヒマゴ娘たちを気遣いつつ、バーチャンたちの笑顔はますます輝いて、疲れた様子なんか全く見せないのだ。

 やがてダンスは行列に変わって、これまた何世代もの男たちが楽器を操りながら加わった行列は、町の大聖堂に向かってゆっくりと進んでいく。日本のお神輿みたいに、マリアさまと幼子キリストの像を担いで進むのだが、その辺の詳しいことは、明日の記事に譲ろうじゃないか。

1E(Cd) Ashkenazy(p) Müller & Berlin:SCRIABIN SYMPHONIES 2/3
2E(Cd) Ashkenazy(p) Müller & Berlin:SCRIABIN SYMPHONIES 3/3
3E(Cd) SECRET OF ISTANBUL
4E(Cd) 1453
5E(Cd) Anita Baker:RAPTURE
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