Tue 151110 高倉健「駅 STATION」 増毛・富田屋の偉容(留萌ましけ往還記5) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 151110 高倉健「駅 STATION」 増毛・富田屋の偉容(留萌ましけ往還記5)

 函館本線はこの150年、北海道の鉄道大動脈の役割を担い続けてきた。それこそ近代北海道の草創期から、函館 ⇔ 長万部 ⇔ 倶知安 ⇔ 小樽 ⇔ 札幌 ⇔ 旭川を結び、昭和の北海道は函館本線にその屋台骨を支えられていたと言っていい。

 ところが20世紀の後半から、長万部 ⇔ 小樽間の函館本線は次第にローカル線化が進む。長万部から北はニセコ・倶知安あたりの険しい山地が続き、勾配も曲線も激しいので、高速輸送には不向きなのであった。

 長万部から北は、東室蘭・苫小牧・千歳空港を経由して行く海岸線のほうが圧倒的に有利。概算30kmも遠回りになるのに、海岸ラインがいつの間にか小樽経由を圧倒し、苫小牧周辺の繁栄にもつながった。

 北海道新幹線について、「苫小牧経由か小樽経由か」で激しい綱引きもあった。今度は歴史のある小樽ルートのほうが、距離が短く明らかに優位。室蘭・苫小牧ルートが危機に立たされている観がある。いやはや、人の世の変遷はマコトに難しい。
旅館富田屋
(増毛駅前「旅館 富田屋」の偉容。木造三階建ての豪壮な建築が、江戸時代以来200年の繁栄を髣髴とさせる。右隣りが風待食堂)

 しかし札幌から北となると、大動脈・函館本線もすこぶる穏やかである。21世紀のうちに新幹線が旭川まで延伸する可能性はほとんどなくて、人々も別に新幹線延伸を期待している様子はない。

 新幹線は、札幌まで。東京と鉄道で結ばれる必要性はあんまりなさそうだし、例え新幹線が旭川まで伸びたって、東京までは6時間か7時間の道のりだ。そんなの意味がない。鉄道は札幌まででいいので、それ以上の距離ならヒコーキがいい。そのためのMRJじゃないか。

 その函館本線の北の果て、旭川の一歩手前にあるのが深川駅である。駅前は閑散として、雪の中に静かにたたずむ街の風情は、まさに在りし日の高倉健にピッタリ。いかにも健サンのシブい表情が似合いそうだ。

 1981年の名作映画「駅 STATION」は、高倉健の代表作の1つである。ストーリーは函館本線「銭函」駅から始まる。「銭函」と書いて「ぜにばこ」と読むが、ここは昔から蒸気機関車の2重連とか3重連とかが奮闘したことで有名な難所のそば。ローカル線化が著しい長万部 ⇔ 小樽間の駅である。

 映画のストーリーは、その後「増毛」「留萌」「北見枝幸」と、今井君の旅にもすっかりお馴染みの町が次々と登場する。読者諸君もぜひ一度「駅 STATION」を目撃してくれたまえ。面倒だったら、YouTubeで予告編を見るだけでもいい。
増毛駅
(増毛駅。これもまた歴史的建造物である)

 銭函での別れのシーンも秀逸だが、監督 : 降旗康男、脚本 : 倉本聰、音楽 : 宇崎竜童、さすが20世紀終盤を彩った人々の総力が結集して、冬の北海道日本海岸の哀愁は強烈なものがある。

 お酒が入った後のワタクシは、宇崎竜童の音楽を心から愛するクマに変貌するので、そういう時にカラオケに誘われれば、「何はともあれ宇崎竜童」な勢いになる。「身も心も」はまさに名作であって、そのカラオケがどんなシチュエーションであれ、意地でも一度は熱唱してみせる。

 その熱唱がどれほどプロ並みであるか、それは聴いたことのある人でなければ分からない。歌いつつクマ助の頭に浮かんでいるのは、いつでも高倉健サンの姿。「駅 Station」の健サンは、銭函からの長い旅を経て、とうとう留萌本線・増毛の駅にたどり着く。

 列車の右側に荒れる日本海を眺めながら、列車はなだらかに右カーブを曲がっていく。海岸沿いには、昭和初期から中期の町の繁栄を髣髴とさせる港があり、魚類加工の工場があり、漁業協同組合の建物も並んでいる。

 映画は35年も前のものだから、窓から展開する町もまだ繁栄の影を残しているが、2015年、いよいよ鉄道の廃止が迫った町は、初冬の嵐を目前に控えた重い曇天の中、動くものはヒトもクルマも全く見当たらない。
留萌
(留萌駅。かつての栄光を忍ぶ 1)

 増毛に到着、12時44分。ここは完全な終着駅であって、列車の先10メートルほどの所に列車止めがあり、もうそこから先に線路はない。増毛の先の岬に「雄冬」という町があるにはあるが、雄冬には増毛からバスで行くしかない。20世紀まで、増毛港から連絡船が出るだけの陸の孤島だった。

 当然、映画の健サンも増毛で列車を降りる。駅を出て正面に、木造の「旅館 富田屋」と「風待食堂」が並んでいる。旅館は「館旅」、富田屋は「屋田富」、文字は右から左に書かれ、古色蒼然としたこの建物は昭和8年の建造。今は営業していないが、今もなお堂々たる偉容を誇る。

 江戸時代後期から、増毛と留萌はニシン漁で繁栄。昨日も書いた通り、ニシンはやがて数の子と木材と石炭にとってかわられるが、町の繁栄は昭和中期まで続いた。

 元気なたくましい男たちが町に大量に流入し、戦前には港の周辺に遊郭が立ち並び、遊郭の女は「かもめ芸者」と呼ばれて町を彩った。富田屋・風待食堂・国稀酒造、そういう堂々とした木造建築物は、まさに昭和初期の繁栄の記念碑と言っていいのである。

 映画では、「風待食堂」が舞台になる。健サンと桐子(倍賞千恵子)のシブい演技が際立つのであるが、そのへんはやっぱり実際に映画で楽しんでくれたまえ。やがて2人の仲は深まり、留萌の映画館に出かけて休日の午後を満喫したりする。

 留萌で見る映画が「Mr.Boo」であるらしいあたりが、クマ助の美意識とは相容れないが、クマ助なんかの美意識と相容れなくても、別に問題はない。古手川祐子・根津甚八・永島敏行・名古屋章・織本順吉・北林谷栄、昭和を彩った名優たちが見事に脇を固める。
るもい
(留萌駅。かつての栄光を忍ぶ 2)

 これほどの駅に、10分しかいられないのはマコトに残念である。どうしても近いうちに再び増毛を訪ねなければならないが、今後のクマ助スケジュールを見るに、なかなかその機会には恵まれそうにない。

 札幌から高速バスに乗れば、留萌まで2時間ほど。増毛までの鉄道が廃止されてしまえば、留萌からはタクシーでも利用するしかないが、次回はぜひ留萌の周辺に一泊して、増毛の木造小学校も見てみたいし、雄冬まで足を伸ばすのもいいだろう。

 こうして諸君、後ろ髪を引かれ放題に引かれつつ、12時54分、たった10分しか滞在しなかった増毛の町を後にする。増毛まで運んできてくれた気動車キハ54は、今度は増毛から留萌を経て深川へと、容赦なくクマ助を21世紀に送り返すのであった。

 そもそも「後ろ髪を引かれる」という表現と「増毛」という地名がマズかったのかもしれない。早くも察知したMacどんの画面に「札幌のアデランスで増毛体験しませんか?」という広告がチラつきはじめた。イヤだ&イヤだ、21世紀はイヤだ。美意識も何もあったものじゃない。
まっぷ
(留萌本線「まっぷ」駅に到着。キハ54の車内風景も楽しんでくれたまえ)

 しかしまあ諸君、よかったじゃないか。悪天候が予想されていた11月末の北海道で留萌&増毛の旅に出たのに、こうして無事に帰還できそうだ。

 天気予報のオジサマもオネーサマも「北海道は大荒れの恐れ」と口を揃えていたが、深川にも札幌にも定時で到着。別に「大冒険」というほどのことはなかった。

 帰途、「恵比島」の駅を通りながら、やっぱり駅に掲示された「明日萌駅」という文字が気になった。1999年、NHK朝の連ドラ「すずらん」で、この駅が舞台になった。主演:遠野凪子。明日萌と書いて「あしもい」と読ませ、寂れゆく北海道の炭坑の町を舞台に少女の成長を描いたんだそうな。

 しかし冬の北海道の日暮れは早い。明日萌こと恵比島の駅を通過したのはまだ14時ごろだったが、重い曇天の窓は暗く、恵比島駅構内を撮影したはずのカメラには、窓に映ったクマ助のゴツい姿しか撮影できていなかった。連ドラファンの皆様、マコトに申し訳ございませんな。

1E(Cd) Haydon Trio Eisenstadt:JOSEPH HAYDN:SCOTTISH SONGS 1/18
2E(Cd) Haydon Trio Eisenstadt:JOSEPH HAYDN:SCOTTISH SONGS 2/18
3E(Cd) Haydon Trio Eisenstadt:JOSEPH HAYDN:SCOTTISH SONGS 3/18
4E(Cd) Haydon Trio Eisenstadt:JOSEPH HAYDN:SCOTTISH SONGS 4/18
5E(Cd) Haydon Trio Eisenstadt:JOSEPH HAYDN:SCOTTISH SONGS 5/18
total m59 y2005 d17316