Tue 151013 亡き王女のためのパヴァーヌ 名優・加藤治子と野菊の墓 大阪・堺の大盛況 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 151013 亡き王女のためのパヴァーヌ 名優・加藤治子と野菊の墓 大阪・堺の大盛況

 なでしこのことで、相変わらず涙もろい。というか、こんなに涙もろいんじゃ、あんまり世間に顔を出せないような気さえする。何かと言えば胸がググッと熱くなるので、今日から3日間の西日本シリーズが心配である。

 「新刊書、たいへんな好調ぶりです」という出版部からのメールで、今日も朝からググッときてしまった。紀伊国屋書店の新宿本店では、学習参考書コーナーと一般書コーナーの両方に置いてもらっていたのが、どちらもすぐに完売。さっそく追加注文をいただいたんだという。

 他にも多くの書店から注文が続いていて、店頭では「平積み」「面陳」で並んでいるんだそうな。「面陳って、何のこと?」であるが、これで「メンチン」と発音。本の背中ではなく、表紙正面が見えるようにキレイに並べる並べ方なんだそうな。

 そういう情報が入ってくるたびにググッときて、なでしこが夏の木陰で腰をおろし、「さあ、音読だ」の表紙をこっちに向けて、「おやおや、これは面白いですね」と頷きながら読みふけっている姿を想像して、幻のチマタに離別の涙をそそぐ。
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(大阪・堺、南海電車「北野田」の駅前で大熱演。オジサンなら誰でも、こんなに受講生が「きたのだ!!」と言わずにいられない)

 するとどういうわけだか、お風呂の中だというのに「亡き王女のためのパヴァーヌ」が脳裏によみがえり、クマ助独特の熱唱が始まる。まあそれなりに近所迷惑だろうけれども、ベラスケスの描いたマルガリータ王女の肖像に、ラヴェルどんがインスパイアされて作曲した名品である。

 熱唱するクマ助の頭の中では、なでしこがピンと耳をたてて聞き入っている。ブログ表紙一番上のなでしこの顔がそれだ。「おや、なかなかの熱唱ですね」と片目だけ開ければ、ブログ表紙上から2つ目の写真の顔になる。しかしさらに熱唱を続けると、今度は表紙3番目のびっくりマナコになって、「おお、うるさい」とスタスタどこかに逃げていく。

 まあ、そんな日々である。今日から3日間は大阪・広島とめぐる関西シリーズ。日曜日の広島からは朝10時のヒコーキで東京にとんぼ返り、午後3時から北千住のお仕事だ。さらに静岡 ☞ 青葉台 ☞ 府中 ☞ 巣鴨 ☞ 京都 ☞ 町田と、どこまでも果てしなく連戦&連戦なので、メソメソしてはいられない。

 ところが諸君、羽田空港のラウンジで「さて、今日のブログ記事でも書きましょうかね」とPCを広げた途端「女優の加藤治子さん死去。92歳」というニュースが目にとまった。またまたグッと込みあげてきたのは、まさにその瞬間である。
ケーキ
(堺・北野田でもケーキをいただいた)

 加藤治子(敬称略)は昭和の名優であって、芥川比呂志・岸田今日子・高橋昌也など、昭和演劇界を支えた人々と深い交友があった。麦の会・文学座・劇団 雲に参加、演劇集団 円とも関わりをもった。

 昭和を象徴する名優でありながら、今井君の中での加藤治子は、どうしても「野菊の墓」のヒトである。伊藤左千夫どんが頑張って書いて、師匠・夏目漱石に「素晴らしい」と頭をナデナデされた小説。いやはや、いま読んでみると、やっぱり日本語がビックリするほど古くさい。

 モデルになったのは、千葉県松戸市「矢切の渡し」付近や、そこから江戸川を下った市川市のあたり。JR常磐線で葛飾区を東に向かい、江戸川をわたって「さあここから千葉県だ」というあたりで、右の車窓に展開する丘陵地帯が小説の舞台である。

 何度も映画化されているが、加藤治子が出演したのは1981年作品、主演は何とあの松田聖子どん。諸君、一瞬たじろぐと言うか、下手をするとその場に凍りついて唖然&茫然、再び目を開けることを恐れるかもしれないが、そこを何とか踏ん張って、「野菊の墓 松田聖子」でググってみてくれたまえ。
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(堺・北野田の大盛況)

 35年も昔の映画であるが、うーん、映画の冒頭で主人公「民子」をどう受け止めるか、そのへんは諸君にお任せしよう。最初は目を薄く閉じて、あんまりマトモに直視しないように、目が慣れるまでじっとガマンしたまえ。この種のアイドル映画では、常に体験する違和感にすぎない。

 十数分後、そろそろ目が慣れてきたら、おそるおそるでも何でもいいから、だんだんストーリーにのめり込んでいこうじゃないか。15歳の男子、その17歳の従姉。「民さんは、野菊のような人だ」「政夫さんは、りんどうのような人」。恥ずかしくなったらまた薄目に戻って、聞かなかったフリをすればいい。

 15歳と17歳ということになっているが、これはあくまで「数え年」。満年齢なら男子13歳、女子15歳。うぉ、中1男子と中3女子の従姉弟どうしが、幼くふざけあううちにボッと熱く燃え上がっちゃったわけだ。昔の人なら、「消防車、消防車」「早く消し止めなきゃ!!」と慌てるところである。

 法律上は従弟と従姉の結婚だって問題はないわけだが、昔の狭い田舎町での出来事、若い2人の仲を割こうとするヒトビトが現れる。「相合い傘」という懐かしい落書きが問題になり、古い家柄の体面にも関わることとて、愛し合いながらも2人は残酷に引き裂かれていく。
懇親会
(堺・北野田の懇親会場。「今井先生の授業でウケてました」という若い諸君がたくさん来てくれた)

 とうとう離れた町にお嫁さんにいく ☞ 当然のように嫁いびりが始まるという世界。余りにもベタであるが、このへんからが加藤治子の真骨頂。アイドル映画がどんなに恥ずかしくても、加藤治子演ずる「斉藤きく」の一挙手一投足から目が離せなくなる。

 斉藤きくは、政夫サンの母親。いとこどうしなんだから、民子どんにとっては伯母上にあたる。2人の仲がこれ以上深まってはマズいということで、政夫サンは遠い千葉の学校へ。民子どんが嫌がるのも知らん顔で、ヨソの家にお嫁に行かせてしまった。

 やがて、まるで嫁いびりに屈したかように、民子どんは流産が原因で急死。薄幸の美少女が死の床で握りしめていたのが、愛する従弟・政夫からの手紙なのであった。加藤治子の名演はまさにこのシーンであるが、もしもここで熱い涙が流れないようなら、諸君、それはきっと涙腺の調子が悪いのだ。

 最初はアイドル映画の猛烈な違和感にケタケタ笑いながら見ていたとしても、このラストシーンの加藤治子に泣かされない人は、きわめて少数だろうと信じる。深く激しい後悔のセリフ、取り返しのつかない苦悩の表情。35年も前のアイドル映画だが、諸君にもぜひ目撃していただきたい。

 こんなふうに彼女は、3番手4番手の役柄から演劇を支え、ドラマや映画を一瞬の表情やセリフで一気に引き立てる名優であった。その存在感は抜群。ここでは「野菊の墓」についてしか書かないが、加藤治子の存在1つでどれほど映画が引き締まるか、ぜひ一度ご覧になっていただきたい。
じゃこめし
(堺・北野田での懇親会にて。海苔のたっぷりのった「じゃこめし」が旨かった)

 羽田空港で熱い涙を拭った後は、ビューンと一気に大阪に飛んだ。今日のお仕事は、大阪府の堺市である。難波から南海電車に乗って20分ほど、「北野田」の駅前が会場であった。

 19時半開始、21時終了。出席者約120名。使用したテキストは大爆笑編の「Bタイプ」であるから、当然のように90分延々と爆笑が続いた。しかも抜け目のない今井君だ、これほどの濃密な笑いの中でも、新刊書の広報&宣伝活動を決して忘れない。

 何しろ90分間のほとんどを「音読だ♨」「音読だ♡」「音読を1日30分、必ず1年継続したまえ」という話に費やすわけだから、公開授業の締めくくりに「さあ、音読だ」とヒトコト吠えるのは、きわめて自然、すこぶる当然の成り行きなのである。

1E(Cd) Solti & Vienna:WAGNER/DAS RHEINGOLD 2/2
2E(Cd) Solti & Vienna:WAGNER/DIE WALKÜRE 1/4
3E(Cd) Solti & Vienna:WAGNER/DIE WALKÜRE 2/4
4E(Cd) Solti & Vienna:WAGNER/DIE WALKÜRE 3/4
5E(Cd) Akiko Suwanai:DVOŘÁK VIOLIN CONCERTO & SARASATE
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