Mon 150928 なでしこの通夜 派手な姉と地味な妹 新刊書(なでしこ ラストデイズ 2) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Mon 150928 なでしこの通夜 派手な姉と地味な妹 新刊書(なでしこ ラストデイズ 2)

 長い苦闘の果てにとうとう力尽き、目の前に力なく横たわったなでしこの亡き骸を眺めながら、もう完全に茫然自失である。2匹のねこからエネルギーをもらい、健気ななでしこの背中を撫でてやることを楽しみにしてきたこのクマ助は、これから何をカテにして生きていけばいいのだろう。

 純白のニャゴロワがどこか暗闇から姿を現して、いつものソプラノで「ミー」と鳴いた。なでしこの亡き骸を矯めつ眇めつして、不思議そうに一声「ミャー?」とクマ助の顔を眺めたが、シマシマの相棒がもうピクリとも動かないことに、どうしても納得が行かないらしい。

 やがて「シャーッ!!」と威嚇の声をあげ、その威嚇に相棒が応えてくれることを、心待ちにしている様子。いつも病院から帰ってくると、お互いに威嚇の声でコミュニケーションをはかる2匹だ。「シャーッ!!」と威嚇すれば、相手も元気な猫パンチで応酬した。

 しかしこの夜は、なでしこはもう得意の猫パンチを繰り出さない。こんなに大きなニャゴさえも一発で退散させる気合いの猫パンチこそ、大人しいなでしこの持ち味だったが、あの気丈な魂はすでに天国に旅立ってしまった。

 ニャゴはもう何が何だかわけが分からなくて、なでしこの亡き骸の周囲を不思議そうに何度もグルグル回ってみるばかり。何度「シャーッ!!」と威嚇してみても、12年10ヶ月を一緒に生きた相棒のシマシマは、もうピクリとも動かない。
2人
(仲のいい姉妹だった)

 例えねこでも、通夜も葬式もしなければならない。13年をともに過ごしたねこであれば、その思い出を語り合い、ねこの幸福や栄光や無念を思い起こして一夜を過ごすのが礼儀である。力なく横たわったなでしこを前に、この夜のクマ助は夜が白々と明けるまで数々の思い出を反芻した。

 13年前、クマ助はまだ代ゼミ四天王の一角であって、「どうしても時間内に長文が読み切れません」という受験生諸君のために、独得のスピーディな読解法を工夫したりして、たくさんの参考書を執筆していた。

 ところがそういう努力に対し、敵意をむき出しにして攻撃してくる講師たちも多数存在した。あんまり敵意がむき出しで、かえって彼らのほうが可哀そうなぐらい。もうメンドーになって、「いつ代ゼミをヤメるか」を日々思案していた頃である。

 なでしことニャゴロワがやってきたのは、そんなスッタモンダの真っ最中。2002年12月24日、姉妹として生まれたばかりの子ねこたちが、2003年の早春に「里親をさがして」という形でクマ助の2階の居間にやってきた。

 最初、2匹もねこを飼うつもりはなかったのだ。面倒な日々の癒しになってくれるねこがたった一匹身近にいてくれれば、それでよかったのである。連れてこられたのは、キジトラと純白の姉妹であった。

 当時の今井君は、白いねこにはあんまり興味がなかった。カンペキな白とか、パーフェクトな黒よりも、白・黒・茶色、いろんな色が混じりあった日本猫が好きで、会う前から写真を見て「このキジトラのほう」と気持ちは決まっていたのである。
2008年のころ
(2008年。なでしこはマコトに身軽なねこだった)

 名前も、会う前から「ニャゴロ」と決めていた。何のことはない、「ニャーニャー」と鳴き、「ゴロゴロ」とノドを鳴らすだろう、だから「ニャゴロ」。マコトに単純なネーミングであった。キジトラのほうをニャゴロと名づけて、10年か15年の時をともに過ごすことに心は決まっていた。

 しかし実際に会ってみると、純白のねこがキラキラ光って圧倒的に美しい。キジトラ君とももちろん一緒に生活したいが、こんなにキレイなんじゃ、純白のねこもどうしてもオウチに迎え入れたい。

 しかもその圧倒的な白い美しさが、まさにロシアの美女を思わせる。最初に考えていた「ニャゴロ」に「ワ」をくっつけ、大柄なロシア美女を髣髴とさせる「ニャゴロワ」という名前を考案。キジトラにつけるはずだった「ニャゴロ」は、横取りされるように純白ねこの名前になった。

 だからキジトラは、最初なかなか名前がつかなかった。お腹の茶色いポヨポヨした毛が印象的だったので、例えば「みかん」とか、キジトラではあっても要するに三色の毛皮だから「普通に『ミケ』でいいじゃないか」とか、クマ助の頭の中でキジトラの名前は二転三転、なかなか決まりそうになかった。
ピンクの鼻
(キジトラに、ピンクの鼻が印象的だった)

「なでしこ」が女子サッカーチームの愛称として有名になったのは、もっとずっと後のことである。だから、「女子サッカーファンなので」というわけではない。実際は「顔の真ん中のピンクの鼻の色がナデシコの花にソックリだから」というのが最初である。

 もちろん「ヤマトナデシコ」という意味も含まれている。ロシア美女らしく常に自信タップリに行動する姉ニャゴロワ。その陰に隠れて常に控えめに生きる妹のなでしこ。ホントはどっちが姉でどっちが妹なのかハッキリしないのだが、派手な姉・ニャゴロワ、控えめな妹・なでしこ、その位置づけが定着した。

 2008年にブログを始めた時も、ニャゴロワは好き勝手に滑稽なポーズをとり、読者の喝采を浴びた。一方のなでしこは、あくまで賢げな瞳でカメラを見据えるばかり。そのクセいったんツボにはまると、ナーナー強烈に自己主張して、派手なニャゴロワをタジタジとさせた。まさにヤマトナデシコの本領である。

 その本領を最も強烈に示したのが、
「ねこのビデオに出演してくれませんか?」
「本の表紙になってくれませんか?」
という依頼が相次いでやってきた時である。2005年の春のことだった。

 依頼の目的は、あくまで純白のニャゴロワ。カメラマンもスタッフも、あんまり純白がキレイで人なつこいから、最初はひたすらニャゴロワの撮影に夢中になる。オモチャに戯れて遊ぶ姿も、当時のスリムなニャゴはマコトに華麗であった。
DVDに登場
(DVDビデオに登場したねこ姉妹。右がホッソリしていた頃のニャゴ。なでしこの写真のほうが大きく扱われた)

 そりゃそうだ。近所のコドモたちでさえ「キレイなネコのいるオウチ」として今井君のオウチを指差してみるアリサマ。純白のニャゴがどんどん人気沸騰する反面、なでしこは日なたと日陰みたいな存在に追い込まれかねなかった。

 しかし諸君、妹なでしこはこの取材で一気に人気者にのし上がる。最初ニャゴロワに夢中になっていたスタッフも、そのそばで懸命に姉・ニャゴロワをフォローする地味なキジトラの魅力に目覚め始めた。

 当初は全く取材の予定のなかったなでしこが、ニャゴロワと一緒にビデオに収まることに決まったのは、その直後。それどころか、有名なキャットシッターさんの新著の表紙として、美女ニャゴロワを抑え、なでしこが起用されることにもなった。

 やがて発売されたDVDビデオのタイトルは「猫暮らしマニュアル」(アルバトロス株式会社)。キャットシッター南里秀子サンの新刊書は「猫、ただいま留守番中」(駒草出版)。妹なでしこの栄光の日々であった。

 2匹の様子があんまり可愛いから、クマ助は「チロルチョコ」のデザインとしてもこの姉妹を提案。チロルチョコになった2匹については、このブログの「Sun 100110 Kitkatを超えるニャゴ&ナデのチロルチョコ」を参照。ねこバカ ☞ クマ蔵の本領発揮であった。

 このブログを開始したこと自体、実はなでしこの写真があんまり可愛かったからなのである。2008年以来、今もフロントページ右側を飾るなでしこの4枚は、「このまま4コママンガに出来るな」という傑作であって、この4枚がなければ、ブログを開始することさえなかった。
本の表紙になる
(なでしこは、とうとう本の表紙にもなった)

 いま目の前でなでしこが息絶えてみると、①「このままブログもヤメてしまう」とか、それどころか、②「このまま現役を引退してしまう」ことさえ、人生の選択肢として考えなくもないのである。どこまでも目立たず大人しく生きたなでしこは、そのぐらい今井君の人生に深い影響を与えてきた。

 クマ助は今、悔しくてならない。死の主因になったなでしこの腎臓は、ホンのソラマメほどの大きさ。病魔に侵された肝臓も心臓も、ウズラの卵ほどの大きさに過ぎない。

 12年10ヶ月、なでしこがあんなに頑張って生きてきたのに、それを何とも出来ずに手をこまねいていたなんて、オレは何てダメなヤツなんだ。それを思うと、もう明日の仕事にも出かけられないほどなのである。

 しかし諸君、なでしこが目の前で亡くなり、ショックのあまりますますヒゲが胡麻塩になっていくクマ蔵も、通夜の酒に酔ってばかりもいられない。翌日はお葬式もあり、そのまた翌日には、長いあいだ待ちに待った新刊書の出版も控えている。ションボリとばかりはしていられないのである。

 なでしこの生きているうちに何とか間に合わせたかった新刊書は、今井君としては7年ぶりの本である。怠けつづけた7年に、きっと今ごろ天国のなでしこは「あなたはホントに、ねこみたいな怠け者ですね」と呆れているに違いない。

 そのささやかな新刊書のタイトルは「さあ、音読だ」。10月23日には書店に並ぶ予定のようである。

1E(Cd) Menuhin:SCHUBERT/SYMPHONY No.2 & No.6
2E(Cd) Menuhin:SCHUBERT/SYMPHONY No.3, No.5 & No.8
3E(Cd) Menuhin:SCHUBERT/SYMPHONY No.9
4E(Cd) Gunner Klum & Stockholm Guitar Trio:SCHUBERT LIEDER
5E(Cd) Wand & Berliner:BRUCKNER/SYMPHONY No.4
total m141 y1571 d16882