Fri 150814 分水嶺 秋が早い ヴォメロの丘の絶景 もっとノシ歩く(ナポリ滞在記49) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 150814 分水嶺 秋が早い ヴォメロの丘の絶景 もっとノシ歩く(ナポリ滞在記49)

 内田百閒に「分水嶺」という随筆があって、文庫本で4~5ページの余り目立たない随筆であるが、
「分水嶺というと大袈裟に聞こえるけれども、中国山地の緩やかな丘を汽車で登っていって、ふと気がつくと川の水の流れが、南北あべこべになっていた。分水嶺とは、そういうものである」
という趣旨のことをおっしゃるのである。

 8月20日ごろの今井ブログを読んでみると、「カネタタキが鳴き出した」という記録があって、どうやら今年の夏の分水嶺はあの辺だったらしい。庭に住みついたカネタタキ一家が鳴き始めるのは、例年なら9月の中旬なのだが、今年は1ヶ月近く早かった。

 甲子園の準決勝や決勝のころ、外野の芝生の上をやっと赤トンボが飛び始める時期なのに、もう東京でカネタタキが鳴いていたのだ。今年の北半球は東も西も、どうも秋の訪れが早いようである。

 8月26日のブログには「東京は肌寒かった」とあり、気温が26℃までしか上がらなかったところ嘆いているけれども、結局あのまま夏のカンカン照りは一度も復活せずにすっかり秋を迎えた。次の週末には秋台風が本州に接近するらしい。
ヴェスビオ1
(ヴォメロの丘からヴェスヴィオ山を望む。2015年4月6日)

 かく言う今井君は昨日、南フランスのエクサンプロヴァンスを訪れ、偶然にも遭遇した「カリソン祭り」で、マリア様の像をお神輿みたいに押し立てた群衆とともに、大聖堂で司教さまのお説教を聞いていた。南フランスですら、もうプラタナスの葉が黄色く染まり、たくさんの落ち葉が風に舞っている。

 現在はマルセイユに滞在中。昨年夏に続き、またまたマルセイユに2週間滞在しているわけである。よほどこの街が気に入った証拠であるが、滞在も残り1~2日という段階になって、バカンス真っ盛りだったマルセイユにも秋風が吹き出した。

 中東やアフリカからのたくさんの難民が、トルコからハンガリー、オーストリアからドイツを目指している状況で、ヨーロッパ全域がどうも浮き足立っているようである。マルセイユ周辺でも、警察官や軍人の姿が目立つ。軍人たちは機関銃をむき出しにして港を監視。警官も3~4人のグループで駅や列車の巡回を続けている。

 マルセイユからは2時間半でニース、ニースから1時間ほどでマントン。その先はイタリアであって、国境の街ヴェンティミリアには、すでに難民の集団が到着しはじめているらしい。
ヴェスビオ2
(ナポリ全景)

 東欧に目を向ければ、国際列車が到着するブダペスト・ケレティ駅がたいへんな混乱の中にあるようだ。ホンの5~6年前までのケレティは、脱法両替商と、彼らとグルになったニセ警官たちが出没する楽しい駅だったが、今は続々と到着する難民の対策でテンテコ舞いということだ。

 分水嶺がどこにあったのか、今は分からない。すでにすっかり分水嶺を越えてしまっていて、今から十数年後に「なぜあの時だれも気づかなかったのか?」「なぜあの時何の対策もとらなかったのか」と嘆く事態になっているような、不安な思いでいっぱいだ。

 そういうことを思いながら、平和なマルセイユを散策していると、「治安」「治安」とブルブル震えていた時代がむしろ懐かしいのである。スリやヒッタクリやニセ警官に怯えていた頃は、むしろマコトに平和だったのであって、2015年、暢気に旅を楽しめる場所は加速度的に小さくなっていく。
絶景
(ソレント半島とカプリ島を望む)

 2010年以降、まず北アフリカと中東への旅が危険になってしまった。今井君の本来の予定では、今ごろはシリア・チュニジア・リビア・アルジェリアあたりが旅の目的地になるはずだった。

 ウクライナやイランも、もともとは旅の候補に上がっていた。しかし諸君、2015年の情勢を鑑みるに、地中海南岸と東岸は避けて通るしかなくなった。そのぶん中南米に若干の明るい光が見えるけれども、逆にこれからは東ヨーロッパ地域全体の危険性が高まっていくんじゃないか。

 しかし、こんなクマ助なんかがヤキモキしていても始まらないから、国境の街ヴェンティミリアから鉄道でわずか4時間の海岸を闊歩しつつ、半年前の平和なナポリを思い出しては、地味にブログ更新の努力を続けるばかりである。
フニコラーレ
(ヴォメロの丘へのフニコラーレ駅)

 4月6日、イースターマンデーのナポリの雑踏を避けたクマ助は、治安の悪さでは群を抜くらしいスペイン街をぬけて、ヴォメロの丘にのぼるフニコラーレの駅に向かった。昨日も書いた通り、ヴォメロの丘からの絶景はあまりに有名。「見たらもう死んでもいい」と諺にうたわれた絶景である。

 南にはヴェスヴィオ。上クチビルの形をしたヴェスヴィオは、ポンペイのカタストロフィを引き起こした大噴火までは、富士山みたいな美しい稜線を完璧に保っていたわけだから、本来なら3000メートル級の大火山なのである。

 南西の方向は、ナポリ湾。ソレント半島にかけて多くの船が浮かび、その向こうにカプリの島影が浮かぶ。明日は早朝からもう1度カプリ島に渡る予定であるが、それがナポリの旅の締めくくり。晴れて海が凪いでくれれば、青の洞窟にも行く予定でいた。

 カプリからさらに西に目を向けると、たくさんの温泉が湧くイスキア島があり、その先は一昨日「野宿の危機」に直面したばかりのプローチダ島である。北は、これまた温泉で有名なポッツオーリの街。ナポリ湾は、活火山と温泉にグルッと取り囲まれた一帯なのである。
ヴェスビオ3
(教会の鐘が可愛い)

 世界で一番有名な絶景をこの日までガマンしていたのは、まあ正直に言えば単なる偶然であるが、2週間にわたる長い旅の思ひ出を、こうして一望のモトに振り返ることができた。よかった&よかったである。

 ヨーロッパ中に難民が押し寄せ、平和を担うはずの大国が「軍事パレード」で世界の耳目を集め、そういうパレードに国連のトップまでが平気で出席する世の中である。暢気にノコノコ旅を楽しめる平和な世界は、どんどん小さくなっていく。

 今朝もクマ助は暗澹たる思いで起き上がったが、諸君、ここはみんなでもっともっと世界中をノシ歩いて、楽しかった平和な世界を取り戻すべく、些細な努力を積み上げようじゃないか。日本にいて「治安」「治安」とブルブル震えているだけじゃ、何にも始まらない。

 クマ助はすでに、10月のサンフランシスコ滞在、12月はベルリン滞在を決めたのである。他人に迷惑をかけるような危険な行動は絶対にしないが、とにかく世界をのし歩く。みんなが世界をのし歩いて明るくノッシノッシやっていれば、少しは穏やかな平和の風が湧き起こるんじゃないか。そう愚考するのである。

1E(Cd) Fischer & Budapest Festival:BRAHMS/HUNGARIAN DANCES
2E(Cd) Hungarian Quartet:BRAHMS/CLARINET QUARTET・PIANO QUINTET
3E(Cd) Alban Berg:BRAHMS/KLARINETTENQUINTETT & STREICHQUINTETT
4E(Cd) Backhaus(p) Böhm & Vienna:BRAHMS/PIANO CONCERTO No.2
5E(Cd) Solti & Chicago:BRAHMS/EIN DEUTSCHES REQUIEM 1/2
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