Wed 150610 どげんかせんといかん 酒饅頭の思ひ出 秋田料理店も浸食されている | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 150610 どげんかせんといかん 酒饅頭の思ひ出 秋田料理店も浸食されている

 今さらクマ助なんかが「どげんかせんといかん」と絶叫して盛り上がっても、誰もホンキにする人はいないのかもしれない。2015年、秋田駅前はゴーストタウンと化し、ゴーストタウンはそのまま秋田唯一の繁華街 ☞ 川反通りまで続いて、そこから先はほぼ完全な暗闇である。

 こんな駅前に、名ばかりとは言え「新幹線」を走らせ、1時間に1本、秋田から出て行く人も、秋田に帰ってくる人も、みんなそろって後ろ向きに進む。その光景はあまりに悲劇的であって、大昔に秋田を見捨てて去ったこのクマ助の目にも、思わず熱い涙が滲む。

 いったい何でこんなに寂れちゃったのか、見当もつかない。30年前の秋田駅前は、真夜中まで煌煌と明かりが灯り、老舗日本酒メーカーの看板が夜空を焦がして、田舎ながらに活気に満ちた喧噪に満ちていた。

 ところが諸君、2015年の秋田駅前は、ホントにホントにゴーストタウンそのもの。昔はまあライバルだったはずの仙台に遠く及ばないばかりか、その仙台から通勤電車に乗って10分の仙台ベッドタウンにも遠く及ばない。

 例えば、仙台から東北本線で1駅、「長町」という駅がある。もう1駅か2駅南に下って、名取とか岩沼まで行ってもいい。北へ数駅、利府とか古川を訪ねてみてもいい。人口30万を軽く超えるはずの県都・秋田市の夜は、今や長町や利府にすら及ばない。
金萬1
(秋田銘菓「金萬」。甘過ぎない白あんが絶品だ。クマ助なら20個はペロリと平らげる)

 今井君が高校生時代を過ごした秋田は、当時のクマが心から誇りに思うほどの東北の雄であったのだ。大学1年の4月、胸を張って秋田自慢を並べ立てたほどである。

 当時の早大政経学部は、優秀。「東京大学に入学を拒絶されてやむなく早稲田に来た」という諸君が大半。「ホントは慶応に行きたかった」などというヒトは1人も存在しなかったし、「実は慶応を併願した」と告白しただけで、「オマエ、ホンキかよ?」と、みんな真顔で不思議がった。

 世の中の動きはマコトに不思議であって、朝日新聞系の雑誌によると、今や「早稲田は慶応のスベリドメ」であるらしい。今を時めくメディアの皆さまに楯突くようなことを書くとロクなことになりそうにないが、「スベリドメ」というその発想自体がヤタラに古くさい20世紀的発想にしか思えない。

 しかし諸君、20世紀の受験の世界では、圧倒的に早稲田が上。早稲田大学の学長が「もはや慶応はライバルではない」と発言した事実も、キチンと記録に残っているはずだ。早稲田政経学部の偏差値が、ついに東京大学に追いついたりもした。

 だから諸君、今井君は秋田について1回、早稲田について1回、合計2回も凋落と失望を味わっているのである。2015年6月28日、岩手県花巻であれほどの高揚感を味わった後であればなおさら、秋田駅前の閑散を目撃した衝撃はタダゴトではなかった。
金萬2
(秋田銘菓「金萬」拡大図・金萬の焼き型が新しくなったのか、文字がイマイチしっくりこない)

 秋田は、確か2年ぶりである。2年前の12月、大好きな「きりたんぽ鍋」を貪るためにだけ冬の秋田を訪れ、あの時も確かに激しい凋落を感じた。

 それよりさらに前の秋田訪問は、民主党鳩山首相が「あなたは平成の脱税王だ!!」と与謝野馨議員に問いつめられ、菅直人副首相がケータイをいじりつつ眠りこけていた頃。ほぼ2年に1度秋田を訪れ、余りの衝撃にカメさんみたいに首をすくめてばかりいる。

 諸君、昨日4枚目の写真をじっくり眺めてくれたまえ。「緑屋」という看板のこのビルは、昭和の時代には大規模商業施設として駅前の繁栄の一翼を担っていた。他にも、秋田駅から川反通りにかけての繁華街「広小路」には、かつて「大規模店舗」の名に値するものが10軒近く林立していた。

 スーパーに毛の生えた程度のものも含まれるが、老舗百貨店である木内(きのうち)・本金(ほんきん)・辻兵(つじひょう)の他、ジャスコとイトーヨーカドーの巨大店舗があり、長崎屋・丸三・恊働社・ダイエーが軒を連ねた。

 駅前には、郊外に向かうバスが列をなした。バス会社も3社も4社も競合し、今では遠い過去の記憶であるが、同じ場所から路面電車も頻繁に走った。今井君の故郷・港町の土崎には、5分に1本の頻度でバスが走っていたのである。
いぶりがっこ
(秋田名物「いぶりがっこ」。これで熱燗を飲んでみたまえ、5~6合はこれだけでいける)

 ところが諸君、大規模店舗は今や3軒しか残っていない。路面電車はとっくに姿を消し、午後8時、県都の駅前バス停には、すでにバスの姿は1台もない。というか、人の姿もほぼ皆無であって、「こんな場所に大規模店舗は無用」「バスなんか誰が乗るの?」という深い闇が広がっている。

 昭和の時代、ここは「金座街」と呼ばれ、飲食店に人が溢れ、オミヤゲのお饅頭の温かい湯気のニオイがムンムン漂っていた。今も秋田名物の「金萬」はもとより、「丸〆鎌田の酒まんじゅう」を蒸し上げる日本酒のニオイこそ、「おお、秋田は誇るべき素晴らしい街であるね」というタメイキの元になっていた。

 今や残るのは「金萬」のみである。「丸〆鎌田の酒まんじゅう」は、今井君がこの街を去った直後に閉店になった。秋田の美食を揃えた鎌田会館=「なかよしビル」の1階こそ、酒まんじゅうの聖地だったのであるが、今やビジネスホテル「α-1」に占領されるアリサマだ。

 21世紀の秋田で一番目立つのが「東横イン」であっては、もうこの街に再生の余地はないのかもしれない。その秋田駅前でたった1つ繁盛しているのが「秋田きりたんぽ屋」。夜遅くまで煌煌と明かりが灯り、「秋田きりたんぽ音頭」と名づけたCDまで販売して、暗闇の駅前をギリギリの線で支えてくれている。
えご
(博多の「おきゅうと」をよりワイルドにした秋田名物「えご」。むかしは食卓の定番だった)

 せっかく2年ぶりのきりたんぽ鍋なんだから、ホントなら川反の名店「濱乃家」に行きたいところ。前々回の秋田訪問時には、「濱乃家」のホンモノのきりたんぽ鍋を堪能し、ついでに熱燗の日本酒を7合もカラッポにして、店の人をビックリさせたものである。

 その直後に夜行特急「日本海」のA寝台に乗り込んで、雪の日本海岸を京都に向かったのであったが、「日本海」はとっくに廃止。「濱乃家」も「2日前までに予約してください」とのことで、駅前の新鋭「秋田きりたんぽ家」でガマンせざるを得なくなった。

 しかし諸君、煌煌と明かりを点してはいるが、今井君はお店に入る前から「ありゃりゃ、こりゃどうも地元秋田の人の経営じゃない気がするな」と薄々感じていたのである。そもそも、愛想の悪い秋田人にしては、サービスが行き届きすぎている。

 注文したきりたんぽ鍋は、IH式コンロで煮る。すぐに出てきた「きりたんぽ」と称するものも、ホントのきりたんぽとは似ても似つかない。オムスビを3個つなげ、ギュッとつぶして棒に刺したような、マコトにゴツいシロモノであった。

 それをまた諸君、普通なら包丁で3つか4つにキレイに切るのであるが、女子のアルバイト店員がやってきて、うぉ、うぉ、あまりにも豪快に手で千切って鍋にぶち込んでしまった。「このほうが出汁がよく滲みるんです」とおっしゃる。

 煮え上がったところで、鍋の中身をデカいお椀に一気に盛ってくれる。一度で鍋はカラッポ、鍋もすぐに持ち去ってしまった。中身を全部お椀に移しちゃったんだから当たり前だが、これじゃちっとも鍋物の楽しみがないじゃないか。
きりたんぽ
(ワイルドさにビックリした「秋田きりたんぽ屋」のきりたんぽ鍋。どうやら他県の人の経営であるらしかった)

 ホントのきりたんぽ鍋なら、きりたんぽを入れるのは「〆」の扱い。比内地鶏にゴボウ、ネギにセリ、シラタキにキノコ、そういう豊富な具材をクツクツ自分のペースで煮ながら、ジックリ日本酒を楽しむのがきりたんぽ鍋である。

 鍋に時々日本酒を足しながら、2時間も3時間もクツクツ煮詰めて、「ポンポンの中は比内地鶏でパンパン」「酒はもうこれ以上飲めません」という状態になってから、〆の意味できりたんぽを投入する。これが正しい流儀である。

 ところが駅前のこの店では、流儀も何もあったものではない。鍋でいきなり全部クタクタに煮てしまって、中身を全部お椀に空けて、鍋ごとサッサと片付けてしまう。それなら何も鍋を持ち込む必要はなくて、ラーメンみたいにドンとお椀だけ運んでくればいいのである。

「いぶりがっこ」「えご」「かすべ」など、懐かしい秋田料理を次々と平らげつつ、「経営者も従業員も、実は秋田の人じゃないようだな」と、さすが今井君は嗅ぎつけたのである。「えご」とは博多のおきゅうとのこと、「かすべ」は土崎名物・エイの煮付けであるが、どれも明らかに味と食感がズレている。

 アルバイトの従業員がやってきて、「きりたんぽの由来を紙芝居にしました」と秋田弁で語りはじめたのだが、その秋田弁も地元民クマ助の耳には、とってつけたような学習秋田弁。「うーん、山形の人ですか?」であって、その推測がまたピタリと当たってしまった。

 もちろん、別に悪いことではない。しかし諸君、閑散とした暗闇のような秋田駅前を支える唯一の賑やかな郷土料理屋が、それもまた他県の資本に支えられたものであることはマコトに大きな衝撃。「どげんかせんといかん」はますます強烈な思いとしてクマの脳を支配しはじめたのである。

1E(Cd) Böhm & Berlin:MOZART 46 SYMPHONIEN⑧
2E(Cd) Gladis Knight:JUST FOR YOU
3E(Cd) Anita Baker:RHYTHM OF LOVE
4E(Cd) Luther Vandross:SONGS
5E(Cd) Casals:BACH/THE 6 CELLO SUITES②
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