Wed 150415 スタートラインまでの苦労こそ旅の醍醐味 ノン、ヴァ!!(ナポリ滞在記7) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 150415 スタートラインまでの苦労こそ旅の醍醐味 ノン、ヴァ!!(ナポリ滞在記7)

 まだ世間にウトい若い諸君には想像もつかないだろうが、「出発点までの難行苦行」とは、どんな世界にも必ず存在するものである。スタートラインに立つまでの悪戦苦闘があるからこそ、人生は厳しく、また楽しいのだ。

「始めようと思い立ったら、直ちに始められる」
「よおしやるぞ、と決意した瞬間に全てが始まっている」
などというのは、アマーい天国のお話であって、始めようと思ってもなかなか始められない苦しみを、諸君だっていろいろ知っているはずだ。

 受験勉強もキチンとやろうと思えば、実際にはスタートラインまでの難行苦行が欠かせない。というか、むしろその悪戦苦闘こそ妙味なのであって、そこをキチンと味わいながらジックリ通り過ぎないと、受験勉強の本体が脆弱化するのである。
2000年の石畳
(大都市ポンペイの遺跡、2000年前の石畳の道。大きく擦り減った石畳が歩きにくい。2000年前のワダチの跡も残っている)

 多くの受験生諸君は、「長文読解が弱い」「どうしても時間内に終われない」と認識し、苦悩し、解決法を求めて予備校にオカネを払う。「速読がやりたい」とか、いきなり生意気なことをヌカして、事務職員に叱られたり、チューターに基礎の重要性を諄々と説かれたり、そういうムカつく毎日が続く。

 「速読がやりたい」などとヌカせば、そりゃ当然「諄々と」が待っているので、それは諸君が設定したスタートラインが高すぎるのだ。マラソンに参加するのに、「いきなり35km地点からスタートしたいです」とヌカしたようなものである。

 ついでに言うが、「速読から入る」とヌカすのは、相撲界に入る新米力士が、
「小結か関脇から。せめて幕内から始めたいです」
「序の口とか序二段とか幕下とか、そんなのはイヤです」
「メンドイことは、省略させてください」
とワガママを言っているのと同じことであって、ま、オトナから見たら「よく考えてみなさい」のヒトコトで終わる。
テルマエ
(公衆浴場跡。「テルマエ・ロマエ」の世界であるが、映画の舞台は2世紀半ばのハドリアヌス時代。ポンペイは1世紀中期だから、こちらが100年先輩である。)

 速読の前に、文法的な精読があり、精読後の徹底した音読があり、さらにその前には単語と文法がある。スタートラインに立つ前に、要するに基礎&基礎&基礎の充実がなければならない。ま、「準備運動」と言ってあげてもいい。

 で、「速読がやりたい」とヌカし、どんなに口を尖らせて文句を言っていた諸君にも、基礎・基礎・基礎の難行苦行をやってもらう。それをキチンとやり通して、気がつけば11月。「何だ、スタートラインにたどり着く前に、合格ラインに達していた」と気がつくのは、まさにその時である。

 スタート前の難行苦行こそ、全ての本質であって、吉田兼好どんも、出家後の苦労より、出家する前についてのアドバイスばかり書いている。確かに、いったん出家してしまったら流れに任せるだけのこと。問題は、浮き世の義理をどう振り払って出家するか。滅多なことでは振り切れないいろいろがあるはずだ。

 転職だって、転職前のフンギリがキツい。転職の向こう側には、何だか得体の知れない魅力的な夢や希望がユラユラ&ふわふわワタアメみたいに漂っているが、転職前のコチラ側はほぼ修羅場。あちらも敵、こちらも敵。昔の今井君の経験だが、「味方なんか1人もいなくなる」というのが真実である。
出発点
(ポンペイ探訪のスタートライン。昨日に続いて、カタストロフィの元凶・ヴェスヴィオとの距離感を確認していただきたい)

 こういうわけで、今井君が旅行記を書く時には、出発前の難行苦行や七転八倒、到着前のスッタモンダや悪戦苦闘など、おそらく普通の読者の興味はあまり引かないことを、こんなに異様に詳細に書くのである。

 旅の妙味も、出家の苦労も、おそらくスタートラインの内側にあって、ということは暖かい思い出や記憶として残るのもまた、実際に現場に到着する以前のいろいろ&わらわらのほうなのだ。うぉ、さすが人生のベテラン・クマ助だ、一言一言の含蓄が違いますな。

 だから諸君、3月28日の記録も、なかなかポンペイにたどり着かない。普通の旅行記なら、今ごろはとっくにポンペイの遺跡を回って、次の目的地か、そのまた次の目的地に到着している。それどころじゃなくて、もう日本に帰国して、ブログそのものも終了 ☞ 消滅している可能性だってある。

 しかしクマ助のペースは全く違う。まだナポリ私鉄チルクム・ヴェスヴィアーナ線のプラットホームに出たばかり。電車にすら乗り込まない。何故なら諸君、「乗り込もうかな」と思った途端、オッカナイ70歳ぐらいにオジサマが、顔を真っ赤にして怒鳴りはじめたのである。

 ターゲットは明らかにクマ助。ついこの間、動物園から逃げ出そうとしたマレーグマが、コワいオジサンたちに厳しく叱られたことがあった。叱られるのは、いつでも決まってクマである。
車内風景
(ソレントゆきのチルクム線。固いベンチで1時間はツラい)

 オジサンが怒鳴っている言葉は、もちろんイタリア語である。電車のドアのあたりをたたきながら、「ノンヴァ、ノンヴァ」「ノンヴァ、ノンヴァ」と繰り返す。「なんですかそれは?」であるが、「Non va」つまり「行きません」「行かねえよ」「Doesn't go」である。

 つまり諸君、チルクム線なら全ての電車がポンペイに行くというわけではないのだ。いろいろな路線があって、ポンペイの遺跡前を通るのは、30分に1本のソレントゆきなのだけである。

 駅のどこにも路線図はないから、その辺も事前にしっかり調べていかないと、目的地とは似ても似つかない田舎町でおろされて、1日右往左往して終わることになりかねない。よいかね諸君、必ず「ソレントゆき」、しかも始発駅からしっかり座って行きたまえ。

 ホームの表示は「SORNO」。つまりSORNOゆきの電車なのだから、確かにオジサンが怒鳴っているとおり「Non va」であって、コワい顔のオジサンだけれども、マコトに親切に教えてくれたというわけである。

 要するに、今井君の勘違いなのだった。「SORNO」とあるのは「SORRENTO」の略号かとばかり思っていた。だって「SORRENTO」から要所の文字を拾えば、チャンと「SORNO」になるじゃないか。
ソレント行
(チャンと、SORRENTOゆきに乗らなきゃ)

 こんなふうにありとあらゆるスッタモンダを経て、11時09分、クマ助を乗せた私鉄チルクム線は、ようやくポンペイに向かって走り出した。ホテルを出たのは9時ちょっとだったから、スタートラインに立つまでに2時間もかかったことになる。

 しかし繰り返すようだが諸君、こういうスッタモンダこそが旅の楽しさである。駅の自動改札機が故障して誰も通過できず、通過できない人々がイライラして大声を出し始め、駅員の中年女性も大声で怒鳴り返し、怒鳴られた人々はまた怒鳴り返して、滅多なことでは電車にもたどり着けない。これがナポリなのだ。

 こうして、ポンペイ本番の話は明日に譲ることにする。今日は写真だけ示すから、諸君も大いにポンペイについて予習をしておいてくれたまえ。実際には、まだまだたどり着く前のいろいろについて話さなければならないのだが、さすがに限度があるだろう。

 これ以上続けていると、気短かな読者諸君がこぞって怒りださないとも限らない。何をそんなに「要点を!!」「要点を!!」とカリカリしているんだか見当もつかないが、ツイッターの影響か、どうもブログ読者にも性急に結論ばかり求めるヒトが増えてしまったようである。ホント、スミマセンね。

1E(Cd) Schüchter:ROSSINI/DER BARBIER VON SEVILLA
2E(Cd) Cohen:L’HOMME ARMÉ
3E(Cd) Vellard:DUFAY/MISSA ECCE ANCILLA DOMINI
4E(Cd) Solti & Wien:WAGNER/DAS RHEINGOLD②
5E(Cd) Solti & Wien:WAGNER/DAS RHEINGOLD①
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