Mon 150209 エゾシカ7頭がヒコーキを止める 暴風雪の北海道を、南千歳から釧路まで大横断 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Mon 150209 エゾシカ7頭がヒコーキを止める 暴風雪の北海道を、南千歳から釧路まで大横断

 3月5日、北海道釧路に滞在中。ここからのスケジュールがマコトに厳しくて、右のスケジュール表を見れば分かるが、3月のクマ助の移動経路は、室蘭 ☞ 釧路 ☞ 鹿児島 ☞ 大阪 ☞ 岐阜 ☞ 沖縄 ☞ 首都圏 ☞ 沖縄 ☞ 姫路 ☞ 首都圏。航空会社のCAとか操縦士でもなければ、なかなかこんなヘビーな移動はありえない。

 しかしこの移動の多くは、ヒコーキのプレミアムシートか新幹線グリーン車にふんぞり返っていればいいので、比較的ラクなのである。むしろ厳しいのは、例えば昨日のような北海道内の地味な移動。室蘭から釧路だなんて、見た目にはそんなに厳しくは見えないじゃないか。

 ところが諸君、冬の北海道では、しょっちゅう天候が急変して、爆弾低気圧が襲ってくるたびに、ヒコーキは当然のごとく「欠航」となり、列車もビシッとガンコに「運休」を発表する。

 首都圏みたいに「運転見合わせ」とか、生ヌルい表現でゴマかすのではない。マコトに素朴かつ質実剛健。ホントにビシッと「運休」であって、いったん運休と決まれば意地でも動かない。

 そのぶん、運休についての謝罪は、疑う余地なく誠心誠意のものであって、こんなに熱く謝罪されれば、むしろ乗客の方が申し訳なくなって、「駅員さん、たいへんですね」「頑張ってください」と、今井君なんかは泣き出しそうになりながら、彼ら彼女らに励ましの声をかけるのである。
きっぷ
(JR特急「スーパーおおぞら」での移動を選択)

 3月4日の北海道は今年12個目の爆弾低気圧が南岸に迫っていて、午後から夜にかけて暴風雪の予報。「3日に一度は暴風雪」という状況で、ヒトビトはもうウンザリした表情である。

 この暴風雪の中、今井君は室蘭から釧路に移動しなければならない。ちょっと北海道の地図を広げて、室蘭と釧路の位置関係を確認してくれたまえ。険しい日高山脈が南北にそそりたち、北海道南部を東と西に隔てている。

 日高山脈の南の先端が襟裳岬。昭和のヒトビトが「悲しみを暖炉で燃やし始めてるらしい」と、憧れを歌にした岬である。日高山脈に沿って北海道を縦に折り畳むと、2つの街がピッタリ重なりあうのだが、西が室蘭、東が釧路である。

 直線距離ならごくわずか。新千歳空港からヒコーキを利用すれば、40分程度。「このぐらいの移動に、そんなに苦労しないだろう」と、普通の人なら考える。しかし諸君、暴風雪警報が発令中の冬の北海道を甘く見てはならない。

 3月4日の今井君には、次の3つの選択肢があった。
① 新千歳空港から釧路空港まで、ヒコーキ
② 新千歳空港から羽田に戻り、羽田から釧路までヒコーキ
③ 南千歳駅からJR特急「スーパーおおぞら」に乗り、3時間あまりかけて日高山脈を横断
以上3つの選択肢である。

 もちろん②は決定的にバカげているから、誰も一顧だにしないだろう。しかし10年も全国行脚を続けていると、台風とか暴風雪の時など、意外にこういうルートが現実味を帯びてくることもあるのだ。
掲示板
(一応「スーパーおおぞら」は定刻で出発できそうだ)

 今回は、当初は①の予定。「釧路たんちょうづる空港」という念の入った名前の空港であるが、何しろ「米子鬼太郎空港」や「徳島阿波踊り空港」に「出雲縁結び空港」「鳥取砂丘コナン空港」まで存在する世の中だ。「たんちょうづる」ぐらい、ちっとも問題を感じない。

 しかしおそらく今日の空模様では「釧路空港が大雪のため滑走路を使用できません」「欠航とさせていただきます」という成り行きになる可能性が高そうだ。ということは、①はNG。②の非常識なルートももちろんNGだが、そこへ決定的な情報が入った。

「エゾシカ7頭が、新千歳空港の滑走路に侵入」
「シカのせいで、滑走路が閉鎖 ☞ 33便に影響」
というのである。

 いやはや、ヒグマじゃなくてシカだったのがまだしも幸いな気がするが、今年の北海道は妙に早く春が近づいて、シカ君たちもエサを求めて行動しはじめた。函館に近い瀬棚(せたな)の町ではヒグマが人を襲ったりした。温暖化の影響はマコトに恐ろしい。

 しかし諸君、「暴風雪のせいで釧路に行けません」というならまだ格好がつくが、「シカ君7頭のせいで今井の公開授業が中止になった」なんてのは、どうも可愛らしすぎてイカン。シカ君に汚名を着せないためにも、今井君は南千歳からJR特急に乗り、大地を這って釧路接近を試みることにした。
帯広駅
(帯広駅。雪はこやみなく降り続けた)

 まず南千歳から石勝線を東に進む。石狩地方の「石」と、十勝地方の「勝」を合わせて石勝線。「せきしょうせん」と読む。夕張付近を過ぎ、どんどん山に深く分け入ると、「エゾシカなどが多く目撃される地域です。急ブレーキご注意ください」というアナウンスが入る。

 「日本って、ホントに優しい国に成長したな」と実感する1日であった。シカのためなら滑走路だって閉鎖する。シカのために特急が急ブレーキをかける。そのせいでヒコーキが欠航しようと、特急電車のダイヤに乱れが生じようと、乗客は「シカのためなら仕方ありませんね」と、みんな笑顔で頷きあう。

 ちょっと昔の日本なら、シカにクマにイノシシに野良ネコ、邪魔になるものなら躊躇なく乱暴に排除して、誰一人はばかる者もいなかった。「ニンゲン様のお通りだ!!」という発想で突っ走ったのが20世紀。21世紀の優しい日本が、クマ助は大好きである。
池田駅
(池田駅。深く雪に覆われて、人影は全く見えない)

 まもなく「トマム」の駅に停車。昭和のスキーリゾートは、大雪の中に静まり返っている。昭和の末期、ここはおそらく日本で一番ミーハーなスキー場。ミーハーで悪いことはちっともないけれども、「キャピキャピ」が死語に近づいた今、かつてのウルトラな賑わいは影を潜めたようである。

 やがて日高山脈のトンネルをぬけると、列車は長い長い下り坂に入る。トンネルをぬける前からずっと雪国で、国境の長いトンネルをぬけると、そこもまた雪国であった。しかし考えてみると川端康成どんだって「トンネルをぬける前の段階が雪国だったか否か」について、実際にはヒトコトも触れていない。

 もちろん「夜の底が白くなった」というわけだから、その前段階では「夜の底は白くなかった」と推測できる。つまり「雪国ではなかった」と推測可能なわけだ。しかし諸君、清水トンネルの群馬側は、水上温泉である。実際に通ってみると実は激しく雪国なので、確か太宰治はその近くの雪の中で心中を企てたことがある。
トマム駅
(トマム駅。何となく寂れちゃった感じ)

 となると「川端康成はウソをついたのか」「小説の劇的効果を狙って、実際にはもうとっくに雪国だったのに、雪国はトンネルの向こう側でいきなり始まったみたいに作り話を書いたのか」と、激しく怒りはじめたりする人も少なくない。

 その辺が日本の人の真面目すぎるところであって、そもそも小説というのは劇的な効果を狙っていろいろ誇張を重ねていいし、最初から作り話と割り切って読むべきものであるのは言うまでもない。

 では、ブログはどうか。どこまで誇張が許され、どこまで作り話を挿入していいか。いやはや、たいへん難しい判断であって、そもそも「大雪の北海道で、室蘭から釧路まで移動しました」というだけの話をこんなに詳細に書いていいのかどうか。「生きるか死ぬか」に負けないほど、それが問題なのである。

 しかも諸君、ブログ上の今井君はまだ釧路に到着してさえいない。こんなに書いたのに、まだ中間の帯広あたりをウロウロしちょる。「許せんバイ!!」「不真面目バイ!!」とカンカンになっている人もそれなりに存在するかもしれない。マコトマコトに、この世の中は生きにくい。

1E(Cd) Bobby Coldwell:AUGUST MOON
2E(Cd) Bobby Coldwell:CARRY ON
3E(Cd) Bobby Coldwell:COME RAIN OR COME SHINE
4E(Cd) Bobby Coldwell:BLUE CONDITION
5E(Cd) Boz Scaggs:BOZ THE BALLADE
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