Mon 150126 三重県津の大盛況 科目横断型入試② 記憶をたどれば やはり心配だ | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Mon 150126 三重県津の大盛況 科目横断型入試② 記憶をたどれば やはり心配だ

 2月18日、三重県の津市でお仕事があって、久しぶりの東海道新幹線に乗った。ちょうどお昼すぎの新幹線は、東京駅を出る前からあちこちでお弁当を開く音が湧きおこり、なかなか花やかな雰囲気である。

 これから京都に観光に行くヒトビトの席では、たくさんの缶ビールがプシュプシュ開けられて、日本はマコトに平和な早春を迎えた。北野天満宮の梅もそろそろ咲きそろい、修学旅行生のいない京都は、おそらく穏やかなベストシーズンと言っていい。

 ただしこの日の東京は「積雪で交通機関の乱れが予想されます」という、いささか物騒な状況。会社からもらったチケットは14時発の新幹線だったが、今井君は大事をとって2時間前の新幹線に切り替えた。

 名古屋には14時に到着。いったんマリオットホテルにチェックインして、16時の近鉄電車で「津」に向かった。名古屋は、快晴。ホントは名古屋も雨のはずだったが、どうもこの1~2週間、天気予報は「雪です」「雪です」「たいへんです」の空振りを続けているように思われる。
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(三重県 津の大盛況)

 津駅前でのお仕事は、ホントに久しぶりである。しかし生徒諸君は非常に高い確率で今井君の授業の受講生。受講すればヤタラに大ファンになっちゃうところがクマ助のスゴさであって、200名の会場に約230名が集まり、まさに「超満員御礼」の状況になった。

 使用したテキストは、Dタイプ「センター試験への戦略と戦術編」。大爆笑が90分間連続するテキストではないが、それでも開始から40分は「15秒に1回」の大爆笑が続く。生徒諸君が笑いに疲れはじめた頃、一気に授業本体に移って、整序英作文問題を10問ほど解きまくった。

 90分の目標は「疲れ果てること」。まず笑いで腹筋と背筋が「もう限界♨」というギリギリまで行ったあと、授業でメモを取りまくって「腱鞘炎になっちゃうよ♨」の叫びを上げる。終了時、みんながお腹や背中や利き腕をさすりながら「つかれたーっ♡」と絶叫すれば、今井君は大満足である。

 「どうしてもお願いします」という生徒が次々に講師控え室を訪れ、サインや握手や写真撮影に応じた。全部で50人から60人は来ただろうか。クマどんの顔を見るなりいきなり感激で号泣する者、近鉄の駅までついてきて握手やサインを求める者、いやはや、ホントにいろいろで、ホントに楽しかった。
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(津でもいろいろ活躍する)

 宿泊が名古屋だから、今夜は祝勝会はナシ。代わりのオミヤゲとして貰って帰った日本酒「大吟醸・作」を開けて、ホテルの部屋で深夜まで単独祝勝会を楽しんだ。諸君、「作」と書いて「ザク」と読む。たいへんおいしゅーございました。

 とは言っても、もちろん「お部屋で寂しく1人きり」だから、クマ助の頭には昨日の記事の続きで「大学入試変革のこと」「科目横断型テストのこと」が渦を巻き続けていた(スミマセン、昨日の続きです)。科目を横断する問題の作成者のご苦労を考えると、居ても立ってもいられない。

 あくまで「クマ助の記憶が正しければ」の話だが、昭和40年代の兵庫県で、実際に「科目横断型」をやってみた時代があった。「結局あれに似た事態になるんじゃないか」と、思わず顔が歪んだ。

 もし図書館のカビ臭い空気がイヤじゃなかったら、近くの大きな図書館にでも出かけて、次の文献を借り出してみたまえ。

   兵庫県公立高等学校思考力テスト問題
   (昭和45年度受験用)
   学習科学研究会・荻窪文平編(1970年・東京図書出版)

 なお、書名には別名があって
「兵庫方式公立高等学校思考力検査問題集」でも、閲覧可能のはずである。
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(キチンと授業もする)

 高校入試と大学入試をナイマゼにして、いま今井君がユカイに類題を作成すれば、例えば以下のような問題なのである。登場人物の名前も昭和風にしておく。

 ある日曜日、イサム君や和子サンのグループが、有名な史跡をめぐるハイキングに出かける。すると向こうからアメリカ人と思われる一行が近づいてきて、ぎこちない英会話が始まる。史跡についての英語のホームページをめぐり、英会話能力と英語資料読解能力がまず試される。

 結局イサム君や和子サンたちは、仲良くなったケビンやジョージやルーシーたちアメリカ人グループと、一緒に史跡めぐりをすることにした。いよいよ目指す史跡が近づいてくると、待てよ、目の前にある地層がきわめて特徴的だ。

 「あれれ、これは地学の授業で習った『不整合』じゃないか」とマナブ君が気づく。ならばこの凝灰岩の層と、化石が含まれるこの地層は…ということになって、地学と古生物学の問題解決能力が試される。

 ここで化学と物理と生物に分かれ、選択問題に進む。Aグループ(イサム君とルーシー)は物理、Bグループ(和子サンとアキラ君とジョージ)は化学、Cグループ(マナブ君と昭子サンとケビン)は生物。地層の前でいろいろな実験が始まる。こりゃたいへんだ。

 アメリカ人グループとの会話を随所にはさみながら、和子サンたちはいよいよ安土桃山時代の大寺院に近づいてくる。幸い優しい僧侶が先頭に立ち、普段は公開していない400年前の文献が広げられる。うぉ、「この部分を現代語訳せよ」と、僧侶はニコヤカにマナブ君を指名する。

 「ところでちょうどこの時代に、南蛮文化が入ってきましてね」と、僧侶はいきなり話をググッと世界に広げ、ポルトガルとスペインと、オランダとイギリスとを比較しながら、「当時のヨーロッパ宗教事情と、江戸幕府の鎖国政策の関係」というごくありふれた問題の解決を、賢そうな明子サンに託すのである。
作
(オミヤゲにもらった日本酒「作」。純米大吟醸だ)

 明子サンの説明があんまりカッコいいので、アメリカ人グループの一人ジョージが英語で、
「そのエド・ジダイに、セキ・タカカズと言うヒトが日本流の微分積分をカイハツしたそうですが、いま目の前にあるこの仏像の体積を、セキタカカズ流の積分法でどう求められるでしょうか」
と問いかける。

 「ほい、数学なら任せてください」と、目を輝かせながらアキラ君とマサト君が進み出る。しかし諸君、求められているのは「記憶や知識に頼らない柔軟な思考力と問題解決能力」なので、教科書に載っている積分の公式は使えない。解法ルールやテクニックやチャート式に頼ってはならないのだ。

 しかも「もしセキ・タタカズなら」という条件付きなので、アキラ君もマナブ君も、まず関孝和が書いたという想定の江戸時代の文献を読みこなさなければならない。古文のウルトラ先生が登場、「俺にまかせろ!!」ということになる。

 すると諸君、話はいきなり現代文にかわる。
「日本の近世がどれほど豊穣かつ芳醇な世界であったか」
「近世と近代の間に、政治制度以外の如何なる隔たりがあるのか」
「近世と近代は、実は滑らかな連続性をもつのではないか」。

 そういうコムズカシイ文章を読みながら、イサム君はルーシーにその文章の下線部を英訳してみせ、英訳を読んだジョージは欧米人の目から、日本の近代化プロセスの正当性に疑問を呈し、やがて議論はディベートに移る。

 21世紀の「文明の衝突」を「文明の悲劇的激突」にしないために、いまいったい何が必要なのか。日本近代化の経験からどんなヒントが得られるか。いま日本にできることは何か。もちろんいきなり安易に解答を求めるのではない。

 「さあ、ここからグループ討論を行います。受験番号下一ケタが共通の10人ごとでグループを作ってください。本学教員1名ずつがグループに参加します。教員は討論のプロセスを観察し、討論への参加度・貢献度・創造性を得点化いたします」
夜景
(名古屋、マリオットアソシアホテル40階からの夜景)

 こうして、英語と日本史と物理、世界史と地学と現代文、古文と数学と化学が、まさに科目横断的にビュンビュン飛び出して、受験生の頭は柔軟に独創的に論理的に、五条大橋の牛若丸か、源義経の八艘飛びみたいに、あちらからこちら&こちらからあちら、変幻自在に動き回らなければならない。

 しかし諸君、この類いの問題を作成することに疲れきったのか、鳴り物入りで始まった「科目横断型」はサッサと幕引きになったと記憶する。ついでに言えば、この種の入試をキッカケに、20世紀中は「公立高校離れ」がグングン進んだ。

 確かに保護者としても、
「ホントに学力をつけさせたければ、こんな入試を相手にしてちゃダメだ」
「ならばキチンとした入試をやっている私立に行かせよう」
と考えて当然。公立の地盤沈下 ☞ 私立王国の誕生という流れになった。これもまたあくまで「クマの記憶が確かならば」である。

 大学の場合、なかなか「私立王国」になりそうにはないが、「学部入学の段階から一気に海外留学しちゃえ」という流れに加速度がつく可能性はある。もちろんそれも素晴らしいことであって、留学の意志のある者はどんどん勇気をもって「トビタテ!!」である。

 しかしその海外留学が、「国公立大学の地盤沈下によって加速する」というのでは、まさに本末転倒。日本の大学がもっともっと充実して、基礎学力のキチンとついた学生で溢れ、その中から特に志の高い者が海外留学を志す。それが正しい健康な姿である。

 特に諸君、「グループ討論」、やっぱりうさんくさくないか? 誰がその「採点」なるものを信用するんだろう。クマ助が昨日「不満と不公正と不公平の温床になるんじゃないか」と書いたのは、ここまでヒドくないとしても、似た類いの出題を予感するからなのである。

1E(Cd) Krivine & Lyon:DEBUSSY/IMAGES
2E(Cd) Rogé:DEBUSSY/PIANO WORKS 1/2
3E(Cd) Rogé:DEBUSSY/PIANO WORKS 2/2
4E(Cd) Kazune Shimizu:LISZT/PIANO SONATA IN B MINOR & BRAHMS/HÄNDEL VARIATIONS
5E(Cd) Barenboim & Berliner:LISZT/DANTE SYMPHONY・DANTE SONATA
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